やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(109)デートは慣れが必要。

5月第三週の土曜日

俺はこの日、美神さんから休みを貰う。

美神さんからかなりグチを言われたが、ゴールデンウイークの長期出張もあったし、今週末の仕事もそれほど多くなかったし、何よりキヌさんが美神さんを説得してくれたため、しぶしぶ了承を得る事が出来た。

今からこれじゃあ、俺が社会人になった時にはどうなるんだ?

有休とかとれるのだろうか?いや、無理だろうな。

超ブラック事務所である美神令子除霊事務所では、期待できるはずもない事は分かっているのだが……。

やっぱ、美智恵さんの誘いに乗ってオカルトGメンに入った方が断然良いよな、マジで。

……命が消えない方法で、オカルトGメンに入る事を真剣に考えてみたが、悪魔より極悪非道美神令子から逃げるすべを俺程度では思いつくはずもない。

もしかして、俺の人生詰んでるのではないだろうか?

……今から考えるのはよそう。俺の胃が持たない。

 

何故そこまでして休みを取ったかって?

雪ノ下と由比ヶ浜との約束を守るためにだ。

本来ゴールデンウイークに3人で遊びに行く約束をしていたが、急にハワイへの出張が決まって、延期してもらったからだ。

言っておくが、決してデートではないぞ。

ダブルデートでもない。3人だからな!

あ、遊びにいくだけなんだからね。

そのだ……告白される前だったら、3人で出かけるのはそこまで恥ずかしくはなかったんだが、その好意を面と向かって言われた後だと、そのだ、緊張というかだな。もう一杯一杯なんだ。なんかが爆発しそうなんだけど!

しかも、あいつ等普通にデートだと言ってくるわ!

雪ノ下と由比ヶ浜は俺が行きたいところだったらどこでもいいとか!

リア充丸出しイベントなんですけど、何これ?俺のキャラじゃないんですが!

ボッチだった俺はどこに行った!?

 

 

というわけでだ。雪ノ下と由比ヶ浜と東京わんにゃんショーにやって来た。

困った時のマイエンジェルシスター小町に相談したところ、此処を選んでくれた。

雪ノ下はネコ好きで、由比ヶ浜も動物好きだ。何よりここなら恥ずかしさが軽減される気がする。

流石は小町ちゃんナイスチョイス。

 

 

案の定、雪ノ下はネコゾーンで思う存分ネコを堪能してたし、由比ヶ浜も動物たちと触れ合って楽しそうだ。

まあ、何よりも俺も動物好きだからな、テンションは自然と上がってしまう。

 

ここは去年、俺がまだ奉仕部に入りたての頃、小町と出かけ、そこで雪ノ下と由比ヶ浜と別々に偶然居合わせた場所でもある。

由比ヶ浜は当時、俺と雪ノ下が偶然一緒に居たと事を目撃して、付き合っているのだと勘違いしていたらしい。……それでしばらくふさぎ込んでいたと。

そう言えばあの頃、由比ヶ浜は奉仕部にしばらく顔を出していなかったな。

その頃から、由比ヶ浜は俺の事が好きだったとか言われる恥ずかしイベントが発生。

なんか後からそう言う事を言われると、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど。

しかもそう言われると思い当たる節がいくつもあったような気がする。

俺が鈍感であったことが痛いほど理解した。

 

なんだかんだと雪ノ下も由比ヶ浜も楽しんでるようだし、これで穴埋めはできたはずだ。

それに、俺も結構楽しめた。

 

 

この後、東京わんにゃんショーの会場である幕張メッセ近くのアウトレットモールでちょい遅い昼食をとる事になった。

東京と冠しているイベントではあるが、会場は実は幕張メッセだ。歴とした千葉県内、しかも千葉市美浜区にある。

東京ディズニーランドも所在地は千葉県ではあるが、浦安市の臨海部、東京の真隣であるから、まあ、東京を冠するのはギリギリ許してやろうという気にはなるが、幕張メッセで東京とかどうなんだ?お隣の東京都江戸川区からかなり離れてる。

せめて東京湾わんにゃんショーだったらわからんでもない。確かに東京湾の湾岸にあるからな。

千葉でありながら東京と名乗りたいという思いは、千葉県民の大東京への憧れの表れなのだろうか?

千葉にも東京に負けていないものがあるぞ。面積とか、落花生とか……

まあ、それはおいといてだ。

もっと千葉(地元)に誇りを持って良いのではないのかと思う今日この頃である。

 

 

アウトレットモールへ移動し、由比ヶ浜お勧めのパンケーキとオムライスが美味しい喫茶店に入り昼食をとる。

由比ヶ浜は、幾重も積み重なった斬新な盛り付けのパンケーキをスマホでパシャパシャ撮っていた。

インスタ映えってやつだろうな。

確かに、オムライスは美味しかったが、この斬新過ぎる盛り付けはともかく量が多すぎだろ?インスタ映えがメインじゃないのか?

「う~、もう食べれない」

由比ヶ浜、多分それは一人で食べる奴じゃないぞ。そのパンケーキの量は数人で食べるもんじゃないのか?

 

「ヒッキー、あーん」

由比ヶ浜は何を思ったのかフォークに刺したパンケーキを俺の口元に持ってくる。

 

「いや……いいし」

なんで恥ずかし気もなくそんな事をやってくるんだ?

 

「え~~、ヒッキー男の子だから、まだ食べれるよ」

いや、そう言う問題じゃないんだが……公衆の面前でやめてもらえませんでしょうか?

ただでさえ、雪ノ下と由比ヶ浜は目立つ、喫茶店に入ってから若い男連中がチラチラこっちを見てるってのに、恥ずかしいんだって。

 

「由比ヶ浜さん、流石にそれはマナー違反ではないかしら?」

ナイスフォロー雪ノ下。助かったぞ。

 

「だったらゆきのんも」

 

「え?その……だ、だめよ。その、まだ流石に恥ずかしいわ」

雪ノ下は一瞬フォークを握ったが、顔を少々赤らめさせ直ぐに離した。

おい雪ノ下、一瞬お前もやろうとしただろう。

 

「え~~、やろうよ」

 

何かないか?……周りの男どもの視線が痛い。

何か回避する方法は……

 

「余ったケーキは持ち帰りが出来るらしいぞ。帰ってから食べればいいんじゃないか?」

俺は起死回生の方法を見つけ、テーブルに持ち帰り可能と書いてあるメニューたてを指さす。

 

「ヒッキー、意地悪だ!」

 

「勘弁してくれ」

なにこのリア充イベント。

俺には無理だ。

世のリア充共はこんなの事を極普通にやってるのだろうか?

 

「そ、そうね。その人のいないところで……」

雪ノ下は少々赤らんだ顔をそむける。

……どうやらこの恥ずかしいイベントはいつかはやらないといけないらしい。

 

 

喫茶店を後にし、アウトレットモールに買い物に行く前に、由比ヶ浜と雪ノ下はトイレへ行く。

俺は通路の柱の前に置かれたベンチに腰を掛け、待つことにした。

 

ふぅ、わんにゃんショーの会場の中では俺も動物に夢中で気にはならなかったが、やはり男共の視線が痛い。

そりゃそうだ。雪ノ下と由比ヶ浜は誰が見ても美少女だ。そんな二人の横に俺みたいな冴えない男が居れば、男共の視線も鋭くもなる。

 

こいつ等と付き合うという事は、今後もそう言う事なのだろう。

今の時点では俺は明らかに釣り合っていないのは分かっている。周りからそう見られている。

彼奴らの思いに応えるためにも、せめて、そう思われないような男にならないといけないという事か……

それってどうしろと言うんだ?この目を整形とか?

なかなか先は厳しい。

 

ふっ、俺は不意に自分の今の思考に苦笑していた。

前までの俺だったら、なんで俺みたいな奴と付き合うんだとか、考えていただろう。

ちょっとは成長したという事なのだろうか?

それとも、単にこの状況に慣れてきたという事なのだろうか?

何れにしろ俺も、変わってきたという事なのだろう。

 

ベンチに座りながらそんな思いに更けていたのだが、あいつ等トイレに行くと言って結構時間が経ってるぞ。トイレが混んでるとか?それともトラブルか?

 

俺は立ち上がり、自然と二人の霊気を探っていた。

 

ん?……なんか、数人の男に足止めを食らってる感じだぞ。

俺は雪ノ下と由比ヶ浜の周りに男共の気配を感じる。

……ナンパだなこりゃ。

しかも、こいつ等……

 

 

俺は雪ノ下と由比ヶ浜の霊気を感知した場所へ向かう。

 

「君たちかわいいね」

「ねえ、君達僕たちと今から遊びに行かない?」

 

「………」

「いえ、友達がまってるので」

 

案の定、雪ノ下と由比ヶ浜は6人の男共にナンパされ、足止めを食らっていた。

雪ノ下は無視を決め込み、由比ヶ浜は苦笑いをしながら断っていた。

 

尚も男共は食い下がる。

「じゃあ、その友達も一緒にね」

「俺達こう見えても、GSなんだぜ」

「ちょっとしたスリルも味わえてきっと楽しいよ」

「俺たちの全部奢りだよ。なんていったってGSだから、お金にはこまらないしね」

 

なんかGSをネタにナンパしてるんだが……

なにそれ?GSって自慢できるほど、モテる職業だったか?確かに上位のGSは儲かるけどな。他の職業に比べて命の危険は高いし、何より、気味悪がられるのが落ちのような気がする。

それは置いといてだ。カタリでナンパしてるわけじゃなさそうだ。

こいつ等全員、霊気は霊能者のレベルに達している。

遠目でこいつら全員霊気が高い連中だと思っていたがGSか……、

本物のGSがGSをネタに何ナンパしてるんだ?

はぁ、そんなんだから、世間からGSが怪しい連中にみられるんだ。

横島師匠でもGSをネタにナンパなんてしないぞ。

ああ見えて、横島師匠は自分自身を包み隠さず全面に出してナンパを敢行する。

いっそ、その方が清々しい様に思う。

まあ、それだからってナンパが成功するわけでもない。

包み隠さず下心丸出しのナンパしかできないから、ほぼ99.99%失敗するのだが……因みに後の0.01%の成功は平塚先生の事だ。

 

 

「この二人は俺の連れなんで……」

俺は頭を下げながら、男連中の前にでる。

面倒臭い事にならない内にとっととこの場を去るに限る。

 

「おっ?一瞬ゾンビかと思ったが、人間か」

「なんだ?ゾンビみたいな目をしやがって。しゃしゃり出て来るな!」

「俺達が先にナンパをしてるんだぞ。ゾンビ男」

「なにカッコつけてるんだ?ゾンビ男」

「お前みたいなゾンビ男がこんなかわいこちゃん達の連れなわけないだろ?」

男共は俺に口々に文句を言ってくるんだが……やはりゾンビか……俺はそんなにゾンビに似ているのだろうか?霊能者からは悉く初見でゾンビに間違えられるのだが……

やはりこの目か……俺にどうしろと言うんだ!

 

「比企谷君、行きましょ」

「ヒッキー、来てくれてありがとう。行こっ!」

雪ノ下は俺の左腕を、由比ヶ浜は右腕を取り、そのまま男連中から後ろを向け去ろうとする。

 

「お、おい」

ちょ、恥ずかしいんだけど……

恥かしいが効果的かもしれない。これだけ見せつければ、ナンパGS連中も諦めてくれる可能性が高い。

 

しかし、ナンパGS連中は諦めずに、6人中の5人に囲まれる。

「待てって、君たちはそのゾンビに騙されてるんだ!」

「今から、ゾンビを退治して助けてあげるよ」

「さあ、ゾンビめ!覚悟!」

ワザとらし言い回しで俺達を遮る。

俺が人間だと分かって、ワザと言ってやがるな。

ふぅ、どうしたものか。

なるべく争いごとは避けたい。

横島師匠ならこの場を一発ギャグで乗り切れるだろうが、俺には無理だ。

いっそ、俺のGS免許を見せるか?

いや、それも余計面倒なことになるかもしれないし……

まあ、アレだ。

何時もの美神令子事務所流で行くか。

俺はふぅと深呼吸をする。

 

 

「あああっ!!あんなところにGKB48の前田貞子が!!!!」

俺は連中の後ろの方を指さし、驚きの表情を作りながら、今を時めくアイドルの名前を大声で叫ぶ。

 

「おおっ!まじか!?」

「俺ファンなんだよ!?」

「どこだ!どこなんだ!!」

連中は一斉に振り返り、居るはずもないアイドルを探す。

思いっきり俺のブラフだ。

美神さんがやるとなぜか悪魔でも騙す事が出来る。もはや必殺技と言っていいだろう。

 

俺はその間に、雪ノ下と由比ヶ浜の手を引っ張りその場をそそくさと去り、アウトレットモールの外の広場まで、周りに怪しまれない程度の早歩きで脱する。

 

「え?ヒッキー、前田貞子どこ?」

由比ヶ浜はこんな事を俺に聞く。なんでお前も騙されてるんだ?

 

「もう、大丈夫そうね」

雪ノ下は息を上げながらホッとした表情をする。

 

「いいや、そうでもない。あんたは一人で何の用だ?」

俺は振り返り、不機嫌そうな男に声をかける。

ナンパGS連中の中で一言も発していない男が俺たちの後ろについてきていたは分かっていた。連中の中で一番霊気内包量が高い奴だ。

 

「そんな手では俺は騙されないぞ。美神令子除霊事務所の比企谷」

一人騙されなかった奴がいるか、美神さんや横島師匠のようにはいかないか。

しかもどうやら、そいつは俺の事を知ってるようだ。

 

「人違いじゃないすか?知らない名前ですね」

俺は雪ノ下と由比ヶ浜の一歩前に出て、そいつと対峙する。

一応、とぼけてみるが、こいつは確信を持ってるようだ。

 

「そんなゾンビみたいな目の奴が、他に居るかよ。去年秋のGS免許取得試験でお前を見たからな」

 

「で、あんたは誰だ?」

完全にバレてるな。あの試験会場にいたのかよ。受験者だったのかもしれないが、直接対決した奴じゃないな。見覚えが無い。

 

「不勉強だな比企谷。それとも調子に乗ってるだけか?俺は2年前のGS免許試験の優勝者の安田勤、GM事務所所属のな」

20歳過ぎの安田と名乗ったそいつは、俺を睨みつける。

2年前ということは、キヌさんがGS免許取った時の優勝者か。そりゃそこそこの霊力を感じるわけか。

しかもGM事務所か、結構大手だぞ。関東では3番目ぐらいか。人数も30~40人の霊能者を擁してるらしい。

 

「で、その安田さんは俺に何の用ですか?」

それにどうやら追いかけてきたのは、ナンパの為じゃなさそうだ。俺に用があるらしい。

 

「ふん。女二人連れで余裕だな。来週にはランクが懸かった能力テストがあるというのにだ。若手のホープだとかもてはやされてるようだが、そんな甘い物じゃない。今度の能力テスト精々がんばんな。俺ももちろん出る。お前を見つけたら真っ先に潰してやるよ。ふん、だが俺が手を下す前に、他の連中に叩かれるだろう。出る杭は打たれるものだ……それだけをちょっと言ってやろうと思ってな」

 

「ご忠告ありがとうございます」

 

「ふん、気に食わない奴だ」

そう言って安田は、不機嫌そうなまま去って行った。

 

 

「何か嫌な感じ!」

由比ヶ浜は安田の後姿に、悪態をついていた。

 

「比企谷君、今度の能力テストは、対人戦なのかしら?」

雪ノ下は俺に質問をする。さっきの奴と俺との会話を聞いていたらそう思うよな。

 

「……はぁ、なんかそうらしい。急に決まった」

 

「ヒッキー、さっきの人と戦うの?」

由比ヶ浜は心配そうな顔をする。

 

「まあ、そうなるかもしれないが、そんなに厳しいもんじゃない。……そんな事より、千葉に戻って買い物の方が良さそうだな。さっきの連中にまた出会うのもアレだしな」

 

幕張のアウトレットモールを後にし、千葉駅まで戻り、2人の買い物に付き合う。

途中にイレギュラーは有ったが、2人ともそれなりに満足してくれたようだ。

その日はそのまま別れ、家路につく。

 

俺は安田とかいう人との会話を思い出す。

もしかして、俺って業界内でも知られているのだろうか?

一応、去年のGS免許取得試験で準優勝はしてはいるが、優勝者は陽乃さんだしな。

美神さんや横島師匠の知り合い以外のGSとはあまり交流が無いから、自分自身の業界内での噂や知名度なんてものはよくわからない。

千葉在住のGSは幾人かは知ってるが。

 

出る杭は打たれるとかなんとか言っていたが……まさかな……。

 




うまいタイトルが思い浮かばない。
次回、若手能力テストのバトルロイヤルが始まります。

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