やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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では、続きです。


(129)非現実が現れる。

一学期終業式前の移動時間に、掲示板に張られた期末テストの順位表を見に行くのだが、美神さんから東京で同時多発霊災テロが起こったと緊急連絡が来たのだ。

しかし、俺は急激な違和感をこの場で感じると共に、美神さんとの通話が途中で切れる。

それと同時に、総武高校全体を覆うほどの大規模結界が、外側から何者かによって張られたのだ。

その結界により完全に外界と遮断される。要するに総武高校ごと閉じ込められたのだ。

俺の霊感がヤバいと警鐘を鳴らし、平塚先生達や近くに居た一色に全生徒教職員体育館への緊急避難を訴える。

 

俺は現状を把握するために、屋上に飛び乗り、霊気を開放し霊視を最大限に行う。

するとこの六芒星を象った大規模結界は、高度な魔法陣と魔道具を搭載したトラック6台によって、生成されていたのだ。

そう、移動式の大規模結界だ。

 

俺はこの移動式の大規模結界からとある事件を瞬時に連想してしまった。

 

この前に西条さんと山梨よりの自然公園で起きた魔獣騒ぎだ。

営業時間外の夜間に公園内が荒らされたという事件だ

監視カメラやセキュリティに全く引っかからずに、営業開始前には公園が荒らされた跡だけだった。調査の結果、痕跡から複数の魔獣の仕業だと判明したが、魔獣の目撃者は誰もおらず、さらに、公園の外側周囲等には魔獣の痕跡が全くなかった。

まるで、魔獣が突然公園に現れ、そして姿を消したかのように。

……何かの術式の形跡だけは有ったが、それでは術式としては随分と不完全なものだった。

 

俺の頭の中ではこの事件と今総武高校で起こっている現象を重ね合わせていた。

 

もし、この移動式の大規模結界を公園周囲に設置して結界を張れば、外界とは遮断され、魔獣は公園内から出られないだろう。

そして、何らかの方法で、魔獣の召喚や帰還も出来るとすれば、いや、この大規模結界の魔法陣が、魔獣の召喚や帰還が可能であれば……。

自然公園で起きた不可思議な魔獣騒ぎが完成される。

 

俺は嫌な予感がしてならない。

もし、自然公園と同じであれば。

この結界内に魔獣が召喚される……。

 

根拠の薄い、たらればの想定でしかないが、俺の頭の中ではこの可能性が高いと訴えかけている。

 

 

俺は直ぐ様に、別棟の屋上から飛び降り、奉仕部の部室に外から窓を開けて入り、隠してあった装備が入ったリュックサックを取り出す。

 

万が一の備えのために、学校の様々な場所に装備やアイテムを潜ませていた。

部室と教室、大型の物は体育館準備室に……。

 

俺はベランダ伝いに飛び跳ねて、体育館に向かう。

既に校舎やグランドには人がいない事は霊視で確認した。

生徒教職員全員体育館に避難が完了したようだ。

意外と早かったな。

生徒達は丁度、終業式前で体育館への移動中だったのも幸いしたか……。

 

 

 

俺は校舎から体育館の屋根に飛び移り、体育館の裏側に降りる。

すると、体育館の準備室から出入りできる非常口から川崎と由比ヶ浜が顔を出していた。

「比企谷!」

「ヒッキーっ!」

 

俺は扉から体育館準備室に入ると、そこには雪ノ下と平塚先生もいた。

平塚先生が俺に訪ねる。

「比企谷、状況はどうなってる。携帯が全く繋がらない」

「……この学校は外と完全に閉ざされました。今はまだそれだけですが……今後どうなるかわかりません。何かあった時の為に体育館の外側から囲む結界を発動させます。体育館の中にいれば大丈夫です。体育館のカーテンを全部閉じてください。カーテンの無い窓はマットか何かで代用してください。生徒達には外を覗かせないようにお願いします」

「……わかった………」

俺は平塚先生にこうは言ったが、体育館が絶対安全という事ではない。本当に何が起きるかわからない。ただ結界を張っただけで終わりだったらありがたい。結界を張った何者かの目的のために、生徒達を人質にしたとか、何かに対しての警鐘や戒めのために、という理由ならわからなくもない。だがそれにしては大がかり過ぎる……。

俺は何かが起きるという想定の元に動かないといけない。一か所に生徒達を集めることによって、何かあった時にこの人数をまとめて守りやすいし、対策が打ちやすくなるからだ。

だからといって体育館が決して安全という事はない。一番ましだと言う事だけだ。

だが、先生には大丈夫だと言うしかない。先生もそれは分かってくれてるからこの返事なのだろう。

 

 

「比企谷君……」

「雪ノ下と川崎には、通信札を渡しておく、使い方は分かるな」

不安そうな顔をする雪ノ下と、多少眉をひそめてる川崎に、部室に隠していた通信札を渡す。

外部と電波までもが遮断されてる現状では、通信手段はこれしかない。

それに雪ノ下と川崎なら、何かあった時の指示などをいち早く理解し、行動に移してくれるだろう。

 

「ええ」

「もちろん。それと、封印してたものを出しておいたよ」

雪ノ下は通信札を川崎の分も受け取り、川崎はそう言って、大きなスポーツバック二つを俺の前に置く。

俺はスポーツバックを開け、各種アイテムを取り出す。

 

「助かる川崎、この準備室の2階に屋根の上に登れる非常用ハッチがある。そこ以外を全部封印する。道具が足りなくなったらそこから受け渡してくれ。雪ノ下、破魔札などの各種札が用意してある。まあ、俺の自前だから安い物しかないけどな。もし何かあった時は、川崎と協力して準備してくれ」

道具の準備とかなら川崎の方が慣れてる。

唐巣神父の実質のサポートパートナーのような感じだからな。

 

「うん」

「わかったわ」

 

「ヒッキー、私は……」

「川崎と雪ノ下のフォローを頼む」

「うん、わかった」

 

直ぐに必要なアイテムをリュックサックにつめ、ホルダーベルトとベストに各種札を収納し、体に装着する。

体育館の方から、先生たちや一色が生徒達に指示する声が聞こえる。

今はまだパニックにはなってないな。

だが、もし事が起こったら……どうなるだろう。

 

今は考えるな。

今ここには俺しかいない。

美神さん達は東京の霊災に奔走してる。

横島師匠は例の如く海外出張だ。

この強力な結界のせいで、外からは中の様子は一見変わったように見えないはずだ。

誰もこの異常事態に気が付かないだろう。

 

俺が何とかするしかないんだ!

 

「後は頼んだ」

俺はそう言って準備室の非常口から出て行く。

 

 

……準備室に入る前とは外の空気感が違う。

場の霊圧が高くなってる。

急がないと。

 

俺は体育館の周りに霊灰を撒きながら、一周し、その間に体育館の扉にはすべて封印の札を張り付けていった。

 

俺は万が一の場合を想定して、学校の至る場所に術式を埋め込んでいた。

勿論自宅にもな。

京都で茨木童子、千葉駅前で同時多発霊災、バレンタインで一色がこの学校で呪いに襲われた。

いつ何時、何が起きるかわからない。

この学校には、俺に気軽に声をかけてくれる奴、慕ってくれる奴、妹の小町も居る。

そんな場所に備えをしないわけが無い。

 

そしてこの体育館も何かあった場合の避難場所と想定していた。

体育館の外壁の四方の壁の一部には透明な防水ペンキで防御術式を描いている。

霊灰を撒き終わったところで、親指を噛み切り血で濡らし、防水ペイントで書いた術式の中心部に押し当て言霊を紡ぐ。

「結界!」

 

体育館を囲むように円柱状の防御結界が完成した。

 

だが、学校の敷地全体を外から結界で覆うとは予想外もいい所だ。

俺は霊視でこの学校を囲む結界を忌々し気に睨む。

 

 

体育館の屋根の上に飛び乗り、周囲を警戒する。

 

更に場の霊圧が上がり禍々しい霊気が漂う……どこかで感じたことが……

!?あの某私立大学での空間の歪みから漏れ出た霊気か……横島師匠は瘴気と呼んでいたが……ま、まさか!?

 

禍々しい霊気が校舎や体育館から離れたグラウンド端にある野球のバックネットの前辺りに集まりだし、そして霧のような物が現れる……いや、霧じゃない。なんだ!?

 

俺はさらに霊視で注視すると……。

瞬く間に空間が歪みだし、歪んだ空間の中心部に縦に3メートル程の亀裂が入った。

 

やばい、やばい!

俺は急ぎ、体育館の屋根から空間の亀裂に向かって飛び出し、札を投げ飛ばしその場を封印しようとしたが……。

封印札は亀裂から発生する霊圧に吹き飛ばされ、俺も霊圧に押され前に進むことが出来なかった。

 

そして、その空間の亀裂が真ん中からぱっくりと開く。

 

 

空間が裂けた!!

 

 

俺は一瞬のその様相を茫然と眺めてしまっていた。

空間の歪みから亀裂が入り、空間が裂けた。これが異界の門という奴なのか?

 

ぱっくりと開いた裂け目から獣のようなうめき声が聞こえ、俺は意識を戻す事が出来た。

その空間のぱっくりと開いた裂け目から、体長3メートルはあろうかという緑色筋骨隆々の豚面人型の獣魔が現れる。

オークだ!

先月若手能力テストバトルロイヤルで安田が封印筒から召喚させた同じ魔獣だ!

 

それも次から次へと一体ずつ姿を現す。

 

 

俺はグランドの中央まで飛びのき、一度下がる。

 

あの空間の裂け目、間違いない、異界の門だ!!

文献や魔鈴さんに教えて貰った通りだ!

しかも中からオークが現れただと!?

 

 

異界の門とオーク……

今までの事件が全て繋がっているということなのか!?

一連の事件は全て霊災愉快犯が起こしたものという事か!

俺は背中に冷たい物を感じる。

 

 

……落ち着け八幡、まだだ、まだ大丈夫だ。

 

 

俺は自分に冷静になる様に言い聞かせながら、霊気を更に開放し、体中に巡らせ、基礎身体能力を強化する。

背負ってるリュックサックから霊体ボウガンを取り出し、起爆符の破魔札を撒いた銀の矢を装着させる。

 

異界の門から現れたオーク5体が俺を視認したのと同時に突進してくる。

先ずは目の前のこいつ等を如何にかしないとな。

 

霊体ボウガンに霊力を込め、左端のオーク目掛けて銀の矢を発射。

銀の矢はオークの額に突き刺さり、そして銀の矢に巻いてあった破魔札が爆発し、頭が吹き飛ぶ。

先ずは1体目。

 

オークの急所は頭だ。正確には脳だ。脳を破壊すればあの高い再生能力も発揮できなくなり、確実に死に至る。

 

俺は銀の矢を再び霊体ボウガンに装着し、今度は右端のオークの額に狙いを定め発射し、命中させ頭を吹き飛ばす。

これで2体目。

 

残りの3体が俺の眼前にまで迫りくる。

 

霊体ボウガンをリュックサックに素早く仕舞い込み。

右手に神通棍、左手に破魔札を手に持ち換え、右へ大きくステップし、オークの突進を避ける。

そして大きくジャンプし、突進で過ぎ去ったオークの1体の肩に後ろから飛び乗り、脳天に神通棍を突き立て霊力を放電させ、オークの頭の内部まで霊力を注ぎ込み脳を破壊する。

……3体目。

 

残りの2体のオークは踵を返し、俺目掛けてこん棒を振り降ろしてくる。

俺は今しがた倒したオークを踏み台にし、上空に高く飛び上がり、こん棒を避けつつ宙返りをし、1体のオークに破魔札を頭に投げつける。

破魔札を頭に受けたオークは爆発で大いに怯るむ。

その隙に残りの1体のオークの頭上に、空中で回転しながら神通棍による一撃を加え霊力放電による頭の内部破壊を行い、一回転し地面に着地。

そして、先ほど破魔札の爆発で怯んだオークの豚ッ鼻の穴に神通棍を下から突き刺し、霊力放電による攻撃で脳を破壊し倒した。

4体、5体目だ。

 

 

ふう、オークは攻撃力は強いが、動きが単純で遅いから分かりやすい。

霊視空間把握能力や霊視空間結界を使わなくとも、これぐらいならまだ何とかなる。

それに、なるべく霊気を温存したい。

 

俺は再び、異界の門へ視線を向ける。

既に異界の門の空間の裂け目の前には、7体のオークが出現していた。

幸いにも、この異界の門の裂け目の大きさからだと、1体づつしか出てこれないのだろう。

 

異界の門とは魔界と呼ばれる悪魔の世界とをつなぐ門だと記述にあった。

オーク以外の魔獣も現れる可能性がある。

だが、目の前にはオークしか見当たらない。

他の魔獣は出てこれないのか?

それともこれから出てくるのか?

 

異界の門には制限時間は有るのか無いのか?

どれだけの魔獣が出て来るのか?

オークだけでも厄介だが、同時に空を飛ぶ魔獣が現れれば、厄介極まりない。

それに悪魔、いや魔族なんてものが出てくれば、もはや絶望的だ。

 

本来異界の門自体、禁忌魔術だと魔鈴さんが言っていた。

しかも、ランク高い悪魔や魔獣程、より大規模な魔術式が必須であると、それこそ多くの優れた術者が必要で、生贄まで必要になる事もあると。

この異界の門はどれくらいの規模の物なのだろうか?

Cランクのオークが通れるほどであれば、そこそこなのだろうが、まだその程度であってほしい。

 

そもそも、ここに出現した異界の門は一つだけなのか?

いや、俺の霊視能力と気配察知では、この異様な禍々しい霊気を漂わせてる場所は、今の所ここだけだと。ここ以外には他に魔獣の気配もない。

 

こうしてる間にも、異界の門を通ってオークは数を増やし続ける。

オークの集団は30体位が基本だとは文献に載っていたが……。

中世にヨーロッパで暴れて猛威を振るったオークの集団は其れこそ500体以上の集団を形成していたと有った。

そりゃ、街一個潰れるだろう。

 

30体で打ち止めであってほしい。

 

いや、希望的観測で物を考えるな、オークは無尽蔵に出てくる可能性がある。

だったら、大元の異界の門を如何にかするしかない。

 

俺は再び霊体ボウガンを油断なく構え、オーク共と異界の門を見据える。

 




総武高校ピンチです。
ゴーストスイーパーの八幡は心を決めて、一人で挑む。

なぜ総武高校が狙われたのか、とかまだまだ謎に包まれてる部分はあります。
それは今後の展開されて行くでしょう。

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