やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
千葉村です。
複数話になりますね。
「じゃあ、千葉村へレッツゴー!」
そんな小町の掛け声で、千葉駅を出るワゴン車。
勿論運転は平塚先生。
去年同様迷彩ズボンに黒のタンクトップ姿、そんでサングラス。
この人はホント男前というかなんていうか。
その助手席には俺が、後部座席一列目には雪ノ下と由比ヶ浜、二列目には、小町と一色、生徒会書記2年の藤沢が座っている。
皆もそれぞれ動きやすそうな私服を着ていた。
そう、去年もあったとあるイベント、千葉村で小学生の林間学校を補助するボランティア活動だ。
因みに千葉村とは地名ではない。千葉村という名の山深い場所にあるキャンプ場だ。
「先生……俺と雪ノ下と由比ヶ浜は受験生なんですが、こんな事をしていいんですかね」
俺は運転中の平塚先生に根本的な事を聞く。
「たまにはいいのではないか?息抜きは必要だ。君や雪ノ下、それに今や由比ヶ浜もだが、普段からしっかりと勉強をしているのではないか?たかが2泊3日で後れを取るような事も有るまい」
確かにそうなんだが。
俺も雪ノ下も毎日短時間集中でコツコツ勉強する派だし、由比ヶ浜もそれに倣ってそういう癖をつけさせてるから、勉強については問題ないハズだ。
そうじゃなくて、生徒会や奉仕部の部活動の一環として行ってるから、受験生が参加してるなんて学校や他の先生たちに知られたら、先生が学校側から難癖つけられるんじゃないかと心配してるんですが。
「はぁ」
「なんだ、そのやる気のない返事は、特に君には休息が必要だと思うがな」
「まあ、いつもこんな感じじゃないっすかね」
そもそも、あんな事件があった後で、よく中止にならなかったな。
関東同時多発霊災テロで千葉では犠牲者は出なかったと言うのも影響があるのだろうが……。
まあ、小町も喜んでるようだし、雪ノ下と由比ヶ浜も乗り気だしな。
あんな事があった後だし、気分を変え、大自然に触れてリフレッシュってのはいいかもな。
小学生の面倒は見ないといけないが……。
「そういえば、今回のボランティアはこの人数だけですか?」
去年は葉山のグループ連中や戸塚が参加してたから結構な人数は居たが、今年のこの人数だけで、しかも男が俺だけじゃ、流石に厳しい。
結構力仕事とかもあるしな。
「いいや、当校からはこれだけだが、林間学校先の小学校OGや地元の自治会などからも数人参加するらしい。一応参加資格は学生等の若者限定だ。年の異なる連中と接するいい機会だと思うがな。君に対しては愚問かもしれんが、仲良くとは言わんが、良識を持って接してくれ」
なるほど、去年は総武高校でボランティアを一般募集していたが、今年は小学校の方で人数をそろえてくれたと言う事か。
去年の小学校とはまた別の学校なのかもしれないな。
その辺は詳しく聞いてないが。
ここで一つ疑問が浮かぶ、平塚先生は若者枠なのだろうか?
まあ、教職員だし、別枠なのだろう。
徐々に景色は田舎風景へと変わり、遂には森と山だけとなり、一時間半程のドライブで千葉村へ到着。
ちょっとペンキが薄れた感じの「千葉村へようこそ」の看板を潜り抜け、ワゴン車は駐車場へ。
先ずは荷物を降ろし、ログハウス調の案内棟へ向かう。
「あれ?比企谷君?それに妹ちゃん、雪乃ちゃんとガハマちゃんに静ちゃんも、それに一色ちゃんと書記ちゃんも偶然ね」
そこには雪ノ下と顔の作りがそっくりな美女がにこやかな笑顔で手を振っていた。
「…………」
勿論、こんな感じで現れたのは雪ノ下の姉の、雪ノ下陽乃さんだ。
偶然を装ってるだけで、間違いなく計画的な行動だろう。
「陽乃、君も来ていたのか」
「陽乃さん、こんにちはです!」
「陽乃さん、こんにちは!」
「あはははっ、陽乃さん、やっはろー」
「………」
平塚先生は一瞬驚いた表情し、挨拶をかえす。どうやら陽乃さんが来ることは知らなかったようだ。
小町は元気一杯に挨拶を返し、一色も似たような感じだ。
まさか、陽乃さんが来ることをこの二人は知っていたんじゃないだろうな。
由比ヶ浜は愛想笑いをしながら、いつもの訳が分からん挨拶を返す。
生徒会書記の藤沢は軽く会釈を返した。
そして、雪ノ下は陽乃さんの正面に立ち……
「姉さんはなぜこんな所にいるのかしら?」
「雪乃ちゃん、せっかく会えたのに、ごあいさつね」
「そんな事はどうでもいいわ、なぜ姉さんがここにいるのか聞いているのよ」
「見てのとおり、ボランティアよ」
「白々しいわ」
「雪乃ちゃんそんなに怒らなくてもいいじゃない。私だって比企谷君に会いたいし、仲間外れはズルいわ」
どうやら、雪ノ下は陽乃さんがこのボランティアに参加することを知らなかったようだ。
陽乃さんもワザと知らせてなかったのだろう。
かわいい妹への何時もの悪戯心からだろうが……。
陽乃さんは雪ノ下から、両手に荷物を持つ俺の元に歩み寄る。
「雪ノ下さん、こんにちは」
俺は普通に挨拶を返す。
陽乃さんに対して随分と苦手意識は消えてはいる。
「もうそろそろ陽乃って呼んでくれてもいいのに」
さっきまで外面仮面の上品な笑顔を振りまいていたが、俺の前ではちょっと頬を膨らませる。
「はあ、この前の意味深なメールはこの事ですか」
そう言えば、夏休み前に『一緒にいい空気吸いにいきましょうね』と送られてきた。
その時は意味が分からなかったが、空気のいい自然豊かな千葉村の事を指していたのだろう。
「そうよ。八幡、一緒にボランティア頑張りましょうね」
陽乃さんは自然な笑顔を向け、俺の肩にポンと軽く触れてから、今度は平塚先生の元へ駆け寄って行く。
前までだったら、結構しつこく色々言って構ってきたが、この頃はそんな行動は鳴りを潜めている。
それよりもだ。
陽乃さんの霊気の質が以前に比べ濃く感じる。
それに式神も雪刃丸以外に、もう一体内包してる感じだ。
陽乃さん、夏休みの前半に妙神山に修行に行くと言っていたが……、どうやら修行は上手く行ったようだ。
ふぅ、夏の終わりに誘われてる訓練時に試されそうだな。
これは俺も今度の妙神山で気合い入れて修行に励まないとな。
「姉さん……」
「陽乃さん、なんか感じかわった。これは……」
雪ノ下はそんな陽乃さんの遠ざかる背中を意外そうな顔で、由比ヶ浜は陽乃さんの背中を見た後、俺の顔を眺め、また陽乃さんの方を向き、珍しく思案顔をしていた。
「あれ?比企谷じゃん。ひさしぶり」
俺は荷物を案内棟のロビーの端に置いていると、不意に後ろから声を掛けられる。
振り返ると折本かおりが小さく手を振っていた。
「折本か、なんでここに?」
「ここの小学校のOBで、人手が足りないとかで呼ばれちゃって、一度は受験生だって断ったんだけど、今日来るはずだった子が急に風邪ひいちゃって、仕方なくね」
「そうか、それは災難だったな」
「面倒だけど、勉強の気分転換に丁度いいかなってね。でも比企谷はなんで?」
「俺は部活の一環でのボランティア活動だ」
「そう言えば、奉仕部とか変な名前の部活だったよね」
「まあ、そうだな」
「そっか、比企谷もか、なんか楽しくなってきたかな。じゃあ、またあとで」
折本はそう言って、大きく手を振って、案内棟から出て行った。
「比企谷君、折本さんとは会ってるのかしら?」
「そうそう、なんか仲良さげ」
俺は荷物を置いて、荷物番のため近くの壁際で立っていたのだが、雪ノ下と由比ヶ浜が俺の横に並びながら聞いてくる。
「いいや、去年の年末以来だな」
折本と直に会うのは去年のクリスマスイベントぶりか、メールはちょくちょく来るが……。
何度か遊びに誘われたが、仕事を理由に断っていた。
「そう……」
「そ、そうなんだ」
雪ノ下はホッとした表情で、由比ヶ浜は笑顔を見せる。
なんなんだ?
「比企谷?雪ノ下に由比ヶ浜まで?あんたらこんなところで何やってるの?」
今度は俺達3人に声が掛かった。
目の前にはジャージ姿の川崎が俺達に指さしていた。
「あれ?サキサキ?なんで?」
「川崎さんこんにちは」
「うっす」
「サキサキ言うな!ったく、なんでって、下の弟の林間学校だから、その手伝いにね。あんたらは?」
どうやら川崎もボランティアらしい。そういえば下の弟は小学校6年生だったな。
だからって、小学校の林間学校について来たのか?相変わらずのシスコンにブラコンだ。
「私達もボランティアだよ」
川崎の質問に由比ヶ浜が答える。
「ああ、あの部活のね。そう、比企谷と雪ノ下なら心強いね」
「サキサキ、私も居るんだけど……」
「由比ヶ浜、あんた料理出来ないでしょ。家事とか下手そうだし……子供の面倒見れんの?」
「バ、バカにし過ぎだし!あたしだって、子供の面倒は見れるし!」
由比ヶ浜、料理が出来ないとか家事が下手とかは否定しないんだな。
クッキーは焼けるようになったのに、何故か料理は相変わらずの炭を錬成するクオリティだからな。
「ふーん」
川崎はジトっとした目で由比ヶ浜を見据えていた。
「ああっ、サキサキ信じてないし!」
料理や家事云々は抜きにすれば、由比ヶ浜は子供の面倒をちゃんと見る事が出来る。
由比ヶ浜自身、面倒見がいいし、子供受けもする。
去年のこの林間学校のボランティアでも俺や雪ノ下よりも小学生達とちゃんと接していた。
気遣いもでき、実際に優しいと来た。子供の目線に立って話を聞けるし、頭を撫でたりなどのスキンシップも出来る。
去年参加した連中の中では、一番コミュニケーションが取れていただろう。
因みに一番ダメだったのは俺だったけどな。
材木座は意外とコミュニケーションが取れていた。
あの中二病キャラが幸いし、いじられキャラとしての地位を確立していたな。
小学生にいじられる高校生はどうなんだとは思うが……
「まあいいわ。じゃあ、頼むわね」
川崎はそう言って、案内棟を出ていく。
なんだ?やけに知り合いに会うな。
陽乃さんは別にして、折本と川崎は偶然だよな。
暫くして、総武高校生徒会と奉仕部のボランティアメンバーは荷物を置いてる場所に集まる。
「まずは、宿泊するロッジに荷物を置いてからだ。女子連中の鍵は一色に渡しておく」
平塚先生が受付から戻り、一色に鍵を渡す。
「比企谷は私と一緒だ。ロッジが足りないのでな。致し方が無いだろう」
はぁ?何言ってるんだこの三十路女教師は?流石に不味いだろうこれは。
俺はこれでも一応男なんですが、三十路と言えども先生は女なんですよ。
中身は限りなくおっさんだが……。
………まあ、先生と二人でハワイのコテージで一晩過ごした実績はありますが、あれは先生が一晩中飲んで、俺に絡んでた感じでって……。
その前に、その…先生に師匠に間違われて襲われそうになって……、先生も一応女なんだなと……、美人だし、スタイルもいいし……。裸見ちゃったし……
ああっ!あの時の記憶を忘れ去ろうとしていたのに……、顔が熱くなる。
冷静になれ!心頭滅却、心頭滅却。
「ちょ、ちょっと待ってく……」
俺は上ずった声で、抗議の声を上げようとしたが……
「えーーーっ、先生!!」
「平塚先生、流石にまずいのでは?」
「先生何を言ってるんですか!」
由比ヶ浜と雪ノ下、一色が一斉に声を大にしてあげる。
「ふっ、冗談だ。ロッジが足りてないのは事実だ。比企谷は兄妹で使ってくれ。それとも何だ?もし、私と比企谷が同じロッジを使ったとして、君たちに何か不都合でもあるのかね?」
平塚先生はおどけた感じで冗談だといい、少々含みのある言い方を由比ヶ浜達に向けていた。
小町となら妥当だろう。最初からそう言えばいいものを。
まあ、先生には由比ヶ浜と雪ノ下が俺に好意を寄せてくれてることを半分バレてるし、告白されたまでは知られてはなさそうだが……。
だから、これは軽い警告なのだろう。嵌め外しすぎるなという。
「わっかりました!そう言う事なら仕方がないですね。小町がお兄ちゃんと同じロッジでっ」
小町は何時もの感じで、元気よく了承する。
小町ちゃん?仕方がないって……、ちょっと傷つくんですが。
「じょ、冗談。そうですよね。先生がヒッキーとかないない、あははははっ」
「冗談でも悪質ですね。非常識です」
「…………小町ちゃんと先輩だったら……計画は……何とかなる」
由比ヶ浜は愛想笑いを、雪ノ下は憮然と先生に注意をしていたが、一色は何かぶつぶつ言っていた。
しかし、一色の奴まで声を大にしてたな。
まあ、彼奴も一応生徒会長だし、流石に看過できなかったか?
というわけでだ。
女子組と比企谷家組と別々のロッジに荷物を置きに行く。
この後、総武高校からのボランティアや、小学校や地元自治会のボランティア、林間学校の小学教諭を交えて、簡単な打ち合わせをするそうだ。
陽乃さんと折本と川崎が総武高経由以外のボランティアって、俺の知り合いばかりなんだが……。
雪ノ下と由比ヶ浜に陽乃さんが一同に会することは久々か。
今年の3月末の告白以来だな。
俺はあの時の事を思い出すと、心が落ち着かなくなる。
3人には卒業までに誰の告白を受けるのかを答えを出さなければならない。
しかし、未だに何も決められないでいる。
3人の好意は嬉しいのは確かだ。
だが、俺はどう答えればいいのかが分からない。
俺はこんなに優柔不断だったのだろうか?
ふぅ、どうしたものか。
八幡包囲網が………
まだ来ますよ。
八幡恋人チキンレース。雪乃、結衣、陽乃以外で現段階で誰が食い込んで来るかな?
-
川崎沙希
-
折本かおり
-
一色いろは
-
鶴見留美
-
小町