評価、感想、お気に入り登録。読者の皆様には感謝しかできません。今回で入学式編は終了となりますが、どうぞコレからもよろしくお願いいたします。
……またここか
プカプカと、浮いているような感覚があった。辺りは真っ暗で、冷えきっている。うんざりしたように辺りを見渡すと、視線を向けたそばから映像が浮かび上がってくる。
それは、一つの物語だった。一人の少女が非日常に巻き込まれて、何時しか二つの世界を救って、親子で幸せに暮らしている。そこまでの物語だった。
──お久しぶりです
──ええ、お久しぶりです
聞こえてきた声。それは幼い少女のもので、ここ最近でよく聞くようになったものでもあった。でも、彼女は自分の知っている人物であっても別人。同一存在でしかないのである。
──調子はどうですか?
──いい…とは言えませんね
それは純然たる事実だった。自分の不思議な力は、使いすぎれば支配される。森崎雄大の皮を被った化け物になってしまう。それは自分の望むところではなかった。
──下手に使えば、身を滅ぼすと言いましたよね?
──ええ、勿論分かっています。
でも
──私はかつて
──知っていますよ
──貴方を倒せる存在はいてもそんなのが私達にとって気休めでしかないことは分かってるでしょう?
──そこら辺は
──質問に質問で返さないでください。
──怖い怖い。…分かってますよそれは。でも僕は
──…意志は固いようですね
──生憎と生来頑固な
最後に見えたのは、困ったように微笑む少女の姿だった──
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「…ん」
第一高校は保健室。そこのベッドで寝ていた少年が目を覚ました。彼に特に変わった面は見られない。強いて言うなら黒髪に若干白髪が入っていることぐらいだろうか。
少年の名前は、森崎雄大と言った。彼はここの高校の生徒であり、先程この部屋に収監された人物でもある。彼は体を起こすと、辺りを見渡した。
「目が覚めたか」
「駿…ありがとうございました」
雄大が駿に頭を下げると駿は「よせよ」と言って救急箱を取り出した。雄大は右手に一冊の本を出し、呟くように言った。
「……つくづく屑ですよねぇ、僕って」
「ネガティブだなあ、何時ものお前ならもっとへらへらしてるぞ?」
「駿が僕の事をどう思ってるか良く分かりましたよ…」
はあ、と溜め息をついて本を膝の上に置く。ベッドの上に胡座をかいていた彼はしばらく左右に体を揺らしていたが、ふとドアの方に視線を向けた。駿もつられてそちらを見ると、プシュ、と音をたててドアがスライドする。そこから入ってきたのは三人の人々だった。
「達也くん、レオ君に深雪さんにエリカさんと…壬生先輩?」
入ってきた三人の内の一人である長身の男…司波達也は一人の少女を抱き抱え、所謂お姫様だっこ状態になっていた。雄大は胡座をかいたまま三人に手を振る。それにはエリカだけが彼に振り返した。その後、少女…もとい壬生沙耶香をもう一つのベッドに寝かせた達也は雄大を見やる。
「──話してもらうぞ」
「ええ、勿論…駿」
雄大が駿に声をかけると、彼は雄大の手首と足首を手錠で拘束した。雄大は驚く四人に肩をすくめて、話し出す。
「ざっくり言うと、僕の心臓って
「…いきなりブッこんだな」
驚愕の表情を隠せない三人を見て、駿は呆れ混じりの視線を雄大に向ける。雄大は手首と足首を拘束されているのに器用に体を使ってベッドのスレスレまで移動した。
「ち、ちょっと待て。つまるところ雄大の心臓は人工臓器とかってことか?」
「うーん…心臓のようなナニカと言った方が正しいかもしれませんねぇ、心筋、血液の循環と言った心臓の役割は一通り果たしているんですけど」
レオンハルトが右手を前に出しながらそう言うが、雄大はそれを否定する。雄大が縛られたまま指パッチンをすると、一冊の本が表れた。
「その本は?」
「僕は『夜天の書』と呼んでますけど…ざっくり言えば僕の心臓の副産物ですね」
「副産物って?」
「ああ!…じゃなくて。僕の心臓はこんなものなんです」
本が開き、空中にモニターを投影する。そこには、こう書かれていた。
「『永遠結晶エグザミア』…?」
「仮称、というか僕が勝手に名付けたんですけど。僕の心臓にある謎の結晶体は超高密度のサイオンで構成されています。そのせいでサイオン保有量が
あっけらかんとした雄大だったが、その話は一介の学生に聞かせることのできるレベルをとっくに超えている。それを知ってか知らずか、雄大は一息ついて、また話し出した。
「僕はこの
それを聞いて、司波達也は思い当たる節があった。それは軍属になってから数年後の話。
曰く、戦略級魔法師の中で一番
…だが、
日本政府はこの事件に対して『我が国の把握している戦略級魔法師』ではないと発言。それはそのまま『フリーの戦略級魔法師クラスの人材』が世界に放たれた事を意味していた。爆発の原因は今日まで不明。何も残っていないのだから調査のしようがない、と言った方が正しいかもしれないが。
それが、今目の前でほんわかとした表情を浮かべている人物…森崎雄大だとするならば。何が原因かわからなくとも、下手に刺激すれば島一つを吹き飛ばせるような存在ならば。今の第一高校は、特大の爆弾を抱えていることと同義なのだ。
「そ、そんなのって…」
「何とかできないのかよ!?」
「生憎と。とはいっても、今日のような事がなければ基本的に暴走はしませんし、そもそも僕が魔法を使いすぎなければいいんですけど…」
レオンハルトが声を荒げるがそう言って言葉を濁す雄大。それを聞いて、千葉エリカは悲痛な顔をしていた。魔法師の家系に生まれた以上、魔法と関わらずに生きていくことは不可能と言っていいだろう。いくら特大の爆弾を抱えていようとも、いくら本人が力を振るうことを忌避していようとも、世界は
「そっか…すまねえな」
「大丈夫ですよレオ君。爆発しないとわかっていても、ダイナマイトを目の前に投げ入れられると驚くでしょう?それと同義です。」
暗に「気にするな」と告げた雄大だが、レオンハルトはもう一度頭を下げる。雄大が話を続けようとして──コンコン、とドアが叩かれた。
「…今日はここまでみたいですね」
「だな」
そんなことを言いつつ駿がドアを開くと、そこには三人の人物がいた。一人は、この学校の生徒会長七草真由美。もう一人は、風紀委員委員長渡辺摩利。
最後の一人は、まるで
「…まず、聞かせてくれ」
男が口を開く。低く、聞くものに緊張を与えるような声。レオンハルトとエリカの顔に緊張が走った。そして、男は雄大へ指を差した。
「何故お前は手錠をかけられてるのだ?」
「何でも僕がマインドコントロールを受けているらしいですよ?僕は特に変わった所は無いように思うんですけど」
ジャラ、と雄大の鎖が音をたてる。それは駿が先日話していたことを雄大が盗み聞きしたことだった。男に見られても駿の表情は変わらない。内心ではすぐ右側にいる不肖の
「まあまあ
「まあいざとなったら砕けばいいんで」
「…………砕く?」
訝しげな表情をする七草の前で、雄大が手錠を粉砕する。手首をぷらぷらとさせながら、唖然とする皆を見て、駿に視線を向けて言った。
「あれ、駿。森崎の技の内一つですよねこれって」
「出来るのはお前だけだがな!」
やけくそ染みた駿の叫びに、達也は無言で哀れみの視線を送るのだった。
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どうやら壬生先輩は入学してから直ぐの時、渡辺摩利(風紀委員委員長のこと。僕が気絶しているときに会っていたらしい)に手合わせを申し込んで敢えなく断られてしまったことを根に持っているらしい。二人の記憶の中にかなりの違いがあったようだけど、僕はどうにも違和感を感じていた。
「…まさか、一戦交えるつもりか?」
「その表現は適切ではありませんね、叩き潰しにいくんですよ」
達也くんが物騒な事を言ってるのを尻目に、そんなことを考える。エグザミアの性能を
「しかしお兄様。どうやってブランジュの本拠地を突き止めればいいのでしょうか?」
いつの間にか周りの空気がめっちゃ重くなってた件について。司波兄妹はいつも通りみたいだが、駿とか七草生徒会長とか達也くん達を信じられない物を見るような顔つきで見ていた。事情が全く理解できない。…取り合えず僕もやっておくとしよう。
「ああ…それなら、知ってる人に聞いた方が早い」
達也くんはそう言ってドアを開く。そこには、苦笑いをしているうちのクラスのカウンセラー、小野先生がいた。
「遥
尚、レオ君の言ったようにあだ名は遥ちゃんである。誰が呼び出したかは分からないけどってこんなこと考えてる場合じゃなかった。達也くんに招き入れられた小野先生は地図を開き、指を差す。
「(何か行ったことあるようなないような)」
「何よコレ…学校の目と鼻の先じゃない‼」
「ナメやがって…!」
エリカさんとレオ君の口ぶりからすると、どうやら地図の場所はブランジュとやらの本拠地らしい。どことなく懐かしさを感じるのは気のせいな筈だ。
「車は俺がだそう。これは十師族というだけじゃない、ここの学校の一生徒として看過できん問題だからな」
トントン拍子で話が進んでいく。どうやら達也くん達はブランジュとやらを壊滅させにいくらしい。僕は…どうしようか。正直に言えばどうでもいいし壬生先輩が家裁送りになったとしても僕は
「(…どうするべきかなー)」
考え込んでいると、達也くんの目がこちらに向いた。
「雄大、お前はどうする?」
「──僕は、そうですね…」
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森崎雄大は今、保健室のベッドに腰かけて、夜天の書をぱらぱらとめくっている。七草真由美も渡辺摩利も、森崎駿も今はいない。この騒動を鎮圧するために出ていったのだろう。結局、彼は達也達に着いていくことはなかった。
「──ねえ」
唐突に、小野遥がそう呟いた。雄大は本を捲る手を止め、彼女を見やる。
「どうしたんですか?」
「何故達也くん達に着いていかなかったの?」
「どうして、と言われましても…」
本を閉じ、しばらく思案していた雄大だったが、その思考は開いたドアによって遮られた。
「ぬ、ぬいぐるみ?」
それは、小さなウサギのぬいぐるみだった。赤い瞳に、首もとには青いリボンが着いているそれはふよふよ浮いて雄大の元にやって来たかと思うと、右手を上げる。
「成る程、学内のテロリスト達は全て制圧済。負傷者はいるものの何れもが軽傷。陣頭指揮には七草生徒会長が…あの人カリスマ力高すぎません?」
「ま、待って頂戴。そのぬいぐるみが何を言っているか分かるの?」
「ああ、紹介がまだでしたね。こいつは『セイクリッド・ハート』。遠隔操作可能なCADです」
ぬいぐるみが『こんにちは』と書かれた看板を掲げる。思わず遥と壬生沙耶香は「こ、こんにちは…」とひきつった顔で返してしまった。
『私の紹介はしないんですか?』
『貴方を紹介すると話がややこしくなりそうなので。またいつか、ということにしておいてくださいね
そんな会話を脳内で垂れ流しつつ、ぬいぐるみ改めセイクリッド・ハートは右手を上げる。雄大はベッドを降りて、歩き出した。
「ちょっと生徒会長に呼ばれたので行ってきます」
「……そう、気を付けて」
「ええ」
どこか考えるのを諦めたような顔をした小野遥と壬生沙耶香に見送られ、雄大は保健室のドアを開く。その顔は、いつもと変わらずのんびりとしたものだった。
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「…………」
その夜、司波達也は、パソコンの前で何かを考え込んでいた。テロリストの一件の後始末ではない。それは十文字克人が引き受けてくれた。日本の
「どうされましたか、お兄様?」
自分の妹である司波深雪がコーヒーの入ったカップを置くのに礼を言いつつ、司波達也はキーボードを叩く。
彼の頭にあったのはかの少年こと森崎雄大だった。達也の記憶が正しければ、雄大は森崎に捕まったとき、保健室では当然のように持っていたあの本はなかった。森崎が取ってきたとは考えにくい。最後に『視た』とき、雄大はまだ目覚めていなかった。それにそもそも雄大は今日
「──物質転送魔法」
それは、不可能と言われた魔法。任意の物質を座標を指定することにより転送する、というもの。現代魔法は、エイドスを書き換えることによって今現在発生している事象を改変する。であるならば、物体が存在する位置の情報を書き換えれば物質の転送が可能になるのではないか、ということである。しかしいざやってみると不可能、物質は全くと言っていいほど反応せず、『物質はエイドスの存在する高位情報体次元を通ることは出来ない』という結論になった。BS魔法師ならその限りではないのかもしれないが、少なくともそんな人物がいたという情報は達也にはなかった。
もし、仮に雄大が物質転送魔法の使い手だったとしよう。それならばこの国、ひいては十師族が放っておくはずもない。たった島一つを吹き飛ばした程度では、森崎雄大が放置されている理由としては弱い。本人が危険ならば、周り。例えば森崎駿のような
それにあのデバイス。『バルディッシュ』は、現行の科学技術の範疇から何歩も先をいくようなデバイスだった。聞いた話では、雄大は他にも四つのリングが組み合わされたCADや遠隔操作可能なぬいぐるみ型CAD等様々な『特異的デバイス』を操作していたらしい。
森崎雄大。BS魔法師の可能性が高く、異常な科学力を持つ魔法師らしくない魔法師。
「…お前は一体何者なんだろうな」
「?どうされましたお兄様?」
「いや、何でもないよ」
そう言って、達也は深雪に微笑んで見せる。何故か顔を赤らめた彼女に内心で首をかしげつつ、達也は彼女のCAD調整という己の責務を全うするのであった──