やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
ようやく書けました。
とある依頼で、美神さんとキヌさんと俺の三人で栃木県山間部に位置する大型リゾート施設建設予定の丘陵地の工事現場で霊障解決に乗り出した。
大型リゾート建設予定地はゴルフ場跡地を中心とした広大な土地で、重機が動かなくなったり、獣のうめき声の様なものが聞こえたりと、どうやら本格的な霊障のようだ。
ゴルフ場跡地から近隣を調査したのだが、霊障の類の形跡すら見当たらず、ほんの直ぐ近くの集落へ聞き込みを行おうとしたのだが、その集落には人っ子一人居なかった。
廃村とかじゃない。
見るからに極最近まで人々が生活していたような感じだ。
「美神さん……人が何処にも居ませんね。皆でどこかにでかけたのでしょうか?」
「おキヌちゃん、それにしてもおかしいわ。車もあるし、洗濯物も干したままよ」
「事件か事故に巻き込まれたとか……」
「争った跡とかもないわ。まるで突然人が消えたかのようね。…比企谷君、霊視で何か見える?」
「いえ、特に不穏な霊気の残滓は見えませんが……少々地場の霊気の乱れを感じます」
集落は生活感がありありと見えるような状況だった。
それなのに人が1人もいない。
美神さんが言う通り、突然人々が消えたかのように。
だが、俺は違和感を感じる。
この土地に漂う微細な霊気、普段は空気と一緒で穏やかに空間を満たしている。
俺達霊能者が霊力を使用して色々な術を使うと、地場を満たしている微細な霊気も大なり小なり影響を受け、流れを起したりする。
術によっては全く影響が出ない物もあるし、地脈の影響や天候などの自然現象によって場の霊気が乱れたりすることもあるから、地場の霊気の乱れだけでは何とも言えないが。
「確かにそうですね。霊圧も若干低い様に思います」
キヌさんも俺と同じように感じているようだ。
「………おキヌちゃん、比企谷君、戻るわよ。嫌な予感がするわ」
美神さんは思案しながら集落の様子を見渡し、ゴルフ場跡地に戻る様に促す。
確かにこの状況、何かが起きていそうだ。
しかもやばめな感じだ。
俺達は集落を後にして、芝が伸び放題のゴルフコースの脇道を歩いていると、突如として強い霊気を感じ、美神さんに急いで伝える。
「美神さん!北の上空から霊圧!…なんだ?霊気の集合体?……これは?」
霊気を感じる北の空を見上げると巨大な何かが3体、翼をはためかせながら俺達に迫ってきているのが見える。
まだ、遠目だが5m程の大きさの鳥の様なシルエットが見える。
だがおかしい、その巨大な怪鳥からは多数の異なる霊気を感じる。
どういうことだ?
この霊気は……?
「ようやくお出ましってわけね。戦闘態勢よ」
美神さんは上空の怪鳥を見据え戦闘態勢に入る。
俺は背負ってるリュックサックから霊体ボウガンの二丁取り出し、一丁を美神さんに銀の矢や特殊破魔矢など数種類の矢と共に渡す。
霊体ボウガンの射程距離100mまで怪鳥が迫って来る。
俺は霊体ボウガンで怪鳥に狙いを定めたのだが、その怪鳥の全貌に驚きを隠せない。
一言で言えば最悪に醜悪な化け物だ。趣味が悪いどころの話じゃない。
確かにシルエットは巨大な鷹のような姿だったが、羽毛などない。
その翼には人の手が羽のように多数生え、鳥足は人の足で体は人肌、顔や目なども人の部位の寄せ集めだ。
こんな化け物は始めてだ。
もしかするとこれは……
「美神さん!!あれは!?」
俺は思わず美神さんに叫んでいた。
「比企谷君、落ち着きなさい!倒せない相手じゃないわ。破魔矢に霊体干渉術式を乗せなさい」
美神さんは驚く俺に指示をだしながら、その醜悪な空飛ぶ化け物を霊体ボウガンで自らの霊力を乗せた破魔矢で撃ち貫く。
破魔矢で貫かれた化け物は霊力放電を起し墜落。
俺は美神さんの叱咤で、落ち着きを取り戻し霊体ボウガンに装填していた破魔矢に言霊で霊体干渉系の術式を展開させ、もう一体の化け物に放つ。
霊体干渉系の術式は悪霊や幽霊などに有効な霊体浄化術式の一種だが、複数の悪霊の集合体で霊体を構成される相手に対して特に有効な術式だ。
霊体が持つ情報に霊気干渉を起し、霊体を維持できなくする。
術式の使い方によっては、悪霊や幽霊を消滅させずに拘束できる代物だ。
しかし、肉体を持つ魔獣や妖怪の類には効果的ではない。
この化け物は見た目の醜悪さは別にして、肉体を持った化け物だ。
本来、霊体干渉系の術式は有効じゃないハズだが、俺は美神さんの指示通り、霊体干渉系術式を乗せた破魔矢で醜悪な空飛ぶ化け物を迷いなく討ち貫く。
美神さんがわざわざ俺にこんな指示を出すという事は必ず理由があるはずだ。
それに俺はこの化け物の悍ましい姿に見覚えは無いが、此奴の正体に思い当たりがある。
俺は化け物の一体に立て続けに三発破魔矢を命中させて、霊力放電を起させ撃墜。
美神さんは既にもう一体の化け物も撃墜させていた。
これで三体の化け物は地面に転がり、霊力放電を起こしたまま苦しそうに蠢いていた。
キヌさんは撃墜した化け物に駆け寄ろうとする。
そのキヌさんの顔は悲しみに満ち溢れていた。
「おキヌちゃんもう手遅れよ!だからもういいの!後は私が殺るわ!」
美神さんはそう言って、蠢く化け物たちに一気に駆け寄り神通棍を鞭のような形状に変形させ、化け物たちに振り下ろし、容赦なく止めを刺す。
俺も神通棍を片手に美神さんを手伝おうとするが、既に化け物共は息が絶えていた。
「美神さん……この化け物は」
「あんたが思ってるとおりよ。そうキメラ、人間を使ったキメラよ。人間だったなれの果て」
美神さんは淡々と俺にそう語る。
俺の予想通りだった。
キメラ、人工的に魔獣などを複数掛け合わせた化け物。
しかも人間を使ったキメラだ。
一体の化け物から多数の霊気を感じた、それも人間によく似た霊気を。そして人間の部位で形成されたこの悍ましい姿。
美神さんが選択した霊体干渉系術式は肉体だけでなく魂や霊気すらも取り込み合成したキメラには有効だからだ。
その事から、俺もこの化け物がキメラ、しかも人間を取り込んだキメラだと予想していた。
「夏休み前の神奈川の高校のテロと同じですか」
俺は思わずキメラの死骸、いいや、人の成れの果てに手を合わせていた。
こんな死に方なんてあっていいのか?
人としての生を全うできずに、こんな姿に……もし、総武高校でこんな事が起きたら、小町や雪ノ下や由比ヶ浜らがこんな目に遭ったのなら、俺は正気でいられるだろうか?
キヌさんも悲しみに満ちた表情のまま静かにキメラの死骸に手を合わせていた。
優しいキヌさんの事だ、神奈川の高校のテロの時、あんな化け物に取り込まれた姿を見れば、無茶でも助けようとしたのだろう。
キヌさん……。
「神奈川の高校は爬虫類系の魔獣をベースに即席で人間の姿のまま取り込んでいたわ。今回の奴は力は大した事は無かったけど、かなり精巧に錬成されているわね。ただ、出どころは同じと見ていいわ」
このキメラは鷹の様な姿をしていたが、人の部位毎に翼や足、体、顔や目も人だけを使って構成していた。
「同時多発霊災テロと同一犯ですか」
やはりそういう事なのだろう。
「そうね」
「近隣住民が居なくなったのも」
やつらはここで人間を使ったキメラの実験をしていたのかもしれない。
「十中八九これよ」
「…………」
くそっ、普通に生活していた人達をあんな化け物に……。
「おキヌちゃん、一応オカGに連絡しておいて」
「……美神さん」
「これからを考えなさい。これ以上犠牲者を増やしたくなかったら、これを仕出かした連中を叩けばいいのよ」
「はい……」
美神さんは未だ悲しみから抜け出せないキヌさんに指示を出し、叱咤激励をする。
「ようやく尻尾を掴んだわね。比企谷君、霊視でキメラが何処から来たかわかるわよね」
「今ならまだ追えると思います」
「ふふふふふふっ、わざわざキメラなんてものを出してきたのよ。これは私を誘ってるって事よね。いいじゃない。行ってやろうじゃない。もしかしないでもこの依頼、私を誘い出して罠にでもはめるつもりだったのかしら?なめられたものね!!しかも横島が居ないこのタイミングで!!私ならどうにかなるとでも思ってるのかしらね!!どこのどいつだか知らないけど!!この美神令子をなめ切ってるということよね!!!!!」
美神さんの怒りのボルテージがどんどん上がって行き、それに比例して霊力も一気に上昇、俺は美神さんのその怒りの形相と霊圧に怯まずにはいられない。
この前のオーク・ジェネラルよりもよっぽどこの人の方が怖いんですが……。
「み、美神さん。お、落ち着いて下さい」
「落ち着いてるわよ!ふふふふふっ、どんな目に遭わせてやろうか!!」
美神さんの目は血走り、額の血管がピクピクと。
もうだめだ、こうなった美神さんは誰にも止められない。
誰だ!この人怒らせたのは!!今すぐ出て来いよ!!
「比企谷いーい!!どんな手を使ってでも徹底的に潰すのよ!!この美神令子をなめ切った事を後悔させてやるわ!!」
美神さんの活躍がようやく。