やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

これで夏休み編は終了です。



(147)三度(みたび)妙神山、後編

小竜姫様に今抱えてる悩みを聞いてもらうことに……。

そう言えば、妙神山に修行に行く度に小竜姫様に相談に乗ってもらってるな。

小竜姫様のあの凛とした佇まいの前では、何故か素直に悩みを打ち明けてしまう。

やはり、天界の女神様だと言う事なのだろう。

 

俺の悩みとは、一色と留美の事だ。

一色に好きだと告白され、俺は混乱するばかりで、彼奴に何も答えてやる事が出来なかった。

由比ヶ浜と雪ノ下の告白の時とは全く違った衝撃を受ける。

一色はずっと葉山の事が好きで、狙っている物だと思っていたからだ。

実際に去年のクリスマス前に、葉山に告白までしたのだ。

結果、振られはしたが、年始もバレンタインの時も葉山を落とす作戦をめげずに練っていた。

その後も葉山を落とすためにあれこれと動いていたはずだ。

何故、ここで俺に告白なんてマネを?

葉山はイケメンで性格もいい奴だ。勉強もスポーツも万能、学校一の人気者で男女共に憧れの的だ。

片や俺は学校一の嫌われ者で、性格はこの通りひん曲がっている。勉強はそこそこ自信があるが、それでさえ学年順位で葉山に負けている。俺が葉山に勝ってるところなんて一つもない。

それなのに、何故俺なんだ?

いや、そうじゃない。

そんなことで思考を回したとしても、永遠に答えが出ないループにハマるだけだ。

一色が俺に好意を寄せてくれてると言う事実は変わらない。

俺は一色の好意にどう応えればいいのか、そこが問題だ。

 

留美については、俺への弟子入りの件だ。

美神さんがノリノリの時点で半分諦めはしたが、やはり今の中途半端な俺では荷が重い。

俺自身神道系の霊能者ではない上に、俺はポッとでの後発の霊能者だ。

霊能者として過ごしてきた時間も経験も浅い。

津留見神道流の伝統を脈々と受け継いだ霊能者である留美を教えるなどおこがましいにも程がある。それに留美自身も才能に恵まれている。俺では不足もいいところだ。

俺が留美の師匠になる事で、その才能の芽を摘んでしまうかもしれない。

それとは別に、何だか鶴見家への婿入りとか、変な話にもなっている。

ちゃんと否定しているのだが、何故か留美の祖父さんまでノリノリで、不安要素しかない。

 

この事を、小竜姫様に包み隠さず、俺自身の心情も含めて聞いていただいた。

 

 

「やはり、比企谷さんは横島さんの弟子という事ですね。性格は全く異なるのに、師弟揃って抱えてる問題がこれ程同じとは、違いと言えば自覚の差ですか……」

俺の話を聞いてくれた小竜姫様は俺にそう答えて、顎に指を当て少々考え込むような仕草をされる。

そんな姿もどこか神々しく、また美しくも見える。

 

「師匠と同じですか……」

 

「そうですね。横島さんの事は今は置いておきましょう。先ずは一色さんの件ですが、正直言いまして、良い答えを私は持ち合わせてません」

 

「そ、そうなんですか」

小竜姫様でも難しい問題という事か。

 

「正確には答えがもう出ていると」

 

「どういうことですか?」

 

「一色さんという方は中々したたかな方のようですね。もちろんいい意味です。今の比企谷さんに告白の返答を求めてないという仰りようは、自分が比企谷さんにとっては恋愛対象外であると理解した上での事だったのでしょう。今答えを求めてもあなたから断られると分かっていたがために、即返事を求めなかった。その事で比企谷さんにアピールし好きになってもらうための時間的猶予を得たのです。普段から余程あなたの事を見て来たのでしょう。あなたの性格や今の心情を正確に把握されているようです」

 

「…そ、そうですか」

確かに俺の悩みどころはそこだ。

一色が返答を求めてなかったところだ。

俺は一色に告白の即返答を求められたのなら、まあ、しどろもどろにはなるだろうが、断っていただろう。

恋愛の対象とは見ていなかった。

一色は近すぎたのかもしれない。

同じ近しい存在であるはずの雪ノ下と由比ヶ浜に対しては、恋愛感情の意識は常に脳裏の片隅には有った。

あいつらが俺の事が好きになるはずが無いという思いと共にだが。

二人の場合は同級生であり部活仲間であり、二人に対しては対等な立場でいたいと常日頃から思っていたのだと思う。

だが、一色の場合は対等な立場として見ていなかった。

確かに一色のあざと可愛い仕草でドキッとすることはあるが、彼奴は俺にとって面倒を見ないといけない存在であり、どちらかというと小町と同じような、妹的な感覚で見ていたのだと今更ながら思う。

 

「あなたは一色さんを妹さんに近い感覚で見られていたと感じます。ですが、これからの彼女はその殻を破りに来ます、あなたに女性として見てもらう努力をされるでしょう」

 

「確かに一色を小町に近い感覚で接していたきらいがあります」

 

「それと一見、一色さんの攻勢のように見えますが、基本的には主導権は比企谷さんに有ります。貴方は一色さんに対していつでも了承とも拒否とも返事ができる立場です」

 

「確かにそうですが……」

 

「貴方の中ではもう半分は答えが出ているのではないですか?」

小竜姫様は俺に首を傾げながらニコっとした笑顔を向ける。

確かに俺の中で答えが出ているが、迷いがある。

 

「……俺は由比ヶ浜と雪ノ下と雪ノ下さんとの告白の返答期限まで、一色への返事もその時まで先送りにすべきかなのかと、拒否するならば早い方が良いとは思うのですが…」

現段階では俺の中で一色が恋人の対象として見る事が出来ない。

そうかといって、先延ばししてもそれが変わるとも今の俺には思えない。

ならば、早めに振るのは一色の為にもなる。

だが、一色は今の俺に返事を求めていないのだ。

それが俺の悩みの根本だった。

 

「一色さんはその事ももしかしたら知っていて、あのような言い回しをし、貴方に直ぐに答えを求めなかったのかもしれません。ならば、彼女が望む通り先送りで良いのではありませんか?その事で貴方が悩む必要はないと思います。彼女自身が選んだ選択ですから」

小竜姫様は一色の考えだけでなく、俺の心情も正確に汲み取られていた。

 

 

「そう…ですか」

 

「はい、彼女は自分自身後悔しない様にと、そう選択したはずです。何度も言いますが貴方が悩む必要はありません」

 

「そうします。…小竜姫様に聞いていただいて、閊えていた物が取れた思いです」

俺は答えを出していたがそれに迷いがあった。本当にそれでいいのかと。

だから誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

やはり小竜姫様に俺は出会えて、本当に良かった。

こんな事を、他の誰にも言えない。

 

 

「後はもう一つですね。弟子の件については、もう美神さんが関わった時点で避けられませんね」

小竜姫様は次に留美の件について、苦笑気味に答えてくれる。

 

「……そうですか」

やはり美神さんが関わった時点で小竜姫様でもダメなのか。

美神さんは悪魔もへっちゃらで騙す様な人だし、神様に対しても同じなのかもしれない。

 

「美神さんの件はさておきです。弟子を持つ件について私は賛成です。いい機会です。弟子を持つという事は自身をも鍛える事が出来ます。あなた自身の成長にも繋がります。横島さんも比企谷さんを弟子に取ってからは、いい意味で成長されました」

 

「……俺にはまだ弟子を取るだけの経験も知識も強さもありません。留美には才能があるんです。その才能の芽を潰してしまわないかと」

 

「はっきり言いましてそれは貴方の甘えです。その才能を潰さない様に師匠として努力するべきなのです」

 

「……師匠として努力ですか」

 

「横島さんは貴方を弟子に迎えた際、霊能者として一から基礎をここでやり直してきました。貴方に教えるために……横島さんの場合、霊能者として覚醒されてから基礎を飛ばしほぼ実戦で成長されたので、基礎を行っていませんでしたから」

 

「そうなんですか?」

意外だった横島師匠が基礎を行った事がなかったなんて、俺にはとてもそうには見えなかった。

俺は横島師匠から霊気や霊力の扱いを基礎から懇切丁寧にそれこそ手取り足取り教わったからだ。

師匠は俺の為に、影でそんな事を……。

というよりも、横島師匠って基礎無しでも強かったのかよ。

しかもほぼ実戦で成長って、どんだけハードなんだ?やはり美神さんのせいか、師匠が美神さんだからか。きっとそうだ。あの人、千尋の谷にへっちゃらで他人を突き落とすからな。

 

「そうです。そのおかげで、横島さんは霊能の扱いの造詣も深くなり更なる成長へ、貴方を弟子に取る事で、弟子の貴方と共に師匠である横島さんも成長されました。師は弟子によく教え、また師も弟子によって教えられるのです。それは師弟としてのあるべき姿です」

 

「……そういうものですか」

もしかすると俺は逃げていたのかもしれない。

俺は横島師匠の様に師匠としてやっていける自信がなかったからだ。

弟子と共に成長していくか……。

 

「婿の件はさて置き、弟子を取る事は貴方にとって有意義となるでしょう」

 

「……わかりました」

 

「婿の件は貴方自身すでに否定されてますし、とりあえずは問題が無いと思います」

 

「そうですか」

留美の件はどうにかなるか、横島師匠と一番弟子のシロの関係を見れば大丈夫だろう。

シロは横島師匠の事が大好きだが、恋愛って感じは全くしない。

それは親子や兄妹などの家族愛のそれだ。

留美も一人っ子の様だし、俺を兄貴って感じで見ているのだろう。

問題は祖父の源蔵さんか……。

これもちゃんと説得すればなんとかなるか。

 

「比企谷さんには重圧になるかもしれませんが一つ言っておきます。師弟や姉弟弟子の絆という物は時として親子や伴侶よりも絆が強くなるものです」

横島師匠と小竜姫様の関係はなんというか、傍から見れば新婚夫婦の様な関係にも見える。ただ、実際に横島師匠と小竜姫様が恋人関係でも伴侶でもない事は一緒に過ごして分かっている。

横島師匠曰く、小竜姫様も斉天大聖老師様も家族みたいなものだと……。

それに横島師匠にとっては美神さんもキヌさんもシロもタマモもきっと家族の様なものなのだろう。

俺にとって横島師匠も同じなのかもしれない。

俺も留美を弟子に取るという事は、分かってはいたがそこまでの覚悟が必要だという事だ。

 

「それに……留美さんは幼くとも女なのです。それはゆめゆめ忘れてはいけません」

 

「それはどういう意味ですか?」

留美は5つ下のまだ12、3歳の少女だが女性だ。

その事も留意しながら、修行をつけろという意味だろうか?

 

「そうですね。今の貴方にはまだ秘密です」

小竜姫様は楽し気な笑みを浮かべていた。

 

何方にしろ、小竜姫様に話しを聞いてもらい、留美の弟子の件も吹っ切れた様な気がする。

一色の件も留美の件も、俺の中で纏まりつつあった。

 

やはり、小竜姫様は天界の女神様だ。

今回も俺を導いてくれた。

 

 

この後、案の定温泉では……。

 

「ロリコンっすかーーーーっ!?いやーーーーっ流石の俺も読めなかったな~~」

やはり横島師匠は小竜姫様と俺との会話を盗み聞きしていたようだ。

 

「師匠にも話しましたよね。留美の弟子の件は……」

 

「うはははははっ、現代の光源氏っすか!?流石に引くわーーーっ!」

何が楽しいんだか、この師匠は!なんだか腹が立つ。

 

「そういう師匠はどうなんですかね。見た目は俺と変らないですが、今のシロって実年齢は留美と変らないじゃないんですか?という事はシロを弟子にした当時って、もっと幼かったという事ですよね」

俺はそう言って師匠に反撃をする。

 

「!!…は、裸を見たとか、どどどどどっドキドキなんてしてないぞ八幡!!ドキドキなんて!!ろ、ロリコンじゃないからな!!!!」

横島師匠は急におかしな感じに。

 

「…………」

俺は師匠をジトっとした目で見る。

当時のシロの裸見てドキドキしたんだ。まあ、俺が会った当初から結構スタイルはよかったからなシロの奴。

仕方がないって言えば仕方がないような気もする。実年齢を知らなきゃな。

 

「違うんや!!!あれはあれで!!!!違うんやーーーーっ!!!仕方がなかったんやーーーーっ!!!そんな目で見ないでーーーーっ!!!」

温泉の岩場にガンガン額を打ち付け血をドクドク流しながら、俺に訴えかける。

横島師匠にとって一種のトラウマなのだろう。

 

「まあ、そう言う事にしておきます」

 

「はちまーーーん!!ち、違うからな、本当に違うんや――――っ!!」

横島師匠は俺に涙をまき散らしながら、縋りついてくる。

 

「わかりましたって、ふぅ」

 

 

 

「八幡が弟子か……師匠なんていっても、俺だって最初はシロには師匠らしい事はあまり出来なかったし、そのうち何とかなるって」

落ち着いたところで、師匠は額から流れた血を手で拭いながら、温泉に肩までつかり、俺に語ってくれる。

 

「そんなもんですか?」

 

「そんなもんだ」

 

「………」

 

「……しかしゲーム猿のクソ猿師匠!!マジで死ぬぞ!!俺は人間だってのに!!昨日なんてな………!?」

横島師匠は思い出したかのように、斉天大聖老師の愚痴を口にする。

 

 

何時の間にやら温泉の湯けむりの向こうに小さな人影が。

「ふむ、横島よ。語る様になったのう」

いや……武神斉天大聖老師がそこにいた。

 

「し、師匠何時から……」

横島師匠は全身に脂汗を吹かせて、斉天大聖老師に聞く。

 

「ふむ、ロリコンがどうのこうのとな」

最初から居たのか、全く気配が無かったんだが……

 

「……わ、忘れてください」

 

「それはいいじゃろう。時に横島、クソ猿とは誰のことじゃ?」

 

「な、何のことやら?お師匠様今日も立派な毛並みで、お酒でも一杯」

横島師匠は急にへらへらした顔で媚びへつらい、何処から出したか分からないが、酒を手に斉天大聖老師につごうとする。

なるほど、逃げずに懐柔に出たのか師匠は。

 

「ほう、気がきくな………ところで横島、わしもお主の話を聞いて反省しておる、わしもお主に師匠らしい事は出来ておらなんだ」

 

「それは……どういうことでせう?」

横島師匠は斉天大聖老師の言葉に、さらに汗が吹き出し震えだす。

 

「すまなんだのう。お主の修行はまだぬるすぎたようじゃ、のう横島?もっと苛烈にいかんと!」

斉天大聖老師はそう言って巨大猿に変化し横島師匠の前に立ちはだかる。

 

「いいいいやーーーーーーーーっ!!堪忍やーーーーーーーっ!!!!」

 

その後は横島師匠の修行と言う名の地獄が始まった。

そりゃ、人間やめる程強くなるわけだ。

アレで死なない師匠が凄いのか、師匠が死なない程度の絶妙な攻撃を繰り出す斉天大聖老師が凄いのやら……。

 

 

俺の妙神山での修行は順調に進んでいく。

一応斉天大聖老師から少々手ほどきを受けたが、一方的に吹き飛ばされただけだった。

小竜姫様からは色々と修行の手伝いをして頂き、基礎能力も随分上がった。

霊視空間結界やダーク・クラウド、霊波刀などもパワーアップ。

新たな術も身につける事が出来た。

 

 

皆を守れるぐらいの力は付いたのだろうか?

もう、小町やあいつ等の恐怖で濡れる泣き顔は二度と見たくはない。

 




次回から二学期編です。

八幡恋人チキンレース。現段階で誰が優勢?

  • 雪ノ下雪乃
  • 由比ヶ浜結衣
  • 雪ノ下陽乃
  • 一色いろは
  • 川崎沙希
  • 折本かおり
  • 鶴見留美
  • 平塚静
  • 六道冥子

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