やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(136)後始末、その2

小町と夜の東京の中心街を歩きながら、美神令子除霊事務所に向かう。

そういえば、小町がうちの事務所に来るのは何気に初めてだろう。

小町がわざわざ千葉から東京のこの事務所に来る必要性は全くなかったしな。

まあ、最大の理由は小町が美神さんと横島師匠を嫌ってると言うのが大きい。

……キヌさんやタマモとシロには随分と仲がいいのだが……。

それはある意味仕方がない気はする。

美神さんと横島師匠のあの性格を知れば普通の人間だったら近づかないだろう。

俺だってあんな出会い方をしなければ、遠慮願いたいと思う。

何せ美神さんは美女だが金の亡者にして悪魔より極悪だし、横島師匠は痴漢変態の横島と業界で名が通ってるぐらいスケベで変態だ。

だが、深く付き合えば、二人ともいい所もある。

横島師匠はアレさえなけれが、マジでいい人なんだけど。

そのアレ(スケベと変態)が世界レベルだから、いい人がかき消されてるだけで……。

美神さんだって、性格はマジで極悪だが、あれで結構情には厚い。

それを知るまで付き合うのが問題だよな。

 

 

小町としゃべりながら、事務所の前まで到着した。

事務所の3階、4階から窓から明かりが漏れている。

美神さん達が帰ってるようだ。

 

俺は事務所の建物の玄関に入ると……

『女性一人、霊的脅威無し、霊気パターンは比企谷氏と近似値』

建物のどこからか無機質な男性の声が下りてくる。

 

「……お、お兄ちゃん誰かいるの?」

小町は見えない声の主の存在に、俺の後ろに隠れながら恐る恐る訪ねる。

 

「大丈夫だ。この建物に憑りついてる人工的な幽霊で、この建物の管理人みたいなもんだ。人工幽霊、俺の妹の小町だ」

俺は小町にそう説明しつつ、人工幽霊に小町を紹介する。

 

『比企谷氏の妹、小町殿を登録いたしました。…初めまして、渋鯖人工幽霊壱号と申します。あなたを歓迎いたします』

 

「あ……比企谷小町です。お、お兄ちゃんがいつもお世話になってます」

小町はおっかなびっくりだが、人工幽霊にちゃんと挨拶を返す。

 

『こちらこそ、比企谷氏にはこの建物の維持に協力してもらっております』

人工幽霊って、かなり礼儀正しいよな。美神さんを主と仰いでいるが、性格的な影響は全く受けてない事は驚異的だ。

 

 

とりあえず、エレベーターで4階まで上がり、事務所にノックをして入る。

「こんばんは、美神さん」

「こんばんは」

俺の挨拶に小町も続くが……事務所には誰も居ない。

3階がなにやら慌ただしい。

 

階段で3階に降りると……。

シロが廊下をうろちょろしていた。

「シロ、何かあったのか?」

「シロちゃん、こんばんは」

 

「八幡殿に小町殿……、おキヌ殿が……」

シロは俺達の方を向くが、沈んだ顔でそんな発言をする。

キヌさんに何かあったのか?

同時多発霊災で怪我でもしたのか?

いや、キヌさんに限って……

 

俺はキヌさんの部屋の方へ早歩きで向かうと、丁度、美神さんがキヌさんの部屋から出てくる。

「美神さん、キヌさんに何かあったんですか?」

 

「ふう……比企谷君か、その子は妹ね」

美神さんは大きく、息を吐いて俺と小町の方へ顔を向ける。

一応メールで小町を事務所で泊らせる事を伝えてはあった。

 

「……こんばんは」

小町は気まずそうに美神さんに挨拶をする。

 

「キヌさんが怪我でも?」

 

「怪我じゃないわ。霊力を限界まで使って、ぶっ倒れたのよ。熱も出てるけど時期にひくわ……でも二、三日はまともに起き上がれないでしょうね」

 

「美神さんが一緒で、そんな無茶を……何があったんですか?」

霊力の限界って、発熱して倒れたとなると、霊体構造にも影響が出る程に霊気霊力を使ったと言う事だ。下手をすると命に係わる。

 

「……後で話すわ。それよりもおキヌちゃんに何か食べさせてあげないと……あの子、今まで何も口にしてないから」

 

「私が作ります。作らせてください」

小町が俺の美神さんの会話に入り、力強くこう言った。

 

「あなたが?」

 

「小町は俺の家の家事一切を取り仕切ってるんで、料理も結構できます。美神さん、小町に任せてください」

 

「頼んだわよ。おキヌちゃんの様子も見てくれると助かるわ。調理はおキヌちゃんの部屋のキッチンを使いなさいな。食材は事務所の冷蔵庫にもあるわ。タマモもそろそろ戻って来る頃だし、タマモとシロに手伝わせていいわ。ついでに私達の分もお願いね」

美神さんはそう言って、キヌさんの部屋の扉を開けて、小町に入る様に促す。

 

「小町、此処は任せていいか?」

 

「うん。小町に任せて!」

小町はさっきまでとは打って変わって、元気いっぱいに返事をする。

 

 

俺は美神さんと共に、4階の事務所に戻る。

「何があったんですか?キヌさんが限界まで霊力を使うなんて……」

そういえば、美智恵さんが言ってたな。

総武高校同様に神奈川の公立高校でも大霊災が発生し、発生の確認が遅れて、手遅れの状態に陥ったとか、そこの対処中の西条さんの応援として美神さん達が向かったと。

 

「東京の霊災を2か所鎮めた後に、ママの緊急要請で神奈川の公立高校に向かったんだけど、高校は既に壊滅状態、魔獣が暴れまくっていたわ。西条さん達はその魔獣達が近隣に出て行かないようにするだけで手いっぱいだったのよ」

西条さんが手こずるような状況か……相当高レベルの魔獣だったのだろう。

 

「………」

総武高校と同じような大霊災なのだろうか。

俺がもし総武高校に居なかったらオークは無尽蔵に異界の門から現れて、稲葉の計画通りに生徒達を喰らいつくしただろう。その結果、ハイ・オークやオーク・ジェネラルが生まれ、結界を解けば、オーク共はさらに近隣住人を喰らいに行っただろう。

 

「あんたの所は異界の門からオークが現れたようけど、こっちは錬金術によるキメラの合成よ。そう…合成の素材に使われたのは生徒達……。生徒達を取り込んだ十数体のキメラが暴れていたのよ……おキヌちゃんはキメラに精神制御を行って大人しくさせるのと同時に、ヒーリングでキメラからの人の分離を試みた……。無茶なのよ。一人でそんな事が出来るはずが無いのに……あの子、私が止めるのを聞かずに……。横島の奴が居れば……あんな無茶をさせずにすんだのに」

美神さんは珍しく悔しそうに語る。

……なんだそれは?生徒達を取り込む?胸糞悪いにも程がある。

合成魔獣キメラ……本来魔獣と魔獣を掛け合わせて生まれるハイブリットな人工魔獣だ。

中世の錬金術師や魔法使いたちは、キメラの生産を何度と試み、繰り返してきた歴史がある。

錬金術師だけじゃない、悪魔共も強力な魔獣を生み出すために、そんな事をやって強力な魔獣を幾つも生み出している。

人間を……それも、俺と同年代の若い連中を生贄にして、キメラに……。

キヌさんはその惨状を見て、生徒達を助けようと……

あの聖母のような優しいキヌさんだったら、助けられる可能性が少しでもあるなら、無茶をもやってしまうだろう。

 

「……そんな事を仕出かした犯人はどうしたんですか?」

 

「さあね。私達が駆け付けた頃には居なかったわ。西条さんも見てないと言っていたわ。助かった生徒の情報だと、フードを被った背の高い男が化け物を引き連れて突然現れたとか……」

 

「大規模結界とか張られていたとか、異界の門とかはありましたか?」

 

「……無いわ。突然現れて襲われたとか……、その学校は山手にあって、周りに住宅も何もない場所だから、学校外から異変が起きた事に、気が付かれなかったようね。学校の外に辛うじて逃げ出した生徒からの通報だったようよ。それで初動が遅れてこの有様ね」

 

「………」

俺が今日巻き込まれた大規模霊災とはまったく別物だ。

稲葉は入念に計画と準備をして、総武高校に仕掛けて来た。

六芒星大規模結界に、異界の門。そしてオーク。

どれも個人で用意出来るもんじゃない。

稲葉自身の霊能力は大したことは無いが、これだけの物を用意し計画出来る何かを持っていた。

だが、神奈川の公立高校を襲った奴は、美神さんの話を聞いている限りでは、個人の力量…凄まじいレベルの錬金術師だ。その場でキメラ合成を行える程のな。キメラ合成なんて物は、準備に膨大な時間がかかるはずなんだ。それをあっさり、聞いた事もない規模の錬金術による生命合成をその場でやってのけたのだ。

そんな事が出来そうな人物と言えば、俺の中ではドクター・カオスしか思い浮かべられない。

中世の錬金術師でもそのレベルの術者は数人といないだろう。

もしかすると、その錬金術を可能にする特殊な魔道具や霊具があるのかもしれないが、俺の知る限りではそんなものは聞いた事もない。

 

内容は全く別物だが、この2つの霊災には共通点はある。

まずは、犯人は一人だと言う事。

ほぼ同時刻で霊災を起こした事から、稲葉と神奈川の公立高校を襲った奴は少なくとも仲間だろう。

高校を狙ったのも何か理由がありそうだ。

最大の共通点は、こいつ等は自分たちの目的のために人間を実験動物のように扱い、人の命を何とも思っていない下衆だと言う事だ。

 

 

 

「ふぅ、で、……比企谷君、あんたの所はどうだったのよ」

 

「電話で話した通り、人的被害はありませんでした。物損もグラウンドがしばらく使えなくなったぐらいです」

 

「外界から完全遮断できる大規模結界と異界の門にオークとか言ってたわね。ヤバさレベルではあんたの所の方が高いようね。それにしてもあんたはヤバそうなトラブルによく巻き込まれるわね。そう言う星の元に生まれたんじゃないの?」

美神さんは、片目半目で俺を見据えて、少々呆れた口調でこんな事を言ってくる。

 

「……勘弁してください。今回の事だって、ドクターやマリアさんが来てくれなかったら、相当ヤバかったんですから」

冗談じゃない。ヤバい所に突っ込むのが運命みたいな言い方しないで欲しい。

俺の望みは毎日を平穏無事に過ごしたいんですが。

……この業界に入ってそれは望めないのは分かってはいるんだけど、面と向かって言うのはやめて欲しいところだ。

 

「今回の霊災テロを行った連中が、今までの分も噛んでいたと思って間違い無いわ。奴らは日に日に力をつけてきてる。そろそろギャフンと言わせないと気が済まないわ」

ギャフンって、美神さん今日日の若者はそんな言葉は使わないですよ。

確かに、奴らは回を重ねるごとに霊災の仕掛けが高度になってきている。

今回の大規模霊災はかなりやばい物だった。

 

「なんにしても、犯人を捕まえたのはお手柄ね。これで一連の霊災愉快犯について、かなり解明されるわ。報奨金もたんまり貰えそうね。くくくっ、あんたはいい金の卵ね」

……最後は金かよ。まあ、美神さんの行動力の源は金だし、仕方がないか。

 

「そうだといいですね」

 

「……あんたの不安もわかる。相当用意周到な連中よ。毎回、横島くんが居ないのを見計らっての行動。オカGに裏切者がいるか、もしくは政府外交官かその周囲か……横島くんの海外出張はその辺しか知れ渡ってないわ。しかも特一級秘匿事項よ。GS協会でも理事レベルしか知らされない。

横島くんの海外派遣先は国同士の外交レベルで決定されてるわ。それをオカGが仲立ちして調整してる。

今のは私の独り言よ。あんたは聞かなかったことにしなさい」

 

「………」

横島師匠って、国レベルの話で海外に出張していたのか。

そりゃそうか、霊災によっては他国の事情に介入しなくっちゃならないからな。

改めて思うんだが、やっぱ横島師匠って世界最強で最高のゴーストスイーパーなんだよな。

スケベで変態だけど。

 

「ふぅ、何にしても、おキヌちゃんはしばらく休ませないとね。だけど、あんたのガールフレンドがバイトに来てくれて助かるわ。仕事の呑み込みは早いし、料理から家事洗濯まで完璧にこなすし、私の先見の明に間違いはなかったって事ね」

 

「が、ガールフレンドって……いや、そのですね」

雪ノ下はその彼女とかじゃまだないんで、その候補ではあるんですけど。

 

「なに慌てふためいてるのよ。女友達って事よ。そうね。雪乃の方はどう思ってるかは明白よね。あんた、しっかり責任とりなさいよ」

美神さんはまた、半目で俺をジトっとした目で見据えてくる。

 

「せ、責任って!?」

 

「なんにしろあんたは明日からしばらく、オカGに派遣ね。ママから正式に依頼が来たわ。総武高校の現場検証だけじゃないでしょうね。あんたの霊視能力頼りで神奈川の方もいかされるわ。覚悟しておきなさい」

 

「……わかりました。総武高校霊災の犯人の稲葉の尋問とかにも付き合わされるんでしょうか?」

 

「立ち合い程度はあるかもしれないわね」

 

「あいつ、総武高校に逆恨みしてましたし、俺に盛んにオカGとGS協会と政府を嘘つき呼ばわりしてました。妄想が激しいのか、3年半前の世界同時多発霊災も、戦争だって言ってましたし、世界人口の8%も亡くなったって言ってました。尋問の前に精神鑑定を受けた方が良いんじゃないですかね」

 

「…………まあ、そうね」

普段は間髪入れずに返事をする美神さんが、この時は何故か、間をおいていた。

俺はこの時、ちょっとした違和感程度で済ませていた。

 

 

丁度、小町とシロとタマモが事務所に入って来る。

「食事を持ってきました」

「ごはん、ごはん、小町殿のごはんでござる。拙者はらぺこで死にそうでござるよ」

「揚げが2枚入ってるのは私のよ」

 

事務所の応接セットの横にある大きなダイニングテーブルの上に小町たちは持ってきた料理を置く。

きつねうどんとかやくおにぎり。

シロには大きな肉串だな

 

「おキヌちゃんの様子はどう?」

美神さんは食事を用意する小町に訪ねる。

 

「お粥を少し食べてくれました。でも、体を起すのも辛そうで……」

 

「そう……助かるわ」

美神さんはどこかホッとした顔をする。

 

こうしてダイニングテーブルで深夜の食事を始める。

 

 

小町はタマモの部屋で一緒に寝ると……。

俺はとりあえず、報告書を仕上げるために、事務所でパソコンに向かって作業を始める。

美神さんはきっとキヌさんの部屋だろう。

看病をしてるはずだ。美神さんはキヌさんの事を妹のように大切にしてる事は傍目からもわかるからな。

 

 

俺は報告書をパソコンで作成しながら、思いにふける。

今回の総武高校での霊災、ドクターとマリアさんが来てくれなかったら、ヤバかった。

下手をすると、美神さんから聞いた神奈川の公立高校と同じ憂き目にあっていた。

もっと、俺自身が強くならないとな。

守りたいものも守れない。

 

 

横島師匠が帰ってきたら、本格的に修行をつけてもらうおうか。

 




横島師匠の出番が……

この章はこれで終わりです。
ちょっと間をおいて、再開いたします。

夏休み編に突入かな?
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