やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
ようやく、この章も終わりが見えてきました。
美神さんが激闘の末、中級魔族プロフェッサー・ヌルを倒し土角結界で拘束し、決着が付いたと思っていたのだが、一息つく間もなく次なる脅威が迫って来る。
突如として上空に巨大な霊気が現れ、俺は驚きと共に咄嗟に身構えながら上空へと視線を向ける。
美神さんもその気配を察したのだろう、俺と同じく神通棍を構え、上空に顔を向けていた。
「困った。ヌルはまだ計画には必要なんだよ。返してもらえないかな?」
上空にはフードを深く被り灰色のマント姿の背の高い男が空に浮かんでいた。
俺はそいつを見ただけで、全身から流れる冷や汗が止まらない。
ちょっとまて!何だこいつは?霊視を行わなくても、ひしひしと伝わるこの圧倒的な霊圧はどういう事だ!?
プロフェッサー・ヌルどころの騒ぎじゃない!
ヤバい、ヤバすぎる!
「あんた誰よ?いきなり現れて失礼な奴ね。こいつは私が仕留めたのよ。この私から獲物を横取りするつもり?」
美神さんはこんなヤバ気な奴に向かって何時もの感じで堂々と言い放つ。
流石は美神さんだ。
「ふっ、すまないね。今は名乗るわけには行かなくてね。美神令子君」
「ふん、ヌルの今の仲間か上司ってところかしら?」
「上司というわけじゃないさ、ヌルとは志を共にする同士というところかな。だが、今回の事は詫びよう。ヌルが勝手に事を起こしてしまってね。君にはまだ手を出す段階では無かったのだよ」
「大規模霊災を起したお仲間ってわけね」
「そう言うことになるね。だから、ヌルは返してくれないかな?」
「はいそうですかって言うとでも思う?こいつの報奨金がいくらだと思ってるの?手放すわけないでしょ?それともあんたがその報奨金出してくれる?もちろん相場の5倍で!!」
美神さんは右手に神通棍を構えながらも、悪びれる様子もなくこんな事を堂々と言い放つ。
美神さん何言ってるんすか?仮にも霊災愉快犯の主犯格を金で引き渡そうとするとか。
まあ、会話を長引かせる事で相手の情報を少しでも引き出すためのブラフだとは思うけど。
………いいや、あの美神さんだぞ!大金が絡むと悪魔とも取引しかねない!
はっ、美神さんの目が¥¥になってるし!!
別の意味でやばい……。
「ふふふっ、残念だけど持ち合わせが無くてね。そんな事よりもやはりこちらの方が早いかな」
フードの男はおどけた様な言い回しでこんな事を言うが先か、凄まじい数の光の矢が上空から美神さんに向かって降り注ぐ。
攻撃!?なんて数だ。しかも予備動作なんてものは一切なかった。
いきなり奴の周りの空間から光の矢が現れたぞ!
俺とキヌさんは急いで防御結界を張ろうとするが、美神さんは其れよりも早く行動に移る。
美神さんはその場から素早く離れ、俺達から距離を取りながら、降り注ぐ光の矢を回避していく。
美神さんは自分だけが狙われていると知り、俺達が巻き込まれない様に俺達から離れたのだろう。
このフードの男はヌルの解放に拘っている。
だが、ヌルを封印した土角結界は術者の生体認証が無ければ解除は基本出来ない仕組みだ。
今回の場合術を発動させるために、美神さんは左手を大地にかざしていたため、左手を土角結界をコントロールを行う土の板にかざせば土角結界は解除される。
この場合術者の生死は問わず、左手さえ有れば解除可能なのだ。
だから、美神さんを真っ先に狙ったのだろう。
そして光の矢は次から次と無数に現れ、美神さんの回避が厳しくなる。
「「美神さん!!」」
思わず俺とキヌさんは美神さんの窮地に叫び、俺は美神さんをダーク・クラウドの限定的瞬間移動を利用して助けに入ろうとする。
「こっちはいい!」
美神さんは俺達が介入することが分かったのか、回避しながらも俺達に叫ぶ。
「精霊石よ!!」
だが、美神さんはその前に回避が追い付かないと判断し、精霊石を投げつけ強固な結界を周囲に張り、難を逃れる。
だが、強固なハズの精霊石による結界は光の矢が無数に突き刺さり、精霊石と共に砕け散った。
なんだこの威力は!?精霊石の結界をあっさり消滅させただと、俺やキヌさんが張った結界などひとたまりも無かっただろう。
それを見越して、美神さんは俺達から離れ、一人で対処しようとしたのか。
「ほう、この攻撃を防ぐとは、本気で当てるつもりはなかったとはいえ、なかなか」
「………くっ」
美神さんの表情は非常に厳しい。
当然だ。まるでレベルが違いすぎる!
此奴は本当に何者だ!?
俺はフードの男が攻撃の瞬間に解放した霊圧だけで押しつぶされそうだ。
俺は心臓の鼓動が早鐘の様に打ち、全身に冷たい汗が止め処なく流れる。
この感覚は恐怖か?茨木童子と対峙した時よりも絶望的な何かを感じる。
真面に戦える相手じゃない!
逃げる?いや、逃げ切る事も出来るか!?
まて、冷静にだ……冷静になれ、俺は一人じゃない。美神さんもキヌさんもここには居る。
「これで分かってくれたかい?僕はね。この場で君たちを殲滅した後にヌルを回収することだって出来るのさ」
一息ついて、フードの男は軽い感じで美神さんや俺達に向かって忠告をする。
「………だが、あんたはそれをしない。私達を殺せない理由があるんじゃなくて?」
美神さんは油断なく上空のフードの男を見据えながら言葉を返す。
その声色は焦りや恐怖などは感じない、何時もの通りだ。
俺はそんな美神さんの声に幾分か冷静さを取り戻し、冷や汗も引いて行く。
確かにそうだ。こんな回りくどい交渉などをせずに俺達を一気に倒して、美神さんの左手を残してさえいれば、ヌルの結界を解除できるはずだ。
「ふふふふっ、良い勘している」
どうやら美神さんが言った事は図星のようだ。
という事は何らかの制約があるという事か?
現世に現れるための制約として人間を殺せないとか、そう言うたぐいのものなのかもしれない。
これ程の霊圧だ。大悪魔や魔神なのかもしれない。
いや、この霊気の気配は、悪魔や魔族とは異なる。
むしろ……。
「だが、それじゃ半分だよ」
フードの男はそう言つつ、俺とキヌさんの方へ凄まじいスピードで飛び込んで来る。
俺は咄嗟に防御態勢をとる。
後ろにはキヌさんがいるし避けるという選択肢はない。
それになまじ避けたとしても間に合わないだろう。
フードの男は勢いのまま俺に蹴りを入れてくる。
「ぐっ!」
俺はその蹴りを喰らい、斜め後ろに吹っ飛ぶ。
「比企谷君!!」
「比企谷!!」
キヌさんと美神さんの叫び声が聞こえる。
俺は吹き飛びはしたが、奴の蹴りの直前にサイキックソーサー三枚を少しずつ角度を付けて展開し、攻撃をいなし、直接ダメージは何とか回避させた。
それでも完全には威力を削ぐ事は出来ずに吹き飛んだ。
斉天大聖老師の修行を受けてなかったらヤバかった。
修行といっても、斉天大聖老師の攻撃を受けて、吹っ飛んでぶっ倒れるだけなんだが……。
最初の頃は気絶してお終いだったが、最終的には何とか意識を保ち、立ち上がる事が出来る程度にまでにはなった。
それでも斉天大聖老師は相当手加減していたのだろう。
フードの男の攻撃はかなり威力があったが、斉天大聖老師の攻撃に比べれば、まだ対応できる範囲だ。
そう思った瞬間、俺は完全に冷静さを取り戻した。
此奴の霊圧がいくら凄まじいからって、斉天大聖老師ほどじゃない。
俺は吹き飛びつつも、空中で姿勢を立て直す。
フードの男は吹っ飛んだ俺に目をくれずに、キヌさんに迫り、キヌさんに向け手の平を掲げる。
「彼女は預かるよ」
キヌさんを捕らえるつもりか。
人質にしてヌルと交換するつもりだろうが……
「おキヌちゃん!!」
美神さんの悲壮な叫び声……
「やらせるかよ!」
俺は空中で姿勢を立て直し着地しながら、霊視空間結界を最大範囲に広げダーククラウドを出現させ、キヌさんを包み。結界内の限定的な瞬間移動で、俺のすぐ後ろに顕現させる。
「え!?」
キヌさんの驚きの声が俺の後ろで聞こえる。
先ほどまでキヌさんが居た場所に、大きな光の輪が現れるが直ぐに消滅する。
キヌさんを拘束する何らかの術式だったのだろう。
「おや?瞬間移動?ふむ、あの蹴りを受けて立ち上がるだけでなく、こんな芸当まで、なかなかやるね君、やはり横島忠夫の弟子だということかな、少々見誤った。折角彼女を人質にして、ヌルの結界を解除してもらおうと思ったのにね」
フードの男は俺を見据えて楽し気にそんな事を言ってくる。
「比企谷君、ナイスよ!」
「比企谷君、助かりました」
「でも、やばいですね」
その隙に美神さんは俺とキヌさんの所まで駆けつけ、俺達の前に立ち、油断なく構える。
なんとかしのいだが、やばい状況は変わらない。
「ふう、やはり君たちは厄介だね。結界を解くのは苦手でね。特に土角結界を術者本人以外が解くのは面倒でたまらないから、君に解いてもらいたかったのだけど、時間切れの様だし、とりあえずヌルは返してもらうよ」
フードの男は再び上空へと昇りつつ、土角結界によって石化し石板に埋め込まれた様な姿となったヌルを、念動力なのか分からないが、地面から引きはがし空中に浮かせ引き寄せた。
「ちゃんと金を払いなさいよね!もちろん相場の10倍よ!!」
こんな時でも悪態をつく美神さん。
「ふふふふっ、ここは引かせてもらおう。また会う事になるだろうけどね」
フードの男はそう言って、更に空を上昇し、彼方へと飛び去った。
「そん時は利子を付けてふんだくってやるから覚悟なさい!」
美神さんはフード男が飛んで行った方向に叫ぶ。
聞こえるはずは無いが、言わないと気が済まなかったのだろう。
「………どういうことだ?」
あっさり引いて行ったが、ヌルを回収するのが目的とは言え、敵対する俺達を生かす意味がないはずだ。
しかし彼奴は一体なんだったんだ?
凄まじい霊圧だった。
もしかすると横島師匠に匹敵するかもしれない。
俺は再度霊視空間把握能力で辺りの状況を確認する。
既にフード男の気配は全く感じない。
「………」
とりあえずは助かった…のか?
するとフードの男が飛び去った逆の方向から、何やら近づいて来る気配を察知、それと同時にヘリ特有の回転翼の騒音が近づいてくる。
軍用ヘリだ。
しかも機体にはオカGのエンブレム……。
その後には自衛隊のヘリが5機続く。
ヘリには美智恵さんの気配を感じる。
事前にオカG本部にキヌさんが連絡していたし、キメラがらみという事で、駆けつけてくれたのだろう。
これで一安心か……
「ふぅ」
俺は構えを解きながら、息を吐く
キメラにプロフェッサー・ヌル、そして中級魔族のプロフェッサー・ヌルを凌駕する霊圧を持つフードの男。
色々あり過ぎて考えが纏まらないが、少なくともこいつ等があの同時多発霊災テロに関わっていたという事だけは分かっている。
ふと、視線を横に移すと、隣りの美神さんは厳しい表情で、フードの男が飛び去った空を見据えたままだった。
フードの男の正体ははたして……