シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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モモンガ様視点に戻ります


『ブレインの志望動機と面接』

「頼む! 俺を……俺をあんたの旅に連れてってくれ!」

「ぶッ! な、何を、突然!?」

 

 日がすっかり暮れた夜の食事の席。皿を置いた後、突然の礼と共に同行を申し出たブレイン・アングラウスの言葉に、フレイヴァルツが吹き出しドワーフ達が唖然とする中、モモンガ自身も内心では困惑していた。

 

(えっと……俺はギルドの話をしただけだったような……?)

 

 

 

 

 

 

 最初言葉を交わした際、大の大人が突然目の前で狂ったように泣き笑いを始めて少し、ほんの少しだけ引いてしまった。だが彼を連れ帰る際に刀の高価さを聞いて、モモンガは少しだけ冷や汗をかいていた。

 

 そもそも止めるためとはいえ、大した価値(レア)ではないと即断し他人の武器を破壊するのはいかがなものか。モモンガ自身も、思い入れのあるものは大切にする。例え能力の低いアイテムでも、仲間との思い出があればその価値は数十倍に跳ね上がる。性能は微妙な刀だったが、高価なものであればそれなりの苦労もしただろう。

 

 ――もっともこの体(シャルティア)を攻撃しようとした時点で、その辺りは些細な問題となるが。

 

 そう思いほんの少しだけ後悔したモモンガだったが、野営地に戻った時にウンケイにその事を尋ねると「おそらく彼が泣いているのは別の理由かと……」と、草原に顔を埋めている男を気の毒そうに見つめていた。

 

 そして泣き止んだ彼自身に尋ねると、ウンケイの予想通り違う理由だった。

 

 

 彼の話す内容『生死をかけた強さへの渇望』は、正直モモンガにはわからない。

 

 ――DMMO-RPGユグドラシル。

 

 そこで手に入れたステータス()を持って転移したモモンガ。その力は少なくとも命をかけて手に入れたものではない。お金や時間を注ぎ込みはしたが、命を賭けて育ててきた強さとはそもそも比べる類のものではない気がした。

 

 もちろん今後モモンガ自身も命を賭けた戦いをするかもしれない、この体(シャルティア)を守るために。

 だが、もちろん避けて通れるならばそうする。守るための準備も情報収集もするが、敵対する可能性のある存在(プレイヤー)とも友好的になれるならそうするべきだ。

 

 それら全てを正直に言うわけにもいかない。

 

 ひとまずモモンガは、ギルドと自分の話を少しだけすることにした。「話が長くなるから」と、夕食の席で同行者たちを交えて。彼の問いに対する答えにはならないだろう。

 ただ少なくとも『今の自分の原点』、当時の思い出が今の自分を支えているのは間違いない。

 

 事前にプレイヤーの可能性のある有名な強い存在について、ドワーフ国や銀糸鳥相手に情報収集していたモモンガは、当然『ガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウス』も知っていた。

 プレイヤーかどうかという意味ではハズレだが、有名人と人脈(コネ)を持っていれば今後にも利用できる。良好な関係をもっておいて損はないだろう。

 

 

 様々な話をした中で特に食いつきが良かったのは、たっちみーとの訓練の話だった。

正直話すのは恥ずかしかった。シャルティアとしての覚悟を決めたモモンガでさえ、アイテムボックスの底に沈めたペロロンチーノいち押しの下着やコス衣装くらい恥ずかしい。だがブレインが敗北したモモンガでさえ全戦全敗の敵わない強さ『上には上がいる』それを知れば、少なくとも彼への慰めになるだろうとの配慮だ。

 

「あ、……あんたが一回も、勝てなかった?」

「うーん、()()()ならいい勝負になるかもしれないけれど。正直勝てる光景(シーン)が想像できないの」

 

 

 ――満天の星空が見守る草原の夜。

 

 中央でスープを温めた鍋と焚火を囲う中、国をモモンガに救われたドワーフ達はもちろん、今日の戦いを見た銀糸鳥の面々とブレイン・アングラウス。皆その話に聞き入り、食事の手を止めたまま黙りこくっていた。一通り話し終えたモモンガ自身も、星空を見上げ考え込む。

 勝算ゼロの戦いなどしたくはない。正直ワールドチャンピオンクラスが敵対した場合は、逃げの一手となるだろう。相手がワールドアイテムを持っていた場合も危険だ。できれば早々に拠点を見つけ、周囲の国々を含めた情報収集に勤しみたい。

 

 そこまで考えたモモンガは視線を星空から戻し、ブレインに目を向ける。

王国所属だった王国随一の剣士。できれば手元に置きたかった。敵対していたとはいえ帝国の知識も少しはあるだろうし、政治には疎そうだが王国の内情も知っているだろう。有名人と一緒であれば便利な事もあるかもしれない。

 

 その辺りを当初は銀糸鳥の、特に何かと親切なフレイヴァルツをアテにしていた。

ただあくまで彼らは一時的な雇用関係の冒険者、しかも雇用しているのはモモンガではなく帝国だ。ギルドの話もそれらを考慮した内容にした。今日起こったことも後で事細かに報告されるのだろう。

 

(気は進まないけど、シャルティアのスキル『吸血』を試す頃かな)

 

 鈴木悟として他人の血を飲むのは色んな意味で抵抗があった。

だが夕方の一面に広がる野盗達の血を見て、体の内部から沸く『吸血の欲望』それを抑えるのに多少苦労した。転移当初は、クアゴアを殺そうがドラゴンを殴ろうが死んだドワーフを見ようが、せいぜい不味そうとしか思わなかった血に対する印象が最近変わってきた。

 舐めてみたい、飲んでみたいという欲望という名の精神が鎮静化された状態。表にも出さずに済んでいるのはそのお陰だが、今後もそうだとは限らない。人が喉を渇きを訴えるように、この体(ヴァンパイア)が血に飢えはじめたのかもしれない。

 

(さすがに死体愛好癖(ネクロフィリア)は勘弁してほしいけど……吸血ならまぁまだ大丈夫だよな? でも男の血を吸うのか……ハァ~鬱だ)

 

 シャルティアは男女どちらでも大丈夫だが、死体愛好癖(ネクロフィリア)と同じく流石にそこまで再現する気はモモンガにはない。そこは越えてはならない一線な気がする。

 

(いや! あくまで血を吸うだけでエロい事じゃないし。でも首に噛み――)

「頼む! あんた、いやシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様! 俺を……私をあんたの旅に連れていってくれ!」

「……え?」

 

 モモンガの昔話で沈黙していた夜の野営地に、男の大声が響いていた。

考え事をしていたモモンガも、そして周囲のドワーフや銀糸鳥もブレイン・アングラウスに目を向ける。周りの者達と同じように配られた、なみなみと注がれたスープの入った食器を草の上に置き、その隣で膝を突きモモンガに――シャルティアに対して頭を下げていた。

 帝国の作法を今現在必死に勉強中のモモンガに、王国式の作法はまだわからない。だが元々が一つの国だっただけあって、大きな違いはないらしい。

 

「ぶッ! な、何を、突然!? あなたは!」

 

 フレイヴァルツが狼狽する声を聞きながら、モモンガも少し困惑していた。

おそらく、ギルドの話をした効果だろうことはわかる。ただ彼を慰めるメンタルケア的な効果を期待した話だ。少なくともさらにへこむ事はないだろうとは思っていたが、突然旅に連れていってくれ、などと言われるとは思わなかった。

 

「それは……部下になるということ? 理由を聞いても?」

「勿論そうだ! あんたに、いえあなたについて行って『本当の強さ』を見てみたい! 理解したいんだッ!」

(そんなフワっとした理由だと困るんだけど……俺を面接した会社の面接官達もこんな気分だったんだろうか?)

 

 ブレインの表情が真剣なものなのはモモンガにもわかる。

渡りに船ではあったが、スキルも魔法も使わず連れて行くのは少し抵抗感があった。他人に操られればそれまでだし、誰かのスパイとなれば最悪だ。それがプレイヤーだった場合、今日の夕方の立場が逆になる事だってありえる。

 

「それにあんたが捜してる仲間達にも会ってみたい。あんたが勝てなかった戦士やあんたがそこまで信頼するあんたの仲間にも!」

 

 その言葉に少し気分が高揚してしまった。そのことに気づき、慌てて首を振る。

 

「見つけるまで、何年かかるかわからないけれど?」

「構わな、いえ! 構いません!」

 

 乱れすぎな言葉遣いは減点対象だったが、そこは今後直すように言えばいいのかもしれない。とりあえずお互いのためにも、研修やお試し期間として給金の話も含め相談すればいい。数か月経ってブレインが、もしくはモモンガが『こんな筈じゃなかった』と思えばそこで別れるのもありだろう。

 それまで衣食住と給金の面倒を見なければならないが、幸いドワーフ国からのアンデッドレンタル料は安定収入だ。人一人雇うくらいなんでもない、と思う。

 

「それじゃあ雇用契――」

「お待ちください! シャルティア様! よくお考え下さい、あなた様はこれから鮮血帝にお会いになるのですよ。野盗行為は帝国騎士による立派な討伐対象です!」

 

 内心で仮契約内容を考えていると阻むような強い声がかけられた。

声の方を向けばフレイヴァルツがウンケイに押し止められながら、ブレインへ食って掛かるように睨みつけていた。

 

(あぁ~そうだった……不味いな、すっかり忘れていた)

 

 その言葉の内容に心底納得してしまった。

この国の王や貴族の感覚はわからないが、治める地で犯罪を犯した者を目の前に連れてこられていい顔をする統治者がいるだろうか? 少なくともモモンガの感覚ではそれはない。そしてそんな体裁を許す者が統治する国にいたいとは思わない。

 

 ブレインに問うように視線を戻せば、その固い表情には夜にも関わらず冷や汗を浮かべていた。

 

「ブレイン?」

「あ……あぁ。死を撒く剣団は、帝国にきて馬車を襲撃するのは今回で三度目だ……前の襲撃は俺も参加した」

 

 少し青い顔で、シャルティアに向けていた視線を外しながら答えるブレイン。

その様子に嘘は見られない、ただ少なくともこの国での己の罪を認めていた。先ほどまでの決意が無駄に終わる可能性、それは本人も承知のはずだ。

 

(見るからに落ち込んでるなぁ、俺もなんとかしたいけど……)

「それでしたらいっその事、ブレイン殿も鮮血帝にお会いすれば良い結果になると思いますぞ」

「な!? ウンケイ、何を言う! こらっポワポン離せ!」

 

 再びかけられた声に同じ方向を向くと、フレイヴァルツを押し止めていたウンケイが、錫杖を杖のように持ち一息つきながらこちらを向いていた。背後ではなぜか半裸のポワポンにフレイヴァルツが羽交い絞めになっている。

 

「今代の皇帝は、有能であれば平民でも取り立て、帝国最高の四騎士にされる方です。犯罪を犯した者を表立って取り立てた、といった話はあいにく聞いておりませんが。過去にはガゼフ・ストロノーフを戦場で勧誘したという逸話もある方。確約はできませんが、おそらく同等の強さを持つブレイン殿に厳罰がくだる事はないかと」

 

 逆に勧誘される可能性もあるのではないか。と、ウンケイは続けた。

モモンガとしても悪くない提案だと思う。あくまで犯罪者として皇帝の前に連れて行けば、モモンガの体裁は保たれる。そこで皇帝がブレインに下す罰、もしくは免罪の代わりとなる何かの提案には不干渉、ノータッチであればいいのだ。おまけに皇帝の人となりを事前に確認できるかもしれない。

 

「私は良い案だと思うけれど? ブレイン・アングラウス?」

「わ、わかった。それであんたの配下になれるなら」

「言っておくけれど、鮮血帝があなたに死刑を命じても私は止めないけれど?」

「そうだな、そうなる可能性もあるのか……その時は一つあんたに、シャルティア様にお願いがあるんだが、いいか?」

 

 今日一日、モモンガが見ただけでもめまぐるしく変わったブレイン・アングラウスの顔。今その顔に浮かべるのは決意の表情に思えた。どこか自信ありげで人を喰った様な、何かを乗り越えたような微笑み。死を覚悟してでも、その先のなにかを見つけた顔だった。

 

「名前も顔も知らない騎士に首をやるのはごめんだ。できればで構わない、もしできれば……首をはねるのはシャルティア様にお願いしたい」




アンケート募集中(シナリオに影響があるかは未定なので気軽にどうぞ)

第三の選択肢で「シナリオ次第」とか「作者の好きにしてええんやで」
なども考えたのですが、1か0でお聞きしたかったので二択としました。
読者の反応を聞きたかったのが第一なので、シナリオに取り入れるか未知数です
ちなみにブレインは帝国でアレと戦う予定です。

このブレインは吸血鬼化してほしいか、それとも人間のままでいてほしいか

  • 吸血鬼化希望
  • 人間のまま希望

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