やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

新章です。
章の前半はほぼGS側です。


【十章】ハワイ編
(101)ハワイに行こう!


「ハ・ワ・イーーー!!ハワイハワイ!!フラダンスに!!フラガールのおねえちゃーーーん!!」

……大きな旅行鞄にジージャンジーパン姿、大きなデジカメを携えそこらじゅうをパシャパシャ撮りながら恥かしげもなく叫ぶ若者。

 

……俺の知らない人だ。

 

「解放感溢れる南国の島!!水着のおねーちゃんを見放題!!ナンパし放題に触り放題!!なんていい所なんだ!!なーー八幡!!」

その若者は、煩悩丸出しの言動を乱発しながら、スケベに崩れた顔を俺に向け同意を求めてくる。

……ナンパはいい。百歩譲って、水着のおねーちゃんを見るのもまあいいだろう。触り放題はないだろう。同意なく触ったら犯罪だからな!

 

他人のふり、他人のふりだ。八幡ってな奴は知らない。今の俺はヒキタニ君だ。

目の前のこの変態は、俺の師匠でも何でもない。横島忠夫なんていう変態は俺は知らない。

 

目の前の師匠を無視を決め込み……スーツケースを引き、すたすたと通路を歩く。

 

俺は今、ハワイに居る。

正確にはアメリカ合衆国ハワイ州、オワフ島ホノルル国際空港の乗り換え口の通路を歩いているのだ。

横島師匠と羽田空港からここへ。

俺自身初めての海外だ。

 

なぜハワイにかって?

 

 

 

話は5日前の学校に遡る。

「ヒッキー!みんなで5月の連休、遊びに行かない!?」

部活開始早々由比ヶ浜が机にバンと手を置いて立ち上がり、俺と雪ノ下にこんな事を言い出した。

 

「連休中は一応仕事を入れてるぞ」

基本休日は仕事を入れてる。実際の仕事(ゴーストスイープ)が無くとも事務所には出勤だ。

 

「えーー!でも全部じゃないでしょ!!」

 

「一応全部仕事に当ててある。まあ、今の所仕事が全部はいらないとは思うが……」

1週間のゴールデンウイーク中、美神令子除霊事務所には幾つか仕事の依頼は来ているが、特に俺に振り分けられた仕事は言われていない。

 

「そう、なら一日空けて貰えないかしら」

「そうそう!せっかくだから3人でデートに行こう!!」

 

「で…デート?いや、あれがあれでこれがこれで……」

 

 

「ヒッキー……私達と一緒は嫌なの?」

由比ヶ浜は悲し気な顔で俺を見上げる。

いや……そんな顔されると罪悪感が半端ないんだが。

 

「そうじゃないが、そうストレートに言われるとな……拒否反応がついな」

これは長年ボッチであった弊害か、リア充的な事象が自身に降りかかるとつい否定の言葉が……というか、デートとか言われるとそのだな。

 

「分からないでもないわ。でも、お互い慣れて行かないと将来的にまずいと思うわ」

雪ノ下も俺と同じでボッチ気質だからな。

 

「そ、そうだな。1日空けるようにする」

俺のこの返事に、由比ヶ浜は嬉しそうに、雪ノ下はホッとした表情をしていた。

どうやら、あらかじめ二人で俺を遊びに誘う算段をしていたようだ。

……二人にはこんな事でも気を使わせてる。俺もいい加減この状況に慣れないと行けないとは思う。

 

 

そんな時だ。

 

ガシャーン!

部室の扉が突如として思いっきり開け放たれる。

「比企谷ーーー!!」

 

「平塚先生、ノックをしてくださいと何度も……」

雪ノ下は部室の扉を勢いよく開け、俺に物凄い形相で迫って来る人物にいつものように注意をする。

 

「比企谷八幡!!ゴールデンウイーク中は横島さんと1週間ハワイに海外出張とは本当か!!」

いきなり、俺の両肩を掴み、鋭い眼光で俺を見据えてくる。

へ?なにそれ?聞いてないんですが……

はぁ、たぶん横島師匠は平塚先生にデートを申し込まれて、断り切れなくなって、俺をダシにしてこんな言い訳を……そんな所だろう。

 

はぁ……今、由比ヶ浜と雪ノ下と遊びに行く約束をしたばかりなのだが、仕方がない。今は泥を被るしかないか。

後で二人にはちゃんと理由を説明すればわかってくれるだろう。

俺は雪ノ下と由比ヶ浜に目配せをしてから、平塚先生にそれは本当だと答える。

平塚先生は絶望に打ちひしがれたように、肩を落とし、トボトボと部室を出て行った。

すんません平塚先生。正直、横島師匠はとっとと諦めてください。先生ならもっと良い人が居るはずです。

しかし……なぜか部室を出て行く際、平塚先生の目が鋭く光っていたように見えた。

 

 

が………

 

実はその後、横島師匠から電話があって、海外出張の件は本当だった。

どうやらいつもの、オカルトGメンからの依頼が入ったそうだ。

それで……

「なあ八幡。そろそろお前もかなり実力がついて来たし、一緒にこないか?」

と誘われたのだ。

すでにその事は横島師匠から美神さんや西条さんにも伝えてるらしくて、俺の返事次第らしい。

 

「行きます」

俺は二つ返事をする。

だってそうだろ?これって、横島師匠に実力を認められたって事だ。嬉しくないはずが無い。

しかも、今まで横島師匠が海外で何をやっていたかを見るチャンスでもある。

世界ではどんな事が起きてるのかを知る事もできる。

 

電話を切った後。

……由比ヶ浜と雪ノ下の約束を直ぐに思い出し、自己嫌悪に陥った。

俺って奴は、由比ヶ浜と雪ノ下との約束よりも、仕事を優先してしまっている事に……

決して二人の事を軽く考えているわけじゃない……と思う。

いや、俺は二人の真剣な思いから、もしかしたら逃げたいのかもしれない。

そんな事を悶々を考えながら……自室で一晩過ごす。

 

翌日に、二人にありのままを伝え、謝った。

「ヒッキー!!もう!!……でもちゃんと話してくれてありがとね」

由比ヶ浜は最初はプリプリした感じだったが、あっさり許してくれた。

 

「あなただから仕方が無いわ今は。これからは私がなによりも大切だと思わせて見せるわ」

雪ノ下はいつもの調子で淡々と話すが、不敵な笑みを湛えながらこんな事を言っていた。

 

2人はこんな俺を仕事へと快く送り出してくれる。

2人には翌週の土日にこの埋め合わせは必ずすると約束する。

 

 

 

 

そして今、オカルトGメンの依頼で、横島師匠に付き添い、世界相手の仕事(ゴーストスイープ)を行うため、ここハワイにやって来たのだ。

 

やって来たのだが……

 

「Im Yokoshima. Do you want to have some coffee? There’s a cafe over there.」

(僕、横島 コーヒーでもどう?そこの喫茶店で!!)

「Im Yokoshima. Can I have your e-mail address?」

(僕、横島 メールアドレスを教えて!!)

ここでもいきなり、あのニヤケ顔でアホなナンパをし出す有様。

日本とやってる事がかわらない。

しかも、なぜか流暢な英語でナンパしてるし!

ハワイに降りたってたった10分でこの有様だ。

横島師匠はどこに行っても、横島師匠だった。世界相手でもその変態っぷりは健在だ。

……俺はこんなのを見たくて同行したんじゃないんですが、横島師匠の仕事っぷりをみたかったんですが……日本の恥をさらすのをやめてください!

なんか、ここに来るために遊びに行く約束を断った由比ヶ浜と雪ノ下に申し訳なくなってきた。

 

「はちまーーん!!あのお姉ちゃん!!Gカップだーー!!美神さんより凄いぞーーー!!」

派手に振られ、頬に紅葉跡をつけた変態師匠は、俺の後をついてきて、まだ俺に話しかける。

 

ここは無視だ!無視に限る!乗り継ぎ場所へとスタスタと歩みを早める。

ホノルル国際空港があるオワフ島から、プロペラ機でハワイ島へ行くためだ。

 

横島師匠はその間も歩きながらも行き交う若い女性にナンパを繰り広げる。

 

 

 

「横島君。君は全く成長しないね。少しは弟子を見習いたまえ」

西条さんが横島師匠の首根っこひっつかみ、引きずって来る。

助かった!

そう、オカルトGメンの西条さんも一緒なのだ。

西条さんは何かの手続きをするために、飛行機から降りてすぐ俺達から先行してどこかに行っていたのだが、ようやく戻ってきてくれた。

 

「なんだよ西条!俺のナンパを邪魔するなよな!」

 

「君のは盛りが付いた猿にしか見えんよ。紳士たるもの、もっと女性にはエレガントに接するべきだ」

 

「ケッ!へーへー、イケメン様が言う事は違うな!!ケッ!」

 

……この二人、顔を合わすといつもこんな感じだ。

一見、物凄く仲が悪い様に見える。

しかし、仕事となると妙に息が合う。

何だかんだと、こうやって一緒に仕事するぐらいだから、本当はお互い認めているのだと俺は思う。

 

 

 

国際発着口からハワイ州内の国内発着口へと定員40人程の双発のプロペラ機に乗り換える。

現在ハワイ島各地で火山が活発化して、ハワイ島のヒロ国際空港は閉鎖中で、観光も制限され、現在は島の住人やビジネスの人しかハワイ島には赴かないらしい。

あまりなじみのないワイメア・コハラ空港へと……

 

 

小さなめのタラップ(飛行機の階段)を歩き、定員40名弱の小型飛行機に前から乗り込む。

乗客はほとんどいない。横島師匠は先に乗っていたのだろう3×12列シートの席の中頃に座る顔が隠れるぐらいの大きな白いつばの帽子をかぶる長い黒髪女性の席の横に、ニヤケ顔でわざわざ座る。

「ふははははっ!神は俺を見捨てなかった!」

 

西条さんは呆れ顔で、俺と前の方の席で腰を落ち着かせ、そして飛行機は離陸を開始する。

 

「そこの美しい髪のお姉さん!!日本からの観光!?僕横島!!一緒にお話ししない?」

やはりというか、ナンパが始まった。……どうせ振られて、こっちに戻って来るだろう。

 

 

しかし……

「そんな熱烈なお誘い。来たかいがあったわねーーー!ダーリン!!」

 

「そんなに強く腕を握らなくても……あ、あれ?……ダーリン?」

 

ん?なんか雲行きが怪しいぞ。

俺は後ろを振り返り横島師匠の様子を見る。

 

 

「ふふふふふっ、ふはははははははっ!!もう離さない!!」

つばの長い帽子をかぶった黒髪の女性が横島師匠の腕を思いっきり掴んでいた。

 

「ななななななぜに!?ここに居るんでせう!?」

横島師匠の顔が青ざめ、汗びっしょりだ。言動もおかしい?

 

女性が被っていたつばの長い白い帽子が落ちる。

「さあ、ダーリン!!南国の島で挙式よ!!」

 

うわっ!?……平塚先生!?なんでここに!?

座先に隠れて全身は分からないが、たぶん白色ワンピースを着ているだろう平塚先生が居たのだ!

 

 

「あはっ、あはっ、あははははっ」

横島師匠は腕を思いっきり掴まれたまま、渇いた笑いを繰り返し、白目を剥き、座席に沈む。

 

「ふはははははっ、とったどーーー!!」

平塚先生は満面の笑みだった。




「きちゃった!」を実現する平塚先生のバイタリティーには感服です。
遂に西条さんと平塚先生がコンタクト?

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