シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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銀糸鳥メンバー

フレイヴァルツ
アダマンタイト級として自信に満ち溢れた銀糸鳥のリーダー『吟遊詩人(バード)

ケイラ・ノ・セーデシュテーン
「暗雲」の二つ名を持たされた 言葉遣いの悪いチームの目と耳『シカケニン』

ファン・ロングー
チーム唯一の亜人猿猴(エンコウ)語尾が「ね」かわいい『ビーストロード』

ウンケイ
チームの回復担当袈裟を着た編み笠でハゲ 一人称が拙僧『僧侶』

ポワポン
半裸の常識人『トーテムシャーマン』

たぶん忘れてる人も多そうなので、簡単な紹介を書いておきました。
参照は「オーバーロードwiki」様感謝


『長い名前』

「な、なんだ!?お前は!」

 

 扉を勢いよく開け、盛大な足音を立てながら部屋に入ってきた言葉の通じる生き物に

銀糸鳥の面々は警戒感を強め、鋭く睨みつける。当然だが間借りしているとはいえ、部屋にズカズカ土足で入ってくる正体不明の生物に寛大でいられるほど、冒険者は平和ボケした者達ではない。

 

 まして彼らはその最高峰たるアダマンタイト級冒険者なのだ。

 

「私は女王陛下の……? 、私は女王陛下配下のドラゴン。ヘジンマールであ、……申します!」

 

 だが乱入してきた粗暴さとは一転、そのたどたどしい言葉と信じられない内容に、銀糸鳥は全員困惑する。

 

(ドラゴン?)

 

 本人たちでさえ確認できないが、図らずも全く同じ内心を重ねたのは

流石アダマンタイト級冒険者の結束力であろうか、もしくは相手が悪いのか。

 

 冒険者である彼らは当然この山脈の地に赴く前に、この辺り一帯に棲むモンスターや種族を調べていた。その中でも要注意な種族のひとつがフロスト・ドラゴン族。

 その細長い体から吐き出すドラゴンブレスは非常に強力で、独特な体の構造により高速で空を飛びながらの攻撃は非常に厄介だそうだ。実際に交戦したことはないが、その見た目の特徴から目撃したら逃げの一手と事前に示し合わせていた。

 

 その逃げるべきドラゴンが、今目の前にいる鼻にメガネを載せた肉塊なのか? それとも別種の地を這うドラゴンなのか? 歴戦であるはずの銀糸鳥の面々は、困惑から抜け出せずにいた。

 

 

 

 

 

 あまりに無反応な銀糸鳥の反応に慌てたのか、当のドラゴンが素早く背後を振り返る。

 

「ヘジンマール、彼らはドワーフ国の友好国である帝国から来たのだから。それに見合った対応をしなさい」

 

 その背後に話の分かる者がいることに、みな一様に安堵する。だが、ドラゴンとは似ても似つかない静かな足音をたてながら

前に進み出てきた少女を目にした瞬間、皆凍り付いたように動きを止めた。

 

「――皆さま、配下の者が大変失礼いたしました。私は『シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン』。既にお聞きかと思いますが、今このドワーフの国にお世話になっている者です」

 

 スカートを摘まみ、帝国式の深い礼を見せる少女に絶句する。亜人と人間の容姿に対する美意識の差を感じさせる存在が現れたのだ。ドワーフ達やゴンドからは『キラキラした人間の嬢ちゃん』などと、曖昧に過ぎる言葉を伝え聞いていたのだから仕方なくはある。

 

 漆黒のドレスとリボンが礼と同時に軽く揺れ、身長に比して豊かすぎるほど豊かな胸が遅れて揺れ動く。暖炉の赤い火に照らされた艶やかな銀髪が舞い、周囲を照らしている気さえした。

 やがて顔を上げた真紅の大きな瞳が、リーダーであるフレイヴァルツを捉え真っ直ぐ見据える。

 

「あなたがリーダーのフレイヴァルツ様ですね? 冒険者銀糸鳥のお噂はドワーフの方々からお聞きしています」

「――、―――」

 

 人好きのするような笑顔。友好的な態度と言葉に何か返さねばならないのは、いつものフレイヴァルツであれば即座に理解し、それこそ相手の女性に即興で歌を詠むこともできただろう。だがその体は、頭の中から指の先まで石になったように動かなかった。

 

「……あの?」

「リーダー!」

「リーダー? どうしたのね?」

 

 その無反応ぶりに対面する少女は勿論、いち早く回復したウンケイと亜人であるが故、別の感情を抱いていたファン・ロングーが声を掛けるが全く反応がない。他の面々も、いつものリーダーらしからぬ異常に気づき始めた。

 

「えーっと……ちょっと失礼するのね?」

「え? あ、はい」

 

 赤毛の猿に似た亜人が一人、部屋の中を歩きだす。表情はわかりづらいが、笑顔で少女に手で下がるように促すと

 

「せーのっ!」

 

 その赤毛に覆われた頑強な手を、フレイヴァルツの赤くなった頬に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファン……やり過ぎです」

 

 衝撃で壁に叩きつけられながらも、ウンケイの気付けですぐに起き上がったフレイヴァルツが、不満気に睨みつけるとともに、開口一番にその態度通りの言葉をぶつけた。

 

「『自分が何かの状態異常になったら、殴ってでも目を覚まさせてくれ』って言ってたのはリーダーなのね。今のは麻痺とかじゃなかったのね?」

「なっ!?」

 

 慌ててシャルティアの方に顔を向け、此方を不思議そうに見つめる紅い瞳に魅了されそうになる。

 

「しっ失礼な事を言うな!」

「そうですぞファン、それに麻痺だったら殴っても治りませぬ。拙僧の出番ではござらんか」

「でもリーダーは治ってるし麻痺じゃないのね?だったらなんだったのね?」

 

 周りの面々を見回しながら首をひねる赤毛の亜人に、フレイヴァルツを除いた銀糸鳥の面々には苦笑いが浮かんだ。決まっている、仕事一辺倒だった我がリーダーに春が訪れたのだ。

 ただ相手の立場を考えると、悲恋と決まっているのが少し喜べないが。

 

「あぁ~ファンは知らなくていいですぞ、人間特有の反応でありましたゆえ」

「ていうかウンケイ、お前はあんまり驚いてなかったな?」

「仏神の教えのお陰ですな、何事も人の欲は程々がいいのであります」

 

 顔の前で両手を合わせながら静かに答える袈裟を身に纏った男。確かに彼に関して女の話は全く聞かない、宗教の類としても少し心配になるくらいだ。それでいて酒は嗜むのだから人の欲とは何なのか、彼の信仰する仏神に聞いてみたいものではある。

 

「それはそうとリーダー、もう大丈夫ですか?拙僧が代わってもよいのですが」

 

 寛大にも、未だに此方の様子を見守ってくれているシャルティアへ、申し訳なさそうな視線を向けながら、まだ赤面の収まっていないフレイヴァルツへ確認する。後衛のためか、彼はリーダー不在時の雑務をこなすことが多い。

 とはいえ硬直して醜態をさらした挙句、赤面して話し合いを丸投げするリーダーなど誰がリーダーと認めてくれるのか。二人ともそれは共通の認識だ、そしてこれから話をする相手も同じように思うかもしれない。

 

 

 無言で首を振るフレイヴァルツ、そこには既にいつもの銀糸鳥のリーダーがいた。

 

「大変失礼いたしました。シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様。ご存知の様ですが改めて、私たちは帝国から依頼を受けてまいりました、アダマンタイト級冒険者チーム『銀糸鳥』。私はチームのまとめ役であります、フレイヴァルツと申します」

 

 咳払いしつつ、改めてシャルティアに向き直る。自己紹介ではあるが、先の醜態により片足の膝を突き深く頭を下げながら、冒険者としてのいつもの挨拶に謝罪の言葉を交えていく。

 

「先程は見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした。あなた様のこの世のものとは思えない美しさに、その、一瞬ですが我を忘れてしまいまして」

 

 後ろから「一瞬じゃなかったね、戦闘だったら死んでたね」などという声が聞こえるが、努めて無視しつつ相手の表情を伺う。

 最初は身長差によりやや上から見下ろす形だったが、今は逆に相手を見上げる形となる。醜態を散々晒したにも拘らず、当初の友好的な表情は微塵も崩れていない。思い違いでなければさらに増している気さえした。

 

 そして傍から見上げる事により、視界の端で魅力的な体のラインを観察することもできた。彼の名誉のために言えば、どうしても視界に入ってしまったのだが。

 

(スゴイ……腰も細いし。一体どうすればあんな……大きくなるんだ)

 

 身長に比してアンバランスな胸に、また僅かに赤面しそうになりながら

煩悩を頭の中で処理しつつ、全力で無表情を取り繕っていた。

 

 一方、シャルティアもといモモンガの胸中はというと――

 

 

 

 

 

(スゴイ……この人一回で名前を憶えてくれたよ……)

 

 この瞬間、モモンガは内心でフレイヴァルツに称賛を浴びせていた。いや、称賛という言葉では生ぬるいかもしれない。喝采や歓声に似た感情であろう、その分鎮静化も早かったが。

 

 我ながら長い名前を付けてしまい、もしかしたらこの先の話し合いでも支障をきたす恐れがあるため、ドワーフにも使っていた『呼びにくいでしょうからシャルティアで結構です』と、気軽に呼んでもらおう作戦が御破算となってしまったが、ある意味嬉しい誤算だ。

 勿論『呼びにくいでしょうから』という理由部分は外して、呼んでもらいやすい方向へ誘導するつもりではあるが。

 

 大切な名前を一回で淀みなく呼んでもらい、モモンガの中でフレイヴァルツに対する好感度ゲージがぐぐっと上がる。何やらチラチラ胸に視線を感じるが、そんなもの些細な問題だった。女性は胸の視線に敏感だというし、それに嫌悪感を覚えるのが普通だそうだが、シャルティアの設定からすれば視線くらい望むところである。

 

(っと、いけないいけない。この場合まずは、相手の謝罪を受け取らないとな)

 

 内心での喜びが消えていくのを感じながら、相手の謝罪に対する言葉をこれまでの社会経験と、ペロロンチーノから借り受けたゲームなどから探し当てる。

 

「とんでもありません。私の配下の者が無礼をした手前、そのようにおっしゃっていただきまして、かえって恐縮してしまいます。ここは帳消しという事にいたしませんか?」

 

 モモンガは精一杯の営業スマイルで答えた。




作品を知っている読者なら兎も角、何の知識もない人がこの名前1回で覚えられたらなかなか凄くないですか?

しかも醜態を建て直しながらスラスラ言ったぞ
社会人でもテンパって失敗した直後にこんな軌道修正できる気がしない
さすがアダマンタイト級冒険者ですわ。(モモンガさんの好感度上昇大)

追記.高い地位の人達を相手にする商売人や冒険者には必須スキルなのかもしれません
とはいえ帝国にもまだ行ってないモモンガさんなので、その辺の事は知らないと思うちゃんと覚えてくれてうれしい(チョロイ

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