やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
三回目の妙神山修行へ
小竜姫様のご尊顔を拝しにw
八月中旬から再び妙神山へ修行にと。
修行初日、何時ものように木製のベンチで休憩中していると、小竜姫様が俺に声を掛けてくれた。
「比企谷さん、悩みでも?基礎訓練中には集中して取り組んでおりましたが、気配の端々に迷いの様なものがありました」
小竜姫様には何でもお見通しのようだ。
外見は同世代の少女に見えるが、やはり天界の女神様。
「……そのですね」
確かに俺はここ数日悩んでいた。
どう対処すべきなのか全く答えが見つからなかった。
小竜姫様に隠し事なんてものは今更だ。
俺は包み隠さず、現在抱えてる悩みを小竜姫様に話した。
「やはり、比企谷さんは横島さんの弟子という事ですね。性格は全く異なるのに、師弟揃って抱えてる問題がこれ程同じとは、違いと言えば自覚の差ですか……」
俺の話を聞き、小竜姫様は俺にそう言って、少々考え込む。
そう俺が小竜姫様に話した悩みとは、一色と留美の事だ。
8月8日、俺の誕生日。
由比ヶ浜と雪ノ下が午前中に俺の家に来てくれて、俺は誕生日プレゼントを貰った。
由比ヶ浜からは自家製クッキー。
ハートマークだったのは流石に恥ずかしい。
かなり練習したのだろう。前回に比べかなり美味く焼けていた。
更に、由比ヶ浜とマリアさんとドクター・カオス氏の合作のオリジナルエナジー・ドリンクを貰う。
味付けは由比ヶ浜とマリアさんが行ったようだ。
イチゴ味とキウイ味とピーチ味の3本だ。
しかし、ただのエナジー・ドリンクではない。効能があり得ない性能となっていた。
何でも、一気に霊気量が回復する霊薬だとか、これが本当なら、霊能者ならだれもが欲しがるだろう一品だ。いざとなった時の切り札ともなりえる物だ。
但し、ドクターが関わったという時点で、何かとんでもない副作用があると思っていいだろう。
何が起こるか分からない。
仕事や学校が無い時に、横島師匠立ち合いの元に試す必要がありそうだ。
雪ノ下からは、神通棍と札を収納できる革製のホルダーだった。
総武高校の制服に隠し取り付けられるように工夫をされた物だった。
雪ノ下の手製だ。
今俺が総武高校の制服に取りつけてる物は、既存のホルダーを無理矢理制服に縫い合わせた物で、だぶつきや使い勝手は少々悪い。
だが、雪ノ下からもらったものは制服にしっくりとハマり、明らかに使い勝手もよさそうだ。
その後はお礼とまではいかないが、二人に俺んちで昼食を馳走した。
「うーん、甘いですな~、こっちまで恥ずかしくなるであります」とか言いながら終始ニヤニヤ顔の小町も昼食を共にした。
因みに小町から誕生日プレゼントに服を貰っていた。
その日着ていた服がそれだった。
何でもデートでもイケてる服らしい。
陽乃さんからは、宅配で誕生日プレゼントが届いた。
何でも今年の8月8日、土御門家では丹波で特殊な封印儀式を行うために手が離せないらしい。
「会いに行けなくてごめんね、その代わり、八幡が寂しくないように誕生日にいいものを送っておいたわ」とメールを前日に貰っていた。
中身を確認すると、デフォルメされた陽乃さんを象ったヌイグルミが……陽ちゃん人形と名がうってあった。
これをどうしろと?
それと、もう一つは式神使いの初級教練本だ。
しかもこれ土御門家の独自の物だ。
これは物凄くありがたいが、こう言うのって門外不出とかじゃないだろうか?
陽乃さんには感謝しつつも、これは外に出せないなと、俺の部屋に厳重に保管することにした。
好意を寄せてくれる同級生の女の子や知り合いの女性から誕生日を貰えて、素直に嬉しい。
だが、俺はこの三人に何か返す事ができるのだろうか?などと贅沢な悩みを持つことに。
しかし、これが今回の悩みの種ではない。
そしてその日の夜には、美神令子除霊事務所へ仕事に向かうと、事務所の人達から誕生日プレゼントをそれぞれ貰えた。
横島師匠からは仕事用のジャケットを。
霊糸が織り込まれた物だ。かなりランクが高い霊的防御性能がある事が霊視で見て取れる。
結構貴重なものだ。ありがとうございます師匠。
キヌさんからは、ヒーリング効果があるハンカチを頂く。
何でもキヌさん自ら霊気を注いだ霊糸で紡ぎ織ったものだとか……。
ありがとうございますキヌさん。これは末代までの家宝としよう。
美神さんからは、何故か硯と筆を……。
これって、札を作るためのものだよな。
どうやら俺が札を作る練習をしているのを知っていたようだ。
美神さん曰く、昔札を自分で作ろうとしたが、性に合わなかったらしく直ぐにやめてしまったらしいのだ。「どうせ使わないから、あんたにやるわ」と、しかもこれ、かなりの高級品だ。
「いいもの出来たら言いなさいよ。売れるレベルなら、一儲けできるわ。美神令子除霊事務所印の札とかいいじゃない」
その一言が無きゃ良かったんだが……。
きっと照れ隠しの為にそんな事を言ったのだろうと思う事にする。
シロからは、何か肉の形をしたデカい抱き枕。
タマモからは今流行りの小説本を三冊もらった。読んでみたいと思っていた物だから、これは嬉しい貰い物だ。
西条さんや美智恵さんからも仕事に役に立ちそうなものを貰う。
こんなにも誕生日を祝ってもらえるなどとは、高校に入る前には考えもしなかった。
2年半前、美神さんや横島師匠に助けてもらい、この事務所で働かせてもらえた事に改めて感謝をする。
と、ここまでは特に問題はなかったのだが……。
その日、雪ノ下と由比ヶ浜が帰った直ぐ後、仕事に行く前の3時ぐらいだろうか、一色が俺ん家に訪ねて来たのだ。
千葉村のボランティアから、二日しか経ってはいなかったが、あんな事があった後だというのに一色とは真面に話をしていなかった。
「せーんぱい。誕生日プレゼントです。はい」
一色は相変わらずのあざと可愛い笑顔で、俺に綺麗にラッピングされたピンクの箱に入ったプレゼントを渡す。因みに中身は甘いチョコケーキだった。
「あ、ありがとな」
「どういたしまして~」
「一色、あれはどういう意味だったんだ?」
俺はここで思い切ってあの日の夜の真相を訪ねる事にした。
因みにリビングには俺と一色しかいない。
小町は夕飯の買い物に近所のスーパーに出かけてる。
「あれって何ですか?」
一色はワザとらしく、首を傾げながら聞き返してくる。
「稲田姫の、あの時の事だ」
「え~っと、あっ、先輩とキスしちゃった事ですね。誕生日プレゼントは私のキスの方がいいですか?今します?」
「あのな、お前冗談も程程にしておけよ。お前、葉山が好きなんだろ?何だってあんなことをしたんだ?」
「………先輩。私が誰にでもキスをする軽い女に見えますか?」
一色はさっきとは打って変わって俯き加減で、こんな事を俺に聞き、その声は少し震えていた。
「そうは言って無いが……あの時お前は相当混乱していたからな」
「私は……先輩が好きなんですよ。葉山先輩よりも先輩が好きなんです。好きになっちゃたんです。これってダメな事なんですか?」
一色は涙目で俺に訴えかけるように言葉を紡ぐ。
「……ちょ、ちょっ、ええ!?」
「はぁ、先輩は自分の事には本当に鈍感なんですから、他人の事はよくわかる癖に」
一色は涙目ながらも呆れたように溜息を吐く。
「も、申し訳ありません」
何故か俺は丁寧語で謝っていた。
「でも、私はそんな先輩が好きなんですよ」
一色は何時ものあざとい笑顔ではなく、やわらかい微笑みを湛えていた。
「…………」
俺は思わずそんな一色に見とれていた。
「私は言いましたからね。それに今の先輩には返事を求めてませんから、私の事を一番好きになって貰います。覚悟してくださいね」
最後はいつものあの一色のあざとい笑顔を残し帰っていった。
俺は一色に何も返事が出来なかった。
マジか、一色が俺に……予想外にも程がある。
斜め下から来た感じだ。
何時からだ?最近まで葉山にアタックしてたんじゃないのか?いや、こんな事を考えても意味がない。
一色が俺に好意を寄せてくれているという事実だけが目の前にある。
だが、俺は今の段階では、一色を恋人として受け入れる事は出来ないだろう。
俺は一色を小町と同じ妹ポジションに置いてるきらいがある。
一色の言い回しだと、それすらもわかっているような感じだった。
どうしたものか。
丁度一色とすれ違いで小町が帰って来て……。
「お兄ちゃん、何かあったの?いろは先輩が、小町を妹にするとかなんとか……あっ!?……お兄ちゃんのお嫁さん候補に!?お兄ちゃんにモテ期到来!?」
だが、これで終わらなかった。
しばらくし、また来訪者だ。
自宅に訪ねて来たのは……
「八幡、誕生日おめでとう」
「八幡殿、挨拶に伺った」
鶴見留美と祖父の鶴見源蔵氏だった。
「おお……」
とりあえず家に上がってもらう。
「鶴見さん、今日はどういうご用向きで?」
俺は源蔵氏に訪ねる。
留美はどうやら俺の誕生日を祝ってくれるようだが、祖父の源蔵氏はただ単に留美の付き添いってことは無いだろう。
その質問には留美が答えた。
「私はいいって言ったのに、お爺ちゃんが勝手について来て、私は八幡に誕生日プレゼントを持ってきた。はい、これ誕生日プレゼント」
「ああ、ありがとう」
留美から誕生日プレゼントを手渡される。
因みに中身は、ゴーストスイーパーが良く使う指ぬき手袋だった。
「ははははっ、わしも八幡殿のご両親に挨拶をしておいた方が良いと思ってな、留守だとは残念至極。八幡殿に会えただけで良しとしよう」
両親に挨拶って、なんのために?嫌な予感しかない。
源蔵氏からも、誕生日プレゼントらしき物を貰ったが、紅白饅頭と赤飯だった。
これ、どういう意味?
「八幡、10月から八幡の弟子になるでしょ、だから末永くよろしくね」
「そうじゃ、八幡殿も津留見神社に来なされ。留美の両親にも会ってもらわねばなるまいて、将来の婿殿じゃからのう」
「婿とか勘弁して下さい」
「はっはっはっ、では八幡殿、いずれゆっくりと」
俺の言葉など全く聞いていないのか、源蔵氏は言いたい事だけ言って、帰って行った。
「じゃあね。八幡」
帰って行く留美は、前の様なぎこちない笑顔ではなく、年相応の笑顔だった。
「お兄ちゃん!!どういうこと!?留美ちゃんってまだ中学1年生だよね!!お兄ちゃんがまさかのロリコンに!!しかも家族公認で婿確定!?ちょっと流石にそれはないよねお兄ちゃん!!流石の小町もこれには驚きを隠せないどころか、混乱しちゃってるよ!!お兄ちゃんってもしかして、超モテるの!?」
小町が俺に慌てて迫って来る。
「……いや、婿って流石にないよな。誤解とかそう言うレベルじゃない。俺はちゃんと否定したんだが、勝手にあっちが……」
「留美ちゃんもまんざらじゃなさそうだよ!?しかも弟子って!?」
「留美の場合は恋愛とかじゃないだろう?」
「お兄ちゃん、最近の子は早いから、……お兄ちゃん。小町なんかちょっと怖くなってきた」
小町は身震いしていたが、俺もなんか怖くなってきた。
そして、更にチャイムが鳴り、小町が応対の為に玄関に出る。
「おおおおおおお、お兄ちゃん!!!!!なんか物凄い長い高級車が来て、女将さんとお嬢様と執事さんとメイドさんが!!!!!」
小町が目を回しながら勢いよく戻って来る。
誰が来たかわかってる。
凄まじい霊気量と霊力を感じる。
六道冥子さんだ。それに六道会長も一緒の様だ。
たぶん、執事さんとメイドさんというのはお付きの人だろう。
超が付くお金持ちだし、そう言うものなのだろう。
しかも、超ゴージャスな車までうちの家の前に止まっているのがありありと見える。
近所の目があるから流石にやめて欲しいが、式神に乗って来るよりはましだと思う事にする。
だが、何故俺ん家に?
「比企谷君突然訪ねてごめんなさいね~。この前のお礼が言いたくて~」
「比企谷く~ん、この間はごめんね」
案の定、六道会長に娘さんの六道冥子さんだ。
たぶん、稲田姫の試練の時の事だろう。
「この子が暴走するものだから~。危なく一般の人から死人や怪我人が出るところだったわ~。比企谷君が居てくれて助かったわ~」
まったくもってその通り。
娘さんの修行をし直した方が良いんじゃないですか?式神の扱いとかじゃなくて、精神的な事や一般常識とかを。
「まあ、二人共知り合いだったんで」
一色は助けたが、平塚先生に関して、俺は何もやっていない。
先生は、あのとんでもない状況の中、圧倒的な速さで一着で到着したのだ。
無事にゴールに到着した人間自体極わずかだったのに……
たぶん平塚先生は、恋愛運50倍のご利益が待つゴール以外全く見えてなかったのだろう。
周りに何が起きてるかもわからずに、一心不乱にゴールへと突き進む姿が容易に思い浮かぶ。
あの人、力の使い方を間違ってるとしか言いようがない。
「これね。その時のほんのお礼だから~、誕生日プレゼントだと思って受け取ってね~。それと、くれぐれもあの時の事は秘密よ~」
俺は六道会長から小切手を渡される。
どうやら、稲田姫の試練の時の娘さんの式神暴走の事は内密にという事なのだろう。
娘が大規模霊災級の事故を起こして、一般人が死にかけましたとか洒落にならない。
このお礼は口止め料という意味合いもあるのだろう。
「……さ、流石にこれは受け取れませんよ」
額を見て俺は大きく目を見開く。
去年、土御門家から貰ったお礼の借金の肩代わりしてもらった同額の金額がそこに書かれていた。
「いいのよ~。女の子の方は比企谷君のお陰で助かったんだし~、それにね~」
六道会長は笑顔だがその言葉と共に何だか分からない圧力を感じる。
「わかりました。ありがたく頂きます」
これは断れない類のものだ。
やはり口止め料の意味合いが強いようだ。
流石に両親にも小町にも言えないな。
大人しく貯金に回そう。
「それと~、比企谷君は冥子の暴走で無傷だったのよね~、一般の女の子も一緒だったのに~、助けに入った六道の霊能者は這う這うの体だったのに~凄いわ~」
「いえ、暴走の中心には居ませんでしたので運よく助かりました」
「一応~、比企谷君の動きはコースに結界を張ってたから把握してたのよ~。暴走した冥子から意図的に一定の距離をおいていたわ~、それに何度か暴走中の式神の攻撃はかすめたはずなのに、無傷なんて~、本当に凄いわ~」
「俺は霊視が得意なんで、あれだけの霊力暴走でしたし、分かりやすかっただけです」
「それだけじゃないでしょ~?美智恵ちゃんは教えてくれないけど~、比企谷君は~何かの特殊能力持ちなのかしら~」
「いえ、特殊能力は無いです。霊視能力の強化や改良はしてますが」
そう、俺は特殊能力持ちじゃない。
特殊能力とは横島師匠でいうと文珠、キヌさんでいうと死者を操るネクロマンサーと言ったものだ。
美神さんは俺が知る限り、特殊能力は持ってない。
確かに俺に限定的なシャドウは発動できるが、あれは特殊能力といった類のものじゃない。
本当にシャドウを操る事が出来る能力者は俺の様な中途半端な発動な仕方はしない。
俺のものは飽くまでも霊視能力の延長線上にあり、偶然の産物のような物だ。
「そうなの~?……唐巣くんが努力型って言ってたし~、防御寄りのオールラウンダーって、そうなのね~、あの美智恵ちゃんが入れ込むわけだわ~」
六道会長はブツブツと何か呟いていた。
「あの、何を?」
「比企谷君、家に遊びに来なさいな~、冥子も来てほしいわよね~」
「お母さま~?……比企谷く~んだったら、怖くないし~、大丈夫よ~」
「いや、ちょっと待ってく……」
俺は言葉を発しようとすると、六道会長の目が一瞬鋭くなった。。
「決まりね~」
何が何だか分からない内に六道家に行くことが強制的に決まってしまった。
六道親子が帰った後。
「お兄ちゃん!物凄いお金持ちそうだったね!お兄ちゃんはいつ婿に行くの!?」
小町は何故かやたらテンションが高かかった。
「……冗談でも勘弁してくれ」
とまあ、こんな事があったのだ。
今は六道親子の事は置いといて、目下悩みの種は二つだ。
一色は俺に告白までして好意をよせてくれているという事実。
何故か俺に懐く留美とそのじいさんが婿にすると言い張る問題だ。
この事を小竜姫様に聞いてもらったのだ。
後編と続く。
八幡恋人チキンレース。現段階で誰が優勢?
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雪ノ下雪乃
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由比ヶ浜結衣
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雪ノ下陽乃
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一色いろは
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川崎沙希
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折本かおり
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鶴見留美
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平塚静
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六道冥子