──追記──
無限結晶→永遠結晶に修正しました
「しっかし、珍しいな」
第一高校、1-Eの教室。そこにいる一人の少年が、ため息混じりに呟いた。彼の名は西城レオンハルト、雄大に初めて話しかけた勇者である。その言葉に、机でタイピングをしていた少年…司波達也が画面に目を向けながら言った。
「何がだ?」
「雄大だよ。アイツ今日は
そう。森崎雄大は、今日学校を休んでいる。朝にカウンセラーである
「(森崎雄大、か…)」
森崎雄大…最近の達也の中でトップクラスに警戒しておくべきだと己の勘が告げる人物。
九重から聞いた情報。それを達也も
強いて言うなら、今も病院に時折通っているというものがあったぐらいだ。とはいってもその病院に不審な点は見られなかったし、通っている理由も『サイオン量異常』となっているため、ほぼほぼ無関係だと言っていいだろう。
「(さて…)」
思案する達也。彼の思考は既に、今日の取り締まりをどうやって凌ぎきるかということに向いている。昨日、剣道場でCAD二個を用いた『キャスト・ジャミング擬き』を披露してしまった為、一科生の
「…よし」
ディスプレイを閉じたかと思うと、達也は立ち上がり、レオンハルトと共に授業へ向かうのだった。
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さて、そんな感じでナチュラルに司波達也に警戒されている雄大であったが、そんな彼は今。
「────暇だッ‼」
ガッツリと暇をもて余していた。朝起きたときには確かに熱は39.8度ぐらいあったように思うのだが、ついさっき体温を測ったら僅か36.6度しかなかった。
布団をゴロゴロとしつつ、寝間着のまま「あー」やら「うー」とうめき声を漏らしていた雄大だったが、ふと立ち上がるとガッツポーズをして、
「よし、ではデバイスの調整をしましょうそうしましょう…リイーン」
「「お呼びですか、マイスター雄大」」
声をかけると、彼の前に二人の人物が現れた。
一人は、黒いノースリーブのコートを着た腰まで届く銀髪に紅い瞳をした女性だった。彼女の背中からは二対の黒い翼が生え、電灯の光を受けて怪しく光っている。
もう一人は、女性とは正反対の白いノースリーブのコートに蒼い瞳、腰まで届く銀髪をしている。彼女に翼は生えていないが、さらに目を惹くところがある。
「『エグザミア』の調整をしようかと思います、アインスさんは
「「了解(です!)」」
去っていく二人を尻目に、雄大はモニターを出現させる。本棚からいくつかのファイルを取り出して、机の上に放っていく。
「えーと、工具は確か…ここにっと」
スーツケース大の工具箱を引っ張ってきて、机のそばに投げておく。修正システムを起動して、ダウンロードを待つ。
「お呼びですかマスター!」
「ええ。エグザミアの調整をさせてもらおうかと…なるべく出力ではなく効力をダウンさせるようにできれば良いんですけど」
永遠結晶エグザミア、というものがある。本来はそれは夜天の書に存在していない。それはあくまで改悪された後、『闇の書』になってから搭載されたものだからだ。しかしなんの因果か雄大の得た夜天の書には何故か彼女…エグザミアにアクセスするためのシステムである
そして何の因果か、彼女も夜天の書の騎士の一員になってしまっていた。彼女自身が望んだことである以上雄大はなにも言わないスタンスだったのだが、そんな彼女には困ったことがある。
「じゃあ脱ぎますね!」
「ユーリさんステイ!絵面的には非ッ常に不味いですよ!?」
それは、彼女がとても純粋無垢だと言うことだ。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものだと思ってるし、世の中にはいい人しかいないとも思っている。そんな彼女だからこそ、と言うべきか。時折このように突拍子もない行動をすることがあるのだった。
慌てて自分の顔を隠す雄大だったが時既に遅し。ツヴァイが連れて来た騎士、つまるところインテリジェントデバイスの皆に上着を脱ごうとしていたユーリと顔を隠す雄大を見られてしまった。
「…………」
「…………遺言はあるですか?」
「待ってくださいツヴァイ落ち着いて考えましょうそもそもユーリさんがいきなり脱ぎ出す癖があるのは皆さんご存じでしょうにどうして僕が責められなきゃいけないんですかおかしいでしょう」
『……マスター』
いつもとは違う、硬質的なサポートシステム達の声。それを聞いた雄大は無言で正座をし、傍らにいた狼の形をしたロボットに命令する。
「
『もう終わってるぞ主。…達者でな』
「はーい」
『それじゃあ、少し、頭冷やそうか…?』
次の瞬間、雄大の目の前にいくつもの光の奔流が現れて、抵抗することもなく呑まれていった。…しかし、数秒程後だろうか。唐突に視界がクリアになる。
「ただいま戻りました」
『おかえりマスター。…また馴染みだしてるの?』
「みたいですねえ。昔は、というか数週間前まではこんな即時再生機能はついていなかった筈なんですが」
体を起こした雄大は改めていくつかのモニターを出し、ファイルを手に取る。
雄大は、無意識のうちに自らの心臓に手を当てていた。辺りはデバイス達の話し声で賑やかなはずなのに。その脈打つ音が、やけに耳に煩く聞こえていた。
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「…それで、何の御用ですか?」
風邪から復活した雄大。『
「先日、放送室を占拠し全校生徒、及び生徒会に我々の主張を伝えた。知っているな?」
「ええまあ。」
正直犯罪行為にしかなってませんけどね、という言葉は飲み込んだ。下手に波風を立てるべきではないと考えたからである。鍵を普通に先生に借りに行けばよかったんじゃないか、という主張は残念ながら取り入れられず…ひょっとしたら取り入れられてるのかも知れないが…先日風紀委員が出張る程のちょっとした騒ぎになったのだった。
「風紀委員には駿やら達也くんやらが居るというのに何やってるんですかね」とはことの顛末を聞いた雄大の弁である。
それはそれとして、何故かその騒動の際に風紀委員と共にやって来た七草生徒会長が同盟との話し合いを許可したと言うのだ。雄大からすれば準備期間を短くすることで同盟が本当にしたいことは何か、というところをみたいのかもしれない。
『…勝手なイメージなんやけど』
『何です
『あの生徒会長やったら
『…………否定はできませんね』
「──その日、『
「え?アッハイ」
脳内ではやてと話をしていたせいで先輩の話を聞き逃してしまった。しかし聞き直すのも億劫であるし、とりあえず返事をしておくことにした。後で壬生先輩辺りに聞いておけば良いだろう、そう思った雄大は「じゃあもう帰って良いぞ」という先輩に礼をして退出する。
「…なーんかきな臭いですよねー、っと。達也くんじゃないですか」
「ん?ああ雄大か、部活にも入っていないのにこんな時間まで残っているなんて珍しいな」
「まあ、色々ありまして」
苦笑する雄大。達也は何時も通りの無表情だったが、口に手を当てていた雄大の顔、正確には手首を見て怪訝な顔つきをする。
「雄大、そのリストバンドは?」
「ああこれですか。最近入った同盟の人達から貰ったんですよ。あんまり良いセンスとは言えませんよねぇ、これ」
「………」
あははー、と軽そうに笑う雄大だったが、それと対称的に達也の顔は真剣なままだった。雄大は内心で首を傾げたがそんなことはおくびにも出さず。しばらく話をした後、互いに去っていった…
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「(…厄介なことになったな)」
静かに、溜め息をつく。先日の同盟の様子では思考がどうやらおかしなことになっていると思っていたが、雄大は比較的まともで居るらしい。壬生紗耶香の一件や風紀委員の取り締まりの際の嫌がらせ等様々な関わりを一方的に持たされている同盟だったが、正直な話彼らの思考はまともであるとは言い難かった。同盟のメンバーは全員マインドコントロールを受けているのではないか、と先日九重八雲から情報を得た時にはそう思っていたが…考えを改める必要がありそうだ。
そこまで考えた司波達也だが、すぐ近くに風紀委員本部のドアが迫っていることに気がつき、意識を切り替える。
「(──最悪の場合は)」
そう、己の存在理由を胸に刻んで。
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「あー、緊張する…」
雄大がネクタイを少しだけ緩め、パタパタと仰ぐ。本日は、待ちに待った生徒会との討論の日だった。雄大本人がそれに参加しているわけではないのだが、自分の作った資料が差別撤廃への第一歩を踏み出すことができるかどうか、ということに対してとても緊張していた。CAD調整者としての
恐らくだが、雄大が数日頭を絞った程度の資料では、七草生徒会長にあっさり論破されてしまうだろう。生徒会長本人にその気があるかどうかはかなり疑わしいが、もし「一科生は二科生よりも優れている」という意識が生徒達の間で芽生えてしまえば差別撤廃への道がかなり遠退くどころかほぼ不可能になるといって良いだろう。
「ふぅ…」
深呼吸をして、意識を切り替える。既に討論会が始まっている以上、もう雄大にできることなど何もない。人事を尽くして天命を待つ、とは昔の偉い人は良いことをいったものである。
「…まあ、待ってても仕方がありませんね。レオ君達の所に行きましょう」
呟き、歩き出す。彼の右手には何時からそこにあったか、一冊の本がある。剣十字をあしらった表紙が見えるその本は、光に照らされることはなく、しかして夜のように吸い込まれそうな輝きをもっていた。
「…何故君がここに?──ッ‼」
ぼーっとしたような表情で話しかけるようにいった雄大だったがそれは直ぐに真剣なものに変わる。近くから聞こえた爆発音。それは確実に、招かれざる客を示していた。
「バルディッシュ‼」
《Yes,sir》
「フェイトさん、レヴィ‼」
『『任せて‼』』
本が開かれ、その中から三角形の黄色い、石のような物が飛び出す。それを雄大は掴み取り、何かを呟く。すると石は光に包まれ、光がやんだときには巨大な斧の形になっていた。
「フェイトさん、レオ君達と合流するつもりなのでナビゲートをお願いします。レヴィはなるべく魔法が非殺傷になるよう制御を」
『分かった!その廊下を右に曲がって‼』
『バルディッシュ、スピード上げるよ‼』
《Yes,sir》
雄大が駆け出す。彼が一歩踏み出すたびに足元に
「フォトンランサー‼」
《Photon Lancer》
斧を一回、二回と回すとそれに呼応するかの如く雄大の周辺に黄色の
「遅い…けど、
『三次元軌道とか?』
『あれやると酔うんですよね…三半規管耐性ってあげられましたっけ』
そんな会話を脳内で垂れ流しつつ、雄大は駆けていく。建物の中を一通り駆け回ったが、レオ達と合流する事は叶わなかった。ならばこの乱戦の地。どこかで闘ってるに違いない。そう考えた雄大はとりあえず今ここにいる男達を殲滅させることを選択した。右手の斧を振るい、フォトンランサーをひたすら直撃させていく。
「慌てるな‼アンティナイトを使え!」
男のうち誰かがそう叫ぶと、一人の男が小さな石を取り出した。雄大は身構え駆け出そうとするが、直ぐにつんのめってしまう。加速力…正確に言えば『魔法で産み出した』力が失われた感じだ。
「(AMFかな?)」
『似たようなものではあると思うよ』
慌てず再び足を踏み出し、相手の背後に回り込む。森崎の
「のぼおっ!?」
揉んどりうって転がっていった男を冷たい目線で見つめ、一言。
「…テンション上がってきた」
なんだこいつ。
それはともかく、雄大の周りは死屍累々といった様子で、地面の一部からはプスプスと煙が上がっている。一応いっておくとここの煙は敵方の銃撃によるものであって、雄大のフォトンランサーによってついたものではない。そもそもフォトンランサーは一言で言ってしまえば『飛ぶスタンガン』であり殺傷性は皆無に近いといって良いだろう。
しかし、煙の中から出てきた雄大の目は据わり、右手の斧からはバチバチと閃光が
「あ、悪魔…!」
男の一人が、震える指で雄大を指す。それに対し雄大は──
「悪魔で……構いませんよ…」
くるくる、くるくると斧を回していく。いつのまにかその形状は斧と言うよりも鎌になっていて、三日月のように裂けた口元も合間ってまさに死神と言う名が相応しい感じだった。
そしてそれを男たちに向け、スフィアを待機状態にしたまま叫ぶように言った。
「悪魔らしいやり方で、戦わせていただくだけですので‼」
─────────────────
司波達也は、乱戦の場と化した第一高校の敷地内を駆けていた。侵入したテロリスト達を吹き飛ばしていくその手付きには、一切の乱れが見られない。
「慣れているな」
「そうか?お前も大概だと思うが…な!」
駿が
「駿ー!」
ふと、駿は
「あれ、達也くん達も一緒ですか?」
「……ああ」
返答に間があった気がするが、まあそれはそれ。雄大は帯電する鎌を後ろ手に構えつつ、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「…状況はどうだ?」
「大体は学生が押してますね、後一時間もしないうちに完全制圧できそうです」
「違う。
駿があえてCADを構えつつ雄大に問う。達也は思わず雄大の顔を見た。彼の顔には大量の脂汗が浮かび、青白い色をしている。歯はガチガチと鳴らされ、手は血が出るほど固く握りしめられていた。
「…正直なとこヤバイです。今も君を、森崎駿を、司波達也を、司波深雪を、千葉エリカを、西城レオンハルトを、テロリスト達を、この場にいる全てを
その言葉が最後まで続けられることは無かった。駿の魔法が雄大の意識を刈り取ったからである。膝をついてゆっくりと倒れ伏した雄大を肩に担ぎ、達也を見る。
「…詳しい説明は後だ。お前らは図書室に向かってくれ」
「──大丈夫なのか?」
達也のその言葉に無言で頷く駿。達也が他の皆を促し去っていく。それを見送った駿は溜め息を吐いて、ちらりと雄大に視線を送った後。保健室へと駆け出していった──