シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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 待ってたぜェ!!更新できる瞬間をよぉ!!

 ここからWebの魔法学院編です。
原作Web版とドラマCD、色々とオーバーロードの知識がないと楽しめないかと思います(私の知識が間違ってたらスミマセン)


3章 偶然出会った可愛い女の子は、大体転校生で隣の席になると決まっている
『変わり始めた日常』


「じゃあ母さんはちゃんと寝ててよ、行ってきます」

 

 玄関から部屋の奥で寝ている母親の返事を確認すると、鍵を閉めて外へ歩き出す。

 

 空を見上げれば晴れやかな晴天の朝。

遠くからは工房の作業音、大通りの方では荷車や商人の声が聞こえる。いつもどおり集合住宅特有の狭い小道から数度曲がり、比較的大きな道に出るとジエットと同じ制服を着た生徒を何人か見かけるようになった。

 

「ジエット~」

 

 通りに出た所で待っていると、聞きなれた幼馴染の声が耳に届いた。

顔を上げると人の波を抜けて幼馴染である少女――ネメルが駆け足でこちらに向かってきている。その見慣れたはずの顔には、久しぶりに目にする満面の笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 変化は突然だった。

 

 ネメルにちょっかいを出していた貴族の子息、ランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバド。

ちょっかいといっても子供心からくる不器用な恋愛表現などではなく、文字通り貴族として格下の相手を弄ぶ気持ちでネメルに近づいた男。

 

 彼が雇ったゴロツキにネメルが路地裏で襲われた時、ジエットはその場にいなかった。

ネメルの話では男達に追いかけられ捕まった際、白亜の仮面を付けた少女に助けられたそうだ。そして仕事を放り出して駆けつけたジエットも、その仮面の少女を目にすることができた。

 

 今思い出しても『純白の美姫』という言葉があれほど相応しい女性はいないと思う。

 

 仮面をつけていたためその素顔こそわからなかったが、白い花と羽で飾られた帽子、そこから豊かに流れる銀髪。純白のドレスは数々の装飾品で彩られており、豊かに膨らんだ胸と併せて着用者の魅力を存分に引き立てていた。

 そこいらの貴族では足元にも届かない財力を持った少女。その身につけていた服飾だけでも相応の地位にいるのは間違いない。

 

 ジエットが駆け付けた時は丁度ネメルとその少女が顔を近づけ合っている時で――後で治療のためだったと慌ててネメルから説明されたが――少女の美しさに目を奪われながらも、心の片隅でチクリとした妙な気持ちになったのを覚えている。

 

『幼馴染ならちゃんと守ってあげなさい』

 

 仮面の下からそう静かに告げ、皇室地護兵団(ロイヤル・アース・ガード)の作った道に消えていった純白の美姫。

騎士達を従える姿はもちろん、その後ろ姿とあふれ出す気品。今まで会った貴族の一部にも似たような雰囲気を感じる人物はいたが、自分と同じ年頃にもかかわらずあの少女はその遥か高みを感じさせた。

 

 つまり、自分たちとは生きる世界が違う人物という事。

 

 その事件の後もジエット達――もとい、ネメルの家は大変な騒ぎだった。

軽い事情聴取を済ませるとネメルの家まで二人とも送ってもらったのだが、ネメルの両親相手に事情を説明している途中でロベルバド家の執事が突然尋ねてきた。

 用件はロベルバド家としての謝罪と補償金の提示。ジエットは騎士による事情聴取の頃から、もしかしたらこうなるんじゃないかと僅かに期待していた。根拠となったのはゴウン様と呼ばれていた純白の美姫の存在。ロベルバド家などより遥か上位にいる彼女か、もしくは彼女に近い誰かからの圧力があったのかもしれない。もしくはそれを察したロベルバド家が、上から睨まれる前にサッサと金で解決するために動くという可能性も考えていた。

 ランゴバルト本人ではなく執事を寄こしたことに思うところがないわけでなかったが、いくつかの条件を付け加えた後ネメルの両親が受け入れる事で決着となった。

 

 こうしてジエット自身も悩ませていた難問が、突然舞い降りた幸運によりアッサリ解決した。

 

 

 

 


 

 

 

 平和を噛みしめながら、いつものようにネメルと並んで魔法学院への道を進む。

 

「ふふ〜ん♪」

 

 隣から聞こえる鼻歌にジエットも浮かれてしまいそうになるが、まだ母親の病という問題が彼の肩には残っている。とはいえ問題ではあるが、難問というほど厄介なものではない。

 

 要は『金』の問題だ。

母親の病気を癒す魔法のアイテムは高価な代物。商会の仕事でなんとか貯金はできているが、今のペースで貯めても母親の命が尽きるまでに間に合う保証はない。学院を辞めて冒険者やワーカーになるという選択肢もある。ネメルに迫っていた危険が無くなった今なら最高の好機かもしれない。ネメルと共に来月の昇級試験を終えれば、本格的に考えてもいいかもしれない。

 ただ、昔お世話になった貴族の家の令嬢を裏切るようなことはしたくはない、という思いもある。ジエットが今帝国最高の学院に通えているのは彼女のおかげなのだ。とはいっても母親の命と比べられるものかと問われれば、首を横に振るしかない。

 

「ねぇジエット、あの……これ読んでみてくれない」

「――ん? なんだそれ?」

 

 ジエットの考え事を断ち切るように、隣に並ぶ幼馴染が遠慮がちに紙を差し出してきた。

 

 女の子らしい装飾された紙に包まれた封書。

貴族ではあるが平民とほぼ同等の生活水準の彼女の家にしてはかなり上質な物だ。ジエット自身は言わずもがな、少なくとも平民が私物で持っているような代物ではなかった。

 

「ゴウン様にお礼のお手紙を書いてみたんだけど、上手く書けてるかわからなくて……」

「そうか、確かお礼も言えなかったんだったよな」

「う、うん……」

 

 ジエットの何気ない言葉に目尻と肩を下げ、気落ちするように静かに答えるネメル。

その反応になんと声をかければいいのかわからず、誤魔化すように彼女の頭を数度撫でた。

 

 笑顔が戻ったネメルだが、ときおり彼女の笑顔に影が差すことがある。

それは自分(ネメル)を助けてくれた『ゴウン様』と呼ばれていた少女に、その場でお礼の一つも言えなかった事。その事を思い出すたびに、自分を責めるように落ち込んでいるのがジエットにはわかっていた。

 

「俺は最後に声をかけてもらっただけだけど、たぶん相手は気にしてはいないと思うぞ」

 

 言い方は悪いが、最後に意味ありげな言葉だけ残して彼女はサッサと離れてしまったのだ。

助けた相手から感謝の言葉を貰いたがっていた訳ではないのは間違いない。

 

「私あの時頭が真っ白になって、普段から気を付けていればちゃんとお礼も言えたのに……」

 

 粗野な男達に襲われている時に突然助け出されその相手があんなドレスに身を包んだ少女では、ネメルでなくても驚き混乱してしまうのは仕方ないように思う。それを指摘しても彼女自身が納得することがないのは幼いころからの付き合いで分かっているので、口には出さないが。

 代わりに手渡された手紙を開き文面に目を通していく。貴族間の手紙の文面の良し悪しなど、平民であるジエットにはわからないが内容に問題があるようには思えなかった。

 

「大丈夫だとは思うけど、俺以外にも誰か確認してもらった方がいいんじゃないか?」

「うん、お姉ちゃんとお母さんにもお願いしてみるつもり」

「ならいいけど。それでこの手紙を届ける方法って考えてるのか?」

「それは……」

 

 皇室地護兵団(ロイヤル・アース・ガード)が護衛している少女だ。

皇帝直轄の近衛兵。つまり皇帝という雲の上に立つ支配者の傍に立つ存在。貴族とは言え末端に限りなく近いネメルの家では、そこまで届く伝手などあるはずがない事はジエットでも予想がつく。

 ジエット自身も会う機会があれば御礼の言葉を伝えたい気持ちはある。だが、どう考えても無理な話だ。なぜあの場に彼女のような人物がいたのかは分からないが、強いて言えば『運が良かった』という一言に尽きる。

 

 ――そこまで考えて、目にする光景に違和感を覚えた。

 

「なんだ?」

「え?」

 

 いつもの街路を歩き、いつものように到着した帝国魔法学院の前。

だがいつもとは少しばかり違う様子に、思わず立ち止まってしまう。普段は門を雑談しながら通り抜ける生徒たちが一瞬足を止め、学院内を一瞥するとオドオドした足取りで校舎の中に入っていく。門をくぐった全員が同じような挙動をするのが後続からでも確認できた。危険はなさそうだが何か驚くようなものが門の向こう、学院敷地内にあるのかもしれない。

 

(今日は何かあったか?)

 

 学院内で情報屋まがいの事をしている知り合いの顔を思い出すが、生憎と彼女からとくにそういった話は聞いていない。当然他の生徒たちとの世間話でも、今日なにかあるなど聞いていなかった。

 

「……とりあえず行くか」

「う、うん」

 

 同じ光景を目にしたネメルは少し緊張しているようだが、ここまで来て学院をサボるなど論外だ。制服の脇の部分が僅かに引っ張られる感覚を覚えながら、魔法学院の正門へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「なぁ、今日何かあったっけ?」

「知らないけど……誰か偉い人が視察に来るとかじゃないか?」

「それにしちゃ先生方も慌てていた様子だったぜ、実際今もまだ来てないし何かあったのか?」

 

 いつもより少し騒がしい朝の教室。

教室内の同期へ朝の挨拶をした生徒たちは席に着くや否や、近くの者達との情報交換に夢中になっていた。当然その内容は先ほど生徒全員が目にした学院内の変化についてだ。

 

 一言で言えば、警備をする騎士の数が異様に多いのだ。

 

 帝国魔法学院は国の運営という事もあり、当然のように帝国騎士による警備が敷かれている。

とはいえ普段は仰々しいものではなく、各門を始めとした出入口と魔法技術に関する重要施設、それと巡回する騎士が複数いるくらいで一日に何度か目にする程度だ。魔法技術の最先端を研究している『帝国魔法省』であればもっと多くの騎士が警邏しているだろうが、当然ながらジエットはそんな重要施設に入ったことはない。

 

 普段はその程度の人数であったはずの騎士が、今日に限っては少なくとも五倍、下手をすれば十倍くらいいるのではないかと感じられた。勿論正確に数を把握できるはずもないが、正門を通り教室に辿り着くまでの間に目にした騎士の数はそう感じさせるには十分だった。

 そしてなにより警備をする騎士達の意気込みが普段とは明らかに違っている。別にいつもの騎士が不真面目などと言うつもりはないが、先ほど目にした騎士達は鬼気迫る雰囲気すらある。言ってみれば戦場のような緊張感が彼らの周囲に漂っているようにジエットには思えた。

 

(戦場の空気なんて知らないけど……昨日の事といい、本当に何かあるのか?)

 

 教室後方の窓際、ボーっと潜考していたジエットはチラリと隣の席に目を移す。

いつも隣に座っていたハズの級友は、突然休学届を出し昨日のうちに実家に戻ってしまった。なんでも進路についての大切な話があるとのことで、実家から帰ってくるように連絡がきたのだそうだ。本人は嬉しそうだったので悲観する理由ではないのだろうが、昨日の今日ということもあり騎士が増えた事と何か関係があるのかもしれない。

 

 それに隣の席だけ新品の椅子と机に交換されているのが、妙に嫌な予感を感じさせた。

昨日まではジエットや他の生徒達が使っているのと同じ、魔法学院の歴史を感じさせるやや古ぼけた物だったのだが、教室内で()()()()()()()()綺麗なのはかなり浮いている。

 

(教員も遅れているし……この教室だけか?)

 

 いつもの時刻になっても担当教員が来ない事に教室内がざわついたのは少し前。

すぐに遅れるという連絡がきたのでざわめきは治まり、情報交換という名の小さな会話が教室内を支配していた。ジエット自身は隣が空席という事もあり、その会話には混ざらず何か不味い事態が起こっているのではないかと一人考え込んでいた。

 

 そしてそのまま時間が過ぎ

 

 ――扉が静かに動き始めた。

 

 いつもの担当教員の姿を認め、教室内に満ちていた少しの不安が霧散する。

だが瞬時にさらなる不安に塗り替えられた。扉を開けてガチガチとおもちゃの人形の様に歩く姿と、顔色が真っ青な教員を目にして困惑しない生徒はいない。

 

 そのまま教壇によじ登るように立つと、教室内を見渡す担当教員。

その目は青い顔色とは真逆の血走ったモノ。ゴクリッと、ジエットを含めた生徒たちが小さく息をのむ音が教室内に響いた気がした。

 

「みなさん。き……きょうから、みなさんといっしょにま、まなぶおかたがいらっしゃいました」

 

 息も絶え絶えに、まるで今にも死にそうに青くなった額に汗を流し、血走った眼で必死に何かを伝えようとする教師。いつもの温和な笑顔に満ちていた姿とは別人のその姿に、教室内は不安と困惑と動揺に満ちていく。ジエット自身も恐怖心にも似たものを感じて首筋が冷たくなった気がした。

 

(御方って……)

「みなさんとせきをともにして……まなばれたいとのことです。これから入っていただきますが、い……いいですか、みなさん! 絶対に! 失礼のない様にッ!」

 

 最後には畏怖の仮面を顔に貼り付けまるで生徒たちに必死の懇願のような言葉を言い残すと、そのままガチガチと扉に向かい、外にいる相手を気遣う様にゆっくりと開いた。

 

 ――そして、誰もが知る人物が教室内に姿を現した。

 

(ふッ――フールーダ・パラダイン……様!?)

 

 長い白髭をたたえながらも輝く瞳を持った老人、その顔を知らないものはこの教室にはいない。

その偉業は帝国の歴史を紐解く間に何度も目にし、学院内には肖像画が飾られ魔法史には数々の偉業と共に記載されている生きる伝説。帝国内の辺境なら兎も角、魔法学院どころか帝都で知らない者を見つけるのはほぼ不可能なほどの偉人を目にして、教室内に満ちたのは歓喜ではなく混乱だった。

 

 まさか、フールーダ・パラダインが魔法学院に入学!?

 

 ありえない珍事に生徒たちが沸き立った瞬間、それは杞憂だったことが判明する。

白髪と長い白髭、そして白いローブをはためかせた老人は扉の脇で頭を下げると「どうぞお入りください」と小さく、しかしはっきりした声で外の人物に声を掛けたのだ。

 その姿を目にしてさらに生徒たちの心の中、もはや生存本能に近い危険信号が限界まで打ち鳴らされる。あのフールーダ・パラダインが――貴族社会と距離をとっている帝国の英雄が唯一頭を下げる存在。そんなものは誰もが知っている人物、皇帝以外ありえない。全員が体を石像のように硬直させ、顔色が教員と同じように変色したような気さえする中――

 

 一人の少女が教室へ入ってきた。




学園ものエ〇ゲのプロローグみたいだ

・現地の制服を着てる事に違和感を覚える方もいると思いますが、種明かしは追々

次話→明日投稿予定(書き溜めたのでしばらくは更新ペース早め)

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