やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(112)若手能力テストバトルロイヤルその3

安田って人が、俺に勝負を挑んできた。

だが、俺はそれを受けるつもりは毛頭ない。

普通に考えれば、そんなものはスルーして、今のまま罠やらでネチネチと無効化していけばいいだけだ。

 

「なにか!?美神令子除霊事務所の連中は全員横島みたいなチキン野郎なのか!?はん、その様子だと、美神令子も大した実力じゃないのだろう。Sランクなんて親の七光りじゃないのか?」

安田は俺と直接勝負がしたいがためか、こんな挑発をしてくる。

あんた、とんでもない事を口走ってるぞ!

横島師匠の悪口はまあ、いいとしてだ。何時もの事だし、本人は全く気にしてないし。

だが、美神さんの悪口はまずいだろう。この業界じゃタブーのはずだぞ!たぶん。

あんた知らないだろうが、美神さんは外見は大人の美女だが、精神は子供そのものなんだぞ。

しかも、性格は悪魔よりも最悪だ。

あんた、確実に寿命を縮めたぞ!

 

案の定、美神さんから通信が届く。

「分かってるわね比企谷。あのくそ野郎の口もきけないぐらい徹底的に痛めつけなさい!相手が土下座して涙流して謝る位によ!わかったわね!!」

一方的にそう言って、通信は切れた。

……予想通りだ。

なぜ、美神さんに安田の挑発が聞こえたのかなんて、疑問に思ってはいけない。

美神令子という人間はそう言う存在なのだと認識するしかない。

実際、俺の通信札越しに聞いてた可能性は高いとは思うが、あの人は自分の悪口は絶対見逃さない。地獄耳とかそんなレベルじゃない。

実際聞こえなくても、何となくムカついたとか言って、悪口を言った相手を張り倒す様な人なんだ。

 

ふぅ、とりあえずだ。

美神さんが直接あの安田って人に手を出すよりはましか……直接手を下した場合、完全犯罪を犯しそうで怖い。

 

はぁ、俺、さっきからため息ばっかり吐いてる気がする。

俺は思考を巡らせる。

安田はタイマンをするかのような言い草だったが、そうとは限らない。

ワザとそう言う風に聞こえる言い方をし、俺に勝手にそう解釈させ、俺がノコノコ出て行ったところで、集団でボコってくる可能性も十分ある。いやそっちの方が普通だろう。

だいたいバトルロイヤル方式のテスト中にタイマンなんて、ありえないだろう。

テストを受けてるのは俺と安田達だけじゃないからな、俺と安田がタイマンしてる間に、他の連中から攻撃を受けるって事も普通にある。

 

こういうバトルロイヤルのような場では、美神さんの戦い方のように、漁夫の利を得る方法がベストだ。

自ら戦うと見せかけてから、他の関係無い連中をけしかけ戦闘をさせる。

両者が戦ってる間に、逃げたり、自分の目的を果たしたり、両者が弱った所を叩いたりと、まあ、そんな感じだ。

簡単に出来そうに見えるが、実際は相当難しい。

相手の心理状況や話術、そしてタイミングや場の雰囲気なども計算しなければならないからだ。

だが、美神さんはそれが悪魔的にうまい。

 

今回の場合、安田達が一斉に襲ってきたら、とことん逃げて、他の集団や戦闘中の場に突っ込んで、乱戦状態にしてから、個別にこそっと、叩くのが上策だろう。

 

まあ、集団で襲ってくるにしろ、本当にタイマン勝負をするにしろ、俺はどちらにしても出て行かないといけないんだがな。理不尽魔王美神さんの命令で。

 

俺はため息を吐きながら、森から出て行く。

 

 

 

「ようやく、お出ましか比企谷八幡。一対一の勝負だ。お前ら他の連中が邪魔しないように見張ってろ」

安田は俺と後ろに控えてる連中にそう言いながら、一歩前へ出る。

本当に一対一で勝負する気だ。

バトルロイヤル方式のテスト中にわざわざ何の意味があるんだ?

熱血系バトル漫画の主人公かよ。

 

いや、俺的には集団で襲ってきてくれた方がありがたいんだけどな。

俺は霊力の使用を制限されて、実力をさらせない状況だ。

しかも安田って人は仮にも2年前のキヌさん世代のGS資格試験優勝者だ。実力はさっき、罠にかかった連中よりも遥かに高いだろうし。

 

タイマンか……面倒だが、もう一つのプランで行くしかないか。

 

「ちょっと待て、別に勝負しなくてもいいんじゃないか?このバトルロイヤルテスト、制限時間までに生き残れば加点は間違い無いだろう。ランク維持は堅くなる。普段の実績次第ではランクは上がるんじゃないか?わざわざ、勝負するメリットは無いんじゃないのか?」

俺は一歩一歩近づいてくる安田にワザとこんな提案をする。

 

「比企谷……なにか?俺と勝負するのが怖いのか?それはそうか。俺は2年前の優勝者でお前は半年前の試験じゃ、準優勝だったもんな。そもそも実力が違うか」

 

「いや、そうじゃなくて、あんたが負けるリスクを負わなくてもいいんじゃないかと言ってあげたんだ」

そう、これは俺の挑発だ。相手を怒らせるだけ怒らせて判断能力を鈍らせる作戦だ。

 

「おまえ!調子に乗るなよ!準優勝の癖に!」

案の定、食いついてきた。

安田は霊槍を構え、突っ込んできた。

安田は、近接攻撃よりの本格派のオールラウンダーだ。

要するに美神さんと同じタイプの霊能者だ。実力は雲泥の差だがな。

江戸時代に鬼退治を役目を担っていた武士の家系の霊能者だそうだ。

そんだから、霊槍なんていう物を振るってるんだろう。

美智恵さんからは参加者の情報を提供してもらっていて、そこに安田の情報も載っていた。

主催者からの情報提供はご法度だが、俺の本来の役割は、このテストの参加ではなく、一連の愉快犯の仲間がGS内部に潜んでいるかの調査だからな。

そうじゃなくとも、そこそこ安田って人は名が知られてるから、ちょっと調べれば情報は出てくるだろう。

 

俺は安田が突く槍を、大きく斜め後ろにバックステップして避ける。

 

突きはそこそこ早いのだろうが、斉天大聖老師の如意棒の突きに比べればスローモーション同然だ。斉天大聖老師の突きは結局一回も避けられなかった。見えていても早すぎる。しかもサイキックソーサーで防御しても、全く意味もなさずに、吹っ飛ばされて一発で体力が根こそぎ持って行かれる。

 

安田は片手で槍を振るいながら、もう片方の手で札を取り出し、放ってくる。

爆散の札か。

俺はワザと体勢を崩し、よろけてみせながら、寸でで札をかわす。

 

動きも結構スムーズだ。やはり、そこそこの実力はあるようだ。

陽乃さんに比べれば温いけどな。

陽乃さんは一度攻撃に入ると、絶え間なく色んな術が飛んでくるからな。

息つく暇もない。

 

「よけてばかりでは、この俺に勝てないぞ!」

安田は攻撃をしながら挑発じみた事を言ってくる。

 

「いや、思ったより早いんで」

俺は俺で徐々に苦しそうな体勢をとり、ぎりぎりに槍をかわす。

 

「何を余裕をかましてる。もう後が無いぞ!」

 

怒らせた後に、相手を調子づかせ、俺が弱ってると思わせ、あともう少しだという感情を引き出す。そこに最大の隙が生まれる。

そろそろか……。

 

「あ!あんなところに裸のねーちゃんが!!」

俺は安田の後方を指さし、横島師匠がよく使うフェイクをわざとらしく実行する。

 

「ふっ、見苦しいぞ。そんな見え透いたフェイクに誰が……おゎ!?」

安田はそう言いながら、俺に槍を振るおうとした瞬間、足をとられ、前のめりに倒れた。

そして、倒れた先にはご丁寧に大きめの石があり、安田は頭と腹を思いっきり打つ。

 

作戦成功だ。

何も罠は森の中だけじゃない。

このひらけた草むらにも罠は仕掛けてある。

簡単な罠だけどな、丈夫な草と草を結んで、足が引っかけて転ぶ程度の罠だ。

だが、意識が無い状態では、この簡単な罠を見破るのは難しい上に、引っかかれば立て直しをする間もなくモロに食らうだろう。こんな感じでな。

 

俺がここまでの流れを持ってくるのに、先ず安田の頭の中に意識してる罠の可能性を消す作業が必要だった。

彼奴は既に罠の想定はしていただろう。俺が数々の罠でテスト生を嵌めていたからな。

だが、俺が森から出て来て、対面で対峙した際に、かなりその意識は消えたはずだ。

最初に俺はワザと戦う意思が無い事を示すことで、さらに森の外には罠が無いだろう事を安田の意識に多少なりとも刷り込ませた。

そして、怒らせ、俺が防戦一方を演出することで、此処には罠が無いと思い込ませる。

その状態で、俺は一番効果的な罠の場所に誘導し、見え透いたフェイクを使う事で、安田の頭の中から完全に足元の意識を消し去り、草を括っただけの罠にはめた。

 

美神さんはこの辺がとてつもなくうまい。

美神さんならこの程度の相手であれば、シンプルに口八丁で相手を誘導して罠にかけることが可能だろう。

強敵相手の場合、術式や術儀、話術や体の動き、視線、タイミングなど一連の戦いのすべてを罠にはめるための布石とする事もある。

 

 

安田は辛うじて意識はあるようだが、立ち上がれないようだ。

まあ、霊力で身体強化してるといっても、頭を思いっきり打ったからな。

 

遠くに残していた安田の取り巻き連中が、卑怯だぞとか正々堂々と戦えとか、罵しりながらこちらに走って来る。

 

仕方ない、安田の霊視は後にするか。

安田はしばらく動けないだろうから、とっとと、取り巻き連中を罠にはめてからだな。

 

俺は安田を背に、取り巻き連中の対応をしようとしたが……

背後から、不穏な気配を感じる。

 

……何だ?魔獣の気配?

 

さっきまで感じなかったぞ。

 

俺はその場で振り向くと……

 

「くそっ、舐め腐りやがって」

安田は懐から円筒状の筒を3つ取り出し、蓋を開けかけていた。

あの筒…魔獣の封印筒か?見た事が無い形状だ……

確かに、封印筒に封印された魔獣は気配を感じにくいが、多少は洩れるものだ。

俺の目でもわからなかった。

 

安田が手に持つ、見た事も無い形状の封印筒から黒い煙が一気に噴き出す………

 

安田の方に体を向けながら、距離を置くために飛びのいた。

嫌な予感がする。

 

黒い煙が徐々に晴れる。

長い牙、豚のような獣顔が見え、そして首から下には緑色の筋骨隆々体が……。

3メートルはあろうかという人型の魔獣が現れた。

 

オークだ。

実物を見るのは初めてだが、間違いない。

 

なぜこんな魔獣が?

オークは西洋の魔獣だぞ!

武士の家系の安田がなぜオークを?

しかも、安田に魔獣をコントロールする適正は無かったはずだ。

魔獣の封印を解いたところで、暴走するだけだぞ!

 

しかもよりによってオークだと?

オークはその巨漢を生かした打撃を得意とし、知能も持ち、武器をも扱う。

ゴブリン同様、メジャーな人型魔獣だが、その力はゴブリンを圧倒的に凌駕する。

単体ではCランクの魔獣ではあるが、奴らは通常1体で行動しない。

30体以上の群れを形成し、襲ってくる。

それに、奴らは悪食……そこにある生命という生命を全て食らう性質がある。

その破壊力はすさまじいものだ。群れとなった奴らを討伐するには、高レベルの霊能者と人員がいる。

中世ヨーロッパではオークの群れが、西洋の村を襲ったという記録は多数残っている。

村は死体一つ残らず潰滅する………。

当時の軍の大部隊を派遣して、ようやく討伐できたらしい。

しかも、奴らは成長すると上位種に進化する……、放置しておくと、被害は雪だるま式に増えて行く。

 

一説によると、魔神や上位悪魔の先兵だったともある。

 

 

それとだ。

オークを使役する魔獣使いを俺は聞いた事が無い。

それほどコントロールすることが難しい魔獣だという事だ。

 

 

冷静になれ。

安田がどうしてオークなんて魔獣を持っていたかなんて事は、後で調べればいい。

確かに面を食らったが、今目の前にいるオークは3体だけだ。

これだったら、まだ霊力を抑えたままでも何とかなる。

 

オークはコントロールできずに既に暴走状態だろう。

ここに参加した多くの若手はCランク以下のGSだ。

EやDランクでは流石にオーク相手じゃ、きついものがある。

他のテスト参加者に被害が及ぶ前に、手っ取り早くオークを排除だな。

 

 

俺はオークを倒すために行動を開始したのだが………

更に予想外の事態が起きる。




次回が一応バトルロイヤルテストは終了の予定です。

次の次位が次章で……
はぁ、道のりが長い。

次章では新たに参戦予定キャラが決まってます。
GSからなのか俺ガイルからなのかは秘密ですw

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