シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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出発描写は例によって削りました、今回と次回の作中で触れてるので許して


『ジャンガリアンハムスター』

(上に立つ者は頭を下げてはならないって……ヘジンマールに謝ったのは駄目だったのか?)

 

 ソファに体を預け本の内容に思わず首を傾げてしまう。

それと同時に視界の端に出てきた銀髪をつまみ、自然な動作で耳へかきあげ整える。

 

 そんな無意識にできる動作に多少思うところを感じながら、本から目を離し窓に目を移した。

馬車の内側からのみ見えるよう設定している窓には同伴の冒険者『銀糸鳥』の内の二人、

そしてその先には昼間の青い空に浮かぶ太陽に照らされた草原と森が広がっている。

 

(流石に見飽きてきた、かな?)

 

 ドワーフ国を出立して数日、既に山を降り緑豊かな自然の中に作られた街道をモモンガ達一行は進んでいる。

 

 出発の際は、盛大な宴を摂政会から提案されたが断った。

『ガラでもないし苦手』というのが本音なのだが、口にするわけにもいかず。無難に『復興に集中してほしい』などと煙に巻いてしまっていた。

 

 摂政会の面々とゴンドに挨拶をし、ひとまず置いていくドラゴンや他の種族に釘を刺しつつそそくさと出発したのだが、どこからか噂を聞きつけたドワーフ達が仕事を放りだし、見送りに来てくれたのは精神が鎮静化しつつも気分の良いものだった。

 

 その時ついつい調子にのって、これからルーン研究にいそしむゴンドに残り少ない武器アイテムの中からルーン製の物を渡してしまったのは早計だったかもしれない。

 

 特に思い入れもなくレア度の低いものであったので後悔はない。

マーカーもつけたし、たとえ失くしたり溶岩に落ちようとも今のモモンガなら見つけられる。それにプレイヤーが見ればユグドラシル製の物と気づくかもしれない。その辺りの事を言葉を濁しつつ、ゴンドに伝え渡しておいた。

 

 言わば囮なのだが、それくらいは許してほしい。本人は涙ながらに喜んでいたのだから。

 

 

 

 そして今、帝国への旅路に同行しているのは外交を担当する商人会議長と数名のドワーフ。

それを運ぶ馬車もといヌーク車が前後に二台。中央にモモンガ一人が乗るギルドマスター専用の馬車。その周囲を銀糸鳥が護衛している。

 

 モモンガの馬車も、今は一時的にヘジンマールが引っ張る竜車となっていた。

 

 既にいくつか村を過ぎ野営なども繰り返している。前の世界では考えられないアウトドア体験を

モモンガ自身は機嫌よく満喫しているが、移動中はそうもいかない。

 

 ――代り映えしない室内に代り映えしない風景。

 

 はっきり言ってしまえば移動中はヒマなのだ。勿論ヘジンマールお勧めの帝王学など本は興味深い物ばかりであったが、そればかりなのも問題だ。仕事以外の全てをユグドラシルに注いだ自分が言えた義理でもない気がするが。

 

(つまりなにか仕事が欲しい……のか俺は? いやいやいや――)

 

 仕事というかしなければいけない事、言わばガス抜き。

しかし今は治安の良いと聞く帝国内の街道、ここに来るまでの辺境ではモンスターの襲撃などもあったが銀糸鳥が手早く片付け、整備された街道に入り襲撃はパッタリ途絶えている。

 

 もう少し手ごたえのある敵が出てきて欲しい、せめてフロストドラゴンくらいの――

 

 

 

 

 

「モモン――いえ、失礼いたしましたシャルティア様」

「……まぁいいけれど。何か見つけた?」

「はっ! ここより南の森の中に人間の集団がおります。いくつかの馬車と貧相な武装をしており、ガラの悪い者たちです」

「人数は?」

「一部を斥候として散らせており確認はできておりませんが、百人以下なのは間違いないかと」

 

 モモンガが本を閉じながら物騒な事を考えていると、意図したようなタイミングで入り口から素早く身を滑らせ、馬車内に覆面をした忍者が現れた。

 

 モモンガが出発前にあらかじめ召喚しておいたハンゾウだ。

 

 表向き護衛は銀糸鳥に任せているが、念のため彼ら五体にも秘密裏に警護を命令している。

隠密能力持ちの忍者系モンスターのためか、ここまで同行者の誰にもバレずに任務を遂行していた。

 

 これまで主に周囲の異常やモンスター発見報告のみで、彼らハンゾウ達を戦わせてはいない。

とくに珍しくないモンスターは素通りし、遭遇したモンスターは実力を計るため銀糸鳥と戦わせている。

 

(今回は人間か……帝国内は野盗の可能性は低いって聞いてたけどゼロじゃないだろうし)

 

 あらかじめ銀糸鳥に聞いた限り、街道周辺はたまにしか野盗の類は出ない。

とはいえ小規模な類であるが襲撃や窃盗はある。

 

(ん……小規模で百人近い?)

「確実にわかっている人数は何人?」

「はっ! 戦士のような身なりの男七十人を確認しております! 魔法詠唱者はいないようです」

(七十人か……たぶん小規模じゃないよなこれ)

 

 そうなると野盗などではなくガラが悪いだけの商人の集団や、開拓村の集団ではないだろうか。

そうなると気にするだけ損である。暇つぶしに接触してみてもいいが、急ぎではないとはいえ

国のお偉いさんに呼ばれている身、遊んでいたなどと報告はされたくない。

 

(野盗だったら襲ってほしいなぁ……銀糸鳥の戦い方ももっと見たいし)

 

 モモンガは自らの目で確認すべくフローティング・アイを発動させる。

使い勝手のいい術者の視界だけを飛ばす魔法だ。自由を得た視界が馬車から飛び出し、草原を抜け森に入る。木々の間を抜けしばらく進むと、ほどなく人間の集団をとらえた。

 

 報告通り『いかにも』なその外見を確認する。

確かにガラは悪いが、気のせいか戦士としての経験を感じさせる者達も幾人かいた。

 

(あれって刀か? この世界じゃ初めて見たな……)

 

ひょっとすると彼ら自身の戦いの経験がそう感じさせるのかもしれない。

 

(帝国は戦争もしているらしいし、脱走兵とか傭兵かな?)

 

 少なくとも商人や村人には到底見えなかった。

野盗ならまだ対人戦を見ていない銀糸鳥にぶつけてみてもいいかもしれない。

 

 

 だがその中でもひときわ大きい馬車の中を見て、真紅の目が見開き思考が停止してしまった。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 ――え?なんだあれ?

 

 モモンガはフローティング・アイの魔法を解除し、久々に感じる驚きの感情と困惑に半ば唖然とする。

 

 確かにあれはジャンガリアンハムスターだった。

しかもデカい。比較的大きな馬車の荷台を貸し切って優雅に毛づくろいをしていた。

 

 魔獣……なのだろうか?

あの人間の集団の中で魔獣が一匹居座っているのは異常な気がする。

 

(……あ、でもこっちもヘジンマールがいるし人のこと言えないな)

 

 そうなるとモモンガと同じように魔獣をペットにしているのかもしれない。

ユグドラシルと同じようなビーストテイマーの能力がある者が相手にいるのだろうか。

 

 ――魔獣(ビースト)、というか大きなハムスターだが。

 

 なんにしても興味を惹かれた。野盗の可能性も高い。

レアコレクターとしての心が久々に動いたのだ。是非とも接触したい。

 

「シャルティア様? いかがなさいましたか?」

「ん? あぁ、いや――少し考え事よ。ハンゾウ、今後あの集団を野盗と仮定するわ。野盗は斥候を出していると言ったわね? こちらを発見したの?」

「いえ。ですがこのまましばらく進むと、街道を見張っている奴らの一味と思われる者達がおります」

「ではそいつらに餌を与えましょう」

「餌……ですか?」

「えぇ、少しテストを兼ねてだけどね。その斥候がいるのは街道から南の森のほうよね?」

 

 モモンガが指し示す指の先、そこには草原と森、

そして銀糸鳥の吟遊詩人(バード)フレイヴァルツとウンケイがいる。

 

「っはい!」

「そう。では急ぎましょう。ハンゾウはその斥候を見張るように」

「っは! ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何かしら?」

 

 準備のため、モモンガの視線は馬車内に備え付けられた鏡に向いている。

腰から上の服と髪を白い手で軽く整える。本来が男であるモモンガが見る限り、問題はなさそうだ。

 

 この体のこういった使い方はシャルティア本人やペロロンチーノに許可を貰いたかったが、

これまで会った人間たちの反応を見るに、人間の国に赴く以上早く使いこなさなければならない。

 

「そのテストと言うのはどのような?」

「あー、……女の武器の性能テスト、と言うのかな……」

 

 本来のシャルティアはパットであった豊かな胸に手を当て、何とも言えない苦笑いで答えた。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「リーダー?」

「……」

 

「リーダー!!」

「あ、……すまん。ウンケイどうした?」

 

 一応の警護任務中のリーダーの無反応ぶりに、ウンケイは編み笠の中から深いため息を漏らす。

 

 ゆっくり進む馬車、もとい竜車の南側面に併せて二人は歩き進んでいた。

護衛としては不要な位置だが銀糸鳥内で話し合った結果、リーダーともう一人がこの位置となった。理由は言わずもがなだろう。我らがリーダーの病は絶賛悪化中なのだ。悪い方に。

 

 戦闘中はそうでもないのだが、こういった護衛任務に必要な警戒心が足りていない。

足りていないどころか抜けている。からっきしなのだ。

 

 幸い他のメンバーでの穴埋めと、リーダーの恋の病のお相手が魔法で

モンスターを発見してくれているので大きな問題にはなってない。

 

「リーダー、……この仕事が終わった後もその調子じゃ困りますぞ」

「仕事が終わった後か……」

 

 おそらくその場面を想像したのだろう、先ほどのウンケイにも劣らない大きなため息を吐いていた。

 

 いつもの自信に溢れた銀糸鳥のリーダーフレイヴァルツであれば、仮にミスをした時でも

すぐに取り戻し、お釣りがくる仕事ができる男なのだ。それができる能力と実力を持つからこその

アダマンタイト級冒険者なのだが――、

 

(魔性の女、……と言うには少々幼い気がするのでござるが)

 

 これまでの行程でそのお相手、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウンなる少女はウンケイとしても好ましい性格なのは見て取れた。

 

 これまで立ち寄った村や町で積極的に人助けをしていたのだ。

崩れた山道や坑道の土砂を撤去し、傷や病で弱っている者達を積極的に助けていた。

前者はともかく、後者は治療魔法の費用価格を決めている神殿とのトラブルになりかねないと

忠告もしたのだが、それでも神殿のない村々で治療魔法は続いた。

 

 なぜそこまでするのかと問えば――

 

「えーっと……私がこの国にいるのは一時的でしょうから、トラブルも最低限で済みますし。『誰かが困っていたら 助けるのは当たり前』 と、当然のように言う友人もいましたし……」

 

 おそらく、その友人の影響は彼女の中でとても大きいのだろう。

どこか誇らしく、それでいて寂しげに語る様子にウンケイとしても思うところがあり

彼女を気遣ってそれ以上は何も言わなかった。

 

(アンデッド好きなのが少々不安なところでござるが……)

 

 土砂の撤去作業など、ことあるごとにアンデッドを使おうとする彼女の考えは

対アンデッドに特化した僧侶であるウンケイからすれば、理解不能である。

 

 とはいえ性格的には好感の持てる少女ではある。

政治のドロドロにまで付き合うのは御免だが、鮮血帝の下まで無事に送り届けたいと思えるくらいには護衛対象に情を感じていた。

 

 

 

 ♦

 

 

 

「あの、少しお時間よろしいですか?」

 

 モモンガはコンソール操作により開かれた窓から顔を出し、そばを歩いていた銀糸鳥の二人に声をかけた。()()()()()を考えると別に彼らと会話する必要などない。窓を開けて南側の森を見つめていればいいのだが、より相手の食いつきをよくするために一つの魔法を使いたかった。

 

「は、はいっ! シャルティア様、いかがなさいましたか?」

 

 真っ先にモモンガの声に答え走り寄って来たのは、以前から妙になつかれているリーダーのフレイヴァルツだった。その後ろではウンケイが編み笠越しになぜか溜息を吐いている。

 

「よろしければ馬車を引いているヘジンマールに透明化魔法を使いたいのですが」

「透明化魔法ですか?」

「えぇ。これまで先行しているウンケイさんに事前に声をかけてもらっていましたが、やはりすれ違う方々はみなさん怖がられていましたから」

「確かに、そうでござるな」

 

 ウンケイの遠慮のない返事にフレイヴァルツが咎めるような視線を向けるが、モモンガは手で制する。実際モモンガの馬車を引くヘジンマールは目立つ。帝国の一般的な馬に比べれば大きさは雲泥の差だ。

 

 そんな大きさのドラゴン……に見えなくもない異形種がすれ違う馬車を引いているのだ。

相手の人間たちはもちろん、馬でさえも怖がっているのは素人のモモンガでもわかるくらいだ。

 

 ――尤も、

 モモンガがあらかじめ馬車から手を振ってみれば、表情はすぐだらしない物へと変わるのだが。

 

「ですので、透明化魔法をかけておこうかと」

「良い案だとは思いますが、不可視化(インヴィジビリティ)ですと効果時間が短く手間ですが?」

「大丈夫です、その辺りの事も考えていますから」

 

 馬車の中で胸を張るモモンガ。意図せずの行動だったが、窓の中央で二つの膨らみが重たげに揺れる事となった。伝言(メッセージ)から聞こえるハンゾウの良好な報告に気分が良くなる。

顔を赤くし視線を逸らせるフレイヴァルツの反応には、逆に以前の自分を鑑みるようでほんの少しだけ申し訳ない気分になったが。

 

「ヘジンマール! 聞こえてた?」

「はっ、はい! あの……わ、私は何をすれば?」

「そのまま歩いていればいいわ」

 

 馬車の窓から身を乗り出し、髪と胸をたなびかせながら〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉をモモンガが唱えると、ヘジンマールの姿、足音、気配、全てが掻き消えた。残ったのは馬車を引くためのロープが中空に二本繋がっているのみであり、傍から見れば宙に浮いたロープが重い馬車を引いている、

不可思議な光景だろうが怖がられるよりはマシなはずだ。

 

(まぁ俺には見えるんだけどね)

「これは……姿どころか足跡も消えておりますな! 一体どのような魔法なのですかな!?」

 

 ヘジンマールに現れた魔法の効果にモモンガが笑顔で満足していると、

ウンケイが珍しくやや興奮した様子でフレイヴァルツを押しのけ問いかけてきた。

会った当初からこれまで冷静な思考をしていた彼だったが、未知の魔法を目の前で見た事で興味を強く刺激されたようだ。

 

(もう少しこのまま外に出ていたほうがよさそうだし、話に付き合うか)

 

 モモンガもハンゾウの報告を聞きつつ、これ幸いとウンケイの質問に作り笑いで答えながら目当ての時間を潰すことに成功するのだった。




ハンゾウが名前言い間違えてもかわいくない問題、あと隠密だけあってどんどん影が薄くなります(他のキャラを掘り下げたいからねごめんね)

※完全不可知化について
 本人にしかかけられない設定ですが、執筆当時はその情報がなかったと思いますのでこのまま残します。(長期連載の弊害です故ご容赦ください)

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