シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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この作品おっぱいタグがあるのに今のところ全然おっぱい描写がない…


『胸』

「オラサーダルク様は何処におられる!」

 

 元ドワーフの王都フェオ・ベルカナ、現在は竜の住処となっているはずの城に高々とクアゴア統合氏族王ペ・リユロの声が響く。だがその声は困惑と不安に苛まれていた。

 ドワーフ達の宝物庫入口だった場所、いつもはその前に黄金や宝石の山を玉座として尊大な態度で上から見下ろす竜王が今はいない。それどころか貴金属の類も一切なくなり、慌てて引き払った跡がそこかしこに壁の真新しい傷となって現れていた。

 

「小さい者が煩いわね……」

「し、失礼しました。ですが今我々は正体不明の敵を相手にしており、是非とも偉大なる白き竜王オラサーダルク様のお力をお借りしたいのです!」

 

 既に玉座を引き払い王城の部屋に引き籠った竜王に代わって、残っていた妃ミアナタロン=フィヴィネスが気だるげに対応をしていた。

 

「今はこっちもそれどころじゃないのよ、あなた達が死のうが生きようがどうでもいいの」

「なッ!? 一体なにが」

「でも正体不明か……気になるわね」

 

 ミアナタロンは一呼吸置き、気だるげな声のままペ・リユロへ顔を向けた。

 

「それはドワーフじゃないのね」

「は、はいその通りです。我らの軍隊をおそらくたった一人で壊滅させた強力な魔法詠唱者(マジックキャスター)がチビども――いえ、ドワーフと手を組んだようで」

「ふ~ん、物が爆発するような炎の魔法を使ったり空を飛ぶ魔法は使っていたの?」

「……宙に浮いてはいましたが、攻撃に使っていた魔法は強力な雷のみです」

「どれくらいの時間で壊滅させられたの?それとそいつ、羽は生えていた?」

「は、羽ですか? そういった報告はありませんでしたが……」

「そう、それで時間は?」

 

 問われたペ・リユロが間を開け逡巡する。この情報は信じがたい事だったため伝える必要はないと事前に決めていた。

 ――ただ状況がおかしい、この問答はなんだ?これではまるでドラゴン側が事前にその敵を認識しているようではないか。

 

「……信じられない報告ですが、強力な雷の魔法を一度使われただけで一万の軍の三分の一が壊滅。その後すぐ二回使われ……」

「つまりあっという間にやられたわけね?」

「そ、その通りです。現に生き残った部下も無傷の者はおらず――」

「……確定かしら」

 

 最後に小さく呟いた言葉にクアゴアの鋭い知覚が拾う。

(やはり敵の正体を知っている!)ドラゴン達が敵の正体を知っているという予想だにしない事に衝撃を受け、ペ・リユロは焦っていた。後ろに控えていた部下たちも同様だろう。ドラゴンが何かしら考えている隙にチラリと後ろを振り返れば、黄金の入った袋を抱えたまま困惑していた。

 

「その黄金だけど……」

「っは! し、失礼しました」

 

 慌てて視線を戻し、考え事を終えたドラゴンを見上げる。

 

「その黄金はいらないわ、持って帰りなさい」

「は!?し、しかし敵が、オラサーダルク様に――」

「その代わり良い事を教えます。お前たちが相対した者だけどね、私たちよりも遥かに強い存在かもしれないわ。なので今回は私たちに頼らず、自分たちの事は自分たちで何とかする事ね」

「……は?」

 

 目の前のドラゴンが何を言っているのかが分からなかった。この世界において最強の種族はドラゴンだ。

少なくともこのアゼルリシア山脈ではドラゴンと霧の巨人という種族がその最強の座を争っていた。だがそれ以外でそのドラゴン自らが自分より強い存在と認める相手。

 一体何処から、まさか山脈の外から――!?

 

「やはり黄金は献上いたします、ですので是非! その者について知っていることをお教え頂きたい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

「すごい揺れてる……」

 

 モモンガは変わらず待ち惚けながら、足をブラブラさせていた。ドラゴンとの戦闘や帝国へ赴く際の注意点など、今の情報で考えられるケースをできるだけ考え、その対処方法なども考えた。そして暗闇の中、考え尽くした所ではたと気づいた。

 

 ――ブルンブルン、と足を動かす毎に揺れる胸に。

 

 

(設定的に見た目は変わってないけど)

 

 モモンガはこの胸についても今後の問題点を考えた。ぶっちゃけ本物の胸になってしまった事についてはむしろ良かった。胸の重量や動く度の違和感がとてつもないし、そもそもシャルティアになってしまった事をなんとかしたいがそれらはどうしようもない。

 

 転移前の本物のシャルティアの設定では胸はパッドだった。その設定が今のモモンガに降りかかれば問題となってしまう。パッドがいちいちズレてしまいそれを直すモモンガ、その心境を想像して欲しい。設定を守るためとはいえ、一人の男として察するに余りある。

 

(ペロロンチーノさんも悲しむかな、いや喜ぶか?)

 

 シャルティア・ブラッドフォールンというNPCを設定したペロロンチーノは貧乳好きであるが、巨乳嫌いというわけではない。そもそもシャルティア自体は貧乳キャラとして設定したのだが、紆余曲折あってパッドを盛った貧乳キャラになった。そして今、異世界で本物の巨乳キャラになってしまった。

 

 モモンガのせいではないとは思うが、少し申し訳なく思う。もしペロロンチーノが今のモモンガの現状を知ったらどう思うだろうか。さすがに馬鹿にはされないだろうし、いい意味で笑ってくれるだろう。サムズアップした後、悪ノリしながら色々服装のリクエストをしてくるかもしれない。残念ながらシャルティア自身のアイテムボックスは大半が無事だったため、可能ではあるが。

 そんな懐かしながらも楽しそうな光景を想像して機嫌の良くなったモモンガだが、はたと思考を胸に戻した。

 

 

 考えてる間も軽く足を動かしていたため、今も僅かに胸は揺れている。そして手には先程から握られているスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。おもむろにモモンガはその手に持つギルド武器を胸に近づけてみる。

 胸が物理法則に沿って凹むと同時に、たぷん!という重い擬音が僅かに聞こえた気がした。

 

(性欲はない……はずなんだけど……)

「お待たせしました! シャルティア様」

 

 モモンガが思いついた行動を実行する前に快活な呼びかけが空間に響いた。

見ると暗闇の空間に二人と、その背後にもう一人のドワーフがこちらに向かって歩いてきている。事前に決めた通り少数で来てくれたようでモモンガは安心した。

 言うまでもなく彼らを戦力としてアテにしていなかったモモンガは、事前にそれとなく総司令官に伝え、道案内できる者とドワーフの中でも地位のある総司令官に来てもらう様に要望していた。

 

(ドラゴンを倒した事を証言してもらわないとな。いや油断は禁物だけど)

 

 モモンガは仲間と共にドラゴンを討伐した経験はある、強さはそれほどでもなかったが一人でも倒した事も一応ある。だが、それは勿論ユグドラシルでの経験であってこの世界では初めての事になる。そのためドワーフを護衛する負担と逃亡を第一に考えて少数で来てもらった。四人程度であれば一時的にでもドラゴンを足止めし、転移はすることは容易だ。

 

 なので三人という数はモモンガのほぼ希望通りでありこれといった問題は見受けられない。

 

 

 ――だが、二人の後ろを歩いて来ている()()()()()()()()()()使()()()()()のはどういう事なのか。

 

(って、あれゴンドじゃないか? 軍属だったのか? となると姿を消しているのはマジックアイテムか)

 

 ゴンドと他九人のドワーフ達を助けた際、父の形見という不可視化ができる茶色いマントを見せてもらっていた。だが敵のいない合流する状況で最初から使っているのはどういうことなのか。モモンガは多少混乱しつつドワーフ側の真意を考える。

 

(悪い意味での監視役か? 疑われるような事したっけ? いやそれにしたってゴンドだし、最初の印象では後ろめたい仕事をするイメージはないんだが……)

 

 ゴンドの前を歩いてくる総司令官ともう一人のドワーフに変わったところは見られない。というかわからない。

 二人はモモンガが初めて見るフルアーマーのような鎧を着ており、顔も僅かしか見えずドワーフの特徴である長い髭も見えなかった。ただ、ガシャガシャ音をたてながら和やかな雰囲気でこちらに歩み寄ってくる姿に裏表は見当たらない。

 そもそもゴンドが不可視化のマントを持っている事を、モモンガは最初から知っているのだ。その要素を捨ててモモンガが見破れない事に賭けるのは少々リスキーに思えた。モモンガが考えている間に、二人と姿を消したゴンドがすぐ傍まで来ていた。

 

 問題のゴンドをチラリと流し目で見つつ、モモンガは探りを入れながら会話することにした。

 

「お二人だけですか?」

 

 モモンガは努めて表裏のない柔らかい声で問いかける。少々ストレートな問い掛けだったかもしれないが、ドワーフに疑われているかもしれないという状況は想定外だったので致し方ない。とは言えできるだけ少数で来てくれという要望だったので、最初に人数を確認するのは問題ないだろう、と思うことにした。

 

(……ん?)

 

 だが二人から返事はなく、その場にフルアーマーの鎧が二体直立していた。勿論その後ろで透明化しているゴンドからも返事はない。そのゴンドは此方の手元を凝視しているようだ。兜で視線を追えない残りの二人も、ゴンドと同じくフルフェイスのブレスが同じ物を見つめている気がした。

 試しにその手を上げてみれば、三人とも全く同じ動きで首を上げていた。

 

「あの~……?」

「っは!? こ、これは失礼しました!」

 

 表情は伺えないが慌てた様子だった三人が身なりを正す。モモンガは特に気分を害した訳ではないが、一応の確認の為に問いかけることにした。

 

「このスタッフが気になりますか?」

「あ、はい。そのような見事な杖は見たことがないものでつい…」

 

 隣のもう一人のドワーフと、なぜか姿を消しているゴンドも頻りに首を縦に振っていた。どうやら三人ともスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに本気で見とれていたようでモモンガは気を良くする。

 今やモモンガの最後の宝といっても過言ではない物、ギルドメンバーが残してくれたギルドの分身を褒められれば少しだけ機嫌がよくなってしまう。とは言えギルド武器は本当にギルドの分身であり、破壊されればギルドの崩壊を意味するためあまり公にするべき物ではない。

 

「すみません、とても貴重な物なのですぐに仕舞いますね」

「国宝でしたか!? 失礼しました! 我らは何も見ておりませんので!!」

「え? ……えぇ、それでお願いします」

 

(国宝か、まぁ間違ってないよな)

 

 少なくともギルドにとって最高の宝であり、手元に残ったアイテムでは価値以上に一番思い入れのある物のため、お言葉に甘えてサッサと仕舞い込む事にした。本当はこれからのドラゴン戦のために装備して行きたかったが、ギルド武器の破壊は是が非でも防がねばならないため、例え相手が最強種のドラゴンでも気軽に使う気にはなれなかった。

 

(みなさんの力を借りるのは、もっと先にしますよ……)

 

 宙に消えゆくギルド武器を見送った後、気合を入れるように手を握りなおしたモモンガは改めて問い直す。

 

「それでお二人だけでよろしいですか?」

「えぇ、情けないですが例え人数を揃えてもシャルティア様頼りとなってしまうのは目に見えていますし。ですが、この者は王都までの道を熟知しておりますし、私も身を守るくらいしてみせます。仮に何かあってもあなた様を責めないようにと、残った者達には言い聞かせましたので」

 

(ふむ、ちゃんと此方に気を使ってくれているな。というかなぜか好感度上がってないか? 何かしたっけ? でもこの様子だとゴンドの存在はやっぱり知らないのか?)

 

 ますますモモンガには訳が分からない。視界の隅で透明化しているゴンドを見つつ考える。本当に総司令官が知らない場合ゴンドのターゲットはモモンガではなく、総司令官という可能性も出てくる。例えば摂政会内での総司令官と対立する敵対派閥だ。最有力は最後を除き喧嘩腰だった鍛冶工房長だろう。最後の和解が芝居だった場合見事と言うほかない。

 

(う~ん、でも喧嘩腰だっただけで仲悪いわけじゃなかったと思うんだけどなぁ。摂政会の他のメンバーだって……)

「あのぉシャルティア様?」

「あ、ごめんなさい。何でしょうか?」

 

 思わず思考の海に沈みこんでしまったモモンガを、もう一人のフルアーマーのドワーフが正気に戻す。声からして随分歳をとったドワーフのようで、王都への道を熟知しているというのも説得力があった。

 

(えぇい、もうこれは現状分からないな。とりあえずゴンドは泳がせておこう)

「ライディング・リザード三頭でしたら、今からすぐ戻って用意することもできやすが?」

「ライディング・リザード……あのトカゲですかッ!」

 

 クアゴアの襲撃の際、フェオ・ジュラから脱出する避難民の中に数人騎乗動物に乗っている者達がいた。その後も何度か見かけた全長三メートル以上あるトカゲ、巨大蜥蜴(ジャイアント・リザード)の一種らしい。おそらく向こうにとっては常識的な移動方法の提案なのだろう。だが生憎ある程度だがモモンガの中ではプランはできている。

 

「いえ、それも私に任せてください。全体飛行(マス・フライ)でみなさんを連れて行きますから」

 

 視界の隅でビクンっと動く気配がしたが、とりあえず見えない振りをしておく。道中にある溶岩地帯や死の迷宮について詳細を聞いておかねばならない。概要を聞いただけではいかにもな簡易トラップではあったが、経験豊富なドワーフから見た視点を参考にしない手はないだろう。

 

「とりあえず使い魔を索敵に出し、注意しつつ進んで溶岩地帯手前で一旦休憩しましょう」

「良い判断ですわい。油断大敵ではありますが、浮遊魔法があれば溶岩地帯は何とかなると思いますぞ」

 

 経験豊富なドワーフは慎重に物事を進める質らしく、モモンガにとっては好材料だった。出発準備を終えると早速とばかりに全体飛行(マス・フライ)を唱える。ドワーフ達二人は足元のおぼつか無い宙に浮いたことに多少慌て、ガシャガシャと鎧から音をさせていた。チラリとゴンドを見れば同じく宙に浮き、二人以上に慌てて足をバタつかせている。だが此方の視線に気づいたようで、目が合った途端に大人しくなった。

 

「では出発しますよ」

 

 鎧のガシャガシャした音は未だに聞こえたが、その内慣れるだろうと思いサッサと出発することにする。

 元より全体のコントロールはモモンガが握っているため、ドワーフ達にはどうしようもないのだ。モモンガを先頭に洞窟を進み始めると、それを悟ったようで途端に静かになり、空気の移動する音だけが耳に響いたが――

 

 

「これ絶対バレとる」

 

 洞窟を吹き抜ける音に僅かな声が混じった気がした。

 

 

 

 


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