やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
新章です。
(115)職場見学今年もやるのかよ。
ゴーストスイーパー若手能力を測るためのバトルロイヤルテストから、1週間が経った。
結局、霊災愉快犯の関係容疑が掛かってる安田は、魔獣化したままで、証言は得られない。
それ以外では今のところ、関連のありそうな物は何も見つからないそうだ。
ようやくあの霊災愉快犯に繋がる尻尾を掴んだと思ったのだがな。
オカルトGメンは今も必死に捜査を行っているだろう。
俺は俺で美神さんから叱られた言葉が耳から離れない。
「躊躇するな……か」
「ヒッキー、何か言った?」
由比ヶ浜は部室のいつもの席から、俺に声をかける。
どうやら、俺の考え事が声に漏れていたようだ。
今は放課後の部活の時間だ。
相変わらずこの奉仕部には依頼は無い。
由比ヶ浜は何時もの席で勉強を、雪ノ下はその隣の窓際の椅子で本を読んでいる。
何時もの部活風景だ。
因みに、小町は奉仕部に依頼が無いため生徒会の方に顔を出してる。
「いや、何でもない」
俺は平然を装い、そう答える。
俺は今も考え事をしていた。
もし、こいつ等が悪魔や妖怪に体を乗っ取られたり、変化してしまったら、俺は躊躇なくゴーストスイーパーとしての役目を全うできるのだろうか?
横島師匠にもあの時の経緯を話し、相談した。
だが、師匠は……。
「八幡が思った通りにやればいい」と珍しく真面目モードで答えてくれた。
俺の思った通りに…か。
確かに美神さんの言葉は正しい。
だが俺は……。
「そうかしら?あなた、最近考え事をしてるような顔をする事が多いわ」
雪ノ下も読んでる本を静かに閉じ、俺に声をかける。
「そうだよ。授業中もそんな顔をしてるし」
由比ヶ浜も雪ノ下の言葉に同意をする。
俺って、考え事してるのがそんなに顔に出てるのか?
「まあ、そうだな。あっちの方でな。まだまだ足りないものが多いってな」
俺は悩みをそのまま打ち明けるわけにいかず、中途半端に応える。
「そう」
「ヒッキーも大変なんだね」
2人はそれでこの話題を終わらせてくれた。
あっちの方と俺が言えばGS関連の話題だ。
その辺を考慮して気を使ってくれたのだろう。
「そういえば雪ノ下は明後日、オカルト事務管理資格者認定試験だったな。まあ、雪ノ下のことだから問題ないか」
俺は悩みを誤魔化すように話題を変える。
6月4日(土)には、オカルト関連で霊能力者以外の初の資格制度試験が開催される。
オカルト事務管理資格者とは、オカルト関係の事務全般業務に対しての資格者制度だ。
3年ほど前のオカルト関係の法改正を行ってから、事務関連がかなり複雑化したらしい。
確かに、GS資格者もかなりの法律を覚えてなくちゃならないし、オカルト業務を行うのも色々と手続きを踏まないといけない。
さらに元々ゴーストスイーパーの事務関連では、オカルトアイテムの発注や管理も有ったりとか、一般事務に比べ特殊なものも結構あり、事故が年に何件もあったのだ。
ゴーストスイーパーの事務所だからって、全員霊能者じゃない。
特に事務職は一般の人を雇ってる所が多い。大手事務所なんてそれが顕著だ。
医者が事務職をやらないのと同じ理屈だ。
霊能者の数は圧倒的に少ないし、霊能者は現場に出てなんぼだからな。
ただ、オカルトアイテム怪しげな物は、下手に扱うと死に直結する事も在る。
プロでもオカルトアイテムの扱いにミスをする事も在る位だ。その辺の知識もない一般の人がやってしまうと事故も起きやすい。
そこで、こうした事故を防ぐためにと、GSの現場での人手不足解消を兼ねて、一般人向けにこの資格認定制度を作った経緯がある。
ゴーストスイーパーも分業の時代が来たという事だ。
霊能者が希少な存在となりつつある現在、これからこの流れは進んでいくだろう。
それを見据えてのこの制度であり、今後制定される一般人向けのオカルト関連の国家試験、オカルト管理責任者資格やサイバーオカルト対策管理者資格なのだ。
雪ノ下はそのオカルト事務管理資格者認定試験の勉強を進めていた。
いや、今後実施予定の、新たな国家資格であるオカルト管理責任者資格一種を取得するために、その前の小手調べとして、この資格も取得するらしいのだ。
本人曰く、後学のためだとか。
「そうね。問題無いわ」
雪ノ下は当然のように返事をする。
雪ノ下だったら大丈夫だろう。
キヌさんにも勉強を手伝ってもらっていたしな。
「ゆきのん、がんばってね」
「まあ、そうだろう」
昨日まで、中間テストがあったのだが、そんなものは雪ノ下には関係ないのだろう。
そして、きっと今回の中間テストも何もなかったかのように総合一位なのだろう。
「そういえば、ゆきのん。今年の職場見学どこに行くか決めた?」
由比ヶ浜は勉強する手を止め、雪ノ下に聞いた。
そう、総武高校恒例の職場見学が今年も実施されることとなった。
クラスで3人一組となり、学校指定の候補に上がってる職場を選んで、見学に行くのだ。
去年はどこに行ったか、……忘れた。
「私は行先は決めてるのだけど。同行するクラスメイトはまだ決まっていないわ」
雪ノ下の場合、一緒に行く奴が決まっていないというのは、ボッチだからではない。
雪ノ下と行きたい奴はクラスメイトの男女関係なしに複数居るようなのだ。
最終的に雪ノ下と行きたい奴をクラスメイトがくじか何かで決めている節がある。
だから、自然と雪ノ下が見学に行きたい場所がそのまま通ることになる。
「やっぱ、オカルトGメンだよね」
「そうね。行先の正式名称はICPO国際刑事警察機構超常犯罪課の東アジア統括本部ね。由比ヶ浜さんと比企谷君も同じではないのかしら?」
「うん。今回はヒッキーとサキサキと一緒なんだ」
そう、何故か今回の職場見学の候補地にオカルトGメンの本部があったのだ。
その事を美神さんの事務所に用事で来ていた美智恵さんに理由を聞いてみた。
やっぱ、美智恵さんの発案だったようだ。
オカルトGメンの認知度を高めるためと、将来の就職の選択肢としてオカルトGメンを浸透させる事なのだそうだ。
オカルト関連はどうしても怪しい組織だと思われがちなのは確かだ。それを払しょくさせる目的があるそうだ。
確かに、学生の頃にこういう機会があれば、GSやオカGの世間一般に噂されてる怪しい認識が払しょくされるかもしれない。
ついでに俺は由比ヶ浜に即強制的に組まされる。
何故か川崎からもオカルトGメンに行かないかと声をかけられ、この3人で行く事になった。
いや俺は、仕事で出向したこともあるし、本部にも数度顔を出した事があるから今更なんだが……。
まあ、2人が行きたいと言うんなら仕方が無い。
俺は俺で別に行きたい場所があったわけでもないしな。
将来の就職先は決まってるし、というかもう契約社員としてほぼ就職してるし。
雪ノ下の場合は、オカルト管理責任者資格一種を目指すんなら、行っておいた方がいいだろうな。なんかしらの勉強の足しになるだろう。
由比ヶ浜は、俺がどんな感じで、どんなところで仕事してるか見たいっていうし。
確かにオカGの仕事もちょくちょくとこなしてはいる。
オカGから回って来る依頼は難易度的には高い物は多いが、危険度でいえば美神令子除霊事務所に比べれば低い感じだ。
オカGの依頼は人数がいるようなものが多いし、俺はその組織の末端として動いている事が殆どだ。
美神さんが受けてくる依頼ってのは、訳ありなものも結構多いし、とんでもない物も結構混ざってる。だがそれだけ、実入りはデカいと。
川崎は、今も唐巣神父の元でバイトをしてるから、その関連で他の所がどうやってるのか見て見たいのだろう。
民間組織とは結構違うところが多いから、面喰うかもしれないな。
「比企谷君は気を付けた方がいいわね。あなた、オカルトGメンの管理官とも親しいようだし、他の生徒にプロのゴーストスイーパーと知られないように、ふるまう必要はあるわ」
雪ノ下の言はもっともだ。
俺は今のところ、学校の生徒にはGSだとバレるわけには行かない。
確かにオカGには見知った人が結構いる。
だが、幸いにも職場見学は西条さんが部長をしてるオカルトGメン日本支部ではなく、東アジア統括本部だ。東アジア統括本部は外交官や事務方が殆どで、実働部隊は少ない。
実働部隊は各国の支部が担っているからだ。
そうなると顔見知りは一気に減るから、大丈夫だろう。
美智恵さんにもこの事を話せば、他人のふりとか協力してくれるだろうしな。
それに、そもそもオカルトGメンに職場見学に行くような奴は少ないだろう。
多分、俺と由比ヶ浜と川崎のメンバーと、J組の雪ノ下のメンバーだけだろう。
そこまで気を使わなくても問題無いハズだ。
「まあ、大丈夫だろ」
「そうだといいのだけど」
雪ノ下は思案顔だった。
雪ノ下、さすがに考えすぎじゃないか?
一応、美智恵さんには話を通しておくし、不測の事態に陥る事はないだろう。
と、この時は軽い気持ちでいた。
「ヒッキーもゆきのんも一緒だし、今度の職場見学楽しみだね」
由比ヶ浜は単純に楽しみにしてるようだ。
週末の土曜日、19時頃。
俺は自転車に乗って依頼先に向かう。
単独での除霊の仕事だ。
今日の夕方頃、雪ノ下から電話があった。
オカルト事務管理資格者認定試験が終わったと、特に問題が無いと言っていたな。
合格発表は2週間後だそうだ。
雪ノ下の事だから、まず落ちるような事はないだろう。
だが、雪ノ下にとって、それは通過点でしかない。
本命は国家資格のオカルト管理責任者資格一種だ。
何れにしろ、これらの資格が行かせるのはオカルト関連の仕事だけなんだけどな。
雪ノ下はやはり、将来は陽乃さんの手伝いでもするのだろうか?
口ではなんだかんだと言うが、雪ノ下は陽乃さんの事が尊敬に値する姉としてみているだろうからな。
俺はそんな事を考えながら、現場に到着した。
今日の現場は東京タワーだ。
依頼内容は除霊だ。
何でもこの頃、東京タワーの展望台から幽霊が度々目撃されるとの事だ。
展望台から夜景を見に来た客が、外を見渡すと、上から人が降って来たと……。
何人もの目撃が有って、最初は自殺か何かと思い、職員がタワーの下周辺を確認しても遺体は見つからなかった。
それからも、度々そんな目撃情報があるそうで、さらにその噂を耳にした連中が面白半分に東京タワーの心霊スポットだとかで、インスタ映えを狙う若者だとか、オカルト系のユーチューバーだとかで一時は人が殺到したようだ。
そんな中、ほんとうに幽霊が写った心霊写真を撮ってしまった奴がいたようだ。
それでその心霊写真は拡散。
最初は結構な盛り上がりを見せ、人が結構押し寄せて来て、東京タワー側もその対応に追われたそうだ。
だが、後で呪われてるとか、東京タワーに行くと死ぬとか、ありもしない噂がネット等で勝手に広がって、人が来なくなったそうだ。
そんでしばらく営業停止に追い込まれたと。
さらに、心霊写真を写してしまった人のサイトは、炎上……、精神的に参ってしまって入院だそうだ。
何それ、怖っ。
幽霊が怖いとかじゃない。
最初は囃子たてておいて、後で貶めるって。
最近の若者は噂に左右され過ぎだろ。
まあ、俺も最近の若者なんだけど……
俺は展望台まで職員に案内され、預かった鍵で展望台の上に登って行く。
元々こういう高い場所には浮遊霊が多く集まって来やすい。
昔は村や山や神社にある大木等は神木として扱われていた。
死者が天に昇るための場所だともされていた。
実際にそう言う場所もある。
だが、天国に行きたいという思いを持った浮遊霊などは、自然と高い場所への憧れが強くなり、こう言う高い場所に集まってくることが多いのが実情だ。
まあ、そんな浮遊霊の一部が、念を強く持ってしまって一般の人にまで見えるようになってしまったのだろう。
だからと言って放っておくわけには行かない。
そんな浮遊霊は下手をすると地縛霊となり、悪霊へと変貌してしまうからだ。
その幽霊はあっさりと見つかる。
『イェーイ!インスタ映えばっちり!』
「………あんた何やってんの?」
逆さまで展望台の上の鉄骨にぶら下がって俺の横に並んで、スマホで写真を撮る今風のオシャレな若者の幽霊に声をかける。
『いやさ、東京タワーの外から取った写真ってすごくない?しかもあり得ない角度からとれるんだぜ』
何言ってんだこの幽霊、幽霊がインスタとかアップできるわけ無いだろ。
「あんた、この頃よく展望台から真っ逆さまに飛び降りてるだろ」
『それ僕だ!東京タワーからバンジーした僕を見て驚く人の顔をスマホで撮ってたんだ!これすごくない?夢にまで見た100万【いいね】取れるかもしれない!』
おい、幽霊がバンジーって、ただ飛び降りてるだけだろ。
幽霊はインスタもSNSも出来ねーぞ。
間違いない、こいつだ。東京タワーから飛び降りてるはた迷惑な幽霊は。
何?インスタ映えのためにこの幽霊を撮るために人が集まって来てたのに、こいつはこいつで、その集まって来た人をインスタ映えの為に撮ってたのか。
何、その負のループは。
それにしてもこの幽霊の雰囲気、もしかしてこいつ、自分が死んでると認識してないのか?
いや、精神が壊れかけてるのかもしれない。
自分が死んだと認められなくて、死んだという意識だけを抹消しているのだろう。
今は生前の自分の願いを全うしたいという衝動だけで動いてる感じだ。
そう言う霊はその念だけで動くため、念も強めで霊気も集めやすく、他の浮遊霊も寄せやすい。
このままだと、そのうち悪霊化するだろう。
『でもさ、この頃めっきり人が集まって来なくなって、いい写真が撮れないんだよね』
こいつはさっきからずっと楽し気に俺に語り掛けてくる。
「なあ、あんたは……もう死んでる。そんな事をやっても意味が無い。大人しくあの世に逝った方が良いぞ」
俺は取り合えず説得を試みる。悪い奴ではなさそうだしな。
『何を言ってるんだい?僕はこうして今も写真を撮ってるよ。死んでるわけないじゃん。でも100万いいねが取れたら死んでもいいなって位の気持ちになるよね。例えだけどね』
やっぱ、精神が壊れかけてるのだろう。
説得は無理そうだな。なら除霊をするしかないか。
『でも、100万いいね取れそうだよ!この写真なら、それどころか世界中から見てくれるよきっと、1000万いいねとかになっちゃうかも!』
「そうか」
俺は生返事をしながら懐から札を取り出そうとするが……
『だって、リアルゾンビと並んで写真が撮れたんだよ!しかもこんなところで!君のその腐った目!間違いなくゾンビだよね!いや~、遠目から見て思たんだよ。別に本当にゾンビじゃなくても良かったんだけど。目の前で見て確信したよ。君は間違いなく1000万いいねが取れる腐った目のゾンビだよ!こんな腐った目の持ち主に会えるなんて、僕はラッキーだよ!さっきの写真アップして………ああ……なにかな、この満たされた心は……ああ、天に昇る気持ちだよ…………』
その、今風のインスタ好きな若者の迷惑な幽霊は、透明だった体がさらに徐々に薄くなり、そのまま光の粒子となって天に召されて行った。
…………
………
……
まあ……あれだ。
こういう事もある。
依頼終了だ。
俺の目って、世界中にアップしたら1000万いいね、とれるのか。
帰って小町に聞いてみるか。
俺は何時もの如く、心にしこりを残しながら、現場を後にした。
職場見学編が始まります。
前回のアンケート結果です。
【何となくアンケート。今後このお話にでるだろうキャラを予想はいかが?】
伊達雪之丞 84 / 22%
横島大樹 30 / 8%
城廻めぐり 111 / 29%
鶴見留美 138 / 36%
その他 16 / 4%
ルミルミが1位ですね。
城廻先輩が2位。
俺ガイル組がワンツーフィニッシュ。
さて、誰がでるのでしょうか?