やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(110)若手能力テストバトルロイヤル開始

5月最終週の日曜

山深い温泉地にほど近い、GS協会が管理している訓練施設に来ている。

この施設は元々、美神さんが陽乃さんを陥れる為だけに買った廃業した温泉旅館とその周囲の山々を擁する土地だ。

それを今はGS協会とオカルトGメンが協力して、温泉旅館を室内訓練施設と宿泊施設に改装し、周囲の広大な山野の土地を利用したゴーストスイーパー用の野外訓練施設へと改修し運営してる。

 

そして今日、この野外訓練施設にて、GSランク査定に反映されるCランク以下の25歳以下若手対象能力テストが行われる。

能力テストと言っても、かなり実戦的な方法だ。

野外訓練所の山二つ分の広大な土地を使って、バトルロイヤル方式で霊能バトルを行うのだ。

但し、優勝者や順位を決めるものではなく、飽くまでも参加者の能力を測るのが目的なため、制限時間を設けてある。

GS免許資格試験の一対一の対人戦闘とは異なり、かなり実戦に近い形だ。どうしてもタイマン形式の対人戦闘は向き不向きがある。霊能は何も単純な戦闘だけが能ではない。キヌさんが良い例だ。キヌさんは精神感応系の霊能が優れ、言霊を自由に操れる。さらにヒーラーとしても超一流。そしてネクロマンサーという世界に3人としかいない特殊霊能も持ち合わせている。アンデッド系の相手ならば無類の力を発揮するのだ。

だが、キヌさんは一対一の対人戦闘には向いていない。GS資格試験もギリギリだったとか。

このバトルロイヤルであれば、対人戦闘用のスキル以外にも、色々とやり様がある。

術式による罠を仕掛けたり、相手を幻惑させ体力を消耗させたり、見つからないように身を潜めやり過ごしたりと……

今回は飽くまでも、若手の能力を見る事が目的ではある。まあ最低限、制限時間までに生き残っていないとプラス査定にはならないだろうが。

 

その能力テストに、今から俺とキヌさんも参加することになっている。

俺もキヌさんも本来参加しなくとも、通常業務報告の審査でランク昇進はほぼ確定らしいんだが、ある目的のために参加しているのだ。

この能力テストを企画したGS協会とオカルトGメンには裏がある。

表向きは確かにGSランクの査定のためのテストだが、去年から数々の霊能テロ事件を引き起こしている愉快犯的な犯人、若しくはその関係者がGS協会員の中に居る可能性があるとして、あぶり出すための物だった。

これまでの犯行を見るに内部情報が洩れている可能性が高く、身内に犯人の協力者か犯人自身が居る可能性が十分に考えられるということなのだ。

そして、内部協力者なり内部に潜む犯人の関係者に、怪しまれず内部調査をするために仕組んだのが今回の能力テストだった。

俺とキヌさんの役割は要するにGS内の裏切り者を探す内偵だ。

俺とキヌさんは能力テストに参加し、バトルロイヤル中に、怪しい奴を調べる役割を担っている。

無論、美神さんや美智恵さん達も、外部から目を光らせているが、俺の霊視能力で直接確認することが肝となる。

 

 

 

続々と能力テストの若手参加者が集まって来た。

GS免許資格試験の時もそうだったが、参加者の服装はバラエティーに富んでいる。

仏教や密教系は坊さんのような恰好だし、神道系はキヌさんみたいな巫女服、陰陽師系の式服、ミッション系は修道服だったり、はたまた道着だったり、軍のスニーキングスーツみたいなものを着てる人も居る。普通にビジネススーツ風の人もいる。

俺はというと普段着とあまり変わらない物を着てる。まあ、そんな人もそこそこ居る。

まるっきり普段着というわけじゃない。多少術式を施して、対霊能や物理攻撃耐性などを付与させているが、いつもよりも耐久力を落としたものだ。

 

この能力テストでは、防御クラスCの物までしか着用が許されてないからな。

 

まあ、金を積めさえすれば、防御クラスSとか、ロケット弾を跳ね返したり、落雷を無効化したりとかできる霊能グッズがある。

今回の能力テストでは純粋に能力を測るために、服装装備は防御クラスCの物までと限定したのだろう。

 

俺も普段は呪術や魔法などを受けにくく、物理的な衝撃も軽減させる特殊素材でできた、今着てる奴よりもクラスが高い仕事用の服を着ている。

 

美神さんのボディコンスーツも最高素材で作られたものらしい。

なんか、妖刀も切れないような特殊セラミックのインナーも着てるのだとか……

あの人、世界が滅んでも、自分は生き残る気満々だな。

そういえば、横島師匠の服って、どう見ても普通の服だよな。

まあ、あの人、落雷が落ちようが、刀で切られようが、へっちゃらそうだけどな。

怪我しても3秒で回復するし。

 

「比企谷君、頑張りましょうね」

何時もの巫女服姿のキヌさんが声をかけてくれる。

いつ見ても…素敵です。

 

「よろしくお願いします」

今回の内偵はキヌさんとコンビを組んで行う。

 

 

 

旅館風の宿泊施設の前の広場に参加者が集まり、定刻通りGS協会の六道会長の挨拶から始まる。

その後ろにはGS協会の美神さんを含む幹部数名と、オカルトGメンの東アジア統括管理官の美智恵さんも来ていた。

因みに、横島師匠と西条さんはまたしても、例の出張だ。

 

2週間前に美智恵さんから参加者は108人と聞いていたが、もう少し人数が居る様だ。

ん?…あれは先週、幕張で雪ノ下と由比ヶ浜をナンパした連中だ。あいつ等あの顔で全員25歳以下だったのか、もうちょっと年上だと思った。

そんでやっぱり、あの安田って人も居るな。

しかも、こっち見て睨んでるし……。なんか恨み買うようなことをやったか?

 

続いて、GS協会の職員から、能力テストのバトルロイヤル方式についての説明が始まった。

制限時間は2時間。フィールドはこの山二つ分の山野、結界で覆ってる範囲だ。

殺傷力が高い術式や攻撃は禁止。

召喚術はCランクの魔獣や精霊まで、但し制御が完全に出来る物に限る。

式神は制限は無いが、殺傷力の高い攻撃は禁止だ。

それ以外は基本何でもありだ。

それと、参加者全員にバイタルチェック用の術式が施された札が配布され、それで参加者の状況を確認し、ダメージを受けすぎたり、戦闘継続が困難な状態であれば、その場で退場となる。

札は見える場所であれば体のどこにでも張っていいらしい。

さらに、その札を外したり、外されたりすると退場となるとの事。

 

実はこの術式の札はバイタルチェックだけのためじゃない。参加者の霊能の質や霊気量を図る役目を行ってる。

要するにだ。一連のテロの犯人と同じような霊能を持っているかをこれで測っているのだ。

それでも、細かい能力は分から無い。霊気の質にあまり関係の無い、知識面やテクニックで賄える外的要因が大きい術式などは、どんな術式を持ってるかまでは測る事が出来ない。

さらに、監視カメラを至る所に設置し、ドローンを複数台飛ばし、リアルタイムで参加者の動きを確認している。

不正が有った場合も、直ぐにわかり退場となるが、それよりも参加者がどんな術式を展開させるかそれで判明するだろう。

後の細かい所を調べるのは、俺とキヌさんの役目だ。

俺の広範囲の霊視で該当しそうな奴を見つけ、近づき詳しく霊視、黒に近ければ、キヌさんの言霊でそれとなしに情報を吐かせる様に仕向ける作戦だ。

それ以外にも、外部から監視している美智恵さんや美神さんから怪しい奴の情報を得て、そいつに近づき霊視を行う。

美神さん達との通信は周囲の連中にバレないように、通話可能な術符を俺は襟元、キヌさんは巫女服の首辺りに潜ませていた。

このフィールド内では結界が張ってあり、外界から遮断するため、野外訓練施設敷地外や宿泊施設や観覧席からは通信機器や術式を介しての通信、テレパスも遮断され、通信はできないようになっている。

外界からは遮断はされてるが、結界内の参加者同士の通話は可能となっている。

そして、美神さんや美智恵さんは幹部席や監視室を結界内に設けることにより、結界内のドローンによる監視や監視カメラによる監視も可能であり、さらに俺達と通話可能となっていた。

 

 

そして、バトルロイヤルの開始カウントダウンが始まる。

カウントダウン中の2分間はフィールド内への移動が可能だ。

要するに位置取りをする時間だ。

これ次第で、いきなりピンチにも、有利にもなる。

2分は短い気はするが、実戦では妖怪や悪魔はこちらが隠れる時間まで待ってはくれない。

 

俺とキヌさんは予定通り少々距離を置きながら、移動を開始するが……

何故か、俺が移動する方向に、俺を囲むように12人ほど移動してくる。

いや、もっといる。遠巻きに20人ほど……その中に先日のナンパ野郎どもと安田って奴の気配もある。

 

もしかして、俺は狙われているのか?

 

確かにこのバトルロイヤル方式に徒党を組むことは禁止するような要綱はないが、あからさますぎるだろう。

これが、先日安田が言っていた出る杭は打たれるってやつか?

 

俺はキヌさんに術符を通して通話をする。

「キヌさん。どうやら俺は狙われてるようです。キヌさんは俺から離れてください」

 

『比企谷君。大丈夫なんですか?』

 

「なんとか撒きますんで」

 

『……わかりました。気を付けてくださいね』

 

「はい」

 

キヌさんとの通話の後、美神さんから通話が入る。

『あんた、狙われてるわね』

 

「どうやらそのようです」

 

『あんたは一応この業界では面がわれてるしね。去年の免許資格試験準優勝の結果はGS協会であれば誰でも知ってることよ。確かにここ数年では、あんたと土御門の生意気な小娘は、群を抜いていたわ。有力株であることは確かね』

 

「……出る杭は打たれるって奴ですか?」

 

『なに生意気な事を言ってるの。それは飽く迄も新人レベルでの話よ』

 

「そ、そうですか、ではなんで?」

 

『だから、おかしいのよ。今の成長したあんたの実力は知られてないはずよ。唯一知られるとすれば、GS協会会員共同で行ったGS協会の緊急案件、年末の同時多発霊災よ。あんたはあの時あの現場でBランクの魔獣ガルムを1人で倒した。Cランクの新人のあんたがね。そうなれば雑魚GS達の警戒が上がるのは無理もないわ。でもね。あの件はあの場にいたおキヌちゃんと、報告先のGS協会の職員か幹部しか知らないはずなのよ』

美神さんの言いまわしだと、新人としては、高いレベルだったが、何年もこの業界に居る人間からすると、そこまで警戒するレベルではないという事なのだろう。

それと俺の面と実力バレは、そのGS免許資格試験の時だけらしい。

 

「後から応援に来た千葉在住のGSには?キヌさんが説明してるんじゃ?」

確かに年末のクリスマスイブの同時多発霊災の際に俺はBランクの魔獣ガルムを一体倒した。あれは、緊急案件で俺とキヌさんが現場に一番近かったから、対応しただけで、事が終わった後だったが、千葉県在住のGSが応援に駆け付けたはずだ。

俺はガルムの血で汚れてしまっていたから、シャワー借りて着替えてる間に、キヌさんが応援に駆け付けたGSやら現場で待機していた警察に説明してるはずだ。

 

『後で色々と面倒になりそうだから、あの場ではおキヌちゃんにガルムの事は話すなと言っておいたわ』

 

「………という事は、俺の今の実力関係なしに、何らかの理由で俺個人を狙い打ちにしてる奴がこいつらをそそのかしてる。もしくは俺の今の実力を何らかの方法で知った奴の仕業ということですか?」

今咄嗟に考えが浮かんだのは、この二つの線だ……前者は俺に恨みを抱いている奴が居る事になるが、全く身の覚えが無い。

 

『そういうことよ。前者は、あんたがどっかで恨みを買うのは自由だけど、どこかでよその女を引っかけた、そんなところかしら?』

 

「そんな事するわけないじゃないですか!!横島師匠と一緒にしないでください!!」

どこで誰が女を誑し込んだんだ?そんなことをした覚えもなきゃ、そんな勇気もない!

横島師匠じゃあるまいし!……いや、たらしこんではないか、師匠は一方的にナンパしてるだけか……。誑し込んだのは平塚先生だけ。

 

『あんた、もう少し自覚をもてば?それはいいわ。問題は後者よ。どうやって、あんたの情報を知ったかよ……』

美神さんがそう俺に話しかけてる途中で、バトルロイヤル開始の銅鑼が鳴り響く。

 

 

 

そして、俺の周囲にいた連中が、一斉に襲い掛かってきた。

 




久々にまともな戦闘になりそうですねw

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