やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。

前回の続きです。


(108)まあ、そんな事だろうと思った。

依頼現場の相席居酒屋が入ってる雑居ビルの4階、5階を見上げる。

幽霊が多数存在することは霊視でもわかる。

ただ、悪い霊気はあまり感じられない。

ほぼ無害な浮遊霊ばかりなのだろう。

除霊案件としては、それほど難しいわけではない。

しかし、なぜ浮遊霊が相席居酒屋にたむろするんだろうか?

いや、この場所が問題なのかもしれない。

とにかく、何となく嫌な予感がする。

 

 

「キヌさん、中の様子を見に行ってきます」

とりあえず状況を確認するため、先行して階段を登り4階の相席居酒屋の入口まで到着する。

さっきから、浮遊霊が次々と店に入って行くんだが……。

 

俺は霊気を抑え気配を消し、店の入口の鍵を開け、こっそり中の様子を伺う。

 

『半年前、近くの交差点で事故って死んじゃった麻美享年23歳でーす。』

『5日前、突発性の病気で死亡した正子享年32歳です』

『上司のパワハラで自殺しちゃって地縛霊になりかけた奏太享年25歳です』

『通り魔に刺されて死んじゃいました太一郎享年28歳です』

『今日は騒ぐぞーーー!!フィーバーだ!!』

……なにこれ?

浮遊霊が普通に合コンしてるんですけど。

しかも結構、死亡した状況が酷いんですが……なんでこいつ等こんなに明るいんだ?

 

しかも、あちらこちらで盛り上がってるし。

 

軽く霊視した感じ4階だけでも結構霊がいるな。ざっと70体位は居る。

しかも全員、合コンして騒いでるんだが……何ここ、幽霊のための相席居酒屋なの?

とりあえず俺は霊視を続ける。

 

4階には元凶となりそうな強い霊気を感じない。皆、何処にでも居るような浮遊霊ばかりだ。

ただ、合コンを楽しんでるだけで……

5階の方には、ちょっと強めの霊気が集まってる。場の霊圧も4階よりも高いようだ。

という事は幽霊が集まるなんらかの原因が5階にある可能性が高いという事だな。

しかし、この幽霊共はどうしたものか。ただの浮遊霊だからといってこのままここに留まり続ければ、場の霊圧がそのうち高まり過ぎて、ひょんな事から悪霊化する可能性もあるし、この霊達目当てに、悪霊や妖怪や悪魔などが集まる可能性だってある。

そうだからと言って、単なる浮遊霊だし無理矢理祓うのも気が引ける。

マジで楽しんでるだけだからな。場所が悪いだけで。

やはり、ここはキヌさんに任せた方が良いだろう。

キヌさんなら、幽霊たちを説得させて天に還す事が出来るだろうし、どこか迷惑じゃない場所に退去させてくれるだろう。

 

 

俺は一度店を出て、キヌさんと打ち合わせをする。

先ずはキヌさんに4階の浮遊霊達を任せて、その間に俺は5階の様子を見ながら原因を突き止める事にする。

そして、原因を突き止めた後、5階の浮遊霊達もキヌさんに説得してもらい、天に還してもらうなり、退去させてもらう。

 

早速、打ち合わせ通りの作戦に出る。

 

「皆さん、此処で集まるとお店の方にご迷惑がかかります。天に召される事を希望される方は私が帰します。まだ、現世に残りたい方は、地縛霊にならないように気を付けてお帰り下さい」

キヌさんに4階の合コンをやってる浮遊霊連中の相手をしてもらってる間に、俺は5階へと向かう。

多分殆どが天に帰るだろうな。キヌさんの神々しい霊気と言霊にあたれば、大概の霊は天に召されたいと考えてしまう。

キヌさんはマジで聖母だ。ハワイの女神様達よりも女神だよな。

美神さんだったら、浮遊霊も悪霊ごと祓ってしまう。

だが……

 

『巫女さんコスプレイヤーキターーーー!!』

『巫っ女さん!!巫っ女さん!!』

『クオリティ高!写メ取って良いですか!?』

『インスタ映えやばくない!?』

キヌさんがこの場に現れた事で、何故か盛り上がる浮遊霊達。

お前らテンション高まり過ぎだろ?

幽霊なのにインスタとかSNSとかできるの?

まあ、キヌさんに任せてれば大丈夫だろう。ちょっとアレだが。

 

 

そのおかげもあって、俺はその間に、浮遊霊達に気づかれないようにこそっと5階に上がると事が出来たのだが……

『男―――!!』

『若い男来たーーーーっ!!』

『私が頂くわーーー!!』

『私のよ!!」

女性の霊達が切羽詰まった形相でいきなり迫って来た。

 

俺は思わず札を取り出し、結界を張る。

女性の霊達は、結界に跳ね飛ばされる。

そのまま祓っても良かったんだが。

なんか、身近な人にこんな感じの人がいるんで、ちょっといたたまれなくなって……

 

『私達には男に触る権利も無いの?』

『しくしくしく、寂しいよ。ひと肌が恋しいよ』

結界に阻まれた女性の霊達は、項垂れ口々に嘆きだした。

 

「はぁ、あんたら何でこんなところに集まったんだ?」

何これ?まさか、いつものパターンの女バージョンってことは無いだろうな?

 

『寂しいのよ!!』

『男が欲しい!!』

『素敵な彼氏が欲しいの!!』

『結婚したいのよ!!』

『力強く抱きしめてほしいのよ!!』

なんか滅茶苦茶必死なんだが。

どうやら、願望はあるが生前に彼氏や結婚できなかった女性たちの霊達の様だ。

 

「だったら、下の連中(浮遊霊達)みたいに、合コンすればいいだろ?」

 

『な!?まともに合コン出来てたら、こんな女ばかりで集まってないわよ!!』

『そうよ!!私だけの王子様を待っていたら、いつの間にか行き遅れてたのよ!!』

『若い時に遊びまわって、いつ間にやら30になったら、周りに男が居なかったのよーーーー!!若い時はモテてたのに、30になったら見向きもしないなんて!!男なんて男なんて!!』

『生きてる時は悪い男ばかり、みーーーんな。私にお金だけ出させて、ポイ捨てにする!!優しい彼氏が欲しいのよ!!』

なんか、涙が出て来た。身近な人の未来を見ているようで……

 

「言い分は分かった。生前は辛いことがあったんだな。でも、あんたらはもう死んでるし、未練を残しすぎると悪霊になって悲惨な末路を迎えるだけだ。来世に期待して、天に召された方が良いと思うぞ」

 

『何?こんな私達を諭してくれるの?あんた、ゾンビみたいな目をしてるけど、いい男ね』

『やっぱそうかな。来世にはいい男と出会えるかな?』

『来世は若いうちにいい男引っ掛けて、結婚してやる』

ん?ゾンビは余計だが、なんか説得が成功っぽいぞ。

後でキヌさんに天に帰してもらおう。

 

「まあ、そうだな。……ふう、それはそうと、あんたらは何に魅かれてここに集まったんだ?」

 

すると独身女性の浮遊霊達は一斉に店の奥でひと際騒がしい女性幽霊達を指さす。

 

「やってられるかーーー!男なんて!男なんて!」

『アネさん、そ、そうですよね』

『お酒、お持ちしました』

『アネさん、男なんていらないっすよ』

『肩を揉みましょうか?』

 

あれ?……なんか一人だけ人間が混ざってるのは気のせいか?

俺は目を擦り、再度見直す。

 

どう見ても人間だよな。しかもよく知ってる人だし。

しかも、何か浮遊霊達を従えてるように見えるんだが……

 

うん。間違いなくあれが元凶だよな。

嫌な予感ってこの事だったようだ。

 

「…………」

 

俺はつかつかとその一団に近づく。

 

『アネさん、男っすよ!念願の若い男が来たっす!』

『アネゴ良かったですね』

『おい、あんた!アネさんの前に座りな』

「……え?男が?……どうせ、ふられるんだ。わっはっはーーーっ男なんてシャボン玉!」

『そんな事ないっすよ。男っぽいとか』

『必死過ぎて、男が逃げちゃうとか』

『男運が極端に悪いとか、そんな感じなだけで、姉さんは美人じゃないですか』

「え?……そうかな?」

 

……なに幽霊と小芝居やってんだこの人。

普通に浮遊霊と話してるし……

しかも、相手が幽霊だという認識が無い様だ。

なんか経緯が容易に想像できるんだが。

横島師匠に振られ、傷心のままふらりとこの店に入ったのだろう。

考えたくも無いが、色々あって、男の人に相手されなくて、こんな事に。

 

「……帰りますよ。平塚先生」

しかしまずいな。平塚先生自身、高霊能力者の横島師匠と接触が多かったり、幽体離脱したり、悪霊やらに遭遇する率が高かったら、平塚先生の霊力が高まってるみたいだ。元々素質があったのだろうが……。そのせいでちょっとした霊障体質になりかけてる可能性が高いぞ。

どうしたものか……。

 

「……ひ、比企谷?」

先生は俺の事をポカンとした顔で見上げる。

 

「行きますよ」

俺は先生を立ち上がらせるために、腕を取る。

 

「なななんでここに比企谷が?……こほん。此処は未成年が来る場所じゃないぞ。それに私をどこに連れて行こうとするのだ?大人をからかうのも大概にしろ」

親に悪戯をバレた子供のような慌てた顔した後、咳ばらいを一つして、真剣な顔をして俺に注意しだす。

もう、先生の醜態は見慣れたんで、今更取り繕っても俺の心象はかわりませんよ。

良くも悪くもですが。

 

「先生を迎えに来たんですよ」

とりあえず、先生をこの場から離さないと。

この場の霊気と霊力が高まった先生が発する陰鬱な気が共鳴し合ってる。先生はちょっとした霊障体質になりかけてるから、こんな事になりやすいのだろう。

そんで幽霊を呼び寄せてしまったらしい。

やはり、横島師匠とはもっと早く、別れさせた方が良かったのかもしれない。

俺の考えが甘かったようだ。

 

「え?……そそそ、そのだ。い、いいかん。君と私は生徒と教師だ。これ以上私に醜態をさらせと?離したまえ」

何を慌ててるんだ?何か勘違いしてるような。

 

「いいから行きますよ」

俺は強引に平塚先生を引っ張る。

 

「ちょ、比企谷、ご、強引ではないか?そ……そんなに手を強く引っ張られると……」

周りの幽霊共は、『アネさんに男が』『アネさんが大丈夫なら私もきっと』『これで私達も合コンできる』とか涙流しながら、道をあけてくれた。

なにこれ?浮幽霊にも同情されたり、気に掛けられたりする先生って……

しかも、何顔を赤くしてるんだこの教師は?

 

「い、いかん。いかんぞ比企谷。私とて教師なんだ。君の担任なのだぞ」

何か先生はわめいているが、気にせずに俺は先生を連れ、雑居ビルの非常階段から下に降りる。

ここで、平塚先生とキヌさんを会わすわけにも行かないからな。

横島師匠を振った理由は、少なからず、キヌさんの事も含まれてる。

かなり気まずいだろう。

 

階段を下りながら先生を家に帰らすためにタクシーを呼ぶ。

「た、タクシーでどこに?……」

家に送るだけですが?

 

続けてキヌさんにスマホで連絡し、平塚先生の名を今は伏せ、浮遊霊が集まった原因の人を、安全な場所へ移動させたと伝える。

 

タクシーを待ってる間に、相席居酒屋の浮遊霊達は、キヌさんによって、天に召されたか、退去させられたかで、もう霊気を感じなくなっていた。

流石はキヌさんだな。

 

手を引っ張ってる間、先生は俯き加減で顔を赤くしていたが、ここで先生に俺がここに来た経緯と事情を話しておいた。

「……私は、また勘違いをして……そのすまない。君に迷惑をかけたみたいだな。教師失格だ」

先生はさらに落ち込んだようだ。

 

「今は学校の外で、時間外ですよ。教師とか関係ないです。それに今の俺はGSとしてここに居るんで、たまたま知り合いが霊障の現場で鉢合わせただけってだけ」

 

「君は相変わらず捻くれてるなあ。でも今の私にはそんな君の心遣いが心にしみる」

 

タクシーで先生の住むマンションまで送った。

先生には俺自作即席のちょっとした幽霊除けの札を渡す。

霊障が進行しないようにだ。

 

今のうちなら、先生程度の霊障なら、しばらく霊などを遠ざければ、自然と治るだろう。

それよりもだ。彼氏云々の前に、先生には心の余裕を持ってもらはないと、根本的な解決にはならない気がする。

普段の先生なら、俺から見てもカッコいい大人の美女だからな。

後は、私生活改善か、これも心の余裕って所に影響してるのかもな。

 

余計なお節介なのかもしれんが、俺は先生にとある場所を紹介する事にした。

あそこなら、先生の悩みや心を癒してくれるだろう。

ただ、川崎には先に色々と説明する必要はあるが……

 

後日、俺は唐巣神父の教会を紹介した。

あの美神親子の師匠をやれたぐらい出来た人だ。

平塚先生程度はどうってことないだろう。

神父の教会の説法や導きなら、平塚先生も心が洗われ、心の余裕が出来てくるかもしれない。

 

……いや、決して押し付けたわけじゃないぞ。

俺じゃ、力不足もいい所だからな。

 




平塚先生……幸せにしたい。
次からは、GS関連の話になってきます。

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