やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

すみません。
この話はハワイ編に入れます。
次回から新章に……


(106)男女の後始末

 

ゴールデンウイーク明け。

日常に戻り、何時ものように小町と共にチャリで学校へと登校する。

 

一昨日までハワイに俺は居た。

ゴールデンウイークに横島師匠と西条さんの海外遠征ついて行き、ハワイでの厄災級の霊災を収める横島師匠の姿をこの目に収める事が出来た。

確かに貴重な体験だった。…だったんだが、なんかアレだ。

厄災そのものは凄まじかったんだが、その発端は目茶苦茶くだらないものだった。

神様の夫婦喧嘩。ようするに旦那の浮気が原因で、奥さんの女神様達が家出して、それを旦那が引き留めようと画策したところ、不可抗力でハワイの島で霊災が発生したようだ。

神様も人間も結局同じだった。神様にも感情が有るし、愛憎もある。結婚だってする。

ただ、スケールがデカいため、唯の夫婦げんかも厄災となってしまう。

人間にとってはいい迷惑だ。

 

まあ、それはいい。

横島師匠が収めたから、もうあの地ではあんなことは起きないだろう。

問題は平塚先生だ。

平塚先生は横島師匠を追いかけてハワイまで来てしまったのだ。

そして、色々と在って、まあ、俺も色々あったが……最終的に横島師匠は先生と付き合えないと頭を深く下げたのだ。横島師匠は自分の心情を語り、誠意を示し振ったのだ。

流石にこれは決定的だった。

平塚先生に仕事の現場まで付きまとわれるのは流石に厳しい、下手をすると命にかかわる。

横島師匠自身、平塚先生とは結婚する気持ちは無いし。横島師匠が抱える環境では平塚先生と一緒になるのは到底無理だ。

ちょうどいいタイミングだったのかもしれない。

平塚先生はニコっと笑って、「こちらこそ、いい夢を見させてもらいました」と言って一人で先に帰ってしまったのだ。

その後姿は、明らかに泣いてたよな。

 

先生大丈夫なのか?

一応昨日、家にちゃんと帰ったか電話やメールはしておいたが、返事は無いし。

落ち込むなってのは無理があるが、やけを起こして暴走しなきゃいいが、酒に頼るのもいいが、ほどほどにしてもらいたい。先生の場合酒浸りで引きこもるなんてこともありうる。

しかも俺のクラスの担任は平塚先生なんだよな。学校来てるのか?

 

いつも通りクラスメイトの由比ヶ浜と川崎に挨拶を交わし、席に着く。

 

始業のチャイムが鳴り……

 

「諸君!ゴールデンウイークは充実した日々を過ごしたかね!勉学に勤しんだ者、リフレッシュを兼ね旅行に行った者も居るだろう!」

平塚先生はつかつかと教室に入り、生徒を見回し、大声で声をかける。

ふぅ、先ずは安心か。

しかし、妙にテンション高くないか?しかもなんかわざとらしいんだが。

 

「私もゴールデンウイークは少々羽目を外し過ぎてしまってな。はははははははっ…はっ」

大口を開けて笑ってるが、なんて乾いた笑いなんだ。しかもよく見ると目の下に隅が出来てるし、なんか目尻に涙が溜まってるぞ。

……痛々しい。事情を知ってるだけに、見てられない。

 

「ヒッキー、何か平塚先生変じゃない?なんかあったのかな?」

隣の席の由比ヶ浜がこそっと俺に耳打ちをして来る。

ちょっと顔が近いんですが…良い匂いするし、俺も一応男なんですが、そこんとこ認識してほしい。

 

「……大人には大人の事情があるんじゃないか?」

俺はそれだけしか答える事が出来ん。

とてもこの場で言える話じゃない。ゴールデンウイーク中に男に振られたなどと。

 

「そこ!不純異性交遊はもってのほかだ!君たちは受験生だ。そんな浮ついた心では到底志望校には合格できんぞ!」

間髪入れず平塚先生が俺と由比ヶ浜に指さし、目を逆なで説教をする。

ちょっと話してただけなんですが……なに?女子と会話するだけで不純異性交遊って、それって逆恨みってやつでは?……これは当分あれだな。平塚先生に近づかない方が良いな。触らぬ神に祟りなしだ。

 

 

 

昼休みは奉仕部で飯のつもりだったのだが……

平塚先生に呼ばれ、今は屋上にいる。

「比企谷、君には色々と迷惑をかけた」

平塚先生は俺に頭を下げた。やはり先生の目の下にはクマが見て取れる。

 

「まあ、そのなんて言ったらいいのか、アレですよ。他にもきっといい男がいますよ」

俺はこんな言葉しか出なかった。

 

「慰めはやめてくれ。私は背水の陣で臨んだのだ」

 

「……俺は正直言って、ホッとしてますよ」

 

「なんだ?私が横島さんに相応しくなかったという事か?流石に傷つくぞ」

 

「いえ、どういったらいいのかわからないんですが、普段の横島師匠はどこにでも……いないか。スケベが過ぎる青年ですが、師匠はゴーストスイーパーの能力としては突出してるんです。西条さんからも口酸っぱく口外しないで欲しいと言われていた通り、師匠の力は半端ないんです」

先生の相手が横島師匠以外の人で、良い人だったら俺も応援するのはやぶさかではなかった。だが、横島師匠だけはダメだ。

とてもじゃないが、横島師匠にとっても、平塚先生にとってもいい結果にはならない。

横島師匠は今は誰にも答える気が無い。発端は去年の修学旅行横島師匠が先生をナンパしたからなんだが……

それは置いといてもだ。横島師匠が特殊な立場であり、さらにキヌさんや小竜姫様と言った

方々も待たせている状況だ。

 

「……私にはわからない。彼も年相応の青年には変わりない。男女が好き合うのにはその事は関係ないと思うが」

 

「それを言われると反論しづらいですが、師匠の場合事情がありまして……」

どうしたものか、神様に惚れられてるとか、神様の弟子だとかは言いにくい。

 

「ふっ、君は優しいな。単純に横島さんの眼中に私はなかった。薄々気が付いていた事なのだ。私が1人で舞い上がって騒いでいただけ……そう言う事だ比企谷」

平塚先生は泣きそうな笑顔で俺にそう言った。

 

「先生がそれで納得してくれるのなら、もう言わないですが」

傷心か……平塚先生は今、自制心を総動員して自分に納得させているのだろう。

せめて、今度は先生に相応しい人が出来るようにと……美人でスタイルも良いし、生徒思いのいい先生なんだけどな。何せ男が寄って来ない。その男よりも男のような豪胆な性格もあるが、その前に私生活を何とかしないといけない気がする。それさえ解消すれば、普通にいい男が寄って来ると思う。

一度、西条さんにでも紹介してみるのもいいかもな、もう顔見知りだし。

いや、まずいかもしれないな。西条さんは女慣れしてそうで、平塚先生は軽くあしらわれるか、ポイ捨てされる可能性もある。

誰かいい人いないか?神父とか?……流石に年の差があるか。

 

暫く、先生は空を見上げていた。

きっと涙を我慢しているのだろう。

男女の関係か……振られるのも辛いが、振るのも大変だな。

誰かが傷付くのは見たくはないが、こればっかりはどうしようもない。

俺も他人ごとではない。どうしたものか……卒業までには、雪ノ下と由比ヶ浜、陽乃さんに答えを出さないとならない。

1人を選ぶという事は2人を振るという事だ。

ふぅ、今からへこんで来るんだが。

 

 

「……そ、そそ、それとだ」

平塚先生は俺の方に向き直り、顔を赤くし、もじもじと縮こまっていた。

何だ?急に何があった?この平塚先生はレアなんだが?

ちょっと可愛らしいと思ったのは内緒だ。

 

「なんですか?急に」

 

「そ、そのだな。ハワイでの1日目の夜でだ。君に色々とだ。愚痴を聞いてもらったりと、その恥ずかしい姿をさらしたり、そ……その、裸で抱き着いたりしたことは、忘れて…ほ、ほしい」

もじもししながら何言ってんだこの人!せっかく忘れようと今迄スルーして来たのにだ!

わざとその話題を出さないようにしていたのに台無しだ!

そう、俺は横島師匠と勘違いされて、平塚先生に寝込みを襲われたのだ。

しかも、裸で抱き着かれ……その全裸もみちゃったし……結構なものをお持ちでやわらか……って何考えてるんだ俺は!心頭滅却心頭滅却…忘れろ、煩悩退散!

 

「なななな、何のこ事ですか?ぜ、ぜぜんぜんし、知りませんね」

 

「ありがとう。そう言う事にしてくれるのだな。流石に教師と生徒がそのだ…まずいしな」

 

「し、知らないって言ってるでしょ」

 

「ふっ、ありがとう比企谷」

 

「な何の事だか」

 

「そう言えば、比企谷の体、引き締まっていたな……鍛えているのだな」

顔を赤らめながら、何言てるんだこの三十路女教師!せっかく人が忘れる努力しているのにだ!ワザとか?ワザとなのか?

 

「ひ、昼飯があるんで、行きますよ」

俺はそう言って逃げるように去ろうとする。

 

「……ありがとう比企谷」

後ろから平塚先生の声が届く。

そのお礼の言葉は俺にとっては辛い。

もっと最初に、ちゃんと俺の方からも平塚先生に言うべきだった。横島師匠とは付き合わない方が良いと。

 

 

 

奉仕部の部室に逃げるように向かう。

 

「こんにちは、比企谷君」

「ヒッキーやっと来た」

雪ノ下と由比ヶ浜は机を4つくっ付け、弁当を広げ待っててくれたようだ。

 

「うす。先食ってくれてよかったんだが」

 

「私が待ちたかったからそうしただけよ」

「一緒に食べないと楽しくないし」

 

「すまん。待たせたな」

 

「いいえ」

雪ノ下はそう言って俺にお茶を入れてくれる。

……そして俺の目の前には雪ノ下の手製弁当。

未だに、この3人での昼飯は気恥しい。

俺は明らかにリア充街道を歩いてるよなこれ。

平塚先生は傷心だというのに、余計に居た堪れなくなってくる。

 

「ヒッキー、平塚先生に呼ばれてたけど、何かあった?先生は先生で朝から変だったし……」

由比ヶ浜が早速俺に聞いてきた。

言い難いが、こいつらには言っておいた方が良いかもな。

 

「ゴールデンウィーク中、仕事で横島師匠とハワイに行く事は言っていただろ?」

 

「聞いていたわ。その事と平塚先生がどう関係するのかしら?」

 

「現地に到着したら、平塚先生が居た」

 

「え?ヒッキーの師匠さんを追って?」

 

「……だが、平塚先生は横島師匠に振られた。まあ、いずれはこうなるとは思っていたが、今は傷心の身だ」

俺は経緯を省き簡単に説明する。

そう必然的に途中経過の話は避けなければならない。

この二人には絶対話せないような内容が盛りだくさんだからだ。

 

「えーー!?」

 

「由比ヶ浜、声がデカいぞ」

 

「そう、こうなるのではないかとは思っていたわ。……でも比企谷君、もしかしてなのだけど……その平塚先生を慰めたりとかはしていないわよね」

雪ノ下は、平塚先生の数々の痛い姿を目の当たりにしていたからな。その感想は妥当か。

その後に、雪ノ下はこんな事を聞いてきた。

 

「いや、まあどうだろうな」

慰めたのは、平塚先生が振られる前だよな。

さっきは多少は慰めの言葉をかけたかもしれんが。

 

「はぁ、私は平塚先生にも注視しないといけないという事かしら」

雪ノ下はため息を吐く。

 

「ゆきのん、どういう事?」

 

「雪ノ下、何か勘違いしていないか?」

何かとてつもない勘違いをしているような気がしてならないのは気のせいか?

 

「まあいいわ。その…週末のデートの件なのだけど」

「そうヒッキー、デート!」

 

「おい、デートって3人で遊びに行くだけだろ?」

確かにゴールデンウイークの埋め合わせで、遊びに行く事を約束はしたが、デートとは言ってない。

 

「年頃の女の子と遊びに行く事をデートと呼ぶのよ」

雪ノ下。デートと遊びに行くは大きな違いがあるぞ。

 

「3人でデートっておかしくないか?」

 

「いいじゃん。ダブルデートって事で」

由比ヶ浜、ダブルデートは二組のカップルが一緒にデートする事だぞ。

 

「どちらでもいいわ。比企谷君と出かける事には変わらないのだから」

この頃の雪ノ下の言葉は、いちいち俺の心をざわつかす。

こいつ、去年まで毒舌しか吐かなかったのに、なにその恥ずかしいセリフ。

去年のツンドラ雪ノ下に聞かせてやりたい。

きっと悶絶すると思うぞ。

 

 

この日の放課後。

雪ノ下と由比ヶ浜にハワイの土産を部活の時に渡した。

一色も現れる事は予想済みで、一色にはハワイ土産の定番マカデミアナッツチョコを渡す。

雪ノ下と由比ヶ浜には一応同じものを渡してる。

小町が、俺がハワイに行く前に2人のお土産としてチョイスしてきたのは、良い匂いがするハワイアンな感じなリップクリームだった。

流石にそれはないだろう。なんだ、そのだ。なんか、キスをねだってるみたいだろそれ?

だから俺はテディベアのハワイアンバージョン。しかも色違いのもの手渡す。

これならば、気恥しさとかはない。しかも、一応喜んでもらえたようだ。

 

 

 

 

 

俺はこの日、特に用事があった分じゃないが、事務所に向かう。

横島師匠の様子を見に行くために。

ハワイで平塚先生を振った横島師匠は、飛行機の中でずっと沈んだままだった。

横島師匠は平塚先生に自分には好きな人が居た事と、その人はもう亡くなった事、まだその人を思っている事、そしてなにより平塚先生の思いに応える事が出来ない事を誠実に話し、振ったのだ。

 

流石に決定的だった。

平塚先生は涙しながら、その場を去り、先に日本へと……

 

 

だが……

 

「横島――――――っ!!どこに行ったーーーーー!!」

事務所に近づくと、聞きなれた怒声が飛んでくる。

 

「美神さん、こんばんは」

 

「比企谷!あんたいい所に来たわ!横島の奴を探すのよ!!見つけたら知らせるのよ!いーい!!」

美神さんは鬼の形相で俺にそう言って、どこかに行ってしまった。

 

俺は、事務所建物の外に置いてあるポリバケツ型の3つ並んでるごみ箱の一つの蓋を開け、ゴミ箱に声をかける。

「……何をやらかしたんですか?横島師匠」

 

そう、ゴミ箱の中には横島師匠がすっぽりと嵌った状態で入っていたのだ。

 

「いやーーっ、ちょっと美神さんのシャワーを覗いただけで……」

 

「………俺の心配を返せ」

俺は平塚先生を振って、落ち込んでるんじゃないかと、慰めの言葉の一つでもかけようと思っていたのだが……そんな必要はないようだな。

まじで、何やってんだこの人は?

 

「八幡、俺を心配してくれていたのか?そうなんだよ。ちょっと覗いたくらいで……いや~、久しぶりのチチ・シリ・フトモモ~~、ああでなくっちゃな!!」

……ほう、要するにだ。平塚先生の事は俺に押し付けて、自分だけ楽しんでいたというわけか……

 

「………」

俺は横島師匠の入ったゴミ箱の蓋を静かに締め、まわしてロックする。

 

「八幡?な、何を?」

 

俺は深く深呼吸をして……

「美神さーーーーーーん!!覗き魔はここですよーーーーー!!」

大声で叫んだ。

 

「げっ!裏切ったな八幡――――!あれ?開かない……あれ?」

 

 

「ふっ、ふっ、ふっーーーー!でかした比企谷!!」

どす黒いオーラを纏った鬼の形相の美神さんが吹っ飛んできた。

 

俺はゴミ箱を指さした後、役目を終えたとばかりにその場を去り、家路についた。

横島師匠の断末魔のような叫び声がしばらく、背後から耳に入っていた。

 

 

俺は電車に乗った頃、ふと思った。

横島師匠の覗きや下着泥は、日常ではほぼ美神さん限定に近い。

あれは一種のルーティーンではないかと、横島師匠と美神さんの合意の上のストレス解消方法なのかもしれない。

やはり、平塚先生を振った事による心の痛みを解消するために、美神さんに手をだしてその後折檻されるまでがワンセットで、そして日々の日常に戻していく。

多分、そう言う事なのだろう。

ストレス解消方法は人それぞれだが、これだけはマネが出来ない。

普通の人間だったら死んでしまうしな。

 

横島師匠はまあ、これでいいとして。

平塚先生は暫く、そっとしておいた方が良いだろう。

 

平塚先生に、早くいい人が見つかればいいんだが……

 


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