やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
前回の続きのハワイ編です。
オカルトGメンの依頼で、俺は今、横島師匠と西条さんとハワイに仕事で来ている。
国際機構や国連、国からの救援要請で横島師匠と西条さんは良く出張で世界を駆け巡っていた。
現地では対応しきれない霊災現場に駆け付け解決に乗り出しているのだ。
横島師匠はあまり語ってくれないが、西条さん曰く、横島師匠が出張らないと解決が困難な物が多いらしい。
横島師匠はああ見えて、世界最高峰、人類最強のSSSランクのGSだ。
その横島師匠でないと解決ができないという事は、霊災のクラスがSランクを超えている場合もあるという事だ。
そもそもSランクのGS自体世界にほとんどいない。30人にも満たない。在籍人数が一番多いのは日本であるため、日本のオカルトGメンが各国で起きてる超難易度の霊災対応に駆り出されるという事なのだ。
今回もそんな事情の一端でここハワイに。
俺自身は初めて、横島師匠に誘われてこれに同行をしている。
足手まといにならないぐらいには、俺も成長しているという事だ。
師匠に認められたようで嬉しかった。
しかし今、この場では異様な空気が流れている。
ホノルル国際空港のあるマウイ島から、現場のハワイ島へとプロペラ機に乗り込んで移動していたのだが……その飛行機に予想外の人物が乗っていたのだ。
「ダーリン!なーに?黙っちゃって!私に会えて嬉しすぎて声がでないのかな?」
横島師匠は嬉しくて声が出ないんじゃなくて、驚きと恐怖で声が出ないんだと思いますよ!
しかもなにその口調。いつものお堅い口調とは全然違うんですが?ダーリンってなんだよ?
今時の日本人でダーリンって使う奴はいないぞ!なんていうか、80年代のアイドルっぽい口調なんだけど、なんて言うんだっけ?ぶりっ子?だったか、そんな感じの口調なんだ。
はぁ、こんな姿、学校やクラスの連中に見せたら気絶もんだぞ!担任の平塚先生!!
しかも見た事も無い満面の笑みだ!!
そう、学年主任で、生徒指導員。さらに奉仕部の顧問にして、学校ではお堅いクールなイメージで通ってる俺のクラスの担任、平塚静先生(28歳)だ。
普段はとてもいい先生なんだぞ。教育熱心で俺みたいな面倒くさい生徒にも気にかける程にな。
だが、恋愛に関しては全くダメなんだ。その男勝りの性格が災いして恋人さえできたことが無いらしい。
普通にしてればかなりの美人なんだよ。スタイルも抜群だしな。
それでも男が寄り付かない。
ヘビースモーカーの上に、趣味は車だし、釣りもするらしい。油ギトギト系のラーメンが好物で、熱血系アニメが大好きだし、性格とやってる事がもう30代のおっさんそのものなんだよ!
そりゃ、男も逃げていくぞ!
今は、横島師匠に付きまとう半ストーカー。
横島師匠のナンパに引っかかった唯一の女性。
横島師匠の出張先を嗅ぎつけてこの有様だ。
「ん?横島君に女性?知り合いの様だね。信じられない事にかなりの美人じゃないか?……君は知っていたかい?」
西条さんも後ろを振り返り、平塚先生と横島師匠の様子を見て、俺に尋ねる。
知っていますとも!もうこれ以上ないぐらいにね!担任で顧問なんで!!一応恩師ですが!!
「……学校の担任の先生です」
俺は小声でそう言うのが精いっぱいだった。
「ん?君の学校の先生がかい?……どう見ても横島君に好意を持ってるようだが?あの横島君にだ。どういうことなのかい?」
「遺憾ながらそれは事実なんです。どういう事なのかと俺に聞かれても」
横島師匠に惚れてるのは確かなんだよな。理由は横島師匠のナンパされて、しかもまともに女扱い(飽くまでも横島流)したからだという事だけだと思うんだが……。
元々、結婚願望と恋人がほしい願望が大きかったのと、30前にして焦ってる事も災いしてるよな。
「信じられないが、どうやら事実の様だね」
「はい……」
「ははっ、そうかそうか」
そう言って笑う西条さんはニヤリとどこか悪そうな顔をしていた。
いや、マジでシャレになってないんだが……どうするんだよこれ?
今から、仕事に行くのにだ。しかもかなり危険な現場だろきっと。
平塚先生にはお帰り願うしかない。
ハワイ島ワイメア・コハラ空港に俺達を乗せた小型プロペラ機が着陸。
「ダーリン。約束の地に着いたわよ!」
純白のワンピース姿の平塚先生は横島師匠の腕を絡ませ、笑顔で飛行機のタラップを降りる。
まるで新婚旅行に来た初々しい新妻の様だ。
他人が見れば間違いなくそう見えるだろう。
平塚先生はこうしている限りは、幸せいっぱいの美人妻に見える。
「おっぱ、おっぱいが腕にーー!!うわっはっはーー!もうどうにでもしてーーーー!!」
先生に腕を抱き寄せられた横島師匠は涙ちょちょ切らせながら、豪快に渇いた笑いをかましていた。……横島師匠、抵抗するのを諦めたなこれ。
「先生……ここまでどうやって追いかけて来たんですか?」
俺は先に待ち構え、平塚先生に問いかける。
「あれ?比企谷く~ん。こんにちは。それは勿論ダーリンから聞いたからよ」
何があれ?だよ。何が比企谷く~んだ。普段呼び捨てで、そんな甘ったるい声を学校で出した事ないだろ?
横島師匠、平塚先生のデートの誘いを断るために、きっとハワイのここでの仕事を口滑らせたのだろう。
「はぁ、もういいんで、とっとと帰ってください」
「ええ?将来の弟の君がなんでそんな事を言うの?今来たばっかりなのに」
ワザとらしく悲し気な顔をする平塚先生。
そのしゃべり方、イラっとする!将来の弟ってなんだよ!!俺は師匠の弟じゃないぞ!弟子だからな!!
「そういうのいいんで、早く帰って下さい!仕事なんですよ!はっきり言って邪魔です!」
俺はきつめに平塚先生に言う。こうでも言わないとこの人は帰らないだろう。
しかし……
「私には後が無いのだ。邪魔はさせんぞ。比・企・谷」
平塚先生は横島師匠の腕を離し、俯き加減で俺の横にスッと立ち、耳元で小さくこんな事を囁き、また横島師匠の横に戻る。戻り際に俺を見据える平塚先生の目は狂気じみていた。
怖っ!切羽詰まり過ぎだろ!
冷静な判断が出来てないな。俺たちの仕事が危険がつきものだと言う事は分かってるはずなんだが……盲目的な恋がこの人を狂わせているのか?行き遅れだと自他共に認めていたし、それで精神的に追い詰められ過ぎたのか……まだ全然大丈夫だと思うんだけどな。
……はぁ、どうするか。無理やり飛行機に乗せて、有無も言わさずに帰らせた方が良いな。
「比企谷君。いいではないか。現場に行かなければそれ程危険はないよ。横島君とその彼女からゴールデンウイークという貴重な二人の時間を奪ってしまったんだ。せめて仕事では無い時間は一緒に居させてあげようではないか!」
西条さんは俺の肩に手を置き、そんな事を言う。
「西条!!てめぇ!!」
横島師匠は西条さんに噛みつかんばかりに食って掛かろうとするが、平塚先生に抱き寄せられているため動けない。
「ありがとうございます!こんな手前勝手の女のために恩情を……」
平塚先生はより一層、横島師匠の腕に縋りつく。
「当然の事です。自己紹介はまだでしたね。僕は日本オカルトGメン本部長の西条輝彦です。横島君とは腐れ縁の中でね。よく仕事を一緒にしてるんですよ」
西条さんは自己紹介をしながら平塚先生に握手を求める。
「え?本部長ということは、日本オカルトGメンで一番偉い人?………イケメンのナイスガイなのに………年はおいくつですか?」
「30歳になったばっかりです」
「どどど独身ですか?」
「残念ながらね。僕も早く身を固めたいと思っているのですが、仕事が忙しく、なかなかうまく行きません。横島君がうらやましい。こんな美人で素敵な彼女がいるなんてね」
「素敵で美人……はっ!?危ない危ない。危なく甘い罠に引っかかるところだった。……素敵な彼女なんてそんな~」
おい先生。心の声が漏れてるぞ。一瞬西条さんに目移りしただろう!
まあ西条さんはイケメンだしな。俺から見てもカッコいい大人の男性だ。しかも安定職の公務員で部署のトップ。
「横島君。うらやましいな。せめて仕事が無い時は一緒に居てあげるんだ。なんなら挙式も上げるかい?」
西条さんは横島師匠にニヤリとしてそう言った。
なんか悪そうな顔をしてる。
「くそっ!西条!覚えてろよーー!!」
既に日も傾きかけ、今日は現場に向かわず、現地のオカルトGメン職員の案内で宿泊先のコテージに到着。
現在、空いてる宿泊先はここを含めちょっとしかないらしい。
火山活動のお陰でホテルは観光客が来なくて、軒並み営業ストップらしい。
ここまで車で外の風景を眺めていたが、見た感じ何かが起こっているようには見えない。
この辺はまだ、それほど被害らしい被害が無いらしいが、火山帯に近づくにつれ、災害級突風が吹き荒れ、突如として激しいスコールも降るらしい。その影響で火山帯付近の観光地のホテルの窓ガラスは軒並み割れ、建物の倒壊などの被害もあったそうだ。
今迄、火山活動は起こっていたが、ここまでの被害は無かったらしい。
……その火山活動には今回はどうやら霊災が絡んでいる。それで横島師匠とオカルトGメンの出番だってわけだ。
「西条ーーーーー!!おまえーーーーーーなんだこの部屋割りは!!」
横島師匠が涙をまき散らしながら、宿泊するコテージに入って来た。
「んん?横島君。当然の処置だよ。何か不具合でもあるかい?」
「なんで西条と八幡が同じコテージで!!俺があの先生と同じ建屋なんだーーーー!!普通俺もこっちだろ!?」
「ははははっ!何を言ってるんだい横島くん。恋人同士に配慮したに決まってるじゃないか!」
西条さんは実にいい笑顔だ。
「ちがーーーーう!!恋人じゃねーーー!!向こうが押しかけて来ただけだーーーー!!」
「ははははっ、冗談うまいね横島くん。それにもうここのコテージしか開いてないから無理だ。大人しく諦めたまえ!」
「がーーー!この部屋滅茶広いだろ!!俺もここに泊まるぅぅーーー!!」
「彼女を一人にしておくのかい?彼女美人だからよからぬ連中に押し入られるかもしれない。それを守るのも紳士たる男の役目じゃないのかね」
「はちまーーーん!!助けてくれーーーー!!俺と変わってくれーーーーい!!俺という男が地雷女とはいえ!!美人でスタイルがいい姉ちゃんと一晩一緒にいて、自制心が働くとは思えん!!あの女に手を出したら!!間違いなく、その場で結婚せざるを得なくなる!!あのおっぱいがおっぱいが俺を狂わせる~!!」
横島師匠はベッドに腰掛けていた俺の膝に縋りついてくる。
「……師匠、もっと早めに振っておけばこんな事にならなかったのに。西条さん。マジで今回は勘弁してあげてください」
「ん?比企谷君。彼女に何か問題でもあるのかい?」
「先生としてはかなり優秀で、いい人ですよ。俺も学校では世話になってますし」
「じゃあ、なぜ?彼女美人だし、スタイルも横島君好みじゃないか。横島くんがなぜここまで?」
「……あの人、私生活と恋愛方面が全然ダメなんですよ。相当拗らせてしまっていて……相当痛い感じに。遊びで手を出していい人じゃないんです」
「ふむ。横島君。大人しく責任を取りたまえ!」
「まだ手をだしてないわーーーー!!」
「西条さん。正直いって俺も反対なんです。平塚先生にとっても横島師匠にとってもね」
「ふむ。君が言うなら仕方がない……しかし、流石にコテージに彼女一人にするのはどうかと思う。万が一という事も無いことも無い」
「はぁ、わかりました俺が先生と一緒でいいです。横島師匠は仕事でどこかに行ってるとか適当な事を言っておきますんで」
「はちまーーーーーん!!心の友よーーー。恩に着るぅぅ!!」
「もういいですよ。暑苦しいんで。帰ったらちゃんと振りましょう!いいですね!」
俺は荷物の一部持って、平塚先生が居るコテージに向かう。
ここは個人が経営してるコテージで2棟しかない。広々とした南国感あふれる1LDKの平屋のコテージで、町から外れた小高い丘の中腹にある。
この二つのコテージもそこそこ距離が離れており、徒歩10分程の距離があるのだ。
既に日が落ち、暗がりをゆっくりと歩く。
やはり、都会に比べ空気が澄んでる。星も近く見える。
それに霊気も濃いな。ハワイは世界有数のパワースポットでもある。
コテージに到着し木製の扉をノックをするが返事がない。
中庭に出て外の空気でも吸いに行ったのか?
扉を開けると、中は薄暗い。
なんだ?明かりも付けてないとか……寝室だろう部屋に先生の気配がするな。もう寝ちゃったか?
あれだけはしゃげば、疲れるか。
俺は先生を起こさないよう、明かりをつけずに静かにリビングのソファーに横になる。
南国だけあって、この季節でも温かくシーツが無くとも寝れるが、そこにあった大きなタオルケットを被る。
元のコテージでシャワーだけでも浴びてくればよかったか……
はぁ、まだ22時か……時差が19時間あるから、日本ではまだ17時か……眠くない。
スマホを開く。
Wi-Fiはつながるようだ。
メッセージは……小町と由比ヶ浜と雪ノ下、それに一色と折本まで。
小町はお土産リストがずらりと……適当に買って帰ると返事を打つ。
由比ヶ浜と雪ノ下は、こっちの様子を聞いてきた。うーん。平塚先生が横島師匠を追って来たことを書くべきか…まあ、なんかあった時のために知らせるべきだな。
一色も……なんかお土産を要求してきたぞ。私だけのオンリーワンなお土産に期待するって、なんだよこれ。わけがわからん。
折本は、仕事を頑張ってか……今回も仕事を理由に遊びに行くのを断ったしな。どうしたものか。
ん?平塚先生の気配が動いたな。こっちに近づいてくるな。トイレか?
面倒だ。寝たふりをするか。
俺はタオルケットを頭から被る。
ん?なんだ。トイレじゃないな。俺が寝てるソファーに近づいてくるぞ。
止まった。なんなんだ?
なんかカサカサと、何をしてるんだ?
俺は今の今迄、この後の展開について全く予想出来ていなかった。
……この後の展開はご想像通りで……