やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

132 / 187
感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


(132)人質

稲葉は俺にこんな事を通信札越しに言う。

『あー、さっきは言わないって言ったけど、せっかくだから教えてあげるね。僕の目的はね。ここの総武高校の生徒を使って、実験する事なんだ。オークが人間を何人喰らったらハイ・オークに進化するのかってね』

生徒達をオークに食わすだと!?

なんて奴だ!イカレてやがる!!

 

落ち着け、冷静に…冷静にだ。

いや、きっとそれ以外にも何かある。

オークに人間を食わせるためだけであれば、わざわざここじゃなくていいはずだ。

もっと、人目が付かず、人が多い場所はいくらでもある。

 

「なぜ、そんな事をする?」

 

『はぁ、オークって群れれば群れる程強くなるのは知ってるよね。でもさ、この異界の門じゃ、オークが関の山で、ハイ・オークやオーク・ジェネラルのような上位種は魔界から呼べないんだよね。召喚術でもハイ・オーク1体召喚するのも大変だし、だったらオークを多量にこっちの世界呼んで、こっちで上位種になればいいじゃんって事、今は進化でもハイ・オーク程度だけど、オーク・ジェネラルやオーク・ロードなんてものに進化出来る日が来るかもしれないじゃん。そのための実証実験さ。その実験に命が使われるんだ。名誉な事だよ』

 

「………そんなもののために、何人の命を犠牲にするのか?」

 

『そんなもの?たかが1200人程度の人間さ』

 

「ふざけるな!」

総武高校全校生徒、教職員合わせて1200人強だ。それをたかがだと!

 

「はぁ、そんなに目くじら立てるような人数かな?3年半前の大戦では何人死んだか君は知ってるかい?』

 

「3年半前の大戦?3年半前の世界同時多発大霊災の事を言ってるのか?それならば、日本ではほとんど亡くなってないはずだ」

 

『真実は日本全人口の4%の500万人だよ。世界では8%の4億人が死んだのさ』

 

「何を言ってるんだ?世界中でも1000人も犠牲が出ていないぞ」

妄想癖でもあるのか?そんな話どこから持ってきた?日本で500万もの人間が亡くなれば、影響は今も続いてるはずだぞ。その話の齟齬をどう考えてるんだ?

精神的な病なのだろう。現実と妄想の境目があやふやになってるのかもしれない。

聞く価値もないが、今は少しでも時間を稼ぐためにもこの話に乗っておいたほうがいい。

 

『君は可哀そうだ。そう言う風に記憶の改ざんを受けてるのだから仕方がないかな』

 

「おかしな話だ。あんたの話だと全世界の人間全員が改ざんを受けてると言う事だぞ」

そんな事は誰が考えたって不可能だ。

 

『僕にも詳しくは分からないけど、そう言うことになるね』

辻褄が合わない場面は分からないという、自分の都合のいいように解釈してるようだな。

やはり、相当精神的に病んでる様だ。

 

「そもそも、何故総武高校なんだ」

 

『まあ、感傷的な問題かな、3年半前の大戦時に妹がここ総武高校に通っててね。妹だけが死んだんだ。ズルいじゃないか。しかも真実は消され、誰も妹の事なんて気にかけない。そんな事が無かったかのように今もこの総武高校の連中はのうのうと過ごしてるなんて!なんで僕の妹だけが死ななきゃならなかったんだ!なぜなんだ!応えてみろよ。比企谷八幡!!』

 

「何を言ってるんだ?」

こいつ、本格的に頭がおかしいようだ。

こいつの経歴を調べたが、妹なんていないぞ。

こいつには母親とは幼い時に離婚し別れ、父親しか身内がいないはずだ。

分かれた母親の方の再婚相手の子供の事か?

そもそも総武高校だけでなく、千葉県全体でも3年半前の大霊災で死亡例なんて無い。

 

『……君も僕と同じ目に遭わせてやろうか?』

稲葉はそう言うと、稲葉を取り巻く4体のハイ・オークのうちの1体が小町を掴み上げる。

小町の表情が苦悶と恐怖に歪んでいた。

「やめろ!!」

 

『ふっ、そうだよね。大切な妹が殺されちゃうのは辛いよね。でもね。僕の妹は死んだどころか、最初から居なかった事にされたのさ!』

『いやーーーっ!おにいちゃーーん!!』

稲葉がそう叫ぶと、小町を掴み上げたオークは、小町を口元に持って行く。

稲葉の奴はワザと小町の叫び声を通信札を通じて俺に聞かせる。

 

「やめろーーーっ!!」

 

『随分、いい声出すじゃないか、比企谷八幡。さあ選べ、悪魔契約を行い総武校の生徒達を見捨て妹を助けるか、このままオーク共に総武高の生徒達共々一緒になぶり殺しにされるか。もうオークは200体を越えてるね』

 

「………」

どうする……このままじゃ小町が……。

何か打開策は無いか?

冷静に慣れ……冷静にだ。

近づければ小町を奪還できる……何とか近づければ……。

 

『うーん、黙っちゃったね。そうだ、考える時間くらい上げよう。その前に余興だ。こんだけのオークを呼び寄せたのは初めてだからね。出来ちゃうかもね。君に歴史的瞬間に立ち会わせてあげよう』

そう言って稲葉は指をパチンと鳴らし、霊具か魔道具らしきもに、何やら話しかけていた。

 

すると異界の門から現れ、グラウンドのバックネット周辺に集まっていた200体程オークや進化したハイ・オークが、一斉に同士討ちを始めたのだ。

 

「何をしてるんだ!?」

 

『うーん。実に壮観だね。君はそこを動かない事だね。巻き込まれたくないだろ。それと一応言っておくよ。この隙に僕を討とうと思わない事だ。妹ちゃんが食べられたくなかったらね』

 

「……まさか!?」

まさか、同士討ちをさせ、仲間を喰らい、強制的にオークを進化させるつもりか?

蟲毒の呪法のつもりか?

それに強制的に同士討ちをさせるなんて可能なのか?

稲葉が話しかけていたあの霊具か魔道具がオークを操る道具なのか?

確かに、魔獣を操る霊具は存在するし、魔道具も存在するかもしれないが、CランクのオークやBランクのハイ・オークを同士討ちさせる程の強制力があるとは……。

そんなとんでもない物を稲葉はどこで手に入れた?

 

『察しがいいね。君が思ってる事は多分正解だよ。オークの進化は楽でいいよね。こうやって仲間同士で喰いあっても出来るんだから』

オーク共が同士討ちをし、互いを食い合ってる姿を見てる稲葉の楽し気な声が、俺の耳にも入ってくる。

 

「………」

暫くすると、凄惨な同士討ちと共喰いが終わりを告げ、一体の巨大なオークが現れ、辺り一帯の空気を震わせる程の雄たけびを上げる。

5mはあるのだろうか、ハイ・オークを更に二回り大きくし、牙が4本……。

禍々しい気を感じる。

その霊気や雰囲気からAランク以上の力を感じる。

 

『うーん少し残念。オーク・ジェネラルってところかな、これだけのオーク達を生贄にしてもオーク・ロードには至らなかったようだね。まあ、予想はしてたけど』

 

「くっ……」

状況はどんどん悪くなっていく。

オーク・ジェネラルが誕生した後でも、異界の門からオーク共が次々と現れる。

下手をすると、ハイ・オークやオーク・ジェネラルを無尽蔵に進化させることが可能だ。

 

『どうだい、僕の余興は?楽しんでくれたかい?』

 

「………」

優越感に浸っているような稲葉の声が通信札を通して、聞こえてくる。

いや、まだだ。

 

『さあ、どうする?僕と悪魔契約をするかい?』

 

「……ああ」

俺はそう返事したが、諦めていない。

そう、時間稼ぎだ。

確かに、時間がかかればかかるほど、状況は悪化する。

だが、俺は一つ見落としていたことがある。

俺はこの状況を打破する方策を考えるために、今一度、総武高校を覆う結界が張られ、異界の門が出現し、オークが次々と現れる今迄の経緯を思い起こしていた。

その時間は十分にあった。

見落としてた事があった事に気が付く。

いや、冷静のつもりでいたが、俺は今の現状しか見ていなかった。

そう、この総武高校での現状しかな。

最初からその事に気が付くべきだった。

そして今俺がやるべきことは、時間を稼ぎながら小町を奪還することに集中すればいい。

 

『くくくくっ、そりゃそうだよね。学校の連中よりも家族の方が大切だよね。賢明な判断だよ!』

 

「………」

 

「早速だけど、悪魔契約の本契約はこの場で出来ないけど、仮契約はしてもらおうかな』

そう言って、稲葉は懐から黒ずんだ紙を取り出す。

悪魔契約と言ったなこいつ、本物の悪魔と俺を契約させるつもりか……。

俺がこいつに逆らえないようにな。

ということは、こいつもその悪魔と何らかの悪魔契約を結んでいる可能性が非常に高い。

 

「契約はしてやる!小町を離せ!」

 

『先に仮契約をしてくれないと嫌だよ。それとも悪魔契約は怖いかい?一応今のGS協会では禁止されてるけど、昔は結構あったみたいだよ?』

俺は既に美神令子という悪魔より極悪な存在と契約社員という契約を結んでいるがな。

悪魔の契約よりもよっぽど恐ろしいぞ。

 

「………」

こいつは後で絶対後悔させてやる。

 

『まあ、この悪魔の仮契約書を君の血で書いてもらわないといけないから、うーん。君はそこの朝礼台の所まで来てくれるかな。神通棍や札を全部そこに置いて、うーん。上着も全部脱いで、パンツ一丁になって貰おうかな?君はオールラウンダーだし、師匠の美神令子に似て厄介だからね。だけど霊具が無かったらその力は半減以下でしょ、君が嘘ついて反撃してこないとも限らないしね。悪魔の仮契約書はハイ・オークの平田さんに持って行ってもらおうかな。おーっと、通信札は持って行ってよね』

 

「わかった」

俺をかなり警戒してるようだが……随分と小町に近づくことが出来る。

グラウンドの中央付近の朝礼台から、小町まで40~50mってところか……

 

俺は奴の要求通り、霊具や札をその場に置き、服を脱ぐ。

そして、ゆっくりと朝礼台に向かって歩く。

………もう少しだ。

 

俺はパンツ一丁のまま朝礼台に到着する。

平田と呼ばれたハイ・オークも丁度俺の目の前に到達し、朝礼台の上に黒ずんだ契約書を置いて戻って行く。

更に異界の門から出現したオークや、先ほど誕生したオーク・ジェネラルが遠巻きに俺を囲む。

「ついたぞ、小町を離せ!」

 

『くくくくっ、いい恰好だね。ダメだよ。仮契約書を書いてからだよ』

 

「俺が契約書を書いたからと言って、お前が小町を離す保証はないだろ!」

俺はそう言いながら、稲葉と小町の方へ少し足を進ませる。

 

『おーっと、それ以上近づいたら、妹ちゃんを食べさせちゃうよ』

俺はその声で歩みを止める。

 

「俺が悪魔契約を結んだあとに小町も殺されるなら、俺は今玉砕覚悟でお前ののど元を食いちぎってやる」

俺は思いっきり稲葉を睨みつける。

まだ、小町まで遠い。

それに……まだか?もう7分以上たってるぞ!?

 

『おお、怖い怖い。ふー、君はいい仲間かサンプルになるからね。……まあ、いっか。ちょっと君に近づけさせてやるよ。君が契約書を書いたと同時にその場で離してあげるよ。もし、僕が裏切って妹ちゃんを殺そうとしても、君だったら届くかもね?くくくくくくっ』

こいつ……小町を開放する気は最初からないという事か。

俺は仮契約を交わした瞬間、たぶんこいつに逆らえなくなる。逆らおうとすると激痛が走るとかの、呪いの類に掛かるだろう。

最悪、こいつは俺が仮契約をした後に目の前でオークに小町を食らわすつもりかもしれない……。

後で覚えてろよ!

 

『さあ、僕は妥協したんだ。書きたまえ!』

小町を掴み上げてるオークは俺の方へ歩み20m程手前で止まる。

 

小町が恐怖で涙してる顔が見える。

「う……ううう…お…にい…ちゃん」

もう少しだ。

もう少し我慢してくれ小町。

 

この距離なら、俺単独でも行ける。

 

やるか………

 

 

俺は契約書を書くふりをして、霊気を放出し霊力を極限まで高める。

 

 

霊視空間結界改……

 

 

ダーク・アンド・ダーククラウド!!

 




ふう、後もう少し……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。