シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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『モモンガ様のお願い』

(なんかメチャクチャ上手く話進んでないか? 考えてもいなかったドラゴンの新しい使い方まで提案してくれたし。……魔法を使って鉱山を潰した件はいいのかな? まぁ向こうが触れないなら、とりあえず様子を見るか)

 

 貿易交渉はおおよその合意となり、文官達が何人か退室した後「難しい話はそろそろ終わりにして、少しこちらの世間話でもしようか」というジルクニフの案内で、今の話題は帝国と王国の関係と"死の都"を作ったズーラーノーンに移っていた。

 モモンガとしては(どこが世間話だよッ! 権力者目線の国と国の関係なんてハードル高すぎるわ)と、内心で突っ込んでいたが、同じ権力者という身分を偽ってる以上断ることもできなかった。とりあえずこちらは外から来たお客と言う立場なので、ほぼ聞いているだけで良い。

 

 だが退屈という事は全くなかった。少し尊敬してしまうほど、ジルクニフはホスト役として完璧だった。

 絶妙のタイミングでこちらに話を振り、商人会議長やモモンガが知らない話題となればすぐに面白おかしく説明してくれる。話題に食いつけば、さらに引き込まれるように話を弾ませてくれた。

 

 戦争中の敵国であり、"死の都"を抱え込んだ王国に関して多少の愚痴は混じっていたが、それは彼の立場を考えれば仕方ない事だろう。交渉相手が思わず愚痴を漏らしてしまうのは、ある意味信頼関係のある証だ。まぁ全力で吐き出されては困るが。

 

(しかしこうなると、とりあえず名声はズーラーノーンを潰す事で得るってことでいいかな? でもここは帝国の顔も立てないとだめか? ……一応世話になるんだし)

 

 "死の都"に関連してズーラーノーンの話題が出た時「手を貸しましょうか?」と、軽い気持ちで話に乗ってみた。相手の表情に嫌がる様子は一切なく、むしろ満面の笑顔で「ありがたい申し出だ」と頷いてくれた。

 ただ続く言葉は協力を願い出るものではなかった。「それでは自分の配下である騎士達の面目が立たないうえ、客人であるあなたを戦わせては申し訳ない」と、やんわり断られてしまった。

 

 相手の立場を考えれば納得できる部分もある。

国を守る軍隊を差し置いて、モモンガがあっさり解決しては騎士達はさぞかし意気消沈してしまうだろう。彼らはこのような時のため日頃から訓練しているのだ。仕事を奪われるどころか、自分たちの仕事の価値について懐疑的になってしまう。

 

(まぁそれは後で考えるとして……あとは金と立場か。でも皇帝がここまで歓迎してくれたら、もう後ろ盾になってくれたと見ていいんじゃないか? 交渉も上手くいって、さらに別の仕事も紹介してくれたんだし金も十分貰えそうだ。後はプレイヤーの情報を集めるだけだけど、それは協力してくれるのか?)

 

「――いや、失礼した。私ばかり話してしまって、こういった場でこのような話ができる機会はなかなかなくてね。ご気分を害されてないといいのだが……」

「いえ、そのようなことはございません」

「商人会議長の仰る通りです、同じ位置に立つ者として陛下のお気持ちお察しします」

 

(――ごめんなさい、本当は全然わかりません)

 

 おそらく相手をいたわる様な笑顔はできてると思う。

ただその内心では女王などと偽っている身分のため、心の中では――実際の体に異常はないが、冷や汗と胃の痛みが止まらない。

 一方の相対するジルクニフは、常に余裕を持った友好的な笑顔だった。謝罪の時以外は、終始堂々とした態度を貫いている。これが生まれながらの権力者、鮮血帝と呼ばれる帝国史上屈指の名君と言う奴なのだろう。

 

 そんなジルクニフに笑顔をむけられると、こちらの胃がますます痛くなってくる気がする。お互いの力量差をハッキリさせ、その結果が先ほどのドワーフ有利の貿易交渉に現れたはずだ。だが実際のところモモンガの中では、人間としての精神が緊張により悲鳴を上げていた。

 

「お二人に感謝を。……ただその、ゴウン殿よろしいかな?」

「?」

 

 首を傾けて、仕切りなおすような相手の声色に答える。

 

「貴女のような方に『陛下』などと呼ばれると、少々こそばゆい。貴女とは堅苦しい関係は望んでいない故、よければジルクニフと気安く呼んでいただけるとありがたいのだが?」

「……ではこういった場では『ジルクニフ』と、私の事も『シャルティア』とお呼びください」

「貴女のような美しい方を名前で呼ばせていただけるとは、大変名誉なことだ。感謝する、シャルティア嬢」

 

 別に呼び捨てでも構わない、と内心で思ったが特に問題はないので黙っておく。

 

「さて、私ばかり話してしまった代わりというわけでもないが――シャルティア嬢。ある程度は私も報告で把握しているがあなたが何のために旅をしているのか、お話しいただけないだろうか? なにか貴女の力になれるかもしれない」

「……わかりました」

 

 ――来た! 自らの偽りの経歴を話すのはこれで三度目になる。

内心で緊張しながら、心を落ち着かせ昔を懐かしむように話を始めた。

 

 

 

 基本的に話す内容は最初のドワーフ達、摂政会の場と変わりない。

いなくなった仲間達、その仲間を探すため世界を回る事、一応この帝都とドワーフの国を騒がせた魔法の件も軽く謝罪しておく。

 

「いや、謝っていただく程の事ではないさ。シャルティア嬢、おかげで貴女のような方をこうして帝国へ招けたこと、その幸運に比べれば大したことではない」

 

 お互い名前で呼び始めたせいか、親しみの声をこめてジルクニフが笑いかけて来る。

 

「実は君の仲間……友と言えばいいかな? 報告にあった名前は十日ほど前から既に調べ始めていてね、生憎とまだなにも成果が出ていない。調査は続けているのだが――」

 

 自然と驚きの言葉が漏れそうになる。

フールーダの記憶を少し読みはしたが、魔法関連以外に関しては抜けが多い。そのための誤算だったが、それは嬉しいものだった。

 

(結果が出てないとはいえ仕事が早いな……たぶんこっちの実力なんて計りかねてる段階だったろうに)

「ありがとう、ジルクニフ」

「あ、あぁ。いや、言ったようにまだ何も見つけることができていなくてね。恥ずかしい限りさ」

 

 一瞬こちらを見るジルクニフが言い淀んだのが気になるが、笑顔とともに感謝を伝える。ここまで優秀だと情報収集に関しても完全に任せていいかもしれない。とはいえこちらにはハンゾウがいる、隠密特化の彼らを持て余すのは色々な意味でもったいない。あちらとは何か別の切り口で仕事を考えておかねばならないだろう。

 

「ところでシャルティア嬢、他に何か貴女の力になれることはないかな? 無論かなえられそうなことに限るが、できるだけ貴女の力になろう」

「……そういえばフールーダの後継者はどうなっているのですか?」

「あぁ、それなのだがね……爺、どうか?」

 

 部屋の文官が入れ替わり立ち替わりする中、これまでジッと佇みジルクニフとモモンガの会話を見守っていたフールーダに、ジルフニクが声を掛ける。

 

「はい……私の弟子達の中から何人か有力な者達を絞り込みはしましたが、情けない事にせいぜいが第四位階まで。魔法に関する知識もそれほどではありませぬ故、我が師には――大変申し訳ないのですが‥‥…少々お時間を頂かなくてはなりません……」

 

 そんな泣きそうな顔をされると、こっちも困るんだけど……

 

 若返ったせいか、涙ぐんだその姿は見ていて別の意味で痛ましい。

体を震わせ本気で悲しんでる男に声を掛けるのは少しためらわれるが、原因が色んな意味でモモンガなだけに、掛けないという選択肢はない。

 

「フールーダ、急ぐ必要はない。急いで無理をする仕事の結果には、様々な所で悲惨な結果に繋がってしまう場合もある。後を引き継いだ者が成長できるように、あなたはその道をしっかり整えてあげればいい」

「わかりました。その……できれば帝都から外にお出になる際は、同行させていただければと思うのですが。黙って出ていかれてしまいますと、その、置いていかれるのではないかと不安で……」

 

 チラチラと縮こまりながらこちらを見てくる鈴木悟と同年代の男の姿には、なんというか少し気持ち悪さを感じてしまう。

 

「そうだな、私からも頼む。後継者を育てる時間はしっかりと働いてもらうが、同時にシャルティア嬢が用事のある際は、遠慮なく呼び出してもらって構わないとも。それと街中に出られる際などは、案内の騎士を同行させていただきたいのだが」

「おぉ~ジル! 感謝いたします!」

(ぇー……)

 

 喉から出そうになった不満の声を押し止める。

多少――いや、だいぶ変なところはあるが、二百年以上生きてるだけあって彼の知識は膨大だ。鈴木悟とは比べられないほどの長い人生を生き、帝国という巨大な国の運営の心臓部で働き、帝国民は誰もが知っているフールーダ・パラダイン(帝国の主席魔法使い)

 

 この世界でただ一人のモモンガにとって、役に立たないということはないだろう。

 

「……わかりました」

「それと、こう言ってはなんだがレイナースに関してはあくまで騎士という立場なので、それほど気にしなくても問題はないさ。たった今から君の騎士ということでこちらは構わないとも」

 

 フールーダと同じように後継者を育てなければならないと思っていたが、どうやらその心配はないようだ。眷属となり少し変わった性格になってしまった気がするが、彼女の血液がこの体に必要な今これはありがたい。

 

 モモンガが営業スマイルを浮かべると、ジルクニフも同じように笑いかけてくる。

 

(しかし本当に順調だな、ジルクニフが話の分かる有能な人物で良かった。こうなるとあまりやる事がないんだが、ズーラーノーンを叩き潰すのはジルクニフに止められたし……自分の立場くらいは人任せじゃなく、自分で何とかしてみようか。とはいえ王族として舞踏会に出席なんて遠慮したい。しかし、そんなワガママな子供じゃあるまいし……ん? 子供?)

 

 そこまで考えてふと城下で遭遇した二人を思い出す。

 

(ふむ、魔法学院か……、フールーダの知識では確か帝国貴族の跡取りも結構な数が入学してるんだったな)

 

 たしか貴族以外でも、才能ある若者が学費を免除されて通っている場合もあったハズだ。どれくらいこの国に居座るかは分からないが、そういった将来性のある優秀な人間、もしくは優秀な貴族とのとパイプを持っておくのは、将来を見越せば何かの役に立つかもしれない。

 

(子供同士の場所なら面倒な貴族の付き合いとかは最小限に、人脈を作れるんじゃないか? ……ペロロンチーノさんもナザリック学園なんて作ろうとしていたしな……今はもう全部なくなってしまったけど、残したNPC(シャルティア)がそういった所に通うくらいは許してくれるだろう)

 

 それに、人脈までジルクニフ一人に任せるのもやや問題に思える。

別に彼を信頼していないわけではないが、あまり特定の人物にばかり頼り過ぎるのはリスクが大きい。全てがジルクニフの後ろ盾を前提とした付き合いになるのは、彼自身になにかあればこちらの立場も巻き添えになるという事だ。

 念のためにも少しは自分自身でパイプ(人脈)を作っておいて損はないだろう。それにペロロンチーノ辺りの影響だろうか、『学園生活』というものに少し魅力を感じてしまう。

 

「ジルクニフ、一つお願いがあるのだけれど」

「もちろん、先ほども言ったように出来る限りの事はさせて頂くさ。何でも言ってくれて構わないとも」

 

 優しさと自信のある笑みと言えばいいのだろうか、男としてかなりの魅力が溢れた笑顔で手を広げながら答えてくれるジルクニフ。生憎とモモンガにはそっちのシュミはないのでどちらかというと嫉妬しか浮かばないのだが、今はその笑顔が頼もしい。

 

「では帝国魔法学院に通いたいの」

 

 モモンガなりの人脈を作るための案、その入り口となる場所を口にした。


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