やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
では続きを……
午後から、雪ノ下と厄珍堂に発注していた霊能アイテムを引き取りに向かった。
事務所から厄珍堂までそれ程遠くないため、徒歩で向かう。
雪ノ下は道中に俺に何気なく訪ねる。
「そういえば、鶴見留美さんが昨日あなたを訪ねて来たそうね」
「ああ。キヌさんから聞いたのか?」
「そうよ。留美さん、霊能者の家系だった事には少々驚いたわ。貴方、私達に何も言わないのだし」
「去年の夏休みのボランティア当時は、俺も霊能者ってバレるわけには行かなかったし、あいつも、自分から霊能者を名乗る事は辛いだろうしな。いじめの原因がそれだったからな」
俺は当時、雪ノ下や由比ヶ浜、葉山達に留美が霊能者だという事は話していない。ちょっとオカルト好きな女の子がそれが原因でいじめられていたという程度しかな。
「そう。…その留美さんが、貴方の弟子になりたいと訪ねて来たのに、貴方は頑なに断ろうとしていたと聞いてるわ。何故かしら?」
「俺が人にものを教えられるような人間に見えるか?」
「どうかしらね。意外と似合ってるとは思うわよ」
どうにもやりにくい。去年の雪ノ下であればここで毒舌プラスで同意してくれるというパターンだったんだがな。
「いや、俺には無理だ。……弟子にするという事は、あいつの人生を俺が左右することになる。俺はGSとしてもまだまだだし、人生経験なんてものも浅い小僧っ子だ。そんな重要な事を俺が出来るはずが無い」
そう、弟子にするという事はあいつの人生に大きく踏み込まないといけないという事だ。俺次第であいつの人生は大きく変わる。人の人生を背負うような責任を俺は持てる自信が全くない。
「確かに責任重大ね。でも……、今の貴方と同じ高校3年生で当時の横島さんは貴方を弟子として受け入れたのではなくて?」
確かにそうだ。横島師匠は俺を受けいれ、ここまで育ててくれた。
何もわからない俺を一から根気強くな。
そう考えると、横島師匠は普段はあんな感じだが、今の俺よりもずっと大人だったのかもしれない。
いや、あの年でやけに人生経験も豊富だし……何せ神様に認められているんだ。
武神の直弟子だし、GSとしては世界最高峰のSSSランクだ。
「横島師匠はああ見えて、俺なんかよりもずっと凄い人だ。普段のアレな感じからは想像もつかないかもしれんが……」
「私も知ってるわ。何せ京都の時の横島さんを見ているのだし……それに、表向きはランクはBでもGS協会やオカGの仕事はS扱いで処理するようにと絹さんからはそう教えて頂いてるわ。きっと、何かあるのでしょうね」
「ああ、俺も詳しくは知らないがな」
横島師匠の過去に何かあったに違いないが、タイガーさん辺りから聞いても、とんでも変態経歴しか聞けないし。
「しかし、美神さんが強引に弟子にしようと企んでるのでしょ?諦めて弟子にした方が良いのではないかしら?」
そうなんだよな。
俺がまだ、見習い期間だから法律で弟子は取れない事になっていたから、即決は免れたのだが、3カ月後にはその見習い期間が終わってしまう。
因みにだ。
後でちゃんと弟子について調べたのだが、弟子の育成できるの基本条件はCランク以上というのが大前提だ。
その他にだ。
①Cランク以上でも見習い期間の1年間は弟子を取る事が出来ない。
②Cランクの場合、在位が2年以上でないと弟子を取る事が出来ない。
③Bランク以上においては、見習い期間以外では直ぐに弟子をとれる。
という条件がある。
これはGSが個人事務所を設立できる条件と全く同じだった。
まあ、普通はEランクから徐々にランクを上げていくし、DからCって結構入れ替えが激しかったりする。
Bランクとなれば、よほどの事がないとCには本来落ちにくいらしい。逆にそれ程Bランクに上がるには実力が必要だという事なのだが……俺なんかがBランクでいいのかと、改めて思ってしまう。
それとだ。GS資格試験の優勝者のBランクの場合。ここ数年の優勝者は実力が伴っていないから直ぐにCに落ちるらしい。因みに去年の10月度優勝者である陽乃さんは6月の審査でもBランクを維持している。
陽乃さんがあの期の優勝者じゃなきゃ、優勝者のBランク付与は廃止されていたらしい。
「なんとしても断りたいんだがな。正直言って自信がない。留美の奴、あの年でかなりの使い手だ。ペーパークラフト使いだとしてもだ30枚以上の折り紙を同時にコントロールしてた。俺が同時にコントロールできる札は、精々6、7枚が限界だ。これでも去年よりは枚数は倍になったんだけどな」
「姉さんが実力を認めてる貴方から見ても、そんなになのね」
「ああ、正直俺が教えられる事なんてないと思う。それに留美は神道系の家系だ。本来神道系の師匠を選ぶべきだ。比べるまでもなく、キヌさんの方が間違いなく適任だ。俺じゃあ不足すぎるんだよ」
「なるほど。貴方は留美さんの事を考えて断り続けていたのね。でも師匠として不足という事はないのではないかしら?美神さんが下心を全面に出していたとしても、仮にも貴方に弟子をと言ったのでしょ?絹さんも応援してるようよ」
「はぁ、勘弁してくれ、皆勘違いしてるだけだ」
「そうかしら?」
そんな会話をしながら、古風な古物商のような建物の前まで来ていた。厄珍堂だ。
店主について先に説明をしておこうとは思ったが、説明するよりも実際会ってみた方が分かるだろう。
昔ながらの引き戸をガラリと空け、先に俺は店内に入る。
「こんにちは、美神令子除霊事務所の比企谷です。発注したものを引き取りにきました」
俺は普段は厄珍堂にこんな畏まった挨拶はしないんだが、雪ノ下に見本を見せるためにあえて、こうした。
返事がない。
俺に続いて「こんにちは」と挨拶しながら雪ノ下も店内に入る。
店内にはオカルトアイテムや何に使うかわからん石像やら怪しい薬の瓶やら、所狭しと陳列されている。
俺は店主の厄珍のおっさんが何時も居るはずのカウンターへ向かうと……
「むふふふふふっ、いいぞ、いいぞ、そこだアル。むふふふっ!」
小っちゃいおっさんがカウンター内で結構な音量でエロビデを堪能していやがった。
「おっさん!客だぞ!」
「ゾンビ小僧か!今いい所アル!ムフフフフッ!後で来るアル」
厄珍のおっさん、いい年こいて何やってんだ。
商売する気があるのか?
エロビデぐらい家で見ろよ!
雪ノ下はその状況に気がつき、顔を赤らめ、俺の影に隠れるように後ろに下がる。
だから、嫌だったんだ。ここに連れてくるのは!
「おっさん、新人も連れてきてるんだ」
「ん!むはーーーーっ!超美少女アル!なぜそれをもっと早く言わなかったアルか!」
厄珍は俺のその声に顔だけ振り返って、カウンターに飛び乗る勢いでこっちに迫り、雪ノ下を舐めまわすように下から上へと見やる。
「おっさん。ビデオ付いたままだぞ。消しとけよ」
「いかんアル。お嬢さんのいる前で」
厄珍のおっさんは急いでテレビを消しに行く。
「………」
おっさん今更取り繕っても遅いぞ。
雪ノ下がもうおっさんを汚物を見るような目で見てるぞ。
「ゾンビ小僧!この子は誰あるか!早く紹介するアル」
再びカウンターに乗る勢いで迫って来るおっさん。
「ああ、今度うちの事務所でアルバイトすることになった……」
「雪ノ下雪乃です」
俺は雪ノ下を紹介し、雪ノ下は侮蔑の目で厄珍を見ながらも、一応体裁を整え、綺麗にお辞儀をする。
「いい、いいアル。その冷たい目で見られるのはゾクゾクするアル!」
「因みに、俺の同級生だ。如何わしい事をしたら、速攻で警察に突き出すからな」
「女子こーーーせい!?」
おっさん鼻血出てるぞ。
「雪ノ下は霊能者じゃない。如何わしい薬とか勧めるんじゃないぞ」
「分かってるアル。この子に手を出したら令子ちゃんに殺されるアルからな」
そりゃそうだ。
しかし、キヌさんはこのスケベなおっさんの対処をよくできるな。
笑顔や言葉で悉くこのおっさんのスケベ言動をスルーしてるしな。
「そんじゃ、発注品を用意してくれ」
「準備するアル。ちょっと待つアル」
「それと俺に個人的に、30万の札を5枚と霊紙30枚と霊灰とちょっといい硯と筆を売ってくれ」
「ゾンビ小僧、自分で札でも作るつもりあるか?在庫があるか見てくるアル」
「まあ、練習がてらな」
厄珍のおっさんは店の裏へと姿を消す。
「とまあ、店主はとんでもないスケベだ。横島師匠とは結構気が合うようだ。適当にスルーする方が良いぞ。いちいち腹立てても馬鹿らしい」
俺は雪ノ下に厄珍について軽く説明する。
「その様ね」
雪ノ下は盛大にため息を吐いていた。
「それと、一応今釘を刺しておいたが、あのおっさん、人に怪しい新商品の実験台にする癖があるから、気をつけろ。甘い言葉には裏があるっていう典型的なおっさんだ」
「……気を付けるわ」
「まあ、基本一人で来ることはめったにないだろう。高額な物が結構あるからな、誰か一緒に来た方が良いだろう。俺やシロやタマモとかに頼めばいい」
「そうするわ。あの店主と気が合いそうにないもの」
「そりゃそうだ」
あのおっさんと気が合うのって横島師匠ぐらいだもんな。
「待たせたアルな。こっちがおキヌちゃんから発注が来た分アル、ゾンビ小僧の分の霊紙30枚と霊灰100g、硯と筆はここから選ぶアル」
厄珍のおっさんは店の奥から事務所の引き取り品の大きな紙袋と、俺個人が買う予定のアイテムを持ってきてた。
それと硯は4つ、筆は12本を目の前のカウンターに上に置く。
「うーん。結構するな。硯は10万~30万、筆は2万~120万って結構な幅があるな」
「これでも初心者から中級者向けアルよ。ゆっくり選ぶアル」
俺にはこういった物の良し悪しはよくわからんが、霊視でその物が持つ霊験みたいなものを見定める事は出来る。
これは熊野産の硯で、こっちが諏訪産の硯か、これのどっちかだな。
筆は、ちょっと安めの奴でいいか。
うん?
俺は硯と筆を眺めてる余所に、いつの間にか俺から離れた場所で厄珍が何やら雪ノ下とコソコソと話し込んでいた。
どういうことだ?雪ノ下の奴、やけに熱心に聞いてるな。あんなに厄珍を毛嫌いしていたのにだ。
怪しいな……
俺は硯を見るふりをして霊気を少々開放し、基礎身体能力を上げ聞き耳を立てる。
「これ、凄いアル。これを毎日2錠飲めば、1週間でバストが3cm。6錠飲めば9cm大きくなるね。おキヌちゃんも3年前はBだったのに今じゃDに行こうかという言う勢いアル。飲み続けないと元に戻ろうとするアルよ」
「……お、お幾らかしら?」
「お代わりにアンケートに答えるだけで1カ月タダアル」
「定期購入をさせてもらいたいわ」
「今は大負けに負けて、年間たったの52万ね」
「年間で送ってもらえるかしら」
何怪しい健康食品の類のような、宣伝してるんだよこのおっさんは!
しかも雪ノ下にドストライクな商品を!
最近の雪ノ下はこの件に過剰に反応するしな。
雪ノ下もそんなに気にする事じゃないぞ。
「おい、おっさん。何雪ノ下に怪しい物を売ろうとしてるんだ?俺はさっきやめろと言ったよな」
俺は雪ノ下とおっさんの間に割り込んで、おっさんに凄む。
「失礼なゾンビ小僧アル!怪しくないね!ちゃんとした霊能漢方メーカーから出た分アル!」
「比企谷君……その、見逃してくれないかしら?私にはどうしても必要なものなのよ」
雪ノ下は俺に切羽詰まった感じで訴えかける。
「……おっさん!どうせ乙女の悩みに付け込んで、変な物売りつけようとしたんだろ!」
そんな雪ノ下を余所に、俺は厄珍と雪ノ下のやり取りを聞いていないふりをして、オブラートに包んで厄珍に文句を言う。
「人の親切心を疑うとは何て小僧アル。令子ちゃんの事務所を見るアル。トップは間違いなく令子ちゃん、次にタマモちゃん、その次に僅差でおキヌちゃんある。次にシロちゃん……そこから離れてこの子アル。どう考えても可哀そうアル!せめてもの親切心で勧めたのがどこが悪いアルか!」
その言い回しだけで何の順番か、わかってしまう。
確かにその順番であってると思うが、それはそれだ。
親切心とかじゃねーだろ。どうせ雪ノ下をその胸が大きくなる薬の被験者にしたて上げるつもりだろ!
「それにそのメーカー、宣伝文句のような効果が出ないって、いろんな商品が発売中止になって、2年前に潰れたメーカーじゃねえか。それにどうせ副作用があるんだろ!バストが大きくなる替わりにどんな副作用があるんだ!さあ吐け!」
俺は厄珍のおっさんにお互いの額がくっつくほどに迫る。
「き、聞こえていたのかしら?……忘れて、……今すぐすべて忘れなさい」
雪ノ下は俺の肩を掴む。
俺が振り返ると、ぷるぷるしながら、俯き加減で低い声でこんな事を言う。
し、しまった。
つい口を滑らせてしまった。
「ゆ、雪ノ下落ち着け。聞いてしまったのは悪かったが、このおっさんが勧める商品は怪しすぎる。間違いなく副作用があるだろう。べ、別にそのままでもいいんじゃないか?」
「そのままでいい?………巨乳好き谷君は慎ましやかな胸の私は、元々眼中にないという事かしら」
雪ノ下は涙目で俺の事を恨めしそうに見てくる。
雪ノ下にこの話題はタブーだ。
2月の温泉訓練以降特にだ。
「いや、そう言う事を言ってるんじゃなくてだな」
「………」
ああ、雪ノ下の奴、落ち込んでしまったぞ。
なんか雪ノ下の目がうつろで瞳孔が最大に開いたままなんだが、魂が半分抜けかけてるぞ。
「おっさんが余計な事をするから!とりあえず、事務所の分は引き取る。俺の分は後で取りに来る」
俺は事務所の荷物だけを肩に掛け、うつろな目をした雪ノ下の手を引っ張り店を出ようとする。
「……なんかすまんかったアルな」
厄珍のおっさんが珍しく、俺達が店を出際に謝罪の言葉を口にしていた。
事務所の連中だったら洒落で済むかもしれんが、耐性の無い雪ノ下にはきついものがあるだろう。
……これも慣れが必要だろうな。
美神令子除霊事務所に在籍するだけで、間違いなく精神力は高まる。
こんな事が、日常では溢れかえってるからな。
「…………」
雪ノ下は事務所に帰る道中、目がうつろだし、無言だ。
温泉訓練前はこの話題になると、俺が巨乳好きのスケベ扱いされ、ディスられて終了だったんだが。
今じゃ、この落ち込みようだ。
温泉訓練以降、いや、あの告白以降は、どうもこんな感じだ。
俺的にはディスられていた時の方がまだましだ。
いや、ディスられるのが好きだとかいう事じゃないぞ。
俺は何とか雪ノ下を励まそうとする。
「俺は胸の大小で恋人やらは決めるつもりはないし……、そ、そのだ。去年の夏のお前の水着姿は、綺麗だなとつい見てしまってだな……」
「そ、そうなのかしら…そうなのね。そう……このままの私でいいということかしら」
雪ノ下は開きっぱなしだった瞳孔は元に戻り、生気を取り戻す。
それどころか、顔を赤らめていた。
恥かしい事を口走った甲斐があったようだ。
ふう、前途多難だな。
というわけで、事務所での雪乃編は終わりです。
次は陽乃さんのデート編になるかな?
その後は次章へと……
それと……
恋人チキンレース。
温泉訓練終了時の好感度はガハマさんがトップ。
告白後は横並び。
4月初期ではガハマさんとゆきのんがデットヒート、ガハマさんが少し有利か?
ここにきてゆきのんが猛チャージ。
留美の登場で伏兵となりえるのか?
陽乃さんの出遅れ感は否めない。
サキサキとの関係は意外と安定。
いろはすはかなり攻めてますが、伝わっていない感じです。
と、いう感じに思ってますが?皆さんはどうでしょう?
125話段階で八幡恋人チキンレースで有利なのは誰?
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雪ノ下雪乃
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雪ノ下陽乃
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由比ヶ浜結衣
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川崎沙希
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ダークホース鶴見留美