やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
100話ですか。
ここまで続くとは……
読んでいただいた皆さん。感想をいただいた皆さん。誤字脱字を訂正していただいた皆さんには感謝です。
MAXの時はただ単に、思った事を書き殴って100話まで突き進んだ感じでしたけど。
これは意外と設定やらなんやらを決めて書いてましたんで……、
なんかちょっと違う感じが致します。
今日は終日、新体力テストだ。
新という文字が頭についているが、何が新しいんだかよくわからない。
要するに高校生の運動能力をはかる体力テストだ。
まあ、やる事は体育の授業の延長線上のようなものだ。
歴とした授業の一環だが、学生からすると一種のイベントのような感じになり結構盛り上がる。
各項目毎に点数制になっていて、これが盛り上がる要因だ。
昨年は何だかんだと葉山が総合トップだったようだ。イケメンの上に勉強もスポーツ万能って、どんだけスペック高いんだよ。
お前はどうだって?
こう見えてもプロのゴースト・スイーパーだ。
霊力による身体能力強化をすれば、大概の記録は更新出来るだろう。
そんな事をすれば、即効GSバレをするからやらないけどな。
しかし、昨年はヤバかったな。あの頃の俺はまだ未熟で毎日霊気のコントロールの訓練をしていたから、思わず力むと自然と身体能力強化が発動してしまい、とんでもない事になりかけた。あの時はなんとか誤魔化しはしたが、あれはやばかった。……言い訳させてもらうと、昨年はまだプロじゃなから許してほしい。
今年は霊気コントロールは完璧だ。思わず霊気を放出し、霊力に変換、身体能力強化発動なんてマネをして、とんでもない記録を出してしまうようなミスをやらかさない。去年の今頃に比べれば霊能者として大きく成長しているのだ。
それよりも今年は、去年とは別の悩みがある。
「ヒッキー―!!がんばってーー!!」
体操服姿の由比ヶ浜が遠くから俺に向けて手を振ってくる。
これだ。
これのせいで、クラスの男連中にお前にだけ良いカッコさせないとか、ぶっちぎってやるぞとか、声を掛けられ、妙に対抗意識を持たれている。
……なにそのライバルみたいなセリフ。俺は何時スポコンの世界に入ったんだ?
昨年はクラスで俺に声を掛ける奴は一人もいなかったのにな。
男連中は俺が由比ヶ浜にチヤホヤされるのがどうも気に入らないようだ。
一応、由比ヶ浜にはクラスの連中と面倒なことになるから、クラスでは過剰なスキンシップとかそういうのはやめてくれとは伝えたんだが……本人は知った上で、やめる気が無いのだ。
せめて、告白したとか、好きだとか堂々と言うのはやめてほしいと伝えても「私に好きって言われるのはそんなに恥ずかしい事なの?」ってな感じだ。わざわざ声を大にして言うつもりは無い様だが、空気の読める事に定評があるガハマさんはどこに行ってしまったのだろうか?
もしかするとワザとなのかもしれない。
俺が、クラスの連中にどんな形でも声を掛けられるようにと……
由比ヶ浜なりに俺の事を考えてそうしてるのかもしれない。
真相は分からないが……
手を振る由比ヶ浜には、軽く頷く程度に返事を返すに留める。
まずは50m走か。
「ヒッキー!!がんばれーー!!」
試合じゃないのに、そんな応援いらないと思いませんか?ガハマさん。いい加減恥ずかしいんですが!
妙に男どもの四方八方からの視線が痛い。
……とっとと終わらすに限る
陸上部や運動部の連中はクラウチングスタート体勢。
俺は普通に構える。
「よーい」ピッ!
体育教師の合図と共に走り出す。
って、あれ?こいつら遅くないか……これって俺が!やばっ、速度を落とさないと!
「一着 比企谷……5秒99!?」
体育委員の奴が驚いた表情に声を出す。
クラスの連中は悔しがったり、驚いたりだ。
「ヒッキーー!!」
由比ヶ浜は嬉しそうにより一層手を振って来る。
やばかった。あのまま行ったら世界記録を余裕で超す勢いだった。
霊力による身体強化能力は発動させてないはずだが……
俺は確かめるように体のあちらこちらを動かしてみる。
やばいな、これ素の身体能力が向上してるんじゃないか?
……あれか、小竜姫様の所の基礎訓練か。
霊力を向上させるには、まず健全な体からということで、丈夫な体作りにも力を入れたからな。
普段、シロの散歩とか横島師匠と行動を共にしてるからわからなかったが……もう普通の人間レベルじゃないな、これは……
相当セーブしないとまずい。
そこからは、細心の注意を払い手加減をしていく。
結構難しい。凡そ平均を狙っているのだが、かなりバラバラな測定結果となってしまった。
まあ、俺の結果なんて気にする奴は居ないだろうから、大丈夫だろう。
しかし雪ノ下はそれを当然のように察していた。
放課後の部活の際に「今日のあなた、随分窮屈そうに見えたわ」なんて言ってきた。
分かる奴には分かるようだ。
一応雪ノ下と由比ヶ浜には理由は話した。
ちょっと人間離れし始めましたと話すのは憚れるが、この二人に関しては今更だな。
ん?雪ノ下、それって、どっかからかずっと見てたっていうことかよ。
……なんか恥ずかしいんだが。
さらにだ。この結果に何故か一色が不満たらたら言ってくる。
本気出せやら、手を抜いたら意味が無いとかな。
何でお前がそんな事を言ってくるんだ?
そんな事をしたら、全部世界新になるから……、霊能者ってバレるから無理だろ!
しかもおまえ、学年違うのになんで俺の成績知ってるんだよ!見てたのか?
俺なんか見てる場合じゃないだろ?お前は葉山の応援でもちゃんとやっとけよ。
今日は仕事の日ではないが、美神さんに呼ばれて部活を早退して事務所に向かった。
事務所には横島師匠とキヌさん、さらに美智恵さんまで来ていた。
「皆さんお揃いでどうしたんですか?何かまずい案件でも?もしかして例の愉快犯の行方が判明したとか?」
横島師匠とキヌさんは美神さんが座る所長席の正面斜め前に立ち、美智恵さんは所長席の斜め後ろ辺りに椅子を置き座っていた。
「違うわ。愉快犯の野郎は!見つけたらボコボコにしてやりたい!」
美神さんは愉快犯という言葉に反応し、拳を作って今にでも誰かを殴りかかるんじゃないかというような雰囲気ではあったが、俺の質問を否定する。
「私から説明するわ令子……」
美智恵さんは椅子から離れ、美神さんの真横に立つ。
「ママに任すわ」
美神さんは面倒臭そうに言いながら腰を深く椅子に沈める。
「先に令子や横島君とおキヌちゃんには説明をしたのだけど。6月にGS免許取得者の監査があるわね」
「そうですね」
去年の10月に免許取得してから丁度半年か……結構短かったように思う。それだけ充実した半年を過ごしたのかもしれない。
「その6月のGS免許取得者の監査に先立って、Cランク以下でさらに25歳以下の若手対象にGSの能力テストを試験的に行う事を決定したわ。理由は若手育成の指針にするためね。
GS免許を取った後は、それぞれの事務所に所属して活動するのだけど、免許取得以降の能力や実力の評価は、上がって来る報告書の内容から想定して判定したものね。それによってランクの上げ下げを決めるのだけど。ただ、それだけでは、その時点での本人の実力や能力は図りにくいわ。そこで能力テストを行って、ランク決めの指針にするのと同時に、その結果を元に、若手に対し適切な指導等が出来れば、将来的にGS全体のレベルアップにつながる。
GS免許取得者の実力アップは所属事務所や本人に委ねている所が大きい。この業界で生きていくには実力こそすべてなため、自己研鑽は必須ではあるのだけど。閉塞した業界でもあり、本当にその個人にあった適切な訓練や修行や勉強が出来ていないケースが大いにあると思うの。その結果がこの2年間GS免許取得実技試験の優勝者と準優勝者が軒並み半年後にはランクダウンしている要因であると私達は考えた。
今回の能力テストを受けた結果、至らない点や実力不足な点、逆に得意な点、伸びしろが有る点などを浮き彫りにして、本人に適切な実力アッププランを指導できるでしょう」
ここまで美智恵さんは一気に説明をする。
なるほど、確かにそうだ。
GS免許を取った後は、自己のレベルアップは本人もしくは所属事務所にほぼ委ねられる。よっぽど所属事務所の先輩方や師事している人が優秀でもない限り、困難だ。
土御門家や六道家、またはオカルトGメンみたいな大きな組織に入れば別だろうが、客観的に自己の実力を見てもらう事や、修練方法等を得られる機会は少ないだろう。
俺の場合は、優れたGSに囲まれた恵まれた環境に、さらに横島師匠という規格外のお手本と妙神山の小竜姫様や斉天大聖老師と言った神々に鍛えていただけるからいいようなものだ。
「俺も参加という事ですね」
俺もCランクGSだから当然参加か、となると同じCランクのキヌさんもだよな。
横島師匠は表には出ていないがSSSランクだから当然参加しないだろうが。
「あんたは別に参加しなくても、GS協会理事の連中は全員あんたの実力は分かっているわ。もうあんた、Cランクと名乗っている方がおかしいレベルの実力よ」
美神さんは片目を瞑り、呆れたような表情をしていた。
……なに?その評価?マジで?美神さんが認めてくれた?
マジで嬉しいんですけど。
「え?そんなにですか?……という事は俺は不参加でもいいんですか?」
「……令子の言う通り、君の実力はもはやCランクどころではないわ。でも参加はあえてお願いするわ」
「どういう………!?……もしかして他に理由が……」
……わざわざ美智恵さんが俺にこの能力テストの話を持ってきた……美神さんからその程度の事は伝えて貰えばいい話だ。それどころか俺は参加しなくてもいいのに、あえて参加させられる。
一連の愉快犯の事件、美智恵さんはGSの中に裏切者が居る可能性を先の異界の門の件から、さらに強めていた。こちらの動きを察し、あざ笑うかのように事件を起こしていたからな。
となると……
「相変わらず察しがいいわね。そう、この試験にはもう一つの目的がある。一連の愉快犯……もしくはそれにかかわる連中が、ゴーストスイーパーの中にいる可能性がある。君には内部からその容疑者を探してほしい。これは令子を通じて君への依頼よ」
「でもあの異界の門なんて代物、Cランク以下の実力では……」
「GS免許のランク制度には穴がある。戦う能力が無くとも一芸にとんだ凄腕の霊能者なんてのは結構いるものよ。おキヌちゃんなんて良い例よ。おキヌちゃん自身戦闘能力はそれほど高くないけれども、ネクロマンサーという世界でも3人しかいない強力かつ特殊な能力を持っているわ。
特に術式に関しては、知識量と研究と経験がものをいう。
戦闘が苦手でも使えるのよ術式は……特に遅延発動型や条件発動型は本人が居なくとも発動できる」
美神さんが俺の反論を察し、適切に説明を補足してくれる。
そうか、確かに術式はそうだ。さらに言うと呪いや魔法陣もそうだ。それと本人が発動できなくとも、術式構築は可能だ。
普段からオールマイティーに出来る人たちを見ていたからそう思っていたが……
「令子の言う通り、今回のこの能力テストは絶好の機会なの。まずは手始めに若手からということね。いなければそれでいいのよ。……GS会員を疑心暗鬼の目で見なくてもよくなる。……しかもこんな事を頼めるのは君しかいないの。令子の弟子でもある君は信頼できる近しい身内同然だと言う事もあるのだけど。それだけではないわ。その君の目、優れた霊視能力と冷静な判断能力で参加者の中であやしいと思われる人物をピックアップしてほしい。
まだ、高校生の君に身内を疑うような汚れ仕事を頼むのは心苦しいのだけれど」
美智恵さんは申し訳なさそうに、俺に深く頭を下げる。
「頭を上げてください。……俺で役に立つなら。美神さんじゃないですが、俺も愉快犯には少なからず憤りを感じてますんで」
去年からやられっぱなしだ。知り合い(折本)と後輩(一色)が被害に遭ったしな。
それに、俺は他のGSをあまり知らないし、身内意識などほぼ持って無い。
「おキヌちゃんも一緒よ。あんたの精神力も中々の物だけど。おキヌちゃんは年季が違うわ。何かあったらおキヌちゃんを頼りなさい」
美神さんも一応、気を使ってくれてるようだ。
キヌさんは精神感応系の能力がずば抜けて高い。ようするにそれは、それ相応の精神力を持っていると言う事でもある。
「比企谷君。また一緒にお仕事できますね。頑張りましょう」
キヌさんは俺に笑顔を向けてくれる。
何故かキヌさんの背後に後光が差した様に見える。
その笑顔だけで、滅茶頑張れます!
「八幡だったら大丈夫だろ。粗探しは得意だろ?」
横島師匠はいつもと同じ調子だ。全然心配して無い様だ。
それだけ俺を信頼してくれてるという事だ。
この後も、しばらくこの件で打ち合わせをする。
若手GS能力テストは5月末。
手がかりが少しでも得られればいいんだが……
次章に移ります。
次章は戦闘が結構あるんじゃないかな。
次章の初っ端は師匠&八幡&西条さん編です。
……それだけですむのだろうか?