やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は、堅い話がずっと語られる回です。
つなぎ回の癖に、やたらと長いのです。
ご了承ください。


(116)職場見学その1

 

「ようこそ、総武高校の皆さん。私は国際刑事警察機構超常犯罪課、通称オカルトGメンの東アジア統括管理官、美神美智恵です。今日の職場見学でオカルトGメンの国や国際社会での役割、オカルト犯罪やゴーストスイーパーについて大いに学び、皆さんの今後の人生の糧にしていってください」

此処は、オカルトGメン東アジア統括本部があるビルの大会議室。

オカルトGメンの制服に身を包んだ美智恵さんが、凛とした声で自己紹介を兼ねた簡単な挨拶をし、今日のオカルトGメンでの職場見学が始まった。

 

始まったのだが……

何でこんなに職場見学者が居るんだよ!

ざっと120人ぐらいいるんだが、総武高校3年の3分の1から4分の1がオカルトGメンを職場見学先に選んだことになるぞ。

オカルトGメンってそんなに人気あるのか?

それにしてもおかしいだろ?

職場見学っていうのは、将来自分がなりたい仕事先を探すためのあれだろ?

霊能者じゃない連中がオカルトGメンになるのは相当厳しいぞ!

というか、唯の興味本位で選んだだろ!

葉山までいるし、お前は弁護士一択だろ!

お前がここを職場見学に選んじゃうと、お前のクラスの奴全員付いてきちゃうだろ!この全方位イケメンめ!

そうなると当然、三浦や海老名や戸部もいるし。

戸塚はいいとして、天使だし……隣の材木座!くっ付くんじゃねー!何してんだ、どさくさに紛れて!

しかも俺のクラスの連中も結構居るぞ。

お前ら、ちゃんと将来の事を考えて職場見学先を選べよな!

因みに、俺と由比ヶ浜と川崎のグループはこの大会議室の中頃に座っており、一番前に雪ノ下のグループが座っていた。聞く気満々だな。

 

 

最初に美智恵さんによる講義が始まった。

「オカルトGメンの本来の役割は、オカルト犯罪者の取り締まりと事件性のあるオカルト現象の解決にあります。民間ゴーストスイーパーとの違いは、事件性の無いオカルト現象、要するに警察でいう民事扱いのオカルト現象などは本来対象外です。

例えば、夜な夜な商業施設等に幽霊が出てくるような物や、個人的に呪われてしまったなどの事は範疇外です。

逆に、対象なのは、幽霊や妖怪、オカルトアイテムを利用して犯罪行為を行う人間や、殺人事件までに発展してしまったオカルト現象などはオカルトGメンの範疇です。

ですが、日本においてオカルトGメンは新しい組織です。

人数も組織もまだまだ規模が小さく、すべてをカバーできていないのが現実です。

現状では民間ゴーストスイーパー事務所やGS協会、警察、自衛隊、国や自治体と協力し合って何とか体裁を保っている状態です」

確かにオカルトGメンはまだまだ規模が小さい。

現在日本におけるオカルトGメンの拠点は、東京の日本支部と大阪の大阪出張所だけだ。

よっぽどの大きな事件ではないと、地方まで手が回らないのが現状だ。

そこで、俺達のような民間GSがGS協会を通して、依頼を受けて解決に乗り出している。

場合によっては警察や自治体で何とかその場を凌いでいる事件だってあるようだ。

 

 

美智恵さんは正面のスクリーンに映る映像を差しながら講義を進めだす。

「このグラフのようにオカルト犯罪による検挙率や事件発生数は年々右肩上がりです。ただ、これはオカルト事件と発覚した物だけです。残念ながらこのグラフに表されていない事件などもまだまだあるはずなのです。

これは日本だけではありません。全世界的にこの傾向が顕著に表れております。

幸い、日本は古来からオカルトに対し、真剣に取り組んできた歴史があります。

他国に比べ、オカルト研究や科学が進んでおり、優秀なゴーストスイーパーが日本に多数在籍しているのもそのおかげです。

それでも対処しきれないのが現状です。

皆さんが安心して暮らせる社会を維持するには、オカルトGメンの組織の強化が急務なのです。そのためには当然の事ながら、今後ゴーストスイーパー、要するに霊能者の育成は国家的にも最重要項目となるでしょう。

ですが、霊能者の育成は困難極まります。そもそも霊能力の適正者が少ないからです。

そこで、霊能者以外の方からも積極的にオカルト関係に従事していただくための組織作りを行って行くことが、このほど日本政府から正式に決定されました。

霊能者以外の方々が対象の国家試験が新たに制定されます。

オカルト犯罪に対し管理、指揮が認められる。国家試験、オカルト管理責任者資格一種二種。この資格を有すると、直接の除霊などは出来ませんが、GS免許所持者への指揮や管理を行え、オカルト事件への関与が可能となります。また民間GS事務所の経営も可能となります。もう一つも国家試験、サイバーオカルト対策管理者資格一種二種。こちらはサイバーオカルト事件やサイバーオカルトの監視、オカルト対策ソフト等を構築することが出来る資格となります。こちらは現在民間大手のソフト開発会社、通信機器会社、インターネット関連会社から注目を受けてる資格となります。これから伸びていく分野であることは確実視されており、こちらの資格取得者は引く手数多になる事は間違いないでしょう」

成る程。霊能者以外にも、オカルト関連に参加できますよっていうアピールの場でも有るのか。それで美智恵さんは、積極的に学生への職場見学を受けているということか。

これが草の根活動というやつだな。

先ずは、若者からアピールってところだろう。

この人、本当に凄い人だ。

この国の未来の事を真剣に考えているのだろう。

しかも、皆、美智恵さんの話に引き込まれているぞ。

これがカリスマって奴なのだろう。

 

 

「現在、日本のオカルトGメンの構成人員比率は、霊能者が8割9分、霊能者以外の人員が1割1分という割合になっております。霊能者以外の方は主に総務や一部の事務関連などです。オカルト関連では事務など、内部的な処理も霊能者が行ってるケースがまだまだ多いのです。その原因として、それらにもオカルト知識が必要だからです。例えばオカルトアイテムの扱いなどは、その最たるものでしょう。オカルトアイテムとは除霊を行う札だったりする霊具の事を指します。それらは除霊を行うための心強い武器ともなりますが、扱いを間違えれば、オカルト事故を起こす要因ともなります。そこで、2週間前にオカルト事務管理資格者認定試験が行われました。国家試験ではありませんが、この資格を取得する事で、オカルト関連の事務処理が可能な人材とみなされます。オカルト事務が必要なのは何も、民間GSやオカルトGメンだけではありません。大手企業にもオカルト対策室や私達や民間GSとの窓口となる部署が存在します。そんな所への就職も有利になりますし、地方自治体などへの就職へも有利となるでしょう」

美智恵さんのアピールはまだまだ続く。

そう言えば、そろそろオカルト事務管理資格者認定試験結果が届くころだが、まあ、雪ノ下の事だから問題無いだろう。

それにしても、皆結構真剣に聞いてるな。

美智恵さんの話が上手いのだろう。

 

 

「将来的には。オカルトGメンの構成人員比率は、霊能者4割、霊能者以外を6割まで引き上げたいと考えております。国家試験の2種類と、この事務方の認定資格があれば可能だと考えております。……そういえば、皆さんが興味がありそうなお話がまだでしたね。オカルトGメンは国家公務員です。組織はICPOという国際機構ですが、各国の国家公務員が出向という形をとっております。

いわば、日本にあるオカルトGメン所属は全員、国家公務員となります。当然国家公務員試験を通らないと、オカルトGメンになる事は出来ません。

日本のオカルトGメンは元々厚生労働省傘下でしたが、その重要性と警察や自衛隊などの連携、さらに国際社会への貢献などの事から、現在は内閣府傘下であり、内閣府オカルト対策本部という役割を担っております。ですから私の立場は、ICPOオカルトGメン東アジア統括管理官という立場と、日本においては内閣府オカルト対策本部の事務官という立場もあります。要するにです。ICPOと日本政府の橋渡し的な立場と思っていただければいいでしょう。私の事はさて置き、オカルトGメンは国家公務員であり、給与は国から支給されます。危険度が高い部署であるため、手当もそれ相応にありますね。また、立場が上がるとICPOからも手当が支給されます。そうですね。一般の国家公務員事務職の同年齢で同立場に比べ、3倍から5倍、状況によってはそれ以上もあるのではないでしょうか」

美智恵さんはにっこりと微笑みながらこんな説明をする。

すると、会場からは、生徒達の感嘆の声があちらこちらから漏れる。

こういう話は皆好きだよな。金が絡む話は分かりやすい。

……まあ、給料は高いが、危険度も段違いだぞ。

 

「それと、一応オカルトGメンとは関係は無いのですが、オカルト関連に関わる仕事をされる場合は、最低賃金が時給1800円です。先ほどのオカルト事務管理資格者が有れば、16歳からアルバイトは可能です。事務処理だけであればそれほど危険ではないですし、学校には届け出を出さないといけませんが、受諾されやすいでしょう。この資格があれば、もっと時給が上がるでしょう。しかも休日手当等の手当が出れば相当の額になるでしょうね」

さらに生徒達から感嘆の声が漏れる。

隣の川崎から「事務管理資格者とろうかな」とか……。

由比ヶ浜は俺の耳元に口を寄せてひそひそと「ヒッキー凄いね」って。

近いぞ由比ヶ浜!やっぱ良い匂いとかしてくるし!

ぜったい後ろの席のクラスの奴が睨んでるぞ。

おれはヒシヒシとその気配を背後から感じていた。

 

「皆さんから、願わくば私達と同じ職場で働く方が現れる事を願いますね」

美智恵さんは最後にちらっと俺の方を見て、講義を終わらせる。

いや、俺は無理ですよ。美神さんっていう悪魔より怖い人が雇い主なんで……しかも、俺の雇い主は娘さんですよね。

 

 

次に渋いイケメンが壇上に上がり講義を始めた。

「私はオカルトGメン日本支部部長の西条輝彦です」

まあ、こうなるよな。

プログラムを見れば、結構やばい。

知り合いが結構いるんだよな。

午後からのプログラムがさらにやばいし。

事前に内容を聞いておけばよかった。

 

「私からは、オカルトGメンとは切っても切れないゴーストスイーパーについて説明します。あまり一般的にどうやってゴーストスイーパーになれるかなどは、知られてないですからね。オカルトGメン日本支部の実働部隊は全員ゴーストスイーパー資格免許を有してます。これが無いと除霊行為などのオカルト関連の仕事は、法律的に一切できません。ゴーストスイーパーとはプロの霊能力者の事を指し、これがゴーストスイーパーとただ単に霊能力者という言葉を指す時の違いです。ゴーストスイーパーは国家資格であり、国が認めたオカルトのプロです」

西条さんの話を、生徒達はかなり興味深々で聞いてる。

 

 

「ゴーストスイーパーにはどうやってなれるのか。年2回GS協会主催のGS免許資格試験に合格し、初めてゴーストスイーパーを名乗れます。毎年4月と10月に行われ、1回の試験で16名、年間32名しか合格できない狭き門です。試験は法律関連や霊能知識のペーパーテストの1次試験。その後、霊能能力値測定で一定以上の霊能力を有したものが2次試験に進む資格が得られます。霊力を扱う能力が無いと幽霊や妖怪などとは戦う事は難しい。2次試験は受験者どうしの試合が行われます。トーナメント制でベスト16に入れば晴れて合格しゴーストスイーパーを名乗れるのです」

生徒達からは、またもや感嘆の声が漏れる。

……また由比ヶ浜が俺の耳元で、「ヒッキー凄いね」と囁いてくる。

耳元がこそばゆいし、後ろからの視線が痛いからやめてね。

 

 

「さらに、この試験を受験するだけでもなかなか難しいものです。受験資格は16歳からとなります。またゴーストスイーパーは師弟制度が設けられており、GS協会会員のGS免許を取得したCランク以上のGSの弟子になる必要があります。例外はありますが、基本はこうです。私もここに居らっしゃる美神管理官の弟子になります。弟子になるには年齢制限はありません。霊能者の家系となると、生まれてすぐに弟子となり、修行や訓練を受ける人もいます。また、弟子と認定された人は師弟関係を明らかにしGS協会に登録しなくてはなりません。弟子は修行のためにオカルト…霊能力を鍛えるために、各種特殊なオカルトアイテムなどを扱うからです。除霊の現場にも行きますし、師匠付き添いで実際に除霊活動を行う事もあります。ようするにGS仮免許のような状態です」

俺の場合はGS協会のプロフィールに横島忠夫が師匠であるとはっきりと明記されてる。

GS免許の裏側には師匠の名も刻まれる。

まあ、裏側なんてめったに見せないんだけどな。

見せたら、大概笑われるし。

表には所属事務所が記載されてるから、それを見せると驚かれるけどな。

 

 

「現在は昔のような師弟関係でなくとも、弟子の認定が出来ます。霊能系の専門学校では、指導者や講師が師匠となり、生徒が弟子という扱いになるからです。専門学校以外では、東京に公立大学が一つ、全国で有名な六道女学院もこれに当てはまります。来年には関東の私立大学や京都の国立大学に学部が設立される予定です。今後、この流れは続くでしょう」

そういえば、去年の会合でそんな事を言っていたよな。

 

 

「因みにです。現在GS免許取得者は一番下は17歳です。君らと同じ現役の高校生ではGS免許取得者は5人います。女子が4人、男子が1人です」

生徒達はまたもやざわつく。

そして案の定由比ヶ浜は俺の耳元で「17歳で男子1人ってヒッキーだよね。凄いね」と囁く。

だからやめてくれー、俺が気恥ずかしいのと、後ろからの男子の視線が痛いんだよ!

 

因みに女子4人とは今年の4月に受験した六道女学院の3年生だ。

六道女学院の霊能科では基本、GS免許資格試験に生徒を送り出すのは、3年生からなのだそうだ。

キヌさんの世代だけ、2年の春に3人受けて全員合格してるそうだ。

それだけ、キヌさん世代は優秀な人材が集まったのだろう。

専門学校は高校卒業後に入るし、大学もそうだ。

今は、高校生で試験を受ける人は少ないとか。

3年前のオカルト関係の法律大改訂前までは、現役高校生のGS免許取得者が結構いたそうだ。特に横島師匠の世代は優秀だったと。

横島師匠やピートさんを見ればわかる。

 

 

「このような厳しい道のりを経て、漸くゴーストスイーパーと名乗れます。しかし免許を取得したからと言って、直ぐに一流のゴーストスイーパーにはなれません。ゴーストスイーパーにはランクが有ります。SからFランクにと。ランクによって受けられる仕事の難易度がかわります。これはゴーストスイーパー自身を守るのと同時に、依頼者に適正なサービスを受けれるような仕組みです。民間GSの場合、強力な霊障や妖怪にはランクの高いゴーストスイーパーが受け持ち、通常の霊障はランクの低いゴーストスイーパーが受け持ちます。それに伴って依頼料も異なります。さらにこのランクは半年に一度に審査があり、ランクが上下します。ゴーストスイーパーは常に自らを鍛え強くならなくてはなりません。弱くなればランクは下がり、強くなればランクが上がります。現場実力主義なのです」

そう言って、西条さんは自らのGS免許を獲りだし、皆に見えるように、スクリーンに映し出す。

 

「私はAランクですね。すべての依頼がこなせます。AランクGSは日本に30名も居ません。この上にさらに特殊能力など擁するSランクが存在しますが、日本には5人しかいません。美神管理官がその一人です。ですがSランクやAランクは全世界的に見ても、日本は最大の人数が在籍してます。このランク制度は国際的にも認められており、全世界共通となってます」

そう言えばそうだった。美神さんも美智恵さん、あと土御門風夏さんもその5人しかいないSランクだった。

公表されてるSランク3人全員が身内や知り合いだもんな。

そういえば、未公表の後の2人って誰だ?

一人は横島師匠の可能性があるな。

横島師匠は普段はBランクの免許を持ってるけど、本当は世界にたった一人しかいないSSSランクのGSだし。

ドクター・カオスもSランクGSだけど、イタリアかフランス在籍のはずだしな。由比ヶ浜の家に居候してるけど。

 

 

「因みに、Cランクから個人事務所を立ち上げられ、弟子をとる事が出来ます。Cランク以上が真の実力者だと言っていいでしょう」

例の如く、由比ヶ浜が俺の耳元で「凄いねヒッキーって」

さらに、川崎までも俺の耳元で「やっぱあんた凄いわ」っておい。

両方からやめてくれませんか?もうなんていうかだな、気恥しさが爆発しそうだ。

しかも、後ろからだけでなく、左右からの生徒達の視線が痛い!

 

それと昨日、審査で昇格してBランクの免許を渡されました。

はぁ、実力が伴って無いんじゃないか?

美神さんに叱られたばっかりだし。

ここは喜ぶべきなんだろうが、今は気が重い。

 

「現在日本では現役のゴーストスイーパーは1000人も満たない。圧倒的に人材不足です。そうかと言って合格者を安易に増やせば、質が下がります。それでは意味が無い。現在この業界では優秀な霊能者の育成が急務なのと同時に、霊能者以外の方々の協力が不可欠なのです。以上が私の講義です」

そう言って西条さんの講義が終わる。

 

プログラムではこの後、ちょろっとオカルト犯罪の現状についての講義があり、オカルトGメン東アジア統括本部のビルの中を一周してから昼食だ。

 

その後が問題だ。

このビルのすぐ近くのGS協会本部に移動なんだよな。

やばい、ヤバすぎる。

 

しかも、そこで何でもデモンストレーションがあるとかで、その講師が……

 

 

 





ふう、何とか終わったです。
次は……八幡頑張れ。

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