見返してる筈なんですけどね…これからもよろしくお願いいたします。
──声が聞こえる。
──悲痛な声だ。
──悲しい声だ。
──でも、その声は。
──どうしようもなく、空っぽだった。
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魔法…その中でも現代魔法と呼ばれるものがある。起動式を頭の中で組み立て、それをCADに打ち込む。するとCADはその通りに魔法式を作り出し、事象の
「風紀委員…ですか」
そこにいた身長の低い少年…勿論のこと雄大である…が、そう口にした。彼の周りには、四人の少年少女がいる。
「ああ…全く妙な事になったよ」
溜め息と呆れをふんだんに含んだ言葉を吐き出す少年…司波達也。彼は今日の昼休み、なんやかんやで妹の司波深雪から生徒会役員に推薦され、何を血迷ったのか風紀委員長が達也を風紀委員に推薦。何故か風紀委員をやることになってしまったのだった。
「で、でも風紀委員って実力が重視されるんですよね?そこに推薦されるなんて凄いことなんじゃ…」
恐る恐る、といった風に話したのは柴田美月だ。彼女はずれた眼鏡を直しつつそう言う。それに対し達也は、実習用の機械に手を当てつつ言った。
「実力、っていっても様々なものがあるけど。大体は魔法の実技だろう?」
達也の左手に、光が纏わりついていく。彼が手を当てたまま右手を前に出すと、台車が移動した。
ピッ、と機械が数字を刻む。そこに表示されていたのは、ここの高校で劣等生とされる二科生の中でも、下から数えた方が早いのではないか、と思えるほどに遅い数字だった。
「昨日も言ったけど、俺は実技が苦手なんだ…それに、二科生が風紀委員になると必ず何処かで反発が起こってしまう。」
「にしてもよぉ、威張るだけしか能のない一科生より達也が風紀委員になったほうが良いって思うんだよなー…」
「あ、エリカさん。あなたの番ですよ」
「え、本当だ!ゴメンゴメン」
達也がそう言って列の後ろに向かい、エリカは右手を台車に当てる。この実技は、魔法を発動する早さを見ることが出来る。台車を加速し、レールの端で停止。そこから逆向きに加速させ、端で停止…という風に魔法を発動する。これを三セット行うまでの時間を計る、というものである。
小さく、エリカがガッツポーズをした。どうやらよい結果だったらしい。雄大はポケットの中で宝石、
その次は、雄大の番だった。ペダルを回して自分の身長に合わせつつ、機械に手を置く。
その右手が、活性化したサイオンに包まれた。雄大は目を閉じ、右手を前に出す。
台車が動き、機械が数字を弾き出す。その数字は、先程の達也のそれよりも遅かった。雄大はため息を吐いて、機械の高さを元通りにし、列の後ろ…つまり、エリカ達の方へと歩いていく。
「どうも」
「あ、お帰り雄大。どうだった?」
「上々…と言いたいところなんですけどね、かなり厳しいです」
苦笑を浮かべながらそう言う雄大。森崎というビッグネームを持つ魔法師にしては余りにも遅すぎるその行使秒数に、クラスのあちこちから視線が集まっていた。
「(やっぱり何時まで経ってもこの視線には慣れませんね)」
『Don't worry,master.』
「(ありがとうございますレイジングハート)」
心の中でレイジングハートに礼を言って、雄大はクラスメートが台車を動かしていくのを見ながら、ぼんやりと考える。
レイジングハート。それは雄大が作った初めての『インテリジェントデバイス』にして『カートリッジシステム』を世間に公表する前から搭載していたデバイスの一つだ。
基本的には射撃系統、その中でもサイオン塊射出魔法…つまりはサイオン弾の魔法を得意とする。デバイスに搭載された人工知能及びサポートシステム『
「まあ達也くんなら何とかなるんじゃないでしょうか?」
「…どうしてそう思うんだ?」
「何となく、ですかねぇ。達也くんって結構万能なイメージありません?」
「あ、それ私も思ってた!」
達也は雄大を見てため息を吐き、先程の実技試験の目をそらしたくなるような結果をしっかりと自覚する。
…半ば現実逃避じみていたのは気のせいだろう、きっと。
─────────────────
「
翌日明朝。達也は朝の稽古に来ていた。彼が声を張り上げても返事は帰ってこない。不審に思い、一歩踏み出す。瞬間、達也は咄嗟に裏拳を放った。
「ッ!?」
「おっと。危ない危ない、危うく良い一発を貰うところだったよ」
彼の裏拳を止めたのは、一人の男だった。髪をきれいに刈り上げ墨染の服を着た僧侶のような見た目をしているものの、滲ませる雰囲気は何処と無く胡散臭い。俗っぽいと言ってもいいだろう。彼の名は
「九重先生、調べていただきたい相手が居るのですが」
「うーん、このタイミングだから…うん。森崎雄大君かな?」
「ご存じなのですか?」
「うん。…森崎雄大。誕生日は七月三日。年齢は十五歳で、十二才の頃にご存じ『カートリッジシステム』を作製。それより前、大体十歳の頃にはもう原型ができてたって話だね…でも、妙なことがあるのさ」
いつも通りの勿体ぶった言い方に、達也は眉をひそめる。
「そんな顔しなくても、ちゃーんと教えるよ。彼にはね、
「存在しない?」
「表向きは病弱だったからって理由らしいけど…」
「その言い方だと、裏側を知っていらっしゃるんですね?」
九重は相も変わらず胡散臭そうな笑みを浮かべて「そうだよ」と言って話し出す。
「全ての始まりは、六年前。ある一家で起こった強盗殺人事件だ。」
「強盗殺人とは…穏やかじゃないですね」
そう言う達也に、九重は苦笑を浮かべて話を続ける。
「被害者はある魔工技師の一家。世間にはあまり知られていない、知る人ぞ知るって感じのね。犯人はどこかの国の
「では、何故スパイだと?」
「
司波達也の顔色が変わる。九重はそれに気づかないように、あくまで客観的な事実を述べていった。
「死因は、まあスパイには結構ありがちな自害…
「なっている、とは?」
「司法解剖じゃあそれ以外に死因が説明できなかったのさ、でも─」
「?」
「数時間は
「!?」
「被害者が彼に事情を聞こうと思って彼を離した瞬間、犯人の全員が苦しんで死んだそうだよ…何か特殊な魔法が使われた、と見るべきだね」
「それでその被害者がアイツだと?」
「その時の名前は違うけどねぇ、その後彼は身寄りがないため、父の親戚である森崎家に養子として拾われたんだけど」
「けど、とは?」
「
曰く、サイオン量を測定する際に、余りにもサイオン量が多すぎて機械がエラーを起こした。曰く、並の魔法師では近づくだけでサイオン酔いを起こす。曰く曰く曰く──
「──それは、何というか。何故一科生じゃないんですか?」
「それをさっ引いても
からからと笑う九重だったが、達也の表情は優れない。
「(──一先ずは観察、そこからだな)」
そんな達也を、九重は胡散臭い笑顔を浮かべつつ見つめていたのだった──
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原始、人は正に動物であった。それ故に、人は闘争から逃れることなどできはしない。そしてそれは、森崎雄大も例外ではなかった。
「ぎゃああああああッ!????!!」
第一高校の一角に、小さな少年の悲鳴がこだまする。この少年、森崎雄大は五科目筆記試験の平均点93点、魔法工学、基礎魔法理論では小論文で惜しくも満点には届かなくとも、他の受験者よりかなりいい点を取っている。また実技試験に関しても、後二百ミリ秒早ければ確実に一科生入りしていたと言われるほど優秀だ。また、小学生としか思えないような見た目だからこそ、マスコットになりやすい。事実、1-Eでは、雄大は既にマスコットになりかけている。本人は断固として抗議しているが、「だがそれがいい」と言うファンも多い。なんだこの学校。
とどのつまり、雄大を得ようとする部活はかなり多い。それがこの光景の理由だった。
「森崎雄大くん!是非うちのSSボート・バイアスロン部に入らない!?」
「いや、ここは是非クラウド・ボール部に!」
「助けて風紀委員さぁぁん‼」
勧誘期間中に入った部活は、優秀な生徒を部活に入れたいと願うだろう。で、雄大は見た目からして見つけやすいし捕まえやすい。
「駿ー‼達也くーん‼」と叫びながら疾走する雄大。彼の右手に握られたバルディッシュ(おもちゃ)が酷く頼りなく見える。
「何であの人たちこっちが物騒なもの(見た目のみ)持ってんのに追ってくるんですか!?怖い‼この高校怖い‼」
『ゆ、雄大落ち着いて‼』
『あ、前からも人来た』
「いやぁぁぁぁおうちかえるぅぅぅぅぅ!!!!!」
幼児退行を起こしつつ、第一高校を縦横無尽に駆けまわる雄大。その間にも彼を追う人々は増え続け、既に五十人に到達しようとしていた。
「達也くん助けて下さぁぁぁぁい‼」
「うおっ!?ふ、風紀委員です!それ以上の勧誘は過剰と見なされる恐れがあります!」
「「「「「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」」」」」
「……すまない雄大、無理そうだ」
「でっすよねー!」
さすおに(流石のお兄様の略称)でも血走った目で叫ぶ軍団に恐れをなしたのだろう、雄大と共に逃げ出すはめとなった。
『…一発ぐらいなら誤射かも知れないですよね?』
『バカなこと言わないの!』
ちょっと暗い感情を抱きかけたのをフェイトに咎められつつ、達也と共に疾走していく。今ここにあるバルディッシュはあくまでおもちゃだから、魔法を扱うことはできない。出来なくはないのだが態々するメリットがない、と言ってもいいだろう。怖くて思考から抜け落ちているとも言う。
そして、数十分程時が経った。
「ぜひゅー、ぜひゅー、ぜひゅー…あ、ありがとうございます達也くん、助かりました」
「なに、気にすることはないさ。…ちょっと可哀想だったし」
何とか全ての追手をまくことが出来た二人は木陰で一休みしていた。雄大はあまり良いとは言えない顔色を精一杯笑顔に変えつつ、達也へと礼を述べる。尚達也は一切息をあげた様子もなく、襟を直していた。
「そう言えば…」
「どうしました?」
「その斧みたいなのはCADか?」
達也が指差したのはバルディッシュのおもちゃだった。雄大はそれを器用にもくるくると回しつつ答える。
「これはただの玩具ですよ。変形する特化型CADの試作品みたいなものです」
「変形?」
「えーと、ここをこうして…と」
《Haken form》
機械的な音声が鳴ったかと思うとガシャン、と音をたてて斧の刃に当たる部分がスライドする。90度程回転したその部分、正確にはその下側からプラスチックの刃が飛び出した。
「ここの刃の部分に硬化魔法を刻印して使うんです」
「…なるほど、これは─」
「ええ、闘いづらそうでしょう?」
つまりは、そういうことだった。魔法師との闘いでは、間合いなどあってないようなもの。しかも変形したバルディッシュの形は斧よりも鎌に近く、扱いが難しいのは言うまでもない。
雄大がこれを作った理由?夜天の書を再現するため、それ以外に理由など有りはしない。夜天の書にあった設計図を再現するため、部品なども一から作り出して形だけでも作った結果、何とも形容しがたいものができた、というのが当時の雄大の主観であった。尚、完成品は雄大の背負っているリュックの中にスリープモードとして入っていることを付け加えておこう。
「折角『カートリッジシステム』も搭載したって言うのに」
「…カートリッジシステムだと?あの『火力中毒者専用システム』と言われた?」
「やめてください、その呼び名は僕の心にキます」
カートリッジシステムを扱う際、どうしてもつきまとう問題点として上げられるのは術式を展開するスピードだ。当たり前と言えば当たり前なのだが、カードリッジをロードする時間が必要な関係上どうしても後手に回りやすい。しかし火力は絶大、マトモに食らえば十文字家の『ファランクス』でさえ危ういと言わしめるほど。…そんなピーキーなCADを使う者が少ないのは、当然の流れだったと言える。
事件が起こったのは、カートリッジシステム開発から二年ほど後。九校戦の新人戦、アイス・ピラーズ・ブレイクでの事だった。
『情報強化?知るか!初手カートリッジ六発リロードからの振動系魔法でワンパンじゃい!』
…九校戦の禁止項目に『カートリッジシステム搭載CAD』が追加されたのも、当然の結果と言えるだろう。そして、その時の余りにも酷かった試合内容から『火力中毒者専用システム』という二つ名を頂戴することになったのである。
「まあCADやらの構造は一切入ってないので、玩具と何ら変わりはないのも事実ですけどね」
「…」
達也の呆れたような視線が雄大に突き刺さる。雄大は斧へと形状を戻し、立ち上がる。
「今日はありがとうございました達也くん。また明日会いましょう」
「ん?まだ最終下校ではないはずだが」
「
「…ああ」
若干顔色が良くなった雄大のその言葉に、達也は頷き、雄大は立ち去っていく。
「…」
しばらくの間、雄大の去った方角を見つめていたが、視線を外して。達也も別の方向に去っていくのであった…
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先の勧誘期間中に知り合った先輩…
「やぁ始めまして、森崎雄大くん」
そこにいたのは、大袈裟な仕草をとる男だった。ひょろっとした体つきに縁なしのだて眼鏡。年齢は三十前後。学者か法律家といった見た目をしている。
「…貴方は?」
「僕は
男の目が、怪しい光を放った。雄大は何とか目を抑えようとするも叶わず。彼の目を
「なっ!?う、あ………」
「そうだね…この際だし、君の兄に君は嫉妬心を抱いてることにでもしてしまおうか。」
「し、駿に…僕は……あ、ああ……!」
『雄大!くっ、何とか思考を操作させて…』
雄大は頭を抑え、苦しげな声を漏らす。司一は大きく手を広げて、雄大の後ろにいた人物に言う。
「さて、感謝するよ壬生君。彼は頭も回る人間だ、それに
「……はい」
司一の蔑むような笑い声が、しばらくの間建物中に響いていた。
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その日の夜、雄大の家から怪しげな、それでいてどこか機械的な声が響く。
『我ら、夜を称える騎士』
『我ら、主を守護する者』
『星は夜を彩り』
『闇は夜を包む』
『──しかし』
『その星光が夜を害するならば』
『その闇が夜を奪わんとするならば』
『我ら、その明星を破壊するを
『我ら、その闇を祓うを厭わず』
『
『風は夜を
『誓いはここに有り』
『『『『我ら、守護騎士ヴォルケンリッター。起動許可を』』』』
『管制人格、リインフォース
『同じく管制人格、リインフォース
『永遠結晶エグザミア、ロードを開始……出力、0.000000001%にて発動。仮称洗脳魔法、夜天の書の参照により
『湖の騎士シャマル、命令を承認。解除開始…完了』
『報復措置…主の命令が存在しないため発動不可と判断』
『防衛システムナハトヴァール。隔離存在としての生成を開始………完了』
『リインフォースアインス、及びツヴァイ。ナハトヴァールの制御を』
『『了承』』
『システム
『主の記憶改竄完了。一日の猶予を持って、我々は活動を開始する』
『『『『了承』』』』
「う…うーん…うーん…」
次々と聞こえる、機械的な音声達。その全容を知るのは、魘されている主と、宙に浮き輝く一冊の本だけだった。