シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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説明+会話回 手直し予定中


『今後のための-嘘-』

「なるほど、ナザリックという我々と同じような地下都市を治めておられたのですか」

「私一人ではなく良き仲間達がささえてくれていたからですし、仕事は雑務と調整くらいでしたけれど……」

「ははは、それこそ我らと一緒ですな。我ら摂政会も言わばこの都市全体の調整役ですから。とは言っても、その我らの都市は昨日滅びかけたわけですがな。救い主……いや、シャルティア様が来られなければどうなっていたか」

 

 和やかな雰囲気で雑談のようにお互いの情報を確認している部屋。

場所はドワーフの都市でもかなり大きな摂政府という建物、その中でも大きな摂政会専用の会議室にモモンガは招かれていた。ランプに照らされた会議室のような部屋には、ナザリックには及ばないが調度品も小綺麗に飾られており、飲み物や酒の摘みのような食べ物も用意されている。

 

 以前の世界で例えれば、大きな会社の見事な客室でとても機嫌の良い相手に営業をするくらいモモンガはリラックスできており、これから話す内容にも不安はあまりない。昨日の件をふられ現状の手札を確認すると、内心では待ってましたと言わんばかりに――表情は申し訳なさで一杯だと少し控えめの声で語り掛ける。

 

「その事なのですが……ドワーフの皆様には謝らなければならないのです」

「むぅ? 一体何を謝ると仰るのですか? シャルティア様の復活魔法のお陰で死者も僅か……まぁまだ以前のように体を動かせない者も多いですが、これは時間が解決するようですし。クアゴア共もシャルティア様お一人で全て追い払っていただきました。一体何を――」

「それに昨日は最後に創造魔法でしたか? あの後作っていただいた砦は私と配下の者で確認させて頂きましたが、防衛のし易さで言えば文句なしでしたよ。収容人数という意味で少々手広すぎでしたが」

 

 心底不思議そうに尋ねる洞窟鉱山長と総司令官のナイスアシストに、心の中で感謝をしながらモモンガは予定通り淡々と言葉を続けることにする。

 

「ありがとうございます……ですが、それ以前のお話なのです。そのきっかけとなった地震は私が原因なのです」

「なんじゃとッ! どういう事じゃそれは!?」

 

 腕を組みこれまで会話にあまり加わらず話を見守る姿勢だった鍛冶工房長が、驚きの声と共にモモンガを睨みつける。話を聞いていた他のドワーフの面々も驚き目をぱちくりさせており、鍛冶工房長を執りなす者はいない。

 これまでの対応から鍛冶工房長はモモンガの事を完全には信用しておらず、あくまで中立的な立場で確かめるような姿勢をとっていた。モモンガにしてもドワーフにとって自分の存在はタイミングが良すぎるし、これから話す事は鍛冶工房長の疑いがまさに正解と言うような内容なのだが、場の空気の変わりように少しビビってしまう。

 

(あ、やっぱりこれ駄目かな? ……いやいやいや、とりあえず最後まで話さないと。昨日の苦労が水の泡だし、まだ一言話しただけじゃないか。頑張れ俺ッ!)

 

 モモンガが内心で冷や汗を抑えていると、冷静さを取り戻した大地神殿長が落ち着いた声で問いかけてきた。

 

「……どういった意味ですか?シャルティア様」

「言葉通りの意味ですが、まずは経緯からお話ししましょう」

 

 モモンガ自身にとってはここからが本番であった、昨日の作業もここまでの自己紹介や雑談も本番前の下準備に過ぎない。

 

(プレゼンていうか詐欺行為じゃないかこれ? できればこれが最後だといいんだけど)

 

 そんな事を反省しながらモモンガは話し始めた。

 

「先程も話した私と共にナザリックを治めていた仲間なのですが、いなくなってしまったのです」

「いなくなってしまった?」

「えぇ、私は仲間を捜すため信頼できるものに統治を任せ、消えた者達を追い海を渡ってこの大陸に来たのです」

「海を渡ったですと!?」

「え、えぇ……確かこの山脈の北側は海だったはずですが?」

「そうですが、確か神殿長あの海は」

「うむ、北の海は昔から巨大な化物がおり人間の国でも近海なら兎も角遠方への船は出せておらんはずじゃ」

「ひッ飛行魔法ですわ、私の魔法は昨日お見せした通りですから」

「あぁそれなら納得ですな。蘇生魔法をあれだけの回数使えるとなると相当な飛距離を飛び続けることも可能でしょう」

 

 納得がいったという風に頻りに頷く大地神殿長に合わせ周りも納得する中、モモンガは一人さらに冷や汗をかいていた。

 

(あ、危なかった………)

 

 奇しくも昨日の思わぬ結果が、自らを救った形となった。

昨日の復活魔法の行使、その際に判明したことがシャルティアの体になった影響と思われるMPの飛躍的な上昇。

 

 モモンガ自身いつか実験してみたい項目の一つであったためMP枯渇の危険性を考慮したうえで復活魔法を使い続けたのだが思わぬ結果だった。以前のモモンガであれば数十回も蘇生魔法を連続で繰り返せばMPの枯渇になるはずが、その気配が全くなかったのだ。

 十回を超えたあたりでモモンガは内心焦り初め、五十回辺りでMP上限の実験を要塞創造に移行することに決め、その後は何も考えず愛想笑いを浮かべながら作業のように復活魔法を行使し続けた。

 

 閑話休題

 

 とりあえずこの先の話に修正は必要ないだろうと、気を取り直して説明に戻る。

 

「そして一昨日の夜にその内の一人、ペロロンチーノを見つけたのです」

「ペロロンチーノ……ですか」

「念のためお聞きしますが、この名前や私くらい強いものにお心当たりは?」

 

 部屋全体を見回しながらの質問にこの場にいる全員がかぶりを振る。これは都市へ向かう際、ゴンド達にもそれとなく確認しておいたので予想通りの結果だ。

 

「彼はバードマンでして、見つけたのもこの山脈の上空だったのです。ただ彼は何者かに操られているようでして、そのまま戦闘になってしまい……」

「なるほど、その戦闘の余波があの地震だったと?」

「……そのとおりです」

 

 神妙に頷く大地神殿長と同じように静かに頷き返事をする。ドワーフには申し訳ないがモモンガはこの世界でギルドメンバーやナザリックを捜すためにも、昨日考えたばかりのこの嘘をつきとおしていくつもりだ。

 

 ナザリックは、ここに残ったモモンガとシャルティア以外サービス終了と同時に全て消えてしまったかもしれない。だが不測の事態でモモンガがこうなってしまった事を考慮すればナザリックもこの世界の何処かに転移していても可笑しくはない。そうなればシャルティアを除いてはいるが、優秀な各階層守護者達がナザリックを守ってくれているだろうし、もしかしたらギルドメンバーもこちらの世界に――

 

「あれほどの地震を起こすような魔法を行使できると? 神殿長も納得するのか?」

「昨日のクアゴアとの戦闘を見た者はみな納得出来よう、復活魔法の件もあるしのぉ」

 

 信じられないという反応の食料産業長が、この摂政会の中でも一番魔法に詳しい大地神殿長に問いかけるが、神殿長は昨日の一連の騒ぎを見聞きしており、少なくとも相応の実力を保証してくれた。

 

「なるほど……この都市の安全を預かる者として言わせていただきたいのだが――」

 

 立ち上がった総司令官がモモンガのみならず、どちらかと言えば部屋に揃ったドワーフ達に話しかけるように部屋を見回す。

 

「皆もご存知の通り、私は以前よりこの都市の防衛機能の強化について意見具申をしてきたつもりだ。その立場から言わせてもらうと、地震などなくともクアゴアの大規模な襲撃は遅かれ早かれ起こっていたと思う」

「砦も最後の扉も抜けられると? そのような――」

「それだけでは足りないから防衛機能の強化を具申していたのです! それをあなたは手が足りない予算が足りないと、あれこれ文句をつけた結果昨日の件でもあるんですよ」

「この嬢ちゃんを怒らせたら不味い実力なのはわかるが、それとこれとは別問題だろうが! 実際前の会議でも無理をしなければ手は足りんかったぞ」

「あの時も言ったが、多少の無理無茶を通さずして防衛は出来ん! それ程にこの国の防衛は危機的状況なのだ!」

 

 鍛冶工房長と総司令官がにらみ合う。

モモンガとしては全員に敵意を向けられる可能性も考慮していたのだが、最悪の事態は免れたようでひとまず安堵していた。それよりもドワーフ内の防衛論争に話がそれ始め(それ自体はどうでもいいが)その論争自体も、続きを話せば収まるだろうという事は想像できたため、建設的ではない口論を宥めようとしていた近くの商人会議長に声を掛ける。

 

「あの、その事についても解決できるかもしれないお話があるのですが」

「お主たちそれぐらいにせんかッ! まだシャルティア様の話は終わってない……それでシャルティア様、解決できるとは?」

「地震のお詫びもかねて、王都の名前はフェオ・ベルカナでしたか? 私がそこに赴きドラゴンとクアゴアを倒して王都を奪還してこようかと」

 

 ざわりと部屋の空気が揺らいだ。部屋にいるすべてのドワーフが固まり、目を見開き驚愕の表情でこちらを見ている。尤もドワーフの表情などよくわからないので、おそらくだが。

 

「是非お願いしたい!」

 

 真っ先に頭を下げ、モモンガの助力を懇願したのは総司令官だった。

 

「お、おい何を勝手に」

「実は昨日のあなたの力を見て考えてはいたのです、あなたの力を借りればドラゴンとも戦えるかもしれないと」

 

「……わしも賛成だ」

 

 慌てて止めようとするドワーフもいたが、そこに割って入るように彼と睨み合っていたハズの鍛冶工房長も静かに賛成の意を示した。

 

「どういうつもりですか?」

「王都の復活はドワーフ全員の夢だろう、そこには無論わし自身も含まれておる。仮にそんな偉業をすれば地震の経緯を知っても、誰も嬢ちゃんに文句は言わんだろう。それにお前も『考えていた』って事は、元から総司令官として提案するつもりじゃったんじゃろ?」

「否定はしませんよ……」

 

 モモンガを置いてドワーフ同士男の友情が目の前で垣間見えた。「――だがな」とこちらを一睨みした後、試すような口調でモモンガに話しかけてきた。

 

「善意や謝罪だけでそんなどデカイ事されちゃあこっちも疑っちまう。なにか他の狙いはないのかい?」

「それなんですがペロロンチーノさんは東へ向かいました。かの国とドワーフは国交があるのでしょう? 常識や文字など分かっていることをできるだけ教えて欲しいのですよ」

「東っていうと、バハルス帝国か……」

「交易といっても小規模ですし、文字や何度も赴いているドワーフを紹介するくらいは確かにできますが」

「それで構いませんよ」

 

 申し訳なさそうに告げる商人会議長に了承を伝える。モモンガにしてみれば言葉通り、常識や文字を教えてもらえれば十分なのだ。

 無論事細かい情勢などを教えてもらえれば願ったりだが、今の説明を聞く限りそこまで求めるのは酷に思えた。

 

「そこまで入れ込むなんて、そのペロロンチーノって奴は嬢ちゃんとってそんなに大事な奴なのかい?」

「えぇ。親友のような、今となっては産みの親のような存在ですね」

 

 モモンガは昔を懐かしみながら笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、この作戦……どう思う」

「どうもこうも全会一致。おぬしも賛成しとったじゃろうが」

 

 会議を終えた後、場所は移りフェオ・ジュラにある巨大な鍛冶工房長の工房。

最新の武器防具一式を数点弟子たちに新しくなった砦へ運ぶよう伝えた後、酒を飲み始めている鍛冶工房長と事務総長がいた。机にはなみなみと酒が入った樽が置かれており、これでもドワーフにとっては仕事の間に呑む軽い酒だ。

 

 長年夢見た王都解放作戦で自分たちができる仕事がひとまずこれだけなのはいささか物足りないが、作戦の要が一人の少女である以上割り切るしかない。むしろ成功した場合と失敗した場合、それぞれの時にこそ自分たちの仕事だと考えていた。

 

「それは勿論じゃ、わしが言っとるのはあの覚書のことじゃよ」

「あぁ、あやつが出張ってきたアレか」

 

 先の会議でモモンガ主導による作戦とも言えない内容がほぼ決まった後、その会議の終盤で商人会議長が突然「シャルティア嬢の報酬を確約した契約書を用意したい」と、申し出てきたのだ。

 ある意味恩人を信頼していないような振る舞いだったのだが、嫌な顔を一切せず本人が了解したため双方合意の上用意することとなった。

 

「報酬は大したものじゃない、低すぎるのもある意味怖くはあるがの」

「わしらにとって王都を開放する価値をわかっておらんのか……いやそれよりもじゃ――」

 

 本人はドワーフ達の意を汲んで、今後必要になるであろう多少の金銭を受け取っていたのだが、ドワーフ達が納得する報酬にはほとんど届いていなかった。

 

「わしが気になったのは嬢ちゃんの名前じゃよ」

「うむぅ、王族……なんじゃろうか?」

 

 まだこの地の字が書けない当人のため正式な契約書ではなく、字を書けるようになるまでの覚書を用意したのだが、その中で代筆のため名前を聞く際ひとつ問題が起こった。少女自身が少しの逡巡をした後告げた名前――

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン

 

 

 帝国や王国では王族を表す五つの名前を聞いた際、ドワーフ達の中では反応が分かれた。人の国から見ればドワーフ国自体がほぼ辺境のため致し方ない面があるが、その差は人間種に対する知識量の差で浮き彫りとなる。帝国との交易を担う商人会議長や魔法の知識を求めるため帝国の常識にも一定の理解がある大地神殿長、同じく軍事面の知識の側面から人間種を知る総司令官には動揺が走った。

 

 だが他のドワーフ達には『覚えづらい長い名前』といった認識しかされなかった。本人が退出した後、大慌てで三人が説明を始める事態となったが。

 

「わしらドワーフには前例があるしのぉ、あの嬢ちゃんの国……ナザリックじゃったか? 大丈夫なんじゃろうか?」

「それは都市の名前じゃなかったか? まぁ気持ちはわかるが信頼できるものに任せてきたと本人が言っとるんじゃ。わしらがとやかく言うことでもないじゃろう」

 

 モモンガ本人が一夜漬けで考えた穴だらけの設定だが、ドワーフ達の中ではかつていなくなった王族と重ねて聞くに聞けない雰囲気になり、摂政会出席者の間ではある種の憶測がされていた。治めていたと言うことから彼女自身が女王である、地位を放棄して捜すほどの存在とは――

 

 そういった憶測が本人の知らぬ間に出発した後の酒の席で、そして帰還後の勝利の宴でもドワーフ全体に実しやかに流布する事となる。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

(名前長すぎたかなぁ……なんか驚いてたし)

 

 モモンガ自身はギルドマスターとしての地位をアピールしたつもりはなかったためそんな事は露ほども知らず、大裂け目のつり橋を越えた先でクリエイト系魔法によって造った椅子に腰かけていた。

 傍から見れば足をブラブラさせ、何事か思いに耽っている少女であったが、見るものが見ればその容姿や煌びやかな服装そして、その手に持つ赤色のオーラを纏う杖に驚くであろう。もっとも夜目の利かない種族には明かり一つない地下空間にいる少女を見つけることは出来ないが。

 

 

 

 

 アイテムボックスから取り出したスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見つめながら、その目は杖そのものよりも杖を通して今後の事に思いを馳せていた。

 

 自分が名乗る名前についても設定と共に昨晩考えついたものだった。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』を冠した名前にしたのはこの世界に名前を広め、存在するかもしれないユグドラシルプレイヤー、特にギルドメンバーに呼びかける為。

 無論空振りに終わる可能性も大いにあったが、モモンガは『自分だけが特別』にこの世界に転移した可能性は低いと見ていた。その存在が敵対した場合の危険性も考えたが、今の自らのスペックを鑑みれば逃亡もしくは撃退は可能であろうという計算もあった。

 

 表向きは謝罪としたドラゴン討伐も、その名声を得るための一環である。

ドワーフ達に聞く限りドラゴンの脅威はこの周辺国でも相当なものであり、過去には散々帝国に泣きついたが討伐を計画されることもなかった。(クアゴアの討伐の支援に関してもドラゴンを刺激する可能性があるとして断られていた)曰く、準備を万全に整えた国の精鋭が戦いを挑みそれでも大半が負け、その中でも少数の者がドラゴンスレイヤーの称号を得るらしい。帝国でのドワーフの発言力はわからないが、無視されることはないだろうと考えていた。

 

(他の懸念材料と言えば……地位の高い人物と会った場合か)

 

 帝国を含めこの辺りの周辺国は専ら貴族制が導入されているらしい。モモンガの聞きかじった知識ではろくに統治もせず平民に威張り散らし、私腹を肥やす階級という偏った偏見を持っていた。その自覚はあるので商人会議長にそれとなく確認をとってみたところ「正解ではないが、そういった輩がいるのも確かですね」と、苦々しげな表情で言われた。

 

 今後の名声次第ではそういった輩に関わる事も予期しながら、合流予定の総司令官達を引き続き足をぶらぶらさせながら待っていた。

 

 


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