シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

47 / 50
『魔法学院を訪れる鮮血帝(ジルクニフ)・後』

食堂(ここ)のランチは如何だっただろうか? あえて無料のランチを注文したと聞いたが?」

「えぇ、興味があったから。栄養も考えられた良いメニューだけれど、量は少し足りないのではない?」

「そうか……この食堂には優先して食料を回しているんだが……この後厨房も視察予定なので見ておくようにしよう」

(そう言えば少し食料が不足してるんだったな。他国から買い入れるから大丈夫とは言ってたけど、その辺りで借りを返してもいいかもしれないな)

 

 僅かに眉間に皺を寄せたジルクニフの苦労はわからない、モモンガは一般人なのだから。

それでも『衣食住』が人の生活に重要なことくらいはわかる。彼の苦労を軽減するためにもその一つでモモンガが力になれることがあるのではないか。

 

(アンデッドに開墾作業とかやらせればいいんだろうけど、ズーラーノーンがまだあるからなぁ。でも確か魔法省でアンデッドの実験をしているってフールーダが言ってたし、その辺りは大丈夫なんじゃないか?)

 

「それとドラゴンについてなのだが――」

 

 考えに沈みそうになったところでジルクニフの真剣な声が思考を引き上げた。

直ぐに良い案も思いつきそうにはないので、そのまま相手との会話へ意識を戻す。

 

「君の配下であるヘジンマールから聞いたのだが、彼の親にあたるドラゴンが一番大きいそうだね。空輸できる量がどれほどか一度担当の文官に見せたいんだが、可能だろうか?」

「一番大きいとなるとオラサーダルクね、()()に呼べばいい?」

「……い、いや、それだと流石に騒ぎになるのでね。明日にでも帝都から少し離れた場所を用意するとしよう」

 

 一瞬ジルクニフが小刻みに震えたように見えたは気のせいだろうか?

 

(もしかしてまだ体調が悪いのか? ……今日帰って話せる機会があれば、少し注意してあげた方がいいかもしれないな)

 

 帝都に着いてまだ数日、未だにモモンガ一行はジルクニフの城で厄介になっている。

ヘジンマールは本の虫――もとい、本のドラゴンとして城の書物を読みふけっており、ブレインは騎士との模擬戦を夜遅くまで、ハムスケは野生を忘れただらしない生活を送っている。

 

 控えめに言っても居候という身分、これもこれで大きな問題と言えた。

 

(学院にも入学できたんだし早めに家か宿かを見つけた方がいいだろうな。お金はソコソコあるんだし)

 

 特に四六時中ゴロゴロしているハムスケが問題だ。

一応ブレインと一緒に騎士と手合わせをする時間はあるが、それ以外はほぼ食っちゃ寝というニート一歩手前の状態。それを見るたびに飼い主であるモモンガとしては、周囲の視線がどんどん冷たいものに変わっていく気がして内心ビクビクしてしまう。

 

 これでは居候どころかペットも含めてヒモ生活と言われても否定できない。

 

「――その話も含めて学院が終わった後の事なんだが、少し時間を貰えないかな? 君に少しプレゼントもあってね」

(え……? プレゼント?)

 

 これ以上ジルクニフから何かを貰っては逆に困る気がする。

世話になりっぱなしという理由もあるが、なんだか男が男に貢がれているような気がして少し引いてしまう。ジルクニフにそんな気はなくとも、モモンガが勝手にそう思ってしまうだけだが。

 

「ささやかだが元貴族の住まいをね。勿論君が気に入ればなんだが……」

「貴族の……屋敷? でも、ジルクニフ――」

「むろん遠慮はしなくていいさ! なにせ貴族を粛清した結果空き家となってしまった屋敷が多くてね。むしろ貰ってくれた方がこちらとしては助かるんだ。いくつか候補があるんだが、ひとまず見るだけでもどうだろう?」

「……とりあえず見るだけなら」

「感謝するよ。よし、ロウネ!」

「はっ! ブラッドフォールン様、こちらを――」

 

 困った笑みを浮かべて断ろうとしたモモンガだったが、相手の言い分にノーと言えない雰囲気を感じて思わず頷いてしまう。そして前に進み出てきたジルフニクの秘書官、ロウネがモモンガになにやら書類を手渡してきた。見ればやたら大きな家のスケッチと図面、そして見取り図と詳細な説明が記載されている。

 

(ま、まぁ見るだけだし……見た後断ればいいし……)

 

 物件パンフレットから目を上げれば、どこかホッとしたように見えるジルクニフ。

その姿にほんの少しだが罪悪感を感じてしまう。モモンガが屋敷を貰う事で彼が少しでも助かるのならと、そんな気分にもなってしまう。

 

(空き家の管理が大変ということか? 大勢粛清したのなら屋敷も相応に多いのだろうし、立派で広い屋敷なら壊すのにも手間や金がかかるってことかな?)

 

 そういった理由があるのなら、貰ってもいいのかもしれない。

流石に管理費用や生活資金は自腹で出せる、と思う。それに自分で探すとなるとその辺りに詳しい人間を見つけるところから始めなければならない。フールーダやレイナースがその辺りに詳しいか、と聞かれれば若干不安がある。

 

「いや、本当に助かるよ。そうなると君のために何人か用意せねばならないな。爺……フールーダにそのアテがあるとは思えないし、私に任せてもらっていいかな?」

「……ええ、ではその辺りの事もジルクニフにお任せします」

 

 庭師とか管理人とかかな? と、庶民的感覚からいまいち抜け出せない思考でジルクニフに丸投げする。モモンガ自身も気を付けてはいるが、女王なんて口だけでその辺りのことはさっぱり分からない。

 

「いや構わないとも、綺麗どころの執事を多く用意するとしよう」

 

 ――あー、そっちの意味か……。

 

 嬉しそうなジルクニフの笑顔と反対にモモンガは少しゲンナリする、もちろん表には出さずに。同時に想像してみる、屋敷で暮らすシャルティアとそれを世話する若い執事の姿を。

 

(まぁアリと言えばアリだけど……シャルティアの設定は世話をさせる側っぽかったしな。でも俺としてはな)

 

 正直――何が悲しくて男に世話をされなければならないのか、とは思う。

別に女に飢えているわけではない。そもそもその辺りの感覚はこの体になって鈍っているが、シャルティアには主に吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)が付き従っていた。

 ナザリック自体も基本的に四十人以上のメイド達が掃除などをこなしており、男性使用人も当然いたが、メイドよりはかなり少なく調理などの裏方的役割をあてられていた――あと餡ころもっちもちによって妙な設定にされたペンギンもいたが。

 

 それに友人の娘に似た感情を持つこの体(シャルティア)の傍に、若い男を置くのも少し抵抗がある。

『交際の前にまずは交換日記から』などと時代錯誤なことを言うつもりはないが、そういうのはもっと成長してからにして欲しい。モモンガという意識がある以上、その心配はしなくていいのだが。

 

「……ひょっとして同じ女性――メイドの方が良かったかな?」

 

 思わず俯いて考え込んでしまった顔を上げると、怪訝な様子で問いかけてくるジルフニクがいた。

 

「そうね……男性が近くにいるのは、ちょっと遠慮したいかなって」

 

 ――え?

 

 ジルフニクとモモンガの声以外、シンと静まり返っていた食堂に初めてそれ以外の声が流れた。まるで食堂内の空気が揺れたような感覚。モモンガにもそれは感じられ、失言してしまったのかと焦りが生まれる。

 

(あ……人脈を作るつもりだったのに、男を遠慮したいとか言っちゃ駄目じゃん……)

 

 魔法学院はやはりと言うべきか、生徒の男女比が男に傾いている。

現実にモンスターが蔓延る世界ともなれば、戦える者を優先するために自然とそうなるのだろう。見た目は美少女(シャルティア)でも中身は男なのだ。男は意外と女の何気ない一言で傷ついてしまう。それが美少女であればあるほど精神的ダメージは大きくなる。

 例えば職場で男達の憧れを集める未婚女性に「あなた近寄らないで」と言われてしまった場合、モモンガは半年はブルーになってしまう自信がある――その間も仕事はこなすだろうが――その場に他の同僚がいれば精神的ダメージは倍増、メンタルが大変危険な状態になってしまうだろう。

 

 静寂に包まれた食堂で誤魔化すようにカップに口をつけた。

チラリと周囲に視線を走らせる。正面のジルクニフは笑顔のまま固まっており、その後ろにいるフリアーネは丸く開いた口に手を当てている。横目で見ればジエットもネメルもディモイヤも、三人共虚を突かれたように微動だにしない。周囲のこちらを伺う様に見ていた生徒達も同じような反応だ。

 

「す……少し緊張してしまいますから」

 

 カップから口を離すと同時に、なんとか繕う様に言い訳をこぼす。

 

 内心ビクビクしながら、やってしまったか? という心境だ。

だが目の前のジルクニフの固まっていた顔はすぐに解け、笑顔のまま陽気な声が返ってきた。

 

「あぁ! そうか、そうだな。……いや、こちらの配慮が至らず申し訳ない。もちろん信頼のおける執事を紹介するつもりだったのだが、()()()()()()()なら同性の女性の方が気が休まるだろうな」

「え、えぇ。そうなります、ね」

 

 同性、という言葉に若干の違和感を感じつつも頷いておく。

ジルクニフが再起動するのと同時に、食堂内を包んでいた空気も若干柔らかいものになった気がする。

 

「承知した、君に似合うメイドを見繕うとしよう。……そういえば、女性と言えばレイナースは今席を外しているのかな? 学院には彼女が護衛役として君に同行すると聞いたのだが?」

「あぁ、それはここに来た時のジルクニフと同じね」

「ここに来た……私? あぁ、なるほど。それならば問題は無い……か」

 

 椅子に座るモモンガの背後で透明化しているレイナース、未だ誰にも感知はされた様子はない。

彼女が透明化しているのは護衛という目的もあるが、それを見破れる相手を見極めるための囮でもある。なので特に隠す必要もなくジルクニフへ告げておく。

 ジルクニフは背後の騎士達へ睨む様な視線を投げ、その後食堂の壁にかかった時計を確認するとおもむろに椅子から立ち上がった。

 

「少し話し込んでしまったね。そろそろ午後の授業が始まるだろうし、私もこの辺りで視察の続きに戻るとしよう」

「そう。編入初日から授業を怠けるのも気が引けるし、私たちも教室に戻るとしましょう」

「え、は、はい!」

 

 横で固まっていた三人へ順番に視線を投げかけ、特に意味はないが同じクラスのジエットに冗談交じりで笑いかける。ジルクニフに挨拶した後、壊れた玩具の様に一切動かなかった彼の表情が動き始めた。彼の友人である他の二人は――極度の緊張のためか未だに再起動する気配はない。

 

「……ジルクニフ」

「あぁ、何かな?」

「忙しい中会いに来てくれたのは嬉しいけれど、次はもっと周りに配慮してくれると良いかな」

 

 忙しい中わざわざ会いに来てくれたジルクニフを責めるつもりはない。

だが改めて食堂を見回してみると、ネメル達のように顔色の悪いまま固まった生徒がほとんどだ。現場視察という本当に忙しい中、編入初日のモモンガを心配して仕事の合間に会いに来てくれたのかもしれない。実際に彼には助けられてばかりなのであまり強くは言えないが、モモンガの友人――候補達が勉学に支障の出ない範囲で動いてもらいたい。

 

「確かに、言い訳は色々あるが確かに配慮が欠けていたな。すまない、次に来るときはもっと気を付けるとしよう。そちらの二人――……ジエット・テスタニア、そちらの女性二人にすまなかったと伝えておいてくれるかな?」

「そ、そんな! とんでもありませんッ!」

 

 ネメルとディモイヤに反応が無いことを確認すると、その隣に座るジエットに謝罪の言葉を伝えるジルクニフ。ジエットは慌てて立ち上がると、机にぶつける寸前まで頭を勢いよく下げていた。そのやり取りを見て謝るときでもカリスマに溢れてるなぁ、と若干の嫉妬混じりに感心してしまった。




モモンガさんはもうジルクニフとある程度親しいつもりなので、生徒達よりもタメ口気味で書いてます。周りはなんで??とか思ってそう。

次はジル君のフレンドリー反応

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。