やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
京都修学旅行編開始です。
⑪修学旅行は京都
修学旅行当日
千葉駅から東京駅は在来線で、東京駅からは新幹線で京都まで。
新幹線の座席は同じ班同士で座る。
俺と戸塚は葉山たちのグループの同じ班だ。三浦達のグループと隣合わせになり、彼奴等は3人座席を対面にし座っている。
そんな奴らを余所に俺と戸塚は2人席で大人しく座っていた。
これはラッキーというものではないだろうか、なんか京都に行くと俺に不幸が訪れるとか占いにでていたが、それは間違いだったのではなかろうか?今はその逆だ……いや、まてよ。まだ京都についていない。静岡あたりだ。ということは今は不幸の範疇外……今のうちに幸福を味わえということではないだろうか………
戸塚はいつの間にか寝息をかいていた。
寝顔はとても男に見えん。天使だ。なんで神は戸塚を男に生まれさせたのだろうか?これは俺へのあてつけなのだろうか?いや、戸塚が女だったならば、これだけ親しくなれなかっただろう。
だから、これは神の祝福なのだ。
俺は戸塚の寝顔を見ながらそんな訳がわからない事を考察していたのだが………
「ヒッキー!富士山!!富士山が見えるよ!ほら!」
急に戸塚との2人席の通路側に座っている俺に由比ヶ浜がのしかかる勢いで、窓の外を覗き見る。
………ちょ、身体あたってるから、あっちこっちあたってますよ由比ヶ浜さん。なんでそんなに無防備にスキンシップしてくるんだこいつは、勘違いしてしまうからやめてくれ!
「……富士山だな」
由比ヶ浜の2つの富士山も俺の肩にあたってるって、挟むのやめて!
「ヒッキー、外、外見てよ!何処見てるし!」
一応富士山だが………いかん。自制心だ。自制心を保て………
……横島師匠だったら、こんなときにどうするのだろうか?
きっとこうだろう。
(いかん。顔に出したらいかんのだ。気持ちいい。とてつもなく気持ちいいが今は顔に…………ああっ!!しまったーーー声に出てた!!ガフン!!)
きっとこんな感じだな。
ふぅ、なんか落ち着いた。
「由比ヶ浜、重たいぞ。富士山見たかったら席代わってやろうか?」
「お…重たくないし!ヒッキーのエッチ!!」
なに言ってんのこいつは、もはや当たり屋の理論だな。
自分からスキンシップしといて、被害者ヅラするとは………
「俺はトイレに行ってくるから、そこに座っておけ、この席からだと富士山はしばらく見れるぞ」
「うーー、ヒッキーと見たかったのに!」
俺はそんな由比ヶ浜を余所に、客車からでてトイレに向かうと、不意にスマホがなる。
新幹線でも繋がるんだな………
?誰だ。知らない電話番号だ。
「比企谷ですが………」
取り敢えず出てみる。
『やっほー、比企谷くん?わたし』
最悪だ………この声は
「………なんで、俺の電話番号知ってるんですかね。雪ノ下さん」
『ん?妹ちゃんに教えてもらったの』
小町ちゃん?何度も言ってるでしょ。知らない人に電話番号を教えてはいけません。
というか、いつの間に小町と知り合いになってるんだこの人は?
怖いんだけど……
「……で、何のようですか?俺は修学旅行中なんですが?」
『知ってるよ。雪乃ちゃんのスケジュール表。確認したし』
……なにこのシスコン。もしや、雪ノ下の手帳とかを勝手に見てるんじゃないだろうな?
そんなことがバレたら嫌われるぞ。
「……忙しいんで要件を手短に願います」
今直ぐ電話を切りたいが、絶対後で面倒くさいことになるに決まっている。
『明日デートしよ!』
「………何を言ってるんですか?俺は京都で修学旅行中なんですが?」
「知ってるよ。明日自由時間なんでしょ?」
隣車両の自動扉が開くと同時に生の声が響く。
「!?」
「こういうことだから、大丈夫よね」
眼の前にスマホを耳に、俺に意味ありげな笑顔を向ける陽乃さんがいた。
「………さ……最悪だ。なんでここに居るんですか雪ノ下さん」
「比企谷くんとデートするためよ」
陽乃さんは当然だと言わんばかりに言う。
「………冗談はよしてください」
くそ、相変わらず何考えているのかわからん。
「冗談じゃないんだけどな」
「で、なんの目的でここに居るんですか?わざわざ俺をからかいにって事では無いでしょうに」
「そんな事言う比企谷くんはつまんなーい」
「………………」
俺は無言で陽乃さんを見据える。
「わかったわよ。土御門本家に戻るところよ。本家は京都嵯峨野だからね」
「………わざわざ同じ新幹線に乗ったのは?」
「面白そうだから」
「………勘弁してください」
はぁ、土御門本家に戻ることはおそらく事実だろう。この時間の新幹線にわざわざ乗ったのは、俺か雪ノ下をからかうためか。マジでタチが悪い。
「ボッチだなんだって言ってたあの比企谷くんが実は霊能者ってだけでも驚きなのに、この私を追い詰める程の実力者なんて面白いじゃない。そんな君が学校クラスメイトの前ではどんな顔をしてるのかなって、気にならない方がおかしいじゃない?」
「ああっ、ちょ、ここでその話は………」
誰かに聞かれたらどうするんだよ。俺はクラスや部活の連中には秘密にしてるの知ってるだろ?
「明日デートしてくれるよね?」
陽乃さんは満面の笑みで言った。
これは明らかに脅しだ。
クラスの連中が居るここで、GSだとバラされたくなくば、明日付き合えということなのだ。
デートというのはオブラートに包んだ言い方だが……実際は俺に対しての尋問だろう。
この人は興味がある人間に対しては執拗にかまってくるのだ。
「………短時間だけなら」
くそ、完全にこの人のペースかよ。
尋問にしては手が込んでいる。
最初から俺を何らかの理由で誘い出すつもりで、こんな手を使ってきた可能性が高い。
それが何なのかはまるでわからないが、もっとも効果的に脅しが効く場所とタイミングをはかり、俺が従わざるを得ない状況を作ったのだ。
そのよく回る頭を別の事に使ってくれよ。もっとなんだ、世界平和的なやつに……………
「大丈夫、大丈夫。明日の13:00にここに来てね」
陽乃さんは、俺のスマホに住所が書かれたショートメールを送ってくる。
「………………」
俺は無言の了承をする。
「じゃあね~。雪乃ちゃんによろしく!」
笑顔のまま、元の車両に戻る陽乃さん。
………最悪だ。もしかして、占いの、死ぬほど大変な目に遭うって、このことじゃなかろうか?
まだ、京都にも着いてないんだが………先が思いやられる。
「ヒッキー……今の人……ゆきのんのお姉さんの陽乃さん?」
由比ヶ浜が陽乃さんと入れ違いで、俺の元に来る。
「ああ、なんか京都に用事があるんだと」
「ヒッキー、陽乃さんと何話してたの?」
俺は内心ホッとする。さっきの会話を聞かれたわけではないようだ。
「いつもの、面白半分のからかいだ」
「……ならいいけど」
「で、由比ヶ浜もトイレか?」
「違うから!ヒッキーが遅いから、もう富士山が見えなくなったし!」
由比ヶ浜はぷりぷりした表情で俺にうったえる。
「はぁ、そんなので呼びに来たのかよ」
「だって!」
「帰りも見れるだろ」
「ヒッキー!絶対だからね!」
由比ヶ浜は恨めしそうに俺に言う。
なんなんだ?全く。
「はいはい、わーったよ」
総武高校2年生一行の本日のプランは夕方まで学年全体の団体行動だ。
京都駅に到着し、そこから先ずは在来線で宇治の平等院に見学に行った。
俺は戸塚や葉山、三浦グループと行動を共にしているが……ついボッチの習性で自分一人の世界に入ってしまった。
俺は平等院鳳凰堂の佇まいに当時の人間の美意識に感銘を受ける。
……何処かで、騒ぎが起きる。痴漢がでたとかなんとか……誰だ。美を楽しんでいる最中にそんな無粋な事を行うやからは!
その次に、貸し切りバスで清水の舞台で有名な清水寺へと向かう。
清水の舞台から見る京都の景色と町並みに、歴史を感じ、そのロマンに浸る。
……何故か、ここでも騒ぎが起こる。のぞきがでたとかなんとか……誰だ。人が当時の過去のありし風景に思いを馳せている最中に、そんな低俗な犯罪を行うものは!
その後、智積院、三十三間堂、京都国際博物館、豊国神社へと………
俺はそれらを堪能しながら、戸塚に少々講釈をたれてしまったが、戸塚は笑顔で「八幡は物知りだね」と褒められる。……なんだこれ、俺と戸塚付き合ってるの?いやいや、戸塚は天使だが男だ。
いやいや、いっそ戸塚を女にすれば問題ないはずだ。霊能で男女変換出来ないものだろうか?
その間、由比ヶ浜は頑張って、戸部と海老名さんを二人っきりにさせようと四苦八苦するが、全て空回りに終わる。
「由比ヶ浜、戸部と海老名さんが気になるのはいいが、お前自身が修学旅行を楽しまないでどうする」
「え?ヒッキー?あたしのこと気にかけてくれてるの?」
「折角の京都なのにだ。勿体無いだろう」
「ヒッキー、……ありがとう」
そして、京阪三条駅まで貸切バスで向かい。
一時間程の自由時間だ。四条河原町周辺で貸切バスが待っている手はずだ。
そこからホテルに向かい夕食となる。
戸塚はテニス部の連中と約束していたらしく、俺は1人、三条寺町にある本能寺へと向かうため、三条大橋を渡るのだが……何故か由比ヶ浜が俺についてくる。
「由比ヶ浜、三浦達と一緒でなくていいのか?」
「うん。さっきまでずっと一緒だったし、ヒッキーと回って見たいし、さっきヒッキー言ったじゃん。折角の修学旅行だから楽しまないとね」
そう言って由比ヶ浜は屈託のない笑顔を俺に向ける。
なんだ?由比ヶ浜ってこんな感じだったか?いかん。勘違いしてはいかんのだ。由比ヶ浜は誰にでも優しい。俺一人に向けられている笑顔ではないのだ。
「……まあ、好きにしろ」
「うん、好きにする」
三条大橋を渡り、三条通り商店街に入ると………
「そこの京美人のお姉さ~ん!!ボク、横島!!あっちのおしゃれな喫茶店でお茶でも飲まない!?」
「あ!?そこの着物姿が似合う彼女~!!ボク、横島!!川沿いのそこの喫茶店でボクとデートしない!?」
超聞き覚えがある声が、前方で聞こえるのだが…………
「ヒッキー、なんか変な人がいる。ナンパ?なのかな」
由比ヶ浜は俺の袖を引っ張って、恐恐聞いてくる。
うん、変な人だ。超変な人だ。でも………その変な人は俺の師匠であって、俺はその弟子なんだ。
てか、なんで居るんだよ!こんなところに!出張じゃなかったのかよ!横島師匠!!
こ…ここは、他人の振りだ。超他人のふりだ。俺は横島忠夫なんていう変態は知らない。ナンパ成功率0パーセントのゼロの横島なんていう人物は知り合いでも何でも無いのだ。
ちなみに俺は横島師匠がナンパを成功させたところを見たことがない。
差し詰め、横島師匠のナンパは針の無い糸で釣りをしているようなものだ。
そんなもの、だれも引っかかるはずもない。
「さ、さあな、関わると厄介だ。本能寺はこっちからでも行ける」
俺はそう言い聞かせながら、脇道にそれようとするが………
「そこの黒髪ロングの超かわいい女子高生!!ボク、横島!!そこの喫茶店でお茶でもしよう!?」
声をかけたのは黒髪ロングの美少女女子高生ではあるが、氷の女王様だ。
おいーー!!師匠!!誰に声かけてるんだ!!それは駄目だ!!
「ヒッキー、あれゆきのんだよ。助けてあげないと」
そう、横島師匠が声をかけたのは、1人で三条商店街を歩く雪ノ下雪乃だ。
って、助けろって言うが、知り合いだとバレてしまう。これ以上無い身内だと!
そこに後ろから天の声がかかる。
「どうした比企谷?由比ヶ浜もいっしょか」
「先生!ゆきのんが………」
生活指導の平塚静教諭だ。
見た目かっこいい美人だが中身はほぼ親父。熱血アニメ大好きの体育会系で、結婚願望が高すぎて空回りする三十路の残念美人だ。
それならば!
「平塚先生……雪ノ下があのナンパ男に付きまとわれてるようなんで、助けに行ってください」
まあ、正直雪ノ下なら、しつこくされても無視して通り過ぎるだろう。横島師匠もあまりしつこくするタイプではない。だから、ほおっておいても、大丈夫なのだが……
平塚先生は、その後がない感を醸し出し、結婚願望丸出しで、しかもあの親父のような中身のため、男が寄り付かない。
というか、男が針に美味しい餌を垂らして待っていたとしても、それを針ごと噛み切ってしまうのだ。
「なに?うちの生徒がナンパにさらされているだと、うらやま……全くけしからん」
平塚先生は横島師匠にナンパをされる雪ノ下の方につかつかと早足で近づいていく。
すると…………
「あっ、そこの大人の雰囲気を醸し出しているハクい美人のお姉さん!!ボク、横島!!そこの喫茶店で大人のお話をしませんか!?」
そう、横島師匠は雪ノ下をナンパ失敗とし、近づいてきた平塚先生にターゲットを移したのだ!
「え?わたし?」
平塚先生は急に自分がナンパされたものだから驚いたようだ。
「そう!大人の格好いいお姉さん!!」
「そ、そんな……こ、困ります」
なんか針のない釣り糸にこの人、引っかかったんですが………
平塚先生、顔を赤くしてもじもじし出したぞ。もしかして、打つ方は慣れているが、打たれ弱いとか…………
俺は由比ヶ浜と一緒に雪ノ下の元に駆け寄る。
「ゆきのん」
「おい、行くぞ」
「ふたり…なのかしら?」
俺と由比ヶ浜をまじまじと見る雪ノ下
「いいから、行くぞ」
俺は横島師匠と平塚先生の2人が会話する姿を尻目に、雪ノ下を促し足早にこの場を去る。
…………もし、このナンパがうまく行って、平塚先生と横島師匠がくっついたら、俺は平塚先生をなんて呼べば………師匠の奥さんだから……あねさん?ねえさん?
それよりも、なんでここにいるんだ師匠は?
……後で電話してみるか………
俺たち3人は逃げるようにし本能寺の前まで来る。
「ゆきのん…大丈夫だった?」
「え?ええ、あの品性のないナンパの事?」
「うん」
「ナンパなんていつもの事よ。わたし、かわいいから。でも、あんなにひどいナンパは初めてよ。なんなのかしら、知性も品性のかけらもない原始人以下よ、あんなのに引っかかる人なんているのかしら」
なに自分でかわいいとか言ってるんだこいつは……確かに見た目は美人だが自信過剰すぎませんかね。
それと俺がディスられているわけではないがへこんでくる。品性も知性も無い人。それ俺の尊敬する師匠だから………しかも、平塚先生が引っかかりそうになってたぞ。
「そ、そだな」
「……2人は………私、お邪魔かしら」
雪ノ下は俺と由比ヶ浜を見て、俯き加減でそんな事を言ってくる。
「え?全然そんな事無いよゆきのん!今日ちゃんと観光してなかったから、どっか見に行こうとするヒッキーの後についてきただけだから」
「ああ、今から本能寺にな……で、雪ノ下は」
「そうだったの……私も本能寺よ。班の人たちはお土産を買いに行くらしいから、別行動で………」
雪ノ下はなぜかホッとしたような表情をしていた。
「じゃ、いっしょだね。ゆきのん!」
由比ヶ浜はじゃれ付くように雪ノ下の腕をとる。
3人で本能寺の観光をすることになった。
中の博物館では三本足の蛙などが展示されている。
雪ノ下は由比ヶ浜に説明しながら展示物を見て回る。俺はその後ろを歩くスタイルだが……2人は楽しそうだ。
「ヒッキー、写真!」
「おう、カメラ貸してくれ」
「ヒッキーも!3人で撮るの!」
「俺はいい。誰が撮るんだよ」
由比ヶ浜は近くに居たカップルにカメラを渡し撮してもらえるよう頼む。
由比ヶ浜は無理やり俺と雪ノ下の腕をとり、由比ヶ浜が真ん中で本能寺をバックに並んで写真を撮ってもらう。
その後、俺が真ん中、雪ノ下が真ん中の写真も撮ってもらった。
由比ヶ浜は終始笑顔を絶やさない。
雪ノ下は少し困ったような顔をしていた。
この後、寺町通り歩き、和紙の店や、香や墨の店などを周り、バスまで戻る。
しかし、流石は京都、古くから魑魅魍魎や神や鬼が数多く現れたとされる都。ところどころ霊圧を感じる場所があった。そんな連中が封印などが施されているのだろうか?
それにしても、まじ俺の師匠はなんでここにいるんだ?
まあ、美神さんが出張によこしたぐらいだから……仕事なんだろうが………
途中、おちゃらけた事をするが、なんだかんだと師匠は、最後にはきっちり仕事終わらすからな。
京都で仕事か……嫌な予感しかしないんだが………
京都修学旅行編始まりました。