魔法科高校の夜の天(そら)   作:山葵印

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始めましての方は始めまして、そうでない方はお久しぶりです、山葵印です。今回から魔法科高校の劣等生の二次創作を書かせていただきたいと思います。では、どうぞ。

12/17 一部改稿しました。


第1話

 魔法。それがお伽噺やファンタジーの産物ではなくなってから、既に一世紀が経過しようとしていた。世界の国々は自国で魔法を扱う人々…魔法師を育成することに国力を注ぎ、それに伴うように魔法に関する技術は飛躍的な発展を見せる事となる。

 

「はぁー…」

 

 さて、そんな世界の、とある場所。そこには一人の少年がいた。彼は深い溜め息をつき、歩いていく。彼の名は森崎駿(もりさきしゅん)。この春高校生になった少年少女の内の一人である。

 彼がどうしてこんなところにいるか、それは彼の『友人』がこの近くに居るからだ。勿論、森崎の溜め息の原因は彼にある。

 

「おーい」

 

 彼自身、その友人がいつ問題行動を起こすか戦々恐々としているが、まさかこんなところではぐれるとは思わないだろう。

 

「駿ー?聞いてますかー?」

 

 友人は只でさえ狙われる立場にあるというのに、少し無防備過ぎではないか。

 

「ちょっとー?森崎駿くーん?」

 

 ここまで自由だと、ボディーガードの家である森崎の名が廃ってしまうのも時間の問題ではなかろうか。

 

「………えいっ」

「ぐぼあっ!?」

 

 急な頭部への衝撃に吹き出しつつ、森崎は急いで隣を見る。そこにいたのは一人の少年だった。

 腰に手をあて、森崎を怒ったように見上げる彼は黒い髪の所々に白髪が、まるでメッシュをいれているかのように入っている。身長は森崎の胸辺りに届くかといったところだろう。森崎は半眼で少年を見やると、もう一度深い溜め息を吐いた。

 

「…雄大(ゆうだい)。」

「何でしょう?」

「何処に行ってた?」

 

 森崎がそう言うと、雄大と呼ばれたその少年は手をポンと叩き「そうでしたそうでした」と言って一枚の紙を手渡した。

 

「…………これは?」

「第一高校のマップです」

 

 手描きですよ、と少年が胸を張ってふんす、と息を吐き出す。森崎は暫く震えていたが、それをポケットにしまって、言った。

 

「…雄大」

「何でしょう?」

「マップはホログラフィーのものが事前に配布されてるが?」

「え」

 

 ピシリ、と雄大の動きが停止する。森崎はそのまま輝かしい程の笑顔で続けた。

 

「更に言えば、そのマップはお前にも配布されてる筈だが?」

「……嘘ですよね?」

「残念ながら本当だ。お前がいつも使ってるCADに送信されている。証拠もほら、ここに」

 

 そう言って森崎は、スマートフォンらしきものの画面を雄大に見せる。雄大の顔が段々と青ざめてくるが、森崎は構わず言葉を続けていく。

 

「お前の性格上、CADに触れない日があるとは考えにくい。それを踏まえてもう一度質問しよう。『何処に行ってた?』」

「え…えっとーそのー…怒りません?」

「納得がいけばな」

「ごめんなさい何か騒ぎがあって遅れましたァ!」

 

 頭を下げながら叫ぶように言った雄大の言葉に、森崎の表情が若干変わる。真剣な声で、彼は呟いた。

 

「……続けろ」

「え、許してくれるんですか?」

「さっさと言え」

「アッハイ。えーと、司波深雪(しばみゆき)さんっていたじゃないですか、新入生総代の」

「ああ」

 

 あの人か、と森崎は全校生徒の前で凛とした態度を崩さなかった少女を思い出す。目の前の友人等、何人かの男を除いてほぼすべての男が彼女の妖精のような美しさに見惚れていただろう。

 

「その司波さん、お兄さんがいらっしゃるようなんですよ」

「…ほう」

 

 森崎のその時の心情を一言で表すならば驚きだった。異性の双子。このご時世、そう言ったものは何ら珍しくないモノと化している。しかし、兄妹で同じ学校に入学する、というケースはかなり稀だと言っていいだろう。そう森崎が思ってるとも露知らず、雄大は顔を青ざめさせたまま続ける。

 

「でまあ、そのお兄さん。七草生徒会長と親しげに話されてたんですよ」

「ふむ」

「『ああこれ関わっちゃ不味いやつだ』と駿に散々叩き込まれてましたから横を通ろうとしたんですよ、そしたら件の生徒会長にこの量の荷物を持っているのを見咎められてしまいまして」

「は?」

 

 雄大の顔が段々と土気色になってくる。荷物、というのは雄大が何時も担いでるリュックサックの事だろう。森崎は無言で右手の親指をたてた…かと思うとそれを上下反転させる。

 

「ギルティ」

「待って下さい駿!答えを出すのはあまりにも早計ですし、これは所謂スゴイ=シツレイにあたりますよ!?」

「何を言ってるのか分からないが生徒会長に咎められた時点でアウトだろうがっ…!」

 

 その発想は無かった、とでも言いたげに森崎を見る雄大。森崎は額に青筋を浮かべたかと思うと、大きく溜め息を吐くのだった。

 

─────────────────

 

 森崎駿の友人である彼…雄大の経歴はかなりとんでもない。僅か十二歳で現在の体制に一石を投じる新たなシステム『カートリッジシステム』を発明し、その後FLT(フォア・リーブス・テクノロジー)と業務提携を結びカートリッジシステム搭載デバイスを作成。

 カートリッジシステムとは、特殊な魔法を用いて作られたカートリッジに魔力を込め、それを銃の薬莢のように装填し、爆裂させる事で魔法そのものの出力を増大させると言うものだ。

 安全面の課題という問題があるもののこのシステムの開発により、保有霊子量が劣る魔法師でも爆発力によって、格上の魔法師でも拮抗ないしは勝利することが可能となった。これにより『優れた魔法師=保有想子(サイオン)量が多い』という現行の体制に止めをさす形になり、今や魔法師は生まれもった才能(モノ)をどれだけ生かすことができるかというステージに突入している。

 その為、海外では彼の事を開発したカートリッジシステム、そのコードに(なぞら)えてこう呼んでいる。

 

 ──『革命児(レボリューション・キッド)』と。

 

「駿!このクレープ凄い美味しいですよ!」

「ハァ…」

 

 そんな彼が今隣でクレープを貪っていると知ったら、世の人間は全員ずっこけるのではないだろうか、と森崎は内心で愚痴を吐く。雄大のCAD開発、システムの発想は見事だし、それは森崎本人も知るところである。

 だが、それ以外。例えば日常生活やらがほぼ壊滅的なのだ。今日あの第一高に入れたのだってほぼ奇跡のようなものであり、1-Eという一科生一歩手前のクラスで入学したと聞いたときは卒倒するかと思ったほどだ、と言って伝わるだろうか。

 隣でぽわぽわとしたオーラを出しながら早くも四つ目を食べ終わり、五つ目を今まさに食べんとしている友人を見て、森崎はまた溜め息を吐いた。

 

「どうしました駿。クレープ食べます?」

「いらない。…で?楽しめそうなのか第一高校は。」

 

 「んー…そうですね」と呟いて、雄大はクレープにかぶり付いた。そのまま咀嚼して飲み下し、彼は笑って、

 

「大丈夫ですよ駿。()()()()()ではなく()()()んです。…あれからもう7年。未だに魔法は上手くはなりませんけど、僕もそろそろ克服時かな、と思いまして。」

「──それで第一高校に入る辺りがお前らしいよな…」

 

 何かを言おうとして。直ぐに口を閉じて、森崎は呆れ混じりに呟く。「ちょっと!それってどういう事ですか!?」と抗議する友人を努めて視界に入れないようにしつつ、森崎は空を見上げる。

 

「駿!今日という今日は許しませんよ!今まで僕を馬鹿にした報いを受けてもらいますからね!」

「悪い悪い。クレープ食べるか?」

「たべるー!」

 

 チョロい。顔をひきつらせつつ、何度目かわからない友人の将来を心配する。雄大はお持ち帰りにクレープを更に追加購入、心なしか顔がひきつっている店主に駿は心の底から謝罪しつつ、森崎は雄大の左後ろについた。

 

「そう言えば駿」

「どうした?」

「君って今も僕のボディーガード何です?」

 

 「ありゃりゃしたー…」と個性的な店の人の声に送られた後、雄大がそう呟いた。森崎は雄大の隣でポケットに手を入れつつ言う。

 

「いいや?そもそも俺のボディーガードとしての任務は二年前に終わってるからな」

「ですよね。じゃあ僕と一緒にいるのは何でですか?」

 

 純粋な疑問で投げられたであろうその質問。しかし駿は頭をかいて、雄大の方を見ないまま呟く。

 

「お前が学校を忘れたりしないかの見張りだよ…お前出席日数ギリギリだったじゃないか」

「…あと二日もありましたし」

 

 心なしか声が震えてる気がする雄大をスルーし、森崎はポケットに入れておいたマップを握りしめる。

 

「…もう後悔なんてしない」

 

 そんな森崎の呟きは、隣の雄大にすら聞こえることはなく。空気に溶けるかのように消えていくのだった。

 

─────────────────

 

「ではまた明日」

「ああ」

 

 駿の気配が扉の前から去っていくのを感じる。

 

「…なんとか今日もバレずに済んだ、か」

 

 安堵の溜め息を一つ。リュックサックを背負い直し、廊下を歩いていった。

 

『やっほー雄大くん!おかえりなさーい!』

 

 リビングに入ると、そう言いながら、一人の少女のようなナニかがこちらに向けて文字通り『飛んで』きて、僕の肩に座った。

 明るい茶色のツーサイドアップ。茶色の瞳。整った顔立ち。しかし彼女を純粋な人間であると言い難かったのは、そのサイズにあった。

 目測で15センチメートル。

 同年代の男女に比べて遥かに小さいはずの俺の顔よりも、更に小さな、少女がそこにはいた。

 

 少し見回せば、()()()がいる。

 高町なのは。フェイト・テスタロッサ・ハラウオン。八神はやて。ヴィータ。シグナム。シャマル。ザフィーラ。リインフォース。高町ヴィヴィオ。アインハルト・ストラトス。そして…ユーリ・エーベルヴァイン。

 そう。僕は創ってしまった。この世界に存在しないはずの彼女達を、他ならぬ自分の手で。

 

 僕には前世の記憶がある。

 そう自覚し出したのは、今から6年くらい前の事だった。きっかけはわからない。何か特別な出来事があったわけじゃないし、転生というものが本当にあるのだってその時知ったのだから。

 で、その時の『僕』は馬鹿だったから。こう言った状況、つまるところ『転生』には必ず特典…要は凄い能力とか才能とかそんなんだ…がついてるものだと思ってたから、高熱で変なテンションになっていたのもあいまって『I am the bone of my sword…』やら『開け、王の財宝(ゲートオブバビロン)!』やらを叫んでいた。幸いにして親がいなかったかつ使用人の人を一人として雇っていなかったことが幸を奏したが、あのテンションを人に見られたらトラウマになっていたかもしれない。

 結局その時に『僕』の特典は分からなかった。結構落ち込んだけど、まあ気長にやってみれば良いかなって思ったんだ。『転生』という誰にも負けないアドバンテージがあるからこそ、二度目の人生は楽しくやれるかな、何て軽く考えていたんだ。

 そして僕が九歳、小学校三年生の頃。僕の『特典』が判明した。

 

 ──『夜天の書(やてんのしょ)

 

 それは前世の知識によると『魔法少女リリカルなのは』という創作物において主人公格である人物、『八神はやて』の所有する第一級危険指定遺産、ロストロギアに該当する『闇の書(やみのしょ)』に近い。

 その初登場時ははやての生命を蝕み続け、彼女が救われる唯一の道となる書の完成をトリガーとしてその世界そのものを滅ぼすという、まさに災厄の遺産と言っても過言ではない魔導書だった。

 夜天の書は、その闇の書の原本だ。正確には、『闇の書が心ない主に改悪を加えられる前の魔導書』と言った方が良いだろうけど。

 

 …とにかく、そのとんでも魔導書が『僕』の特典だった。ついでにこの世界が『魔法科高校の劣等生』というラノベの世界であることも分かった。このことに関しては、『俺』の知識はほぼなかったと言っていいだろう。肝心な時に役立たずだな僕は。

 

 ここまでは、百歩譲ってまだ良かった。例え黒歴史間違いなしであるような事があったとしても、僕の命が脅かすような事はない。せいぜいが十年後位に頭を抱えてベッドでのたうち回る位だろう。そう、問題は、そこからだったのだ。

 さっきも言った通り僕は夜天の書を持っている。しかし、そこに書かれていた内容は、僕の知識とはあまりにもかけ離れたものだったのだ。

 

 有り体に言ってしまえば、それは設計図。しかもただの設計図ではない。魔法…空間転移やら飛行といったような、現行の科学力では明らかに不可能であるそれらの魔法式と、一世紀跨いでも完成するかどうかわからないようなデバイスの数々。その設計図が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()記されていた。

 きっと、その時の僕は調子にのっていた。そうでもなければ、そこに記されていた内容がどれだけ自分の命を脅かすのかぐらい、直ぐにわかったはずなのに。

 

 結局僕は、彼女達を創り終えるまでその危険に気づくことはなかった。

 

 一体何が危険なのか。この世界において、魔法というものは武器として、殺傷力のある兵器として運用される。魔法を扱う者たちは一種の兵士のようなものとして扱われて教育され、その為に多大な金額が投じられている。人工で魔法師を造り出すことができないわけでもないが、それでもやはりお金というものはかかるし、人間である以上消耗だってする。

 

 ──では、もしそんな世界で『消耗しない、教育を必要としない、しかも優秀な魔法師』を創る術があったらどうだろう。更に言うなら超長距離転移を可能とする魔法や飛行技術、武器の格納技術まで持っているような。

 

 答え、世界戦争の引き金になる。

 

 考え過ぎだと笑うかもしれない。でも、その可能性はゼロではない。ならば、最悪の可能性は想定しておくべきだったのだ。

 遅れながらもそれに気づいた僕は、急いで既存の研究データを封印することにした。しかしそれまで多くの人々に「世界を変えるような研究をしている」と言ってしまった以上、何かしらの研究成果を発表しなければならなかった。

 

 結果、僕は最もヤバくなさそうな『カートリッジシステム』を世に発表することにした。これならいくら安くカートリッジそのものを生産できるとしてもCADとの競合がある以上、そこまで流行るような事にはならない筈だ、と。もっともそれも僕が実際にしたことは夜天の書(せつめいしょ)を読んで、その通りに機構を再現しただけの事でしかないのに。そう思っていたからか、周りの称賛の声が、若干空虚に聞こえてしまった。

 しかしそれでも 本当にヤバめな技術は公表していない以上、僕の身に危険が及ぶことは少ないだろう。そう思っていたが、事態はその一年後、具体的に言えばその年の十月に一変した。

 

 ──僕は、命を狙われた。

 

 後で聞いた話だが、その集団の雇い主だった会社は、僕の開発したカートリッジシステムを自社の製品に組み込めなかったとかで業績が悪化。借金まみれになって社長が自殺し、社員は路頭に迷うことになったのだとか。そして僕の事を恨み、その国からはるばる日本へ、僕を殺しにやって来たんだそうだ。何とか生き残った僕は、昔やっていた研究の一部の封印を解除することにした。技術がバレるリスクだとか、そんなことは言ってられない。想定でもなく、実際に僕は命を狙われたのだから、いつもう一度狙われるかなんてわかったものじゃない。なら、少しでも自分の身を護れるようなものが欲しかった。

 

 そんなわけで、僕は今日も彼女達と共にいる。自分が死なないために。この生活を終わらせないために。

 これは、そんな物語。夜天の盟主(擬き)になってしまった僕が、平和な学校生活を送るために、ひたすら主人公(お兄さま)を礼賛する物語だ。

 

「あれ、なんか『入学式直後にテロリストの襲撃あり』って書いてある…」

『どうしたの雄大くん?』

「いや…ちょっと一ヶ月くらい学校お休みしようかなって思いまして」

『せっかく入学したのに!?』

 

 …たぶん。きっと。そうなるはずだ。




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