やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(117)職場見学その2

オカルトGメンの職場見学は午前中の講義が終わり、建物内の見学を終えた後、昼食は大会議室でとるようにとお茶と弁当を職員から渡される。

 

由比ヶ浜は三浦たちと集まって弁当を食べる様だ。

まあ、いつもは俺と雪ノ下と食ってるからな、こんな時ぐらいは、友達と食べたいのだろう。

雪ノ下は、俺の方をチラチラと見ていたが、どうやらクラスメイトに捕まり、そっちで食べる事になりそうだ。

流石に奉仕部の部室と違い、生徒が120人も集まってる場所で大っぴらに由比ヶ浜と雪ノ下の三人で食べるのは憚れる。というか恥ずかしい。

 

俺はというと講義の席で、そのまま川崎と弁当を食べる事にしたのだが、戸塚が一緒に食べようよと声をかけてくれた。まじ天使だ。

その笑顔が眩しい。なんで戸塚は女に生まれなかったんだろうか?

まあ、材木座も一緒なんだけどな。

 

「八幡!我の右手が唸って轟叫ぶ!我はゴーストスイーパーになる!!」

材木座は右手を額に当てながら、そんな事を突如叫び出す。

早速、さっきの講義で感化されやがったか。

何言ってんだか、幽霊が怖くて、ゴーストスイーパーになれるかよ。

 

「あんたうるさい。静かに食べろ」

「はひ」

川崎に怒られ、縮こまる材木座。

すげー、一発でこいつを黙らせたぞ。

流石は総武高校の一匹狼、いや女豹だったか。

 

「でも義輝じゃないけど、憧れるよね」

戸塚は笑顔でそんな事を言う。

戸塚―――!いつから材木座を下の名前で呼ぶように!?

そんな仲に何時の間に!?

と、戸塚が材木座に汚されただと…おのれ材木座!

 

「八幡、八幡ってば聞いてる?」

俺は縮こまる材木座に呪いの言葉を送るのに集中していて、戸塚の言葉が耳に入ってなかった。

 

「あ、ああ、まあ、ゴーストスイーパーって危険そうだぞ。さっきの講義を聞いてるだけで大変そうだ」

俺はそんな返事をするにとどめる。

戸塚が憧れてるだと。くそっ、真実を打ち明けられないのは辛い。

これは致し方が無いのだ。

川崎も澄ました顔で、その話をスルーしてくれる。

川崎にも、事前にちゃんと俺がGSだとバレないように協力を仰いでいた。

 

「そうだよね。僕なんかがなれるわけないか。でも、八幡とか川崎さんは似合ってそうだよ」

戸塚のこの笑顔。

くっ、打ち明けたいが、いかんのだ。

 

「わたし?わたしは無理無理。ゴーストスイーパーってのは憧れだけじゃなれるもんじゃないよ」

川崎は慌てて否定した後、なんか遠い目をし出した。

あ、なんかスイッチ入った。

川崎はゴーストスイーパーを美化しすぎて、神聖視している節があるのだ。

まあ、唐巣神父の所でバイトしてたらそうなるよな。

唐巣神父は超良い人だからな。唐巣神父そのものが良い人であって、決してゴーストスイーパーだから良い人ってわけじゃないんだぞ。

うちの美神さんと横島師匠を見て見ろ。

超一流ゴーストスイーパーは欲望まみれの穢れた人達が殆どだ。

 

「まあ、俺も無理かな」

すまん戸塚、俺は既にゴーストスイーパーなんだ。

戸塚に真実を伝える事が出来ない俺は、心の中で血の涙を流していた。

 

 

 

午後から引率のC組の田中先生について行き、GS協会本部ビルに移動を開始する。

俺は移動中に朝に渡された今日の職場見学プログラムのプリントを目を通す。

 

まずはGS協会六道会長の挨拶か、その後の流れは、GSデモンストレーションとGS体験コーナーとある。

そこの特別講師の名前が……美神令子除霊事務所美神令子って書いてある事を再度確認する。

俺はそこに一抹の不安を覚えざるを得ない。

俺は何も知らなかったんだが……美神さん、何も言ってくれないし。

キヌさんもたぶん、美神さんに面白半分に口止されたのだろう。

ただ単に美神さんが忘れてただけなのかもしれないが。

いや、美神さんはいいんだ。

あの人は、こう言う場ではネコ被って、大人の対応を見せるから。

それに年に数度、六道女学院霊能科に講師をしに行ってる。

意外にもちゃんと生徒達の面倒を見てるらしいのだ。

キヌさん曰く、人気の講義らしいし。

よって、俺の不安はそこじゃない。

 

GS協会本部ビルに到着すると、受付の職員さんに地下2階へと案内される。

そこは学校の体育館位の広さがあった。

ここは第2訓練室だ。

俺も何度か来たことがある。

GS協会本部の地下は訓練所を兼ねていた。

都会じゃ、なかなか大きな術の訓練なんて出来ないからな。こういう対霊能用の設備が整っている場所は貴重だ。

 

 

生徒達はその第2訓練室でクラス毎に整列させられる。

 

GS協会六道会長と数人のGS協会本部の職員が現れ、六道会長の挨拶を終え、今から行うカリキュラムの担当者の紹介が始まる。

「皆さん、よく知ってると思います~。今日の特別講師の美神令子さんは六道女学院の卒業生でもあります~。それと今日は特別に来ていただいて、GS体験コーナーのお手伝いをしてくれるお二人も紹介いたしますね〜。1人は……」

六道会長がそう言った瞬間、第2訓練室の照明がすべて消え、真っ暗になる。

 

嫌な予感がしてたまらない。

 

 

パラパラパーーーッパ――――ッパッパッパー―――――ッ

何故かトランペットの音色が会場に響き渡る。

生徒達はさぞ混乱してるだろう。

 

そして、トランペットの音色の先、生徒達後方の上方に設けてある中二階観覧席にスポットライトが当たる。

そこには、トランペットを片手にタキシードスーツを着た男が決めポーズをとりながら、生徒達に爽やかな笑顔を向けていた。

「やあ、君たち。僕はゴーストスイーパー横島忠夫、よろし……ブッ」

 

その男が自己紹介の途中に、どこからか飛んできたヒールの入ったパンプスが顔面にめり込んで、中二階から床に落下。

そこで、また照明が真っ暗になる。

「ウギャーーーっ、出たかっただけなんやーーーッ女子高生にアピールを!ギャー―ス、ウゴッ、ベゴッ、アベボッ!!」

その男の悲鳴だろう物がしばらく続く。

 

そして、アナウンスが入った。

『お見苦しい物をお見せいたしました。ただいま、不審者は排除致しましたので安心してお過ごしください』

照明が再び点灯するが、先ほどの男の影も形もない。

生徒達は、沈黙する。

…………

………

……

やると思った!!

絶対来ると思ったね。あの師匠がこんな美味しい場面に来ないはずが無い!!

美神さんは多分、こうなる事を見越して、す巻きにしておいたはずだが、それを掻い潜ってここに!

多分、今のは美神さんの折檻だろう。もはや横島忠夫の命は風前の灯火に!

……まあ、直ぐ復活するけどな。

 

「ヒッキーのお師匠さんだよね。相変わらずだね。ヒッキーはあんなにならないでね」

由比ヶ浜に苦笑気味に耳打ちをされる。

はい、流石にああはならないと思います。あそこまで欲望に忠実に煩悩をさらけ出せるなんて、普通の人間じゃ到底無理だと思います。

「あの横島って奴、またあんな事を、今度神父の教会に現れたらふんづけてやる。比企谷もよくあんなのに付き合ってられるね」

川崎が眉を顰めながら俺に耳打ちする。

はい、あんなのが師匠です。普段はあんな感じなんですが、本当はいい人なんだ。たぶん。

 

だが、沈黙していた生徒の中から大声を上げる奴がいた。

「ああああ―――っ!」

「アレって!」

戸部と海老名だ。

や、やばい。

この二人は去年の修学旅行中(⑮話参照)に俺と横島師匠が言い合いしてる所をばっちり見られてる。

師匠がゴーストスイーパーだと知れたら、俺もバレる。

な、なんとか言い逃れをしないと……。

 

しかし、2人は……

「あの人、見た事があると思ったら、ヒキタニ君のお兄さんじゃね!?」

「キターーーーーッこれ!ヒキタニ君の年上のボーイフレンドっ!!グ腐腐腐腐腐腐っ!薄い本が捗るっ!」

おいーーー!?何とんでもない勘違いしてんだ!?

戸部――――!?俺にはあんな変態な身内も兄もいない!!

鼻血だしながら海老名もなんて勘違いすんだよ!ふざけんな―――!!

 

生徒達が一斉に俺の方を見る。

しかも「不憫だ。あんな兄なんて」とか言って俺を可哀そうな子を見るような顔をしてる連中と、「嫌ね。男と付き合ってるなんて」滅茶苦茶引いてる連中と、「ヒキタニ×変態兄、行ける!」とか言って嬉しそうに盛り上がる女子連中……

 

「ヒッキー、あたしは大丈夫だから」

「比企谷……それだけはやめておいた方が良いよ」

由比ヶ浜と川崎も何言ってんだ!?

お前らは知ってるだろ!あの人は俺の師匠であって、兄でもボーイフレンドでもなんでもない事を!!

 

さ、最悪だ。

いや、ゴーストスイーパーだとバレなかったのは不幸中の幸いか!?

しかし、これってプラスマイナスで言えばマイナスじゃね?

まあ、今更レッテルの一つや二つ増えたところで俺の学内での評価は変わらんから、プラスと言えばプラスか。

俺はなんとか自分を無理矢理納得させることが出来た。

 

 

 

「皆さん~、注目~。今の不審者は美神令子さんが倒してくれました。流石は一流のゴーストスイーパーね~。その都合で、令子さんは手が離せなくなりました。なので、先にGS体験コーナーから始めます」

六道会長はそう言って話を進める。

横島師匠の事を最初から最後まで、不審者扱いすることで、俺のGSバレを避けてくれたんだと思う。

哀れ横島師匠、今頃、美神さんに半殺しにされてるんだろう。思いっきり自業自得だ。

 

「GS体験コーナーを、皆さんに指導していただくゲストをお呼びしま~す」

六道会長は先ほどの事は何もなかったようにプログラムを進める。

 

そういえば、GS体験コーナーを手伝ってくれる2人のゲストって誰だ?

横島師匠のハズは絶対無い。師匠をよく知る六道会長や美智恵さんが絡んでいるんだ。しかも、今ので完全に不審者扱いになってるしな。

1人はキヌさんだろう。六道女学院出身だし、美神さんの秘書みたいなもんだし、それに俺たちと年が近い。

もう1人は誰だ?

 

 

すると、この第2訓練室の前方の扉が開き、巫女姿のキヌさんが微笑みながら静々と現れる。

やっぱりそうだよな。じゃあ、もう一人は?

 

その後に、純白の式服姿の美女がにこやかな笑顔で続いて入って来た。

 

えっ?なんで?

 

「こちらは~、皆さんより一つ年上で、今年六道女学院を卒業され、去年まで現役女子高生のゴーストスイーパーだった美神令子除霊事務所所属の氷室絹さんで~す」

「氷室絹です。よろしくお願いします」

六道会長に紹介され、キヌさんは微笑みながら丁寧にお辞儀をする。

 

「こちらは、知ってる人もいるかも知れませんね~。皆さんの総武高校の3つ上の先輩でBランクゴーストスイーパーの、土御門陽乃さんで~す」

「土御門はペンネームみたいなもので、本名は雪ノ下陽乃よ。3年前までは皆と同じ総武高校に通ってました。みんな、よろしくね」

六道会長に紹介され、陽乃さんは外ズラ仮面のあの計算つくされた人懐っこい笑顔で皆に自己紹介をする。

 

ちょ、まじでなんで?

陽乃さんがここに?

いや、確かに総武高校の卒業生で現役ゴーストスイーパーって事で呼ばれたんだろうが、美神さんとは犬猿の仲みたいな感じだったのに、除霊仕事じゃないが、一緒に組むなんてどういう風の吹き回しだ?

 

何も起こらなきゃいいが……。

 





と、トランペットがやりたかったんやーーー!
あのギャグがやりたかっただけでして、その、すみません。

前回のアンケート。
いや、アンケートにならなかったですね。
一応正解は美神さんなんですが……全員来ちゃってますから。
その他、意外の人全員正解ってことでw

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