やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
夏休み編、徐々に投稿していこうと思います。

先ずは前回のおさらいみたいな後日談的なお話です。


【十四章】夏休み編
(137)夏休みに入って……


高校最後の夏休みに入る。

現役受験生にとっては将来を左右する大事な時期だ。

この夏休みで受験までの学力が大きく伸びるか停滞するかが凡そ決まると言われている。

私立推薦入学試験は早い大学では10月初旬から始まるため、私立推薦を狙っている奴はここで成果が出ないと厳しいだろう。

 

とまあ、一般的にはそうなのだろうが……。

俺は朝から仕事に向かう。

と言っても、向かう先は美神令子除霊事務所じゃない。

私立総武高校……俺の学校だ。

 

先日起こった、第二次関東同時霊災多発テロと名付けられた霊災テロ。

東京で7か所、神奈川で1か所、千葉で1か所の合計9か所で起こった人為的な霊災だ。

昨年頃から、霊災テロが頻繁に起こりだし、昨年のクリスマスには遂に犠牲者まででた。

これらを起こした犯人を同一犯又は同一犯行グループと認定し、通称 霊災愉快犯と名がつけられる。

まるで楽しむかのようにオカルトをテロの道具として使う連中は、証拠も残さず、犯人像すらもつかませず、警察やオカルトGメンの必死の捜索にも全く引っかからずに、時間だけが過ぎて行った。

手口は徐々に巧妙となり、大胆な物も増えてくる一方だった。

さらに警察やオカG、GS協会の動向まで把握しているような動きに、オカルトGメン東アジア統括管理官の美神美智恵さんが、遂に内定調査を開始、その手始めとして若手GS資格免許取得者を対象の能力テストに託けて実行に移した。

そこでは、関連しそうな奴を発見したが、本人は魔物化してしまい、事情聴取もままならない状況だった。

 

そして、霊災愉快犯の矛先が遂に俺の大切な者の前にも……。

先日起こった第二次関東同時多発霊災テロのターゲットの一つとなったのが、俺が通う高校。

総武高校だった。

霊災規模は大規模霊災。

下手をすると街や都市一つを巻き込む規模の霊災を意味している。

六芒星結界に異界の門、そしてオーク、どれをとってもかなりやばい物だった。

そして、総武高校の霊災を起こした首謀者は稲葉義雄、Dランクのゴーストスイーパー、美智恵さんが危惧していた通り内部に犯人が居たのだ。

俺の事も調べ済みで、小町を人質に取り、GS協会やオカGの動きも知ってる風だった。

奴の目的は、総武高の生徒使ってのオークの進化実験だった。

オークに生徒を食わせ、オークを上位種に進化させるというとても正気の沙汰とは思えないようなことを平然と実行しようとしていた。

しかも、個人的に総武高校に恨みを持っている風でもあった。

だが、奴が言っている事は目茶苦茶だ。

3年半前の世界同時多発霊災の事を戦争だの、世界人口の8パーセントが亡くなっただの、そして、総武高に通う自分の妹がその戦争で亡くなっただのと……。

妄想も甚だしいものだった。

だが、奴の狂気は本物だ。

自分に正義があり、政府やオカG、GS協会を偽善者と罵り、オークを使って生徒を食わすことに何の躊躇もない。

 

俺は何とか小町を奪還し、奴の捕縛に成功。

総武高校生徒と教職員全員に被害が出る事がなかった。

それもこれも、途中でドクター・カオスとマリアさんが駆け付けてくれたからだ。

俺一人だったら、やられていた可能性が高い。

その後の事は考えたくもないが、小町に雪ノ下や由比ヶ浜、川崎に一色、学校の連中が全員オークに食われていただろう。

それだけじゃない。進化したオークを街に解き放てば、街は壊滅していた。

最悪、千葉の中心地はほぼ潰滅状態となっていた可能性もある。

 

俺の学校と同じく、大規模霊災に認定されたのが、神奈川の高校で起きた霊災テロだった。

霊災の発見が遅れ、被害がかなり出た。

あっちは、キメラの合成……それも人間を、生徒を使って行ったのだ。

しかも、首謀者と目される人物は、総武高校と同じく一人………。

最終的には、美神さん達が駆け付け、被害拡大前に抑える事が出来たが……、首謀者には逃げられ、高校は悲惨な状況に……。

 

俺の総武高校も一歩間違えば同じ状況になっていただろう。

そう思うと、体が自然と震える。

 

 

 

俺は今、オカルトGメンの要請で総武高校での大規模霊災事件の現場検証の為に来てる。今日で三日目だ。

 

実は今、家から通ってるわけじゃない。

ここしばらく、事務所から総武高校との往復の毎日だ。

仕事の都合上その方が良いって言うのもあるが、今の小町を放っておけない。

それにだ。小町はあれから俺から離れようとしない。

親父やかあちゃんがあの事件の翌日には帰って来て、親父は顔を鼻水や涙でぐちゃぐちゃにして、小町の為に会社を辞めて一緒にいるとか言いだす始末だったが、小町は「お兄ちゃんと一緒だからいい」と速攻拒否られ、轟沈していたな。俺は勝ち誇った顔を親父にみせ、親父は悔しそうに俺に恨み節をほざいていた。

かあちゃんからは、「あんたは一生面倒見ないといけないと思ったけど、もう立派に独り立ちしてるわね。ホッとしたってのもあるけど、親としてはちょっと寂しいわね」とか言われた。

なに?俺ってそんな風に見られてたの?……まあ、横島師匠たちに会う前だったら、専業主夫になるか、一生親の脛をかじろうかとか思ってたのは事実だが……。

親共は、この関東同時多発霊災のあおりを受けたようで、穴埋めのため次の日からあちらこちらに出張だそうだ。

 

そんなもんだから、小町は今、事務所のタマモの部屋に寝泊まりさせてもらってる。

人質に取られオークに食われかけたんだ。その恐怖を今も引きずっているだろう。

だからと言って、仕事に一緒についてこさせることは出来ない。

なまじ出来たとしても、恐怖を体験した現場である総武高校に連れて行くのも憚れる。

そんな小町を家に1人で置いておけないしな。

事務所にはタマモやシロも居るし、今は昼間に雪ノ下も居るのだし安心だろう。

それにキヌさんの事も有る。

キヌさんは神奈川の高校の大規模霊災で、限界以上の霊力を使い今も寝込んでる。

小町がキヌさんの看病をかってでてくれたのと、家事の手伝いをしてくれてるから、美神令子除霊事務所としても助かってるとのことだ。

まあ、雪ノ下も通ってるし、やる事は少ないだろうがな。

 

それと美神さん自身は今、事務所に居る事がほとんどだ。

事務所の依頼仕事は暫くキャンセルしてる。

よっぽどキヌさんの事が心配なのだろう。

それ以外では、オカGやGS協会には顔を出してるみたいだ。

一応GS協会の理事だし。

 

 

 

 

総武高校の現場検証での俺の役割は今日が最後だ。

今日は学校の教職員も立ち会ってる。

と言っても、教頭と平塚先生だけだけどな。

 

平塚先生と俺は現場検証の休憩中に、屋上で話し合った。

「比企谷、今回の事は本当に助かった。君がこの高校に在籍していなければ……想像もしたくもない結果となっていたであろう」

 

「いや、俺だけではダメでした。助っ人が来てくれなかったらどうなっていたのものか……」

 

「助っ人には驚いた。私の目の前に居たのだぞ。あのマリア氏が……随分と由比ヶ浜と仲がいい様に見えたが……ヨーロッパの魔王ドクター・カオス氏も居たと言うではないか」

 

「それは内密に願います」

 

「ああ、それはオカルトGメンの担当者にも言われている」

ここで内密というのは、ドクターとマリアさんが、日本に住んでいるという事実だ。

もっといえば由比ヶ浜の家に居候していることも問題なんだが……。

ドクターの立場はかなり面倒で厄介だそうだ。

一応、マスコミ向けには、この総武高校の大規模霊災テロ事件は千葉在住のゴーストスイーパーと協力者によって解決とされている。

ドクターは世界でも有名な錬金術師であり、フランス所属のSランクGSでもあり、本来日本に在住するなど、世界のパワーバランス的には国際的な問題になりかねない。

だが、実際はそうはなっていない。

ドクター・カオスの日本在住は政府やオカGを通してフランスはフランスGSに通達しているし、国連機構であるオカルトGメンも認めている。

フランスも特にドクターに戻って貰えるような動きを見せていない。

それはそうだ。ドクターは今も、唯のボケ老人だと思われているからだ。

Sランクも名誉職程度のもので、実際の戦力にはならないと、フランスにとってはいい厄介払い程度に思っているかもしれない。

まあ、ボケてなくてもはた迷惑なため、国外退去はありえるのだけど……。

 

 

既に新聞各社はこの総武高校の大規模霊災テロ事件を解決した協力者について、いろんな憶測されて、一部スポーツ誌には協力者はドクター・カオスではという見出しもある。

 

一応バレた時のシナリオも用意していて、落ち着いた頃に正式に認めるらしい。

【ヨーロッパの魔王ドクター・カオス氏は日本旅行中にたまたま霊災に出くわして、解決に貢献した】と言うシナリオが日本にとってもフランスにとっても、国際的にも外聞がいい、もっともらしいシナリオだそうだ。

 

 

「それにしても君は強いのだな。オカGや自衛官達の説明や会話の内容を聞いていればわかる」

 

「そんな事はないです。さっきも言いましたが、ドクターやマリアさんの助けが無ければ対処しきれませんでした」

 

「君は相変わらず謙遜が過ぎるな……」

 

「まあ、何にしろ、生徒や学校が無事でよかったです」

 

暫く、俺と平塚先生は屋上からブルーシートで囲われたグランドを眺めていた。

ふう、マジで危なかったな。

六芒星大規模結界に異界の門、オーク、さらに小町が人質に取られ……、あの時ドクターとマリアさんが来てくれなかったら、どうなっていた事か。

この霊災を仕掛けた稲葉の奴、個人的に総武高校に恨みを持っていた。

妄想も激しい上に、とばっちりもいい所だ。

 

その稲葉だが事情聴取が始まった。始まったのだが……。

漸く捕まえる事ができた一連の霊災テロ【霊災愉快犯】の首謀者の一人と目される人物だった稲葉から、有益な情報が一切入らなかったそうだ。

それは稲葉の精神が崩壊したからだ。悪魔契約の一種だと美智恵さんが言っていた。

稲葉自身も悪魔契約を結んでいたと言う事だ。美智恵さんが取り調べを行う前にその悪魔契約が履行し稲葉は精神崩壊を起こし、廃人同様に。

何がその悪魔契約のトリガーとなったのかは分からないが、稲葉が不都合な事を口にしようとした時か、稲葉がこの霊災テロに失敗した時なのかは分からないが、そう言う風に仕込まれていたそうだ。

稲葉自身も駒の一つに過ぎなかったと言う事だろうか。

もしかすると、この霊災愉快犯のバックには強力な悪魔が存在するかもしれない。

いや、今までにやり口を見るに現代社会に生きる人間の思考だ。

そんな強力な悪魔を使役できる奴がいるのかもしれない。

神奈川の高校で起きた霊災テロの首謀者は、魔獣を従え、一人で生徒達を依り代にキメラ合成をその場で行ったと。

事前準備も無しにそんな事が出来るなんて、相当な使い手だ。

それこそ、ドクターに匹敵するほどの……。

 

俺は考えれば考える程、わからないことだらけだ。

 

 

暫くの沈黙の後、平塚先生は俺にこんな事を聞いてきた。

「もしだ……横島さんがこの現場に現れたのなら……どうなっていた?」

 

「一瞬で解決しました」

これだけは断言できる。

横島師匠と俺との力の差は歴然だ。

プロのGSとして色々と経験してきたが……この業界の事を知れば知るほど、横島師匠の力は異常だ。

武神斉天大聖老師の直弟子ってだけでも規格外なのに、あの文珠という術儀、チートもいい所だ。

 

「そうか………」

 

「先生、横島師匠の力の事も内密にお願いします」

 

「それは分かっている。ハワイでの事を冷静に考えれば、横島さんが只者ではない事は私にもわかる。オカルトGメンの西条さんにも十分釘を刺された。そうか、わたしは……叶わぬ恋をしたと言う事か」

平塚先生は寂しそうな顔を眩しそうに燦燦と照る太陽に向けていた。

どうやら平塚先生は今も、横島師匠の事を心のどこかで……。

 

「そういえば先生、唐巣神父の所に毎週通ってるって聞いてますが」

俺は一呼吸おいて、違う話題を平塚先生に振る。

 

「そうだな、あそこはいい、心が洗われるようだ」

 

「そうですか……」

唐巣神父の教会を紹介したのは俺だが、どうやらうまくいってるようだ。

川崎はいい迷惑だと言っていたが……、大人しく、礼拝を受けてるらしい。

平塚先生は、学校に居る時は格好いい美人教師なんだが、私生活や性格に難があるからな。それに男運が悪い上に男の前だと暴走しがちだ。少し落ち着けば、自然と良い相手が見つかると思うんだけどな。

 

「そういえば比企谷。唐巣神父とも随分と親しいらしいが……」

 

「そうですね。前にも話したかもしれませんが、神父は美神さんの師匠なんですよ。だから俺も唐巣神父の孫弟子かひ孫弟子にあたるわけです。それに色々と相談にも乗ってくれます」

 

「そうだったか。神父はいい人だ。こんな私にあんなに優しく接してくれる人は、今まで居なかった。………そう言えば神父は独身らしいな」

 

「まあ、そうですね」

 

「し、神父はどんな女性が好みなのだろうか?」

平塚先生が急にモジモジだしたぞ。

ん?なんだ?なんかこのパターン、前にもあったような……。

まさか!?

 

「聞いた事ないですが……平塚先生、神父は50歳前後ですよ。流石に……」

神父の好みの女性って……いやいやいや、下手すると親子程歳が離れてるんですが……。

確かに神父は超いい人なんだが、平塚先生と?

想像し難い。

神父のあのほんわかした雰囲気と、男勝りの平塚先生が?

仮にだ。もし平塚先生が神父の奥さんになれば、平塚先生がシスターに?

んん……うん?んん?

意外とありか?いやしかし……

 

「い、いや~、ちょっと聞いただけだぞ」

 

「………」

俺はジトっとした目で、平塚先生を見据える。

 

「コホン。な、何にしても皆が無事でよかった。君のお陰だよ」

誤魔化したな。まあ、何れにしろ、今どうこうする話ではないだろう。

 

「俺のお陰というのは別にして、皆が無事でよかったです。二学期も始められそうですし」

次にこんな事が起きても、対処できるように鍛え直さなくっちゃな。

妙神山で基礎能力を上げる訓練を受けた方がいいな。

横島師匠が帰ってきたら相談するか。

 

 

 

 

事務所に戻ったら……

「かんにんや~、仕方がなかったんや~~~!」

事務所の屋上から、蓑虫のようにす巻きにされ吊るされた横島師匠が夜風でゆられていた。

 

横島師匠帰って早々何やらかしたんだか。

まあ、どうせ下着泥か覗きだろうが……まさか、小町に!?

 

 

はぁ、小町と家に帰るか。

ここに長居すると小町の教育上良くない事が多すぎる。

 

 

 




次はあの子が再登場。

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