やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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それでは新章スタートです。


【十一章】GS内偵編
(107)キヌさんとの仕事


5月中旬。

奉仕部は何時ものメンバーでいつもの席に座り、俺と雪ノ下は読書、由比ヶ浜は勉強をしてる。

結局、新入部員を積極的に勧誘していない奉仕部は、小町が生徒会と兼任で入っただけで、部活見学者もなかった。

まあ、部活の名前からして面倒くさそうな感じがするからな奉仕部。

 

小町は今日は生徒会の方に行ってる。

生徒会での役職は会計らしい。

まあ、金勘定は得意だからな家の小町は。

 

「そう言えば雪ノ下、オカルト事務管理資格者認定試験の方はどうだ?」

美智恵さん主導で国、オカルトGメン、GS協会が協力して進めて来たGS関連の新たな資格制度の第一弾が、このオカルト事務管理資格者制度だ。

雪ノ下は6月に開かれるこの認定試験を受けるのだ。

この業界は霊能者の人材不足が深刻な問題であるのは間違いない。

その人材不足を解消するために、霊能力者でなくとも出来る部分を資格制度化したものがこれだ。

今回の物は、GS協会の認定試験制度とはなるが、この資格認定者はGSの事務所に勤務するのに有利となる。元々GS事務所の事務方は一般人を雇う事が多かったのだが、GSの知識が不足して事故につながるケースが過去に結構あったようだ。

それを解消するための、このオカルト事務管理資格者認定制度なのだ。

その後には、メインの国家資格となるサイバーオカルト対策管理者資格一種二種や、オカルト管理責任者資格一種二種などの資格制度も準備が進んでいる。どれも超難関な資格となる事は間違いないだろう。

雪ノ下は最終的に全部の資格を取るつもりらしい。

その手始めとして、今回のオカルト事務管理資格者認定試験を受けるようだ。

 

「そうね。自信が有るわけではないけれど、大丈夫よ」

まあ、雪ノ下は随分前から準備してきたし、キヌさんにレクチャーを受けてるようだし、今回のは残りの二つの国家試験とは違い、それほど難易度が高いわけでもないから、先ずは大丈夫だろう。

 

 

「ゆきのん。学校の中間試験もあるのに凄いね」

由比ヶ浜がそう言うのも仕方がない。認定試験はタイミング的には中間試験のすぐ後になる。

だが、毎日コツコツと勉強してる人間にとって、中間試験前だからといって普段の勉強以外特別な事はしないだろう。

 

「そんなに難易度が高いわけではないから問題無いわ。……そう言えば比企谷君も近々GSランク査定に関連する若手対象の能力テストがあると聞いているのだけど」

雪ノ下はキヌさん辺りから聞いたのだろうか?いや、自分で調べたのかもしれないな。

 

「え?ヒッキーも試験があるの?GS免許持ってるのに?」

 

「元々半年に一度、査定はある。実力主義の世界だからな。実力が落ちればランクは落とされ、実力が上がればランクが上がる仕組みだ。ただ報告書やらだけの書類審査みたいなもんだったが、今年から試験的に若手対象の能力テストを行うんだと」

6月のGS査定に先立って、5月末に行われるCランク以下の25歳の若手対象の能力テスト……これに俺はキヌさんと一緒に参加することになっていた。

俺の実績では別に参加しなくても、査定に影響は無いらしいが、この能力テスト、一応GS査定のために行われる試験なのだが、その実は一連の霊能を使った愉快犯をあぶり出すための物でもあった。

美智恵さんはGS内部に裏切者が居る可能性を前から疑っていたのだ。

今迄の犯行を見るに、GSの内情をしるものの仕業だと判断していたのだ。

俺とキヌさんは参加者の中に、裏切者を探すため、この能力テストに参加する事になっていた。

まあ、裏切者が居ないに越した事は無い。先ずは身内の中を整理したいのだろう。

 

「へ~、なんか大変そう」

 

「そんな大したもんじゃない。今の実力を見てもらうだけの話だ」

そうは言ったものの、まだテスト内容を聞いてなかったな。

キヌさんは知ってるのだろうか?

まあ、流石にGS資格試験のような、受験生同士のガチンコバトルは無いだろう。

 

 

 

と……思っていたのだが甘かった。

 

「月末のCランク以下の若手能力テストは、野外でのバトルロイヤル方式で行います。丁度2月に令子が買った訓練施設には広大な敷地に宿泊可能な建物があるわ。自然を使った広大なフィールドは実力を図るのには適した場所ね」

俺が美神令子除霊事務所に赴くと、オカルトGメンの東アジア方面統括管理官

の美神美智恵さんが来ていて、俺とキヌさんにそんな説明をしだす。

バトルロイヤルっておい、ガチバトルじゃないですか!

 

「制限時間を設けています。最後の一人まで戦わせる必要がないからよ。飽くまでも目的は出場者の実力や能力を見るのがメイン。彼らが広大なフィールドでどのような術を使い、戦い抜くかを見る物よ。バトルロイヤル方式はその見極めに適しているわ。制限時間までに如何に、霊能力や戦術を駆使して、仮想敵を倒し、生き残るかがポイントね」

確かに出場者の実力を見るのはもってこいだ。

自然に近い場所での戦闘は確かに実際の妖怪退治と近いものがある。

一対一の戦闘に比べ、応用範囲は圧倒的に高い。

制限時間を設けているという事は、防御に徹するもよし、逃げ隠れするのも良しという事だ。

わざわざ、自ら戦わずに、同士討ちさせたり、罠を張ったりと、虚実も十分使える条件だ。

あまり戦闘に向かない霊能でもやり方次第では十分に実力を発揮できるだろう。

なるほど……流石は美智恵さんというところか、若手GS免許取得者の能力や実力を図るのに理にかなってる方法だ。

 

「今のところ108名が参加することになってるわ。全員まとめて行うつもりよ。フィールドは山二つ分に当たるわね」

去年、陽乃さんを徹底的に潰すためだけに、美神さんが買い取った潰れた田舎の温泉旅館とその周囲の山々だ。温泉旅館は訓練施設兼宿泊所に改装されていたしな。

しかも、GS協会にオカルト訓練場所として登録してるし、今回のバトルロイヤル方式の能力テストにもってこいだ。

美神さんはどうやらあれ以降、ここをGS協会とオカルトGメンに貸してるらしい。

賃料はちゃんと貰ってな。その辺は美神さんってところか。採算を取るつもり満々だ。

普段はこの施設はGS協会の職員さんが管理してるようだ。

確かにこんな大々的な野外訓練所は、六道家や土御門家とか超有名どころの名家ぐらいしか持ってないだろう。

 

しかし参加者が108名とは、意外と少ないな。

GS資格試験が改定されてこの3年で96名は資格者が居るはずだし、それ以前に資格免許を取った人もいるだろうに、この倍は参加するものだと……

マジで人材不足は深刻なようだ。

 

美智恵さんがルールの説明を終えた後、美神さんが俺達にその続きの話をする。

「おキヌちゃんと比企谷君は飽くまでも一連の愉快犯の犯人に関わる連中の調査が主体よ。参加者の中に、召喚術の適性を持って居る奴、高レベルで術式を使いこなしてる奴、そんで、怪しそうな奴をピックアップして頂戴。それと……一応言っておくわ。途中離脱なんてみっともないマネは許さないわ。まあ、あんた達だったら、調査しながらでも残るなんてことは余裕だとは思うけどね」

そう、俺とキヌさんの目的は飽くまでも、一連のオカルトを使った愉快犯の関係者、要するに裏切者の捜索だ。今回この能力テストを行う真の目的だ。

 

「比企谷君、がんばりましょうね」

キヌさんは俺に優し気な笑顔を向けてくれる。

 

「はい」

その笑顔だけでがんばれます!

 

 

 

この後、通常業務の仕事は、能力テストの際の連携を高めるためという理由で、キヌさんと俺と二人で依頼をこなしに行く事になった。

緊急事態で去年のクリスマスは二人で対応はしたが、正式にキヌさんと二人きりでの依頼仕事って初めてかもしれない。

そう思うとなんか緊張してきた。

 

事務所の応接セットで、キヌさんとこれから行く仕事依頼の打ち合わせをする。

因みに横島師匠はシロとタマモと既に仕事に出かけていた。

 

依頼内容は幽霊の除霊。場所は某繁華街の飲食店だ。

事務所からも近い。

 

「比企谷君。この相席居酒屋というのは、普通の居酒屋さんとは違うんですか?」

キヌさんは依頼先の名前を見て、俺に質問をする。

よりによってここはないでしょう?しかもキヌさんも俺も未成年ですよ。

こういうのは横島師匠専門でしょ!いや、ダメか。スケベが服を着てるような人がそんな場所でトラブル起こさないわけが無い。

 

相席居酒屋の存在はテレビとかで知ってる程度だったが、一応ネットでも調べた。

要するに合コンを即席でセッティングしてくれる居酒屋の事だ。

男だけのグループと女だけのグループが入店して、その場で知らない相手と合コン出来るように店がセッティングしてくれるのだ。

殆どの店舗は男がすべての支払いを持ち、女性は無料だそうだ。

さらに二人以上という条件がある店が殆どだが、女性は単独でもOKの店もある。

何かあれだ。出会い系サイトの居酒屋版って印象だ。

 

「………あのですね」

俺はキヌさんに小声で説明する。

 

「あの……その、私、合コンなんてしたことないです」

顔を赤くするキヌさん。……なんか可愛い。

 

「キヌさん、俺達は別に合コンするわけじゃないです。除霊に行くんで関係ないですよ」

 

「そ、そうですよね。私ったら」

慌ててるキヌさんも可愛いです。

 

依頼概略内容はこうだ。

一週間前から、ポルターガイスト現象が起きだして、今では幽霊が目に見えて店にあふれかえってるそうだ。

しかし、店自体に被害は無いらしい。まあ、気味悪がって客は来なくなっただろうが。

急に幽霊が多量に集まって来たということは、その一週間前に何かその店に引き寄せられる要因が出来たという事だろう。

その要因を見つけ、解決しなければ、いくら幽霊や悪霊を追い払ったり祓っても、また元の木阿弥になる可能性が高いな。

 

 

 

俺は装備を整えるために倉庫へと向かおうとすると、廊下でキヌさんに声をかけられる。

「比企谷君。横島さんハワイから帰ってから少し元気がないみたいなんですが、ハワイで何かありましたか?」

横島師匠は表面上はいつも通りに見えるんだが、キヌさんには分かってしまうか。

原因は平塚先生を振っての事だ。ここは素直にキヌさんに話すべきなのか?

いや、横島師匠は意を決して、平塚先生を振ったのだから、此処は弟子として男として話さない方が良いのだろうが……

だが、キヌさんに隠し事をするのは辛い。それにキヌさんは純粋に横島師匠を心配してる。

しかし平塚先生にも、申し訳ない気がするし……

 

「確かにありましたが……」

 

「やっぱり。……横島さんは自分が辛い事を何時も隠しちゃうんです。私達に心配させないようにと……でも、私は話して欲しいんです」

キヌさんは辛そうだ。過去にもそんな事がいくつもあったのだろう。

本来は横島師匠から話すべきなのだろうが、今回ばかりはちょっとあれだ。

俺から話した方が良いだろう。

 

「………その、実は横島師匠、平塚先生を振ったんです。平塚先生はハワイまで横島師匠を追って来て……、霊災解決後に……」

 

「え?……横島さんが女性を?……あんなに美人な方を?」

確かに平塚先生は美人で、いい人ですが、ちょっと性格とか私生活に問題がありまして……

 

「はい」

 

「それで横島さんがあんな感じに……平塚先生の方は?」

 

「大分落ち込んでいますが、学校にはちゃんと来て授業をしてますよ」

 

「………そうですか……横島さんが……、私だったらとてもじゃないですが耐えられません……平塚先生は強いのですね」

 

「………」

やはりキヌさんは優しい人だ。平塚先生にも気を使ってる。恋のライバルと認識している相手に……これがもし美神さんだったら、高笑いしているだろうがな。

 

 

「でも…私から横島さんに何かしてあげられる事も……」

 

「まあ、それは仕方がないですよ。時間が解決するんじゃないですか?それに早かれ遅かれ、何れこうなったと思います。横島師匠は元々平塚先生と寄り添うつもりは無かったんです。平塚先生のためにも、この結果は良かったんだと、俺は思います」

 

「……比企谷君」

 

「横島師匠にはいつも通りでいいんじゃないですか?平塚先生は俺の方でフォローはしておくんで」

まあ、平塚先生も、男に振られ慣れてるから大丈夫だろう。……きっと。……いや、うん大丈夫なハズ。

 

 

俺は装備を整え、キヌさんは巫女服に着替えて、事務所を出発する。

キヌさんも俺も移動手段を持っていないから、自転車に乗り、現場まで……

巫女服姿のキヌさん、自転車に乗る姿はそのなんていうか、尊い。

そうこうしている内に10分程で現場近くに到着。

依頼先の店舗が入ってる5階建ての雑居ビルの前に立つ。

 

問題の相席居酒屋は4階・5階だ。

2階と3階は別の店舗で1階はコンビニだが、幽霊騒ぎの影響なのか、店は閉まっていた。

 

霊視をするまでもなく、雑居ビル周囲には霊圧が高まっているのを感じる。

それ程、強い霊気は感じないが、かなりの数の幽霊が集まってるようだ。

幽霊相手であれば、キヌさんの力が最大限に発揮されるだろう。

 

俺は改めて、相席居酒屋が入ってる4階と5階を見上げる。

……除霊仕事としてはそれほど難易度は高くはないだろう。

しかも対幽霊のエキスパートのキヌさんが横に居てくれているんだ。特に問題無いハズなんだが……何なのかは分からないが嫌な予感がする。

俺の霊感がそう警鐘を鳴らしていた。

 


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