やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
続きです。
一度、装備品や荷物を補充するためにプレハブ小屋に戻ってから、キメラが飛んできた方向
へ霊気の跡を霊視で追いながら山道を進む。
道中に人をベースにした3m程の犬の形をしたキメラに数度遭遇するが、全て撃退。
というか、怒り心頭の美神さんの容赦ない攻撃であっさり倒れて行く。
「キメラ達の霊気の形跡があの辺まで続いてますね」
しばらく進むと、山が人工的に半分削り取られているような場所が見えて来る。
脇には道路と、削り取られた斜面には大型トラックが通れるほどのトンネル、ちょっとした工場の様な建物、大型のブルトーザー等の重機も見える。
たぶん採石場だろう。
「ビンゴね」
美神さんも霊視ゴーグルを使い採石場の様子を伺う。
「美神さん、今の所近辺にはキメラや人の気配も無いです。人払い結界や防御結界の術式もありません」
これだけの規模の採石場なら人が居ない方がおかしい。
既に使われていない採石場ってことはない。
車の轍や重機なども最近動かした様な跡がある。
今日はたまたま社休日だったのかも知れないが、状況的にここがキメラに関する何らかの施設の可能性が高い。
だが、キメラ等を生成しているなんらかの霊的施設だとしたのなら、何らかの備えがあってもおかしくないが、今の所俺の霊視では霊的反応は見当たらない。
「他には?」
「トンネルの奥、地中深くにさっきのキメラと同じ霊的反応を探知しました」
俺は更に霊視を進めると、斜面にあるトンネルは地下深くへと続き、その奥にさっきのキメラどもと同じような霊的反応を感知した。
「ふん、私を誘ってるってわけね」
キメラを差し向けた連中が、美神さんが言う通り美神さんを狙っているのであれば、その可能性は十分にある。
ただ、俺はここで一つ疑問が浮かび上がる。
キメラを差し向けた奴は十中八九同時多発霊災テロを起こした連中の一味だ。
なぜ、美神さんを狙うんだ?
美神さんの実力や凶悪な性格を知っているのであれば、普通の神経の持ち主はこんな事はしないだろう。
いや、人を人とも思わない様な連中だ。頭のネジの数本吹っ飛んでるのだろう。
それか、美神さんの実力を知っても尚、自分たちの方が優位だと確信しているのか。
何方にしろ、きっとあのトンネルの奥には、美神さんを倒す方策や何らかの罠を張り巡らせているに違いない。
「美神さん、明らかに罠ですね。どうしますか?」
「ふふふふふっ、比企谷君。周りに人の気配はないのよね」
何故か美神さんは笑顔だが、その笑顔が怖い。
「霊視で確認しましたが近隣にはいないです。ただトンネルは地下に続いて結構な深さまで有りそうで、その奥には犯人や人が居る可能性がありますよ」
「ふふふふふっ、という事は奴らの関係者だけってことよね」
美神さんは笑顔で、やっぱりその笑顔は怖い。
「そう言うことになりますね」
「比企谷君、トンネルの入り口にC4をセットして山ごと爆破するわよ」
「……ちょ、流石にそれはまずいのでは?犯人死んじゃうんですが?捕まえなくていいんですか?」
気持ちは分からないでもないし、あんな鬼畜な所業を行った連中だし、死んでも致し方が無いが、同時多発霊災テロの全容解明のためにも捕まえて吐かさないと。
「ああ云う連中は薄暗いジメジメした地下が大好きなのよ。きっと地下にでもキメラ合成とか、人を取り込む魔獣型のキメラとかそんな化け物を錬成する研究所とか施設があるのよ。それに奴らだって、他に逃げ道ぐらい作ってるはずよ。奥の山に煙突みたいなのが見えるでしょ、きっとそこにも出入口があるはずよ」
「片方の出入口を塞いで逃げ道を無くしてから、もう一方の出入口から攻めるんですね」
成る程、こっちは三人しかいないから、片方の出入口を塞いで逃げ道を無くして、逃げられないようにしてから、もう片方の入口から犯人を捕まえに行くってことか、流石は美神さんだ、場慣れしてる。
「甘いわね。奴らが慌ててもう一方の出入口から逃げて来たところを、携行型ミサイルランチャーをぶっ放すのよ」
美神さんはニヤっと悪そうな笑顔を浮かべる。
やっぱり切れてる。敵を有無も言わさずに殲滅するつもりだ。
なぜ携行型ミサイルランチャーなんてあるの?とか、どこから高性能爆薬を持ってきたの?とか疑問に思ってはいけない。何故かうちの事務所の倉庫には普通に重火器保管庫存在し、映画によく出るような重マシンガンとかスナイパーライフルとか普通にある。
一応、それぞれの名目は対魔獣用霊能重火器ということで正式登録品となってる。
確かに大型魔獣などはこれらの重火器に、銀の弾丸や呪符や術式を込めた弾丸や炸裂弾を使って除霊や対峙することは実際にあるが、どう見ても術式や霊気が通っていない弾薬とか普通の軍用重火器がタンマリある。
今さら言及してもどうしようもない事だが……美神さんだし。
だが、俺はこれだけでは驚きはしない。
美神さんの事だからどこかにミサイル基地や核弾頭を持ってるかもしれないと疑ってるぐらいだ。
「み、美神さん?流石にそれはまずいのでは?」
実弾で殺っちゃったら、普通に犯罪なんじゃ?
同時多発霊災テロの犯人は人間であるとオカGも見解を出してるし。
どっちが悪党なのかわからないんですが?
こっちも命が掛かってる事だし、戦闘の末死んじゃったら仕方がないかもしれないが、だからって最初っから殺しちゃう前提はどうかと。
「……美神さん、何故こんなひどい事が出来てしまうのか、何か理由があるのか話を聞かないと」
キヌさんはそんな美神さんに悲し気に訴えかける。
「いーい、おキヌちゃん。あいつらは凶悪犯罪者かその片棒担いでる連中よ。あっちはやる気まんまんなのよ。そんな連中に躊躇するいわれはないわ。それに霊能に関わった極悪人に容赦なんて言葉はいらないわ」
「…………でも」
「おキヌちゃんやる気がないなら。あんたはここで待機してなさい」
美神さんはキヌさんに厳しめな言葉を投げる。
キヌさんは優しすぎる。
美神さんの言動は行き過ぎのきらいはあるが、きっと正しいのは美神さんなのだろう。
だが……、
「あの美神さん、ちょっといいですか?やっぱり犯人は確保した方がいいのでは?同時多発霊災テロの犯人の確保や証拠を押収すれば、オカGからも結構な報奨金が貰えるだろうし、この分だと依頼料も釣り上げる事も出来て、二重取りできるんじゃないですか?それに犯人を証拠ごと消滅させましたとか、後で美智恵さんに何を言われるかわかったもんじゃないですよ」
俺は仲裁というか、美神さんの説得にかかる。
犯人を捕縛し証拠を押収できれば、同時多発霊災テロの全容把握することができるかもしれない。
そうすれば解決もそれだけ早くなる。
この場はできるだけ証拠を押さえたい。
「それもそうね。オカGに連絡しちゃったし、致し方が無いわね。そんじゃ、犯人にどんな地獄を見せてやろうかしら?この美神令子を狙った落とし前だけはつけさせてもらうわ」
金の話になると美神さんはあっさり説得に応じてくれる。
やっぱり美神さんは美神さんだ。
だが、犯人にとって死ぬのと美神さんに地獄を見せられるのとどっちの方がいいのだろうか?
こうして作戦の打ち合わせを手短に済ませ、犯人確保に動き出す。
俺は一つ向こうの山の煙突がある場所に向かうと、美神さんの予想通り煙突は地下深くまで続く吸排気口となっていて、その横に人が通れる階段があった。
監視カメラとかもあったが、俺の霊視空間把握能力で監視カメラや各種センサーの位置を確認しつつ、見つからない様にこそっと霊的トラップを複数しかける。
俺が煙突側での仕込みを終わらせた後、美神さんとキヌさん、俺達3人は堂々と採石場のトンネルから地下へゆっくりと進む。
ゆっくり進むのには訳がある。
罠を警戒という事ももちろんあるが、俺が霊視で内部構造を把握する時間を稼ぐ意味合いもあった。
勿論、トンネルにも監視カメラはあり、犯人も美神さんがここに現れた事を見ているだろう。
堂々と歩むことにより、煙突側も意識から外れる事だろう。
しかし、トンネルを歩む道中には罠などは無かった。
しばらくすると広々とした洞窟の空間が現れ、トラックや車が何台か止まっていた。
荷物などが置かれ、目の前には大きなエレベーターが備え付けられている。
ここは搬入作業を行う倉庫なのだろう。
この場所からさらに下方を見渡すと、大きな大穴が地下に向かって伸びている。
大穴の周りには怪しげな機器や檻、水槽などが置かれてる施設が多数ある。
ここがキメラの研究施設かなんかなのだろう。
しかしなんだ?これだけの研究施設の割に人の気配が薄い。
キメラや魔獣の気配は感じるが、霊視で生きた人の霊気はたった一人だ。
しかしこれはどういうことだ?
既に危険を察知して一人以外逃がした?
いや、トンネルからは俺達が進んでいたし、煙突裏口は霊的トラップを仕掛けてある。
トラップに引っかかれば反応があるはず。
いや、俺達がここに来るまでに逃がしたのかもしれない。
「さあ、来てやったわよ!!姿を現しなさい!!」
美神さんは堂々と大声で叫ぶ。
すると前方の大きなエレベーターが動き出し、しばらくするとその重々しい扉が左右に開く。
「いひひひひひっ、久しぶりじゃのう美神令子」
エレベーターから小柄な白髪で白衣姿の老人が現れる。
片目にスコープレンズの様な義眼を嵌め、見るからにマッドサイエンティストだと分かるような怪しげな風貌だ。
こいつがもしいい奴だったら、土下座して謝るまである。
その老人が卑屈そうな笑みを零し、美神さんに挨拶をしてきた。
こいつが人を使ったキメラを合成している奴か?
神奈川の高校に現れた奴は背の高いフードを被った男と資料にあった。
そいつは実行犯でこいつが研究者って事なのか?
しかも、美神さんと面識があるようだ。
「ふん、やっぱりあんただったのね。敷島博士」
美神さんは睨みつけながら返事を返す。
敷島博士って今美神さんは言わなかったか?
確か敷島博士はかつて日本における現代の霊能研究者の第一人者と呼ばれた人だ。
5年前に非人道的な研究に手を出して投獄され、4年前の世界同時多発大霊災でどさくさに紛れて行方不明になったとかいう、第一級霊能犯罪者だ。
なるほど、この人だったら、キメラを作れるかも知れないし、人を使ってあんなとんでもない事を平気で出来るかも知れない。
「いひひひひひっ、わざわざ来てもらって悪いの~」
「ふん、こんな事を出来るのはあんたしかいないと思ってたわ。でも余りにも精巧よね。あの時みたいに悪魔とでも契約して、禁呪にでも手をだしたのかしら?それに私に何か用かしら?」
「いひひひひひっ、わしは時間移動能力者のサンプルが欲しかったのじゃ、美智恵君は手ごわいのでのう。令子君、わしの実験材料になってもらうかのう」
敷島博士はとんでもない事を口走る。
まさか!?美神さんが時間移動能力者だと!?しかも美智恵さんまで……どういうことだ!?
正式に時間移動能力者は存在しないとされていたが実在していた?
俺はあまりの衝撃に言葉を失う。
確かに時間移動能力なんて物があれば、世界の理が壊れる可能性がある。
それに、そんなものが存在したのなら、いろんな国家レベルの組織に狙われかねない。
それこそ、魔族までも……。
それが美神さんと美智恵さんの親子が!?
「なんのことかしら?ジジイの耄碌に付き合ってられないわ。それに私をママより弱いなんて思ってる時点であんたはもう終わったわ」
美神さんは敷島博士の言葉に呆れたように言葉を返す。
違うのか?敷島博士の勘違いか?
「……美神さん」
美神さんの斜め後ろに控えていた俺は思わず前に出て、困惑気味に美神さんに声をかけてしまった。
すると、そんな俺に敷島博士は気づき、じっと見据えてから、片目を大きく見開き、さっきまでの怪しげなジジイ口調がどこに行ったのやら、こんな言葉をのたまいだす。
「あっ!?……あああっ!?アザゼル殿?その魔界の瘴気のような淀んだ目は間違いなくアザゼル殿!!なぜこんな所に!?」
「…………」
俺は敷島博士をジトっとした目で見返す。
…………
………
……
こいつは悪魔だ。
間違いない。
俺の目を見て大悪魔アザゼルと間違える奴は悪魔しかいないんだよ!
「美神さん、あれは悪魔です。間違いないです。今すぐ滅しましょう」
俺は先ほどの美神さん達の会話の内容など吹っ飛び、美神さんに真顔で思わず討伐を提案してしまった。
あんなド変態大悪魔と間違えるなどと、許さん!!
あの悪魔が次回登場w