シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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読者の方々には双方の事情説明などは出来ていると思うので、自己紹介含めてカットします
話進まないからねゴメンね。


『賠償金』

「失礼します、ただいま戻りました」

 

 和やかな雑談の場に、フレイヴァルツの凛とした声が響く。時刻は既に昼を過ぎ

彼がいない間に遅めの昼食が四席分用意されていた。メニューは簡単なキノコの前菜と、

一月の間に見慣れてしまったヌークのステーキ。

 

 ヌークとは、アゼルリシア山脈に広く生息する魔獣で、その巨体ながら少量の苔で生きていける事により必然的に山脈の生態ピラミッドを支える役割を担っている。

 ドワーフの食事においても例外ではなく、メインどころかほぼ主食の座を長年争う存在だ。

そして争っている相手が『酒』なのは、ドワーフ族の食事事情を表しているとも言える。

 

 見慣れたという点は兎も角、やや簡素であるが砦の食事としては上等である。おそらく初めて見るであろう銀糸鳥の面々にとって、漂う香りは食欲を掻き立てる物だろう。モモンガとしては『朝昼晩、毎回酒が出てくるのは健康的にどうなんだろうか?』――などと思ってしまうのだが。

 

「さ、先に食べて頂いてもよかったのですが」

 

 人族にもドワーフにも使えるよう設置されたソファーに近づき、机に用意されていた

食事を目にした瞬間、凛とした声は陰に潜みフレイヴァルツはやや慌てた声を出していた。

 

(社交辞令かな?連絡のために席を外した人を待たないわけにはいかないよ)

「シャルティア様がお待ちになると仰いますからな」

 

 おそらくシャルティアに向けて言ったであろう言葉に答えたのは

共に部屋に残っていた商人会議長。

 

「それよりリーダー、伝言(メッセージ)は無事に使えたのでありますか?」

「……あぁ、だが次からはウンケイに頼みたいんだが」

「しょうがありませぬな」

 

 頷きながらも、どこか諦めのような生暖かい眼をリーダーであるフレイヴァルツに向けるのは、僧侶ウンケイ。現状砦の客間に残ったのはこの四人だけとなっていた。

 

 あれから友好的に自己紹介を終えた後、お互いの上役ですり合わせと

今後の話をした方が良いだろう、という事になり面倒な話し合いをリーダーとウンケイに押し付けた銀糸鳥の面々が、意気揚々と先に入国しその案内をゴンドとヘジンマールが任された形だ。

 

 なおヘジンマールは失礼な挨拶を行った罰としてタクシー役を兼務するよう

命じられたものの、利用者は怖いもの知らずなファン・ロングーだけで他のメンバーは辞退となっていた。

 

 

 事前にドワーフの兵士に聞いていたことを、改めてシャルティア自身と商人会議長から

聞いた二人は驚きと同時に戸惑ったものの、後でドラゴンも従事している復興作業を見学させることを約束して、一応の納得をしてもらった。なにより先に入国していった他のメンバーが目にするだろう。

 

 ――ヘジンマールもドラゴンなのだが、あの見てくれでは納得できないらしい。

 

 

 シャルティアの設定や魔法については、摂政会に説明した内容と完全に同じことを話してある。

 その中で特に帝国首都からも見えた赤い空を作り出した魔法については、証明のためにもできれば使用して欲しいと依頼されたが、山脈内で使うとドワーフの国へまた被害が出る危険が高いので断った。

 

 ただおそらく帝国へ行けば依頼主(商人会議長が言うにはおそらく皇帝)に

魔法の使用を懇願されるのは確実だそうだ。調査依頼なのだから当たり前なのだが

正直モモンガにとっては国の面倒事に巻き込まれるのではないかと、気が気ではない。

 

 とは言えシャルティアの設定に説得力を持たせるために

断るわけにはいかないのだが、トラブルなどは覚悟しておきべきだろう。

 

(あんな魔法を使える個人が入国して歓迎してくれるのか?心配だなぁ……)

 

 

 その後フレイヴァルツが伝言(メッセージ)のスクロールを使い

話した内容を帝国へ伝えるため席を外し、今戻ってきたわけだ。

 

「なにやら歯切れが悪いようですが?シャルティア様の事情とドワーフの国で起こった事は、

帝国へ無事お伝えできたのですよね?」

 

「いや、伝言(メッセージ)というのも存外不便なものでして。過去に伝言(メッセージ)の行き違いから人間種の国が一つ滅んだ影響で、帝国ではあまり信頼しすぎるのも問題とされているのですよ。

ですので裏取りを兼ねた本格的な報告は、後日早馬を使った手紙での報告となります」

 

 モモンガ自身も『ヘジンマールの歴史講座』で聞いていた。なんでも三百年ほど前に滅んだガテンバーグ国が伝言(メッセージ)の偽情報から内乱状態となり、そこからモンスターや亜人の侵攻を受け滅んだそうだ。モモンガでなくとも(それ、絶対外部勢力の裏工作だよね?)という結論になるだろう。

 

「なるほどわかりました。それでは今後のお話を……と言いたいところですが、まずは食事にいたしましょう」

 

 フレイヴァルツを待っていたため既に冷め始めていたが、さらにこれ以上冷ます必要性はない。商人会議長の尤もな発言に三人は了解し食事に手を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか、鮮血帝であるジルクニフ陛下が依頼者とは。驚きましたな」

 

 仕事の話よりも冷めかけの食事を優先した四人であったが、早々に食事を終え話を次の段階へと移していた。

 

 モモンガにとってはドワーフ以外の種族で、初めて席を共にする食事であったためやや緊張していたのだが。

 向かいの席のフレイヴァルツは黙々と食べ、酒で流し込み、あっという間に食べ終えてしまった。それに習う様にウンケイも静かに、淡々と食べ終えていた。理由を聞けば――冒険者とはこういうもの、らしい。依頼中はこういった癖のようなものが付いてしまったそうだ。

 

 商人会議長も早かったが、どうしてもシャルティアが早食いをしている様子は思い付かなかったため、モモンガは一人食事をしながら聞き役を務めていた。三人が先に食べ終えた時に、自分は食事をしながら聞いているので話を進めてくれるようお願いをしたのだ。

 

 元々シャルティアにしても、そして恐らくモモンガの身体(アバター)でも食事は必要ないはずではあるが。

 

「それだけジルクニフ陛下は、今回の件に注目しているのでござろう」

 

 主に話しているのは隣の商人会議長、そして斜め向かいのウンケイだ。フレイヴァルツも補足の説明を交えていたが、ときおりモモンガの方を見てはなにやら言いづらそうにしていた。

 

(これは、ひょっとして急かされてるのか?自分たちの皇帝の話までしてるんだし、そんな時に食事は不敬だったりするのかもしれないな……ていうか皇帝が依頼者?流石最高峰の冒険者と言われるだけはあるんだ)

 

 今のところ商人会議長が質問してくれているので特に問題はない。だが聞いている間に疑問も出てきたため、そろそろ話に混ざりたかった。丁度目の前に残ったのは、一口に収まりそうな

ステーキの欠片。急かされた状況、この場合男としての選択肢は少ない。

 

「ぁ、……あむっ」

「!?」

 

 これまでより少し大きめに口を開き、ステーキを頬張る。口よりもステーキが大きかったが、冷めているとはいえ柔らかさは健在で問題はない。だが思ったよりシャルティアの口内は小さかったのか、口に収めると同時に頬が膨らんでしまった。

 

(まずい、これはみっともなさ過ぎる!)

 

 早計だった。お腹がいっぱいとか言って残せばよかった、今更ながら思うが既に遅い。

できればやり直したいが、時間を止める魔法はあっても時間逆行の魔法はない。

 考えている間も口は動かしている。シャルティアの筋力をもってすればステーキなど

すぐに粉々にできると思われたが、周囲の目を気にして派手に顎を動かすのは躊躇われる。

 

 向かいのフレイヴァルツには既に見られてしまったようで、顔を手で覆い指の間からチラチラ視線を感じた。肩も震えており、かなり呆れられたのかもしれない。魔法を使って地震を起こしたりドラゴンを従えた存在が、これではご飯を急いで食べる子供なのだから無理もないだろう。

 

(うー、これは上げた評価が逆転してしまった気がする)

 

 もっきゅもっきゅ。 ――ゴクリっ。

 

 ようやく肉が細かくなり呑み込むことに成功した。少し無理をしたためコップの酒に手を伸ばす。大きなため息が出そうになるが、流石に今度は落ち着いて静かに喉へ流し込んだ。

 

 顔を上げると未だに顔を覆っているフレイヴァルツだけが気づいていた様子で

他の二人は変わらず真剣に話し込んでいた。

 

(これは黙っているようにお願いしないといけないな)

 

 あまり人の失敗を笑う人物にも見えないが、友人同士だとつい悪口が出てしまうのはよくある。今回は急いで食べたモモンガが全面的に悪いので、仮にそうなっても文句は言いづらいが。

 

「あの……」

「――シャルティア様からもなにかありますかな?」

「って、リーダーどうかされましたか?」

「な、…な、なんでもないなんでも」

 

 こちらを向くと同時にフレイヴァルツの異変に気づいたウンケイが話しかけているが、変わらず顔を隠して肩を震わせていた。どうやらこの場は黙っていてくれるらしい。一先ずの懸念材料を頭の隅に追いやり、聞いていた中で気になった言葉をそのまま口にする。

 

「鮮血帝とは異名かなにかですか?」

「おぉそうでしたな、これは申し訳ない。帝国についてお教えした際、説明しておくべき事でしたな」

 

 どうやら帝国では一般的に知られている異名らしい。『鮮血』という、物騒ながらも何処か親近感を覚える響きに本能的に興味がわいてしまう。

 

(って、何考えてるんだ)

 

 反射的に本能を覆い隠すように首を振り、顎鬚を撫でながら説明に入ろうとしていた商人会議長に改めて向き直る。

 

「どうかされましたかな?」

「あぁ、いえ。それで鮮血帝というのはどういった意味なんでしょう?」

「簡単に言いますと親族である身内を断罪したことから。あとは無能な貴族達を地位を剥奪したことからくる畏怖の意味、でしたかな?」

「……そうですな、拙僧が補足させていただきますと。身内というのは皇帝暗殺の容疑や王位継承権、つまり後継者争いです。無能な貴族については、まぁ言葉の通りです。優秀であれば路地裏出身の平民でも、騎士に取り立てる方です。すくなくとも平民にとっては人気のある皇帝ですぞ」

 

(おぉすごい経歴の皇帝だ、歴史書に出てきそう)

 

 戦略ゲームが好きなぷにっと萌えさんが好みそうなプロフィールである。とはいえ彼のプレイスタイルを話半分で聞いた限り、優秀なキャラをライバル国家つまり対戦相手にして一方的に蹂躙、都市一つどころか草一本残さない、えげつないプレイによる被害者になってしまうのだが。

 

「それで今回の調査なのですが、一月前の現象を行使した方。つまりシャルティア様なのですが、拙僧達と共にバハルス帝国へ来て頂けませんかな?」

「それが依頼内容なのですか?」

「本来は話が通じる存在かの確認からだったのですが。話が通じるならば是非会いたいと仰せで」

(あれ?これやっぱり賠償だったりするのか)

 

 先ほどのフレイヴァルツの急かすような態度もそれならば納得がいく。しかも優秀な皇帝が自分に会いたいなどと言うのだ。元が一般人のため権力者の考えてることなどモモンガにわかるはずもないが、借金まみれという最悪の事態は想定しておかねばならない。

 

「あの、私の行使した魔法の影響で被害などはあったのでしょうか?」

「被害ですか?ここへ向かう道中でしたが、鉱山都市や山間の村で確か……坑道や山道が崩れたのは見かけましたな。夜だったのが幸いで人は巻き込まれてはござりませんでしたが?」

(や、やっぱり!?)

 

 思わず血の気が引き、喉が渇いてしまう。人的被害がないとはいえ鉱石採掘が止まったなんて、ユグドラシルであれば相手のギルドとの緊張感が増すのは必須。戦略ゲームなら相手がぷにっと萌えさんのような人物の場合、モモンガの命がないかもしれない。

 

(……逃げちゃおうかな?)

 

 選択肢の一つではあるが、判断するのはまだ早いように思われる。ドワーフという味方もいるのだしもう少し様子も見たい。それにこの世界の人の国を見てみたいという興味もある。

後々逃げるにしても、リスクは最小限にしておいて損はないだろう。

 

「一緒に行くのは構わないのですが。よければ被害のあった鉱山や山道を見たいのですが」

「通り道です故、拙僧達は構いませんが何か?」

「いえ、私の魔法で除去などに協力できればと思いまして」

「流石はシャルティア様ですな。我らの首都を取り戻してくれたこととご一緒の事をなさるとは」

「え?あ、いや」

「見た目のお美しさばかりか心まで、いや、心こそどんな花も及ばない聖香を帯びた慈悲深い美しさをお持ちとは」

 

 なにか必要以上に持ち上げられている気がする。突然フレイヴァルツは唄のようなものを言い始めるし。商談で()だてられる上役の人達はこういった複雑な気分なのだろうか。モモンガ自身はいつも煽だてる側だったのわからないが。

 

「シャルティア様がこういった方であれば、帝国ももう一方の問題に集中できますな」

 

 何処か肩の荷が下りたといった様子で、頻りに頷いているウンケイが気になった。

 

「問題?」

「あ、これは拙僧とんだ失礼を。シャルティア様が問題だったわけではございませんぞ。シャルティア様がお力を行使された赤い空の現象の少し前なのですが、帝国の御隣でとんでもない事件が起きましてな」

「とんでもない事件ですか?」

「左様です、拙僧達冒険者も戻ったらこの件に関わる事になると思われます。隣国のリ・エスティーゼ王国にエ・ランテルというかなり大きな都市があったのですが、そこが死の都になってしまったのです」




次回はみんなが忘れていたンフィー君回です

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