やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は意外とシリアス展開です。


(118)職場見学その3

「これキタ――――――――っ!!」

生徒達の中から雄たけびが聞こえる。こんな感じだが海老名じゃない。

 

「式服の笑顔が眩しい太陽のような美女陰陽師!!そして!!赤袴の巫女さん!!しかも、清楚系!微笑みは全てを癒す!ゆるふわ系巫女さん!!我は今、猛烈に感動しているーーっ!!」

全身を震わせ、涙をまき散らし、いや、鼻水もまき散らしてるな、顔をぐちゃぐちゃに濡らして、感極まったようなそんな感じの材木座義輝(17歳)が、俺の隣で雄たけびを上げていた。

もちろん、材木座の視線の先には式服姿の陽乃さんと、いつもの巫女装束姿のキヌさんが、六道会長の紹介で生徒達の前に挨拶をして立っていた。

 

材木座、耳元で超うるさいし、うざい。

ここは他人のふりだ。

確かにわからんでもない。キヌさんの巫女装束を見て、感動しない奴はいないだろうし、陽乃さんだって、式服を着れば、元がいいから清楚系美女に見えるからな。

 

いや、それよりもだ。

GS体験コーナーとやらのサポート役に何でこの二人が?

キヌさんは良いとして、何故陽乃さんも一緒に?陽乃さんが来ること自体は別にそれ程おかしい事は無い、総武高校のOGで、プロのゴーストスイーパーだからな。

だが、美神さんとは犬猿の仲のはずだ。今年の2月末のあの事件ではっきり分かったが、美神さんは陽乃さんを毛嫌いして、陽乃さんは陽乃さんで突っかかってる感じだった。

除霊仕事とは異なるが、一緒に仕事とは……どういう風の吹き回しだ?

 

 

陽乃さんがマイクを持ち、前に出てGS体験コーナーとやらの説明を始める。

「今からGS体験コーナーの説明しますね。午前中に習ったと思いますが、ゴーストスイーパーとは、国が認めたプロの霊能者の事を指します。じゃあ、霊能者とは何かと。一般的には幽霊が見えたり、幽霊と会話が出来たり、気配を感じる事が出来る程度だったり、と様々で、結構あやふやだったりします。そんなあやふやなものを測るのにどうしたらいいか?仮にも国が認めたプロの霊能者であるゴーストスイーパーがそんなあやふやな基準で選ばれるわけには行かないですよね。なので人が持つ霊気の保有量とその霊気をエネルギーから力に変換した霊力値を測り、一定基準値を設定しています。GS資格免許試験のペーパー1次試験と実戦2次試験の間で能力測定として、霊気と霊力の測定を行ってます。ここでかなりの人が落ちるわ。そもそも霊気とは何か?霊気は人や生物には必ず存在する生命エネルギーの一種と思ってくれればいいわ。これが無いと人や生物は生命維持できないの。霊力とは霊気を力に変えたもの。この霊力を使ってゴーストスイーパーは様々な術を発現させる事ができるわ。簡単に言うと、霊気が燃料で霊力は動力、車で言うと霊気がガソリンで霊力は力を生み出す馬力だと思ってね」

陽乃さんの説明は分かりやすいな、これならばここの生徒なら、何となくでも理解できただろう。

 

陽乃さんは説明を続ける。

「ゴーストスイーパーはその霊気の保有量と霊力の出力が通常の人の3~5倍以上あると言われてるわ。上位のゴーストスイーパーとなると30倍以上にもなるの。そこで、皆さんに体験してもらうのは、そのうちの霊気の量を測る体験をしてもらいますね。実際にGS資格免許試験で使用するオカルトアイテムを手に取ってもらいます」

体験コーナーとしては妥当なものだ。これなら危険を全く伴わない。

霊力値測定は霊力を扱うすべがないと放出も出来ないが、霊気測定は体内にある霊気の保有量を測るだけだから、素人でも可能だ。

流石に実際に除霊作業なんてさせられないし、後は安い札を渡して、投げさせるぐらいしかできないだろう。

 

 

「では、皆さん10人づつ一列に並んでください」

キヌさんがそう言って手を上げると、生徒達はわらわらとキヌさんの所に集まって並び始める。

材木座は猛ダッシュで先頭に並ぼうとする。普段の材木座から考えられない機敏さだ。

戸塚もそれにつられてついて行ってしまった。

由比ヶ浜と川崎と俺も順番の中頃に並ぶ、雪ノ下が俺達の方に来て、俺の後ろに並んだ。

 

「姉さんは何のつもりかしら」

「雪ノ下も聞いてないのか?」

「何も聞いてないわ」

「まあ、普通に考えれば、総武高のOGだから呼ばれたんだろうが……」

「そうね……」

雪ノ下も俺と同様に、陽乃さんがここにこうして居る事が腑に落ちないようだ。

 

「なんか楽しそうだね!」

そんな俺と雪ノ下を余所に、由比ヶ浜は楽し気だ。まあ、自分の霊気や霊力を測る機会なんてめったにないからな。

他の生徒も結構盛り上がってるし。

 

「最初の一列目の人は、前に出てこの白いラインに一列に並んでください。今からお渡しします測定器を両手に持って、待っててください」

キヌさんがそう説明しながら、一人一人に両手持ちの握力計のような測定器を渡す。

霊気を測る測定器だ。

 

そんな中、材木座と戸塚も混ざって並んでいた。

キヌさんに測定器を手渡してもらってる材木座の顔はデレデレだ。

 

「皆さん、難しいものではないです。グリップにあるレバーを軽く引くだけです。リラックスした方が良い結果になりやすいので、頑張ってくださいね」

霊気の保有量を測るだけであれば、リラックスした方が良い。

今回はやらないが、霊力は別だ。霊力を放出させる方法は人によって異なる。思いっきり気合いを入れた方がいい人や、リラックスした方がいい人もいる。

俺の場合は、今は意識せずにやってるが、最初は自分の中にある霊気を循環する血液に例えて、それを静かに燃焼させるイメージだった。

 

「それでは、始め」

そして陽乃さんの合図で皆は測定を開始する。

 

「ふふふっ、遂に我の隠された天翔ける力を発揮する時がきた!!竜神気!!開放っ!!」

案の定、中二病を拗らせまくってる材木座は叫んでいた。

誰かあいつを黙らせてくれ。見てるこっちが恥ずかしくなるぞ。

 

 

「はい、そこまで」

1分間の計測が終わる。

 

生徒達は測定器の自分達の測定値を見て、騒ぎ出す。

体育の運動測定と同じ感覚だ。

皆こう言うの好きだからな。

 

だがそんな中、キヌさんがとある生徒を褒めちぎっていた。

「凄い、凄いですね。これ程の霊気を持ってるなんて、GS資格免許試験の霊気測定を通るかもしれませんね」

 

「わ、我が!?と、当然!!ふははははははっ!?……本当!?」

その生徒とは材木座だった。本人も当惑してる様だ。

そういえば材木座の奴、霊気保有量だけはゴーストスイーパーになれるぐらいにはあったんだった。

しかも、気合いと共にちょっぴり霊力も漏れてたし。

やばいな。あいつゴーストスイーパーに本気でなるとか言い出さないだろうか?

 

因みに戸塚は平均的な一般人並みの霊気保有量だ。

俺の場合、測定器を使わなくても、この霊視に優れた目で見るだけでわかる。

 

次々と生徒達は測定を行って行き、三浦や葉山らのグループも測定を終える。

葉山は意外と霊気保有量が多いな。材木座ほどじゃないが……。

 

そんで、俺達の番が回って来る。

「ヒッキー…その大丈夫なの?」

「あなたの事だから、対策は施してるのだろうけど」

「ああ、俺は調整するから大丈夫だ」

「流石はCランクGSね」

由比ヶ浜や雪ノ下、川崎も心配してくれるが、大丈夫だ。

流石にこんなところで、真面目に測定するつもりは無い。

そんな事をすれば、俺の霊気保有量だと即効で現役のゴーストスイーパーだってバレてしまうだろう。まあ、そんな事に仮になったとしても、キヌさんがうやむやにしてくれるだろうがな。

この霊気保有量を測る測定器は体を巡る霊気を、測定器内に両手から流れ込む霊気の量で測定する装置だ。

俺が意識的に霊気の流れを止めるだけで、霊気の量を測る事が出来なくなる。

因みに、自然に漏れる霊気や霊力を抑えるすべも当然会得してる。

これが出来ないと、妖怪や魔獣にこちらの居場所が悟られてしまうからだ。

 

 

キヌさんは素知らぬ顔をしてくれて、俺達に測定器を渡してくれたが、陽乃さんは雪ノ下と俺にウインクをしてくる。

 

俺は霊気をちょろっと漏らす程度に遮断し、生徒達の平均値程度に抑える。

難なく、その場を後にした。

 

 

由比ヶ浜も雪ノ下も、やっぱちょっと霊気の保有量が多くなってるよな。

GSに成れるほどじゃないが……。

俺の影響か?いや、そうであれば、俺と過ごした去年の1学期の時点で霊気の量はとっくに上がってるはずだ。

去年の修学旅行の後から徐々に二人の霊気量が上がっているのを感じていた。

切っ掛けはやっぱり茨木童子と出会ってしまったのが大きかったか。

 

それよりも川崎だ。

キヌさんはあえてそこには触れなかったが、俺の目から見ても霊気量は材木座と遜色ない。

キヌさんは川崎とも面識があるし、事情も知ってるからその事には触れなかったのだろう。

やっぱり、過去に強力な悪魔の眷属に2回もつけ狙われたのが大きいか。

今年の1月に神父の教会で川崎と会って俺がGSバレした時よりも、霊気の量が増えてる。微弱だが霊力調整も自然と出来てる様だし……。

元々素質があったのかもしれないな。

それすらも見越して、唐巣神父は川崎を今もバイトとして雇ってるのかもしれない。

 

俺のように事故や何らかの切っ掛けで、後天的に急に霊障レベルの霊気を生み出す体質になる事も稀にあるが……。

大概、後天的に霊気や霊力を得るきっかけは、大小はあるが、霊障にあったとか、霊災事故にあったとか、何らか霊的な影響を受けての事だ。

霊気や霊力が関わるような事故に会うと、人間の防衛本能なのか、免疫反応なのかは解明されて無いが、霊気や霊力も高まる事がある。

だからと言って、全員がそうなるわけじゃないがな。

そうならない方が圧倒的に多い。

 

材木座の場合は、アレは生まれつきだろう。

だから、ある程度の霊気、霊力調整は自然と会得できた。

 

川崎の場合、後天的ではあるが一回目の悪魔につけ狙われた際は、10年前だから、小学生低学年の頃だ。その頃から緩やかに高まっていたのかもしれない。そして、2回目の悪魔の時に、緩やかだったものが、多少なりとも速まった可能性がある。

だが、10年かけて、緩やかに高まった物は、自然と調整も身につくものだ。

それと本人の素質の問題もある。

 

本人に言うべきか……いや、この件は唐巣神父に任せた方がいいだろう。

きっとあの人なら、川崎を導いてくれるはずだ。

 

 

 

んん?ちょっとまてよ?

このGS体験コーナー…ってまさか。

 

いや、あり得る。

美智恵さんの事だ。

ここまで見越して、オカルトGメンの職場見学をあちこちに売り込んでるんじゃないのか?

GS協会の職場見学と言えば、嫌がる学校も多いが、オカルトGメンと言えばイメージはGS協会に比べればかなり良いだろう。

 

俺はここで、とあることに気が付いた。

 

あの人、オカルトGメンやGSの売り込みやイメージアップの為だけじゃなかった。

俺の推測が正しければ、この職場見学は……

霊能者、いやゴーストスイーパーの適正者を見つけるための物だ。

そのためのGS体験コーナーでの霊気測定か。

なんて計算高い人なんだ。

 

この推測があってれば、後に材木座の元に、霊能系の大学か専門学校からのスカウトか何か来るだろう。

美智恵さんは小学校や中学校にも職場見学を売り込んでるらしいから、女子であれば、六道女学院へ、男子の受け皿は今後作って行くのだろう。

 

美神さんも陽乃さんと組むなんて、あのわがまま大魔王が何もなくして、こんな事をするわけが無い。

美智恵さんの説得と言う名の脅迫があったとみて間違いないだろう。

2月末の温泉訓練で、相当弱みを握られたようだし。

陽乃さんが嫌々ながらも美神さんと組んでまで、ここに居るのも納得できる。

土御門本家から使命を受けてここに居るのだろう。

関西の土御門家もこの流れに乗らないわけには行かない。

関西には来期から、国立大学で霊能科が出来る。既に試験的に作ってるらしい。

それに陽乃さんも、六道家同様に、関西にも近い将来には霊能に特化した学校を作るような事も言ってた。

ここでうまく行けば、関西でもこの職場見学を行うのだろうな。

 

美智恵さんの本気度が伺える。

これは今迄、霊能家や陰陽師、神社仏閣などの宗教関係が幅を利かせていた狭い業界の裾野を広げる作戦だろう。

事務方の人材だけでなく、ゴーストスイーパーそのものの数を増やすつもりだ。

しかも、ほぼ手つかずの霊能関係の家とは関係ない一般人からな。

 

俺は霊気の測定を受ける生徒達を見ながら、頭の中で考えを巡らせていた。

 

「ヒッキー、どうしたの?」

「あなた、また何か抱え込んでいるのではないかしら?」

「あんた、難しい顔して」

どうやら俺は顔に出ていたようだ。

由比ヶ浜と雪ノ下だけじゃなく、川崎にまで言われる始末。

 

「そうじゃないんだが、気になる事があってな。いや、心配されるような物じゃない」

俺は取り繕う様にそう言う。別に誤魔化してるわけじゃないんだがな。

 

「ヒッキーがそう言うんだったら……」

「そう、ならいいのだけど」

「まあ、あんたがそう言うならいいんだけどさ」

3人は納得してくれたかは分からないが、そう言う事にしてくれたようだ。

 

もし俺の推測通りだったら、下手にこの話をするわけには行かない。

真実ならば、何らかの面倒ごとに巻き込まれる可能性が大きいからだ。

 

 

……俺はふと第2訓練室の後方の扉を見ると、美智恵さんが手招きしていた。

はぁ、霊力をちょろっと開放して、俺だけに気が付かせて、呼ぶのはやめて頂けませんかね。

 

「はぁ」

俺はため息を吐く。

俺が呼ばれる理由はなんとなくわかる。

こんな時にわざわざ呼ばなくてもいいだろうに……

どうやら俺は面倒ごとに既に巻き込まれてる様だ。

 

 




意外と長くなってしまった。
出来たら、次で終わらせたいけど無理かな?
美神さんと横島師匠は相変わらずですが、陽乃さんはまだ大人しいですね。……まだね。

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