やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

新章です。
久々にシリアス展開でお送りいたします。



【十三章】総武高校霊災編
(128)日常が非日常に落ちる日は……


一学期最後の登校日。

平塚先生は教壇で夏季休暇の過ごし方についての注意事項の説明を終えると、よく通る声で、こうホームルームを締めくくった。

「高校最後の夏休みだ。だがそれと同時に諸君らは受験生でもある。各々悔いのないように過ごしたまえ、以上」

 

明日から夏休みだ。

受験生にとっては、学力向上の絶好の機会である。

得意科目を伸ばすもいい、苦手科目を克服するもいいだろう。

自分の志望校に合わせ、大いに勉学に励めるのだ。

また、多くの学生は塾の夏期講習に行きレベルアップを図るであろう。

 

まあ、俺はいつも通りなんだけどな。

今更、足掻いたところでどうにもならないだろうというのが俺の自論だ。

夏休みの時間の半分以上はGSの仕事や妙神山での修行に充ててる。

それに部活もちょっとだけだが、ボランティア合宿がある。

残りの時間で、家での勉強に充てるつもりでいる。

 

第一志望はキヌさんと同じ霊能学部がある公立大学を目指そうと思う。

但し、霊能学部か理数学系の学部かはまだ迷ってる。

第二志望は有名どころの私立大学の理数学部を目指すつもりだ。

実は模試の結果では第一志望の方が合格率が高い。

文系科目に比べ理数系科目が苦手だからだ。

随分と克服はしたが、やはりスタート地点から異なるため、この差は如何ともしがたい。

都立大学は受験科目は文系理数系満遍なくあるが、それに比べ私立の理数学部は受験科目が理数系に偏っているためだ。

 

何故苦手な理数系学部に行きたいかというと、霊能の基礎である術式や魔法式は一種の超高度な数式であり演算式であり、超自然科学でもある。

現存する一般的な術式や魔法式を使用するならば、魔法式や術式を丸暗記するだけでいい。

だが、それだと応用を利かす事は全く出来ない。

もし応用を利かし、どんな場所でもどんな場面でも使用できれば、その術式は同じ術式でも、数倍の利用価値が生まれる。

応用を利かせられる術者とそうでない術者では、その差は歴然と付くだろう。

さらにだ。超高度な術式となると、気温、湿度、気圧や光などを計算に含め術式を形成させないといけないものもある。

これが分かっていて、ゴーストスイーパーを将来生業にしようとしてる段階で、これらを見過ごし放置することが出来るわけが無い。

だから、理数系の知識の習得は必須だ。

それに、西条さんや魔鈴さんはイギリスの超有名大学の大学院出だ。

魔鈴さんについては、独自で魔法を復活させたり、編み出している。物理学に自然科学、化学と高度に習得し成しえた結果だ。

美神さんは大学は出てはいないが、独自で勉強し大学院生並みの知識を持ってるはずだ。

あの人は普段あんな感じだが、努力を重ねてここまで来た秀才だ。

だから、俺は高校に入ってから、必死に苦手な理数系を克服し、ある程度のレベルまで押し上げた。

 

 

 

「ヒッキー、この後体育館で全校の終業式だって」

「ああ、そうだな」

「あっ、そうだ。期末テストの順位表が昇降口前に張られてるんだった。先に見に行こうよ」

「別に部活前でもいいんじゃないか?」

「いいじゃん。気になるし、行こうよ!」

俺は由比ヶ浜に引っ張られ一緒に昇降口に向かう事に……。

 

 

俺はこの時はまだ何も知らなかった。

ここで、あんなことが起きるなんてな。

 

 

「ヒッキー、結構集まってるね」

「人が多いな。やっぱ放課後で良くないか?」

「ダーメ、せっかくここまで来たんだから、ほら」

由比ヶ浜は俺を引っ張りながら、掲示板の前に出来た人だかりの中に入る。

 

「よいしょっと、えーっと、総合1位はやっぱりゆきのんだ。ゆきのん凄いな、3位に隼人君か……あっ、ヒッキー9位だよ!すごいじゃん!」

おお、本当だな。初の一桁台か、地味にうれしいぞ。

 

「あたしはっと、……やったーっ!24位だ!30位内に入ったよ!ヒッキー!」

由比ヶ浜は嬉しさのあまりか俺に抱き着いてくる。

 

「ちょ、離れてくれませんかね」

「あっ、ご、ごめん」

由比ヶ浜はパッと俺を離す。

その、なんだ?由比ヶ浜はその色々と不味い……俺も一応男なんで。

 

「まあ、よく頑張ったな」

由比ヶ浜の去年の今頃の成績は確か300中盤だったよな。

かなり努力したもんな。

元々頭はいい奴なんだろう。一年時に遊び惚けて勉強してなかっただけで。

 

「えへへへっ、ヒッキー嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかな」

由比ヶ浜は照れ笑いをしながら俺を見上げていた。

……あっ、俺はつい由比ヶ浜の頭を撫でていた。

俺はパッと手を引っ込め、由比ヶ浜の目から視線を外す。

 

「す、すまなかった」

「お互い様だね」

……なんか周りの視線が痛い。

やばい、なに人だかりの中でリア充イベントをやってるんだ俺は!

 

「おっ、比企谷は9位か、やるね。由比ヶ浜が24位!?私より上!?」

川崎もこの順位表を見に来たのだろう。後ろから俺らを見つけ声を掛けたようだ。

しかし、この驚きようだ。そりゃそうだ。知ってる奴だったら誰だって驚くだろう。

 

「ちっ、ちっ、ちー、サキサキ、時代は進んでいるのだよ」

由比ヶ浜はワザとらしく演技かかった口調で何か言っていた。

 

「なんか敗北感が凄いんだけど、私は27位か、前回からあまり変わってないか、もうちょっと行けると思ったんだけど」

この時期は周りも勉強をしてるはずだ。順位が落ちてないのは川崎もしっかりと勉強してる証だ。

 

「せーんぱーーい。勉強おしえてくださーーーい!」

何故かいつの間にか、目の前に一色がいた。

しかも目をうるうると潤ませて、上目遣いで懇願して来る。

あざとい、あざとすぎる。

 

「俺は受験生だぞ、自分の事で精いっぱいだ。それにお前もそれ程成績悪くないだろ?」

 

「順位落ちちゃったんですよ~、生徒会が忙しくて。だって、先輩が生徒会長やれって言うからですよ。順位が落ちたのは先輩のせいなんですから、勉強見てくれる義務があると思うんですよ。責任取ってくださいね」

う…女子に責任取ってくれと言われると、何故か男の俺が悪い気がする。

 

「いろはちゃん。ヒッキーは忙しいからあたしとゆきのんで教えてあげるね」

「えーーっ、先輩がいいです~」

 

そんな時だ。俺のスマホが鳴る。

この着信音は美神さんだ。

この時間帯に珍しいな。

 

「ちょっとすまん」

俺はそう言って、人だかりから離れ、電話を取る。

 

「比企谷君、緊急事態よ!また同時霊災多発テロよ!既に東京で6か所!あの一連の霊災愉快犯の可能性が高いわ!そっちも気をつけなさい!そっちで何もなかったら、直ぐにこっちに向かいなさ………」

美神さんの声には緊張感が漂う。俺はその話の内容を聞きながら、この場に急激な違和感を感じた。

俺はスマホを耳に当て話を聞き続けながら、違和感の正体を探ろうと霊視で周囲を見渡す。

そして美神さんとの通話が突如途切れる……。

 

何だこれは!?

何かがこの学校の敷地を覆いだした?結界か!?

さっきまで何も感知しなかったぞ!どういうことだ?

 

俺は霊気を開放し霊視能力強化しながら、昇降口から外に出て、周囲を見渡す。

やはり結界だ!完全にこの学校の敷地全部を覆てる!しかもかなり強力な結界だ!

スマホの通話が切れた原因がこれだとすると、かなりやばいものだ!

外界と完全に遮断された!

 

やばい……確実にやばい事が起きてる!!

美神さんが同時霊災多発テロって言っていた!一連の霊災愉快犯だと!それの可能性が大だ!

絶対にこれはやばい!!俺の霊感もそう警鐘している!!

 

いや、しかしどうやってこんなとてつもない規模の結界が張れるんだ?

この規模の結界を張るには術式を張り巡らせないといけないはずだ!?

そんな物は敷地内には無いぞ!あったら俺がこの目で見えないはずが無い!

 

いや、今はそんな事を考えている暇はない!

 

この強力な結界は今の時点では破れない。

外に逃げる事は出来なくなった。

この後、何が起こるかも想像もつかない……

 

俺は直ぐに校内に戻り、昇降口にほど近い、職員室に駆け込んだ。

そこには平塚先生と教頭先生と幾人かの先生は体育館に行かずに、まだ残っていた。

「先生、緊急事態です。大規模霊災がこの学校で起こり始めてます。直ぐに全員、体育館に避難させてください!!急いでください!!」

俺はGS免許を掲げて、先生たちに向けて訴えかける。

結界のせいで外にも逃げる事も出来ず、何が起こるかもわからない状況では、生徒達を一つの場所に集めておいた方が良い。

前の霊災のように、魔獣が召喚されたとしても守りやすい。

 

ここにいる教職員は全員動きを止め俺の方を驚いた表情で見ていた。

「比企谷……本当なんだな……」

平塚先生は一早く俺の方に駆けつけこう聞いた。

 

「本当です。かなりやばそうです。急いで避難指示を!」

俺がそう言うと、平塚先生は教頭に顔を向けると……

教頭は青ざめた顔をしながら、頷き返していた。

 

「わかった……後はどうすればいい?」

 

「後の事は後で伝えますから、放送でも何でも避難指示を出してください!!」

 

「わかった、こっちは任せろ」

教頭が慌てて、残ってる各先生に指示を出し、職員室の校内放送を使おうとするが、慌ててうまく操作できないようだ。

平塚先生がそこに駆けつける。

 

俺は職員室を出て、掲示板の前の人だかりの一色を引っ張り出す。

「一色!!」

「先輩、急にどうしたんですか?」

俺は由比ヶ浜と言い合ってる一色を人込みから引っ張り出し、肩を掴む。

 

「いいか。良く聞け、ここの連中を引き連れて体育館に避難させてくれ……緊急事態だ。直ぐだ」

「せ、先輩……本気ですか?」

「そうだ……霊災だ。」

「わかりました」

俺は真剣な目で一色を見つめて話すと、その緊張感を感じてか一色は俺のこんな話を信じてくれた。

 

それと同時に、校内緊急放送が平塚先生の声で。

『生徒諸君、直ちに体育館に避難だ。霊災が発生した。これは訓練ではない。冷静に慌てずに速やかに避難したまえ!繰り替えす、これは訓練ではない!!』

 

「ヒッキー!?」

「比企谷……」

由比ヶ浜は心配そうな顔でこちらに駆け寄って来る。

川崎もその後に続いていた。

 

「やばい事になりそうだ。体育館に避難だ……川崎、体育館準備室の左から二番目の棚の下に色々と隠してる。これで封印が解ける」

俺は懐から取り出した札に言霊で解除の術式を紡ぎ、川崎に札を渡す。

 

「やばいのかい、わかったよ」

「ヒッキー……」

「由比ヶ浜も川崎を手伝ってくれ」

 

「皆さ―――ん!!霊災です!!体育館に速やかに避難してください!!」

一色は大声を上げ、ここに集まった生徒達に訴える。

 

 

幸い今から全校生徒の終業式だから、生徒の半分以上は既に体育館だろう。

俺は基礎身体能力強化を行いながら、昇降口から再び外へと出る。

 

やはり、この広大な総武高校の敷地全部を強力な結界が囲んでる。

術式は何処だ!これだけ大がかりな結界だ術式が校内に張り巡らせてないとおかしい!!そんなものが在れば俺が気がつかないはずが無い!!

しかも術者も見当たらない!どういうことだ!

なぜこの総武高校を狙った?こんな強力な大規模結界を張って何をするつもりだ?

一連の霊災愉快犯が犯人だとしても、今迄に無い大がかりだぞこれは!?社会の混乱をまき散らすだけの犯行か?

いやしかし、霊災を起こすだけだったらこんな大層な結界は必要ないはずだ!

目的はなんだ!?

 

焦るな、必ず何かあるはずだ。

俺は背中に冷たい物を感じながらも、心を落ち着かせようとする。

 

俺は部室のある別棟の屋上へ飛び上がり辺りを見渡す。

すると結界の全容が分かった。

 

六芒星の結界だと!?敷地外からの定点結界か!?

この規模でどうやってだ!?

 

普通の人では、結界自体が見えないだろう。

俺が今目にしてる結界は、総武高校を囲むように六芒星を象った分厚い障壁が、上空100mぐらいまで伸びている。

定点結界……要するに簡易結界の類だ。

点と点を結び術式の形にし、発動させる簡易結界術だ。

俺がよく札を使って発動させてるあれだ。

複数の札を使い、言霊で術式を込め発動させている。

 

こんな規模でこんな強力な物がその程度の物で形成できるなんて聞いた事が無い。

精霊石を使った簡易結界だとしても、強度は得られるかもしれないが、精々半径10メートル程度の物が出来ればいい方だ。

それでも時価1億円以上するクラスの精霊石が合計4つ以上は必要だ。

 

本来はこれ程の結界を張るには、地面や壁に術式を張り巡らせ、高価な霊具を何個も使ってやっと出来るものだ。

これ程の規模となるとおかしすぎる!

だが、学校の敷地内には術式の痕跡すらない。外側からこの結界を作り上げているとしか考えられない。あの六芒星を描く起点の場所に何か強力な術式か霊具が使われているのだろうが、俺の今迄の知識には全く記憶に無いものだ。

 

 

起点を潰せば何とかなるかもしれないが、この強力な結界の外だ。普通に考えれば中からの解除はほぼ無理だが、何とかするしかない。

俺は霊視を一点集中させ、6か所ある六芒星の結界の一つの起点を注視する。

なっ?起点は場所じゃない?トラックだ。トラック自体が起点となってる。

止まってるトラックに見た事が無い術式…いや魔法陣だ!……何だあの霊具は…魔道具か!?

他の起点もそうだ!中型のトラックが起点となってる。

しかもトラック自体にもご丁寧に結界を張りやがって……。

何故トラックに………移動式の大規模結界魔法陣かよ!!

こんな事が可能なのか…………!?

まさか!!この前の山梨よりの自然公園もこれを!?

 

だとすると……ここも!!

 

くそっ!!

嫌な予感しかしない……




久々にガチなシリアス展開です。
超久々な気がします。

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