やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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では、前回の続きです。


(158)由比ヶ浜とデートは気恥しい。

先日のプロフェッサー・ヌルとフードの男との戦いの事で、色々と考えてしまい、思考の沼にハマり日常生活にも影響が出ていたようだ。

そんな俺の状態を見かねた由比ヶ浜が、気分転換だと放課後に俺を連れ出してくれ、二人で千葉の中心街まで出かける事に……。

 

駅前大型商業ビルのワンフロア丸々占拠する大型書店へと由比ヶ浜と足を運ぶ。

「ヒッキーは普段本屋さんでどんな本を探すの?」

「ああ、特に決まってないが、だいたい新書コーナーを回って、小説コーナーに実用書だな、その後マンガとラノベコーナーってところか。由比ヶ浜はどうなんだ?」

「え?あたし?雑誌コーナーかな、ファッションとかの」

まあ、そうだろうな。

由比ヶ浜が奉仕部に持ち込む本と言えば、女子高生向けの雑誌だしな。

小説とかの本を読むイメージが全くない。

 

「まあ、今日はさっと新書や新刊コーナーを見て回る程度だが」

「なんで?」

「普段のコースをたどると時間かかるからな、由比ヶ浜が雑誌を見てる間に済ませる」

「え~、ヒッキー折角なのに一緒に回ろうよ!」

「一緒に見ても面白い事もなんともないぞ。きっと暇だぞ」

そもそも本なんてもんは1人で探すもんだろ?

趣味や好き嫌いがはっきり分かれるもんだしな。

一緒に見てもつまらんだけだぞ。

 

「あたし、ヒッキーがどんな本が好きなのかとかも知りたいし、…ヒッキーと一緒だったら何でも楽しいから」

隣りを歩く、由比ヶ浜は俺の顔を見上げ微笑みながら少々恥ずかしそうにこんな事を言ってくる。

ちょ、待て、何これ?由比ヶ浜ってこんな感じだったか?

あれ?俺がヒッキーだったら惚れてしまうんだが?

って、俺がヒッキーか!?

やばい、やばいぞ。

何がヤバいのかわからんが、やばい。

 

顔が火照って来るのを感じ、視線が自然に斜め上へと逸れる。

「あ、そ、それよりも、先に参考書を見に行くか」

 

「うん!じゃあ、いこ!」

由比ヶ浜は俺の手首を掴み、引っ張り歩く速度を速める。

 

「って、おい!」

なんだこれは?これが古今東西のリア充共が行っているデートと言う奴か?

滅茶苦茶恥ずかしい。

 

 

由比ヶ浜に連れられ大学受験の参考書コーナーへと。

それぞれの大学の過去の入試問題と解説が掲載されている俗に赤本と呼ばれる過去問の参考書がずらりと本棚に並び、さらに大学入試センター試験対策や、難易度別や教科別の参考書が所せましと置かれている。

 

「そう言えば、由比ヶ浜はどこの大学に行くつもりだ?」

「あたし?うーん、もういっかな。ヒッキーと同じ都立大だよ」

「まじか」

まあ、3年の学科選択で文理系を選んだ次点で公立大学だとは分かっていたが、俺はこの日由比ヶ浜が志望する大学を初めて知った。

今迄、何気なしに聞いた事はあるが、まだ秘密とか言って煙にまかれていたが、まさか同じ大学とはな。

2年の二学期後半から猛烈に勉強し始めていたからには、行きたい大学があるのだろうとは思っていたが、俺と同じ志望大学か……。

今の由比ヶ浜の学力だったら学部にもよるがこのまま勉強を続けてれば合格は堅いだろう。

 

「だったら、まずは赤本か。あー、志望校決まってるなら流石に持ってるか」

 

「うん、赤本は持ってるよ。共通テスト向けに苦手な世界史と化学の参考書がほしいかな」

 

「そうか、だったらこれなんかどうだ?解説がしっかり書かれてわかりやすいぞ。俺も日本史と世界史の奴を持ってる」

 

「うん、わかり易そう。ありがとねヒッキー」

 

「二次試験対策はっと、そう言えば由比ヶ浜はどこの学部を受けるんだ?」

 

「どうしようかなって、まだ迷ってるんだ」

 

「ん?お前、行きたい学部があるから都立大を受けるつもりじゃなかったのか?」

 

「違うよ。ヒッキーと同じ大学に行きたいから、またヒッキーと一緒に授業を受けたり、部活したりしたいから」

由比ヶ浜は当然のようにこんな事を俺に言う。

 

「ん?……ちょ、ちょっと待て、そんな理由で大学を選ぶのは流石に不味いだろ?」

あまりにも自然体でそんな事を言うもんだから、一瞬俺の思考が一回りするが、慌てて由比ヶ浜に問いただす。

まてまてまて、なんだその理由は?

 

「ダメ…かな?」

由比ヶ浜は慌てる俺に上目使いで聞いてくる。

 

「ダメっておい、将来なりたいものとかあるだろ?」

 

「あたし、奉仕部でヒッキーやゆきのんに会うまで、大学とか将来のこととか何も考えてなかったんだ。ヒッキーは将来のお仕事までもう決めてて凄いなって。でも、あたしには何もなかったの。あの時まで、今楽しかったらいいかなって勉強サボってたし、特にやりたい事も何もなかったの。ヒッキーを大好きになったけど、こんな何もないあたしとヒッキーじゃ釣り合わないから、せめて勉強だけでもって、それで何もないあたしにも目標が出来たの、ヒッキーと一緒の大学に行くって。ヒッキーともっと一緒に居たいから、だから勉強頑張ったんだ」

 

「ちょ、おま……こんな所で何を言って……」

 

「将来、何になりたいかまだ分からないけど、今やりたいことはヒッキーと一緒に居たいこと……そんな理由じゃダメ?」

由比ヶ浜は目を潤ませながらはにかんだ笑顔で、俺を見上げる。

 

「そ……それはだな」

俺は自分の顔が赤らんで来るのが分かる。

これにはどう答えればいいんだ?

理性ではそんな理由で大学を決めるのは間違っていると俺の思考が訴えかけているが……、俺に向けてくれている好意がひしひしと伝わってくる。

由比ヶ浜の好意を今の俺は無下に否定できない。

俺はどうすればいいんだ?

どうすれば!

 

ん?なんか周りがざわざわと……

「うっそぉ!告白!」

「お前、男を見せろよ~」

「リア充死ね!」

「めっちゃ可愛い子が何で、さえない奴に?」

 

うおっ!人だかりが!?いつの間に?

野次馬!?

今の聞かれてた!?

そりゃそうだ!

何も参考書を見に来てるのは俺らだけじゃないしな!

放課後だし、学生もそりゃ結構いるだろ!

こんな所でこんな事をやってりゃ!

こうなるよな!

は、恥かしすぎる!!

 

「ゆ、由比ヶ浜、い、行くぞ……」

「う、うん、そだね」

俺は由比ヶ浜の手を引いて、俯き加減でこの場を足早に去って行く。

そんな俺達の背中に野次馬共の激励なのかやっかみなのか、いろんな感情の言葉が聞こえてくる。

 

 

俺と由比ヶ浜は本屋から出て、さらに商業施設からも逃げるように早足で、駅前広場に着く。

「はぁ、超恥かしいんだが……」

「そだね」

俺も由比ヶ浜も顔が真っ赤だ。

 

「あっ、す、すまん」

握ったままの由比ヶ浜の手首を慌てて離す。

 

「ううん、大丈夫。でも、見られちゃったね」

「……そうだな」

由比ヶ浜は早歩きで上がっていた息を整えながら、広場のベンチに座る。

 

座る由比ヶ浜の前に立ち、そっぽを向きながら何故かこんな言葉が自然と出ていた。

「まあ、なんていうかだ。ありがとな」

「お礼?なんで?」

「いや、なんとなく」

「うん。あたしもありがとねヒッキー」

「なんでだ?」

「あたしもなんとなく」

 

俺は由比ヶ浜の好意が素直に嬉しかったのだろう。

だが、雪ノ下と陽乃さん、由比ヶ浜の誰を選ぶのか、まだ答えが出せていない。

「情けないが俺はまだ答えが何も出せない。ただ素直に由比ヶ浜の好意は嬉しいとは思う」

「なにそれ?フフッ、でもヒッキーらしいかな」

「そ、そうか?」

「うん、そだよ」

 

何故かお互い暫く沈黙し合う。

この何とも言えない空気感で、気恥しくて言葉が出ないというかだな。

 

由比ヶ浜が先に俺を見上げながらゆっくりとした口調でようやく言葉を出す。

「ヒッキー、あの本屋にいけないね」

「さすがにな」

もう二度とあの本屋に行けないかもしれん。

行くたびに気恥しさを思い出すだろあんなの……

 

「どうしようか、ペットショップもあのビルだし……」

「他に由比ヶ浜が行きたいところでいいんじゃないか」

「あっ、そういえばフクロウカフェが千葉駅近くに出来たって雑誌に載ってたよ。フクロウと遊べるカフェなんだって、えっと千葉駅から……ちょっと離れてそうだけどいい?」

「なにそれ、めちゃ行きたいんだけど」

由比ヶ浜は思い出した様にスマホで検索する。

まじでか、フクロウと触れ合う事ができるのか?

微動だにしないあの不敵なフォルム、獲物を狙う姿は機敏で力強いとか、超かっこいいだろ?

 

「ははっ、ヒッキーて結構かっこいい動物とか好きだよね。でもよかった」

「男だったら誰でも好きだと思うぞ」

由比ヶ浜と俺はスマホのルート検索に従い、その千葉駅からちょっと離れたフクロウカフェへ向かう。

 

 

しかし、ルート検索でよくありがちだが、とんでもない道が選択され誘導されたりすることがある。今回も人っ気が全くないビルとビルの間の薄暗い怪しさビンビンの狭い路地を通らされるはめに。

まあ、怪しい店が立ち並ぶとかラブホテル街とかじゃないだけましなんだけどな……

「ヒッキー、なんか暗いしお化けとかでそうだね」

「その割には怖く無さそうだな」

「だってヒッキーが一緒だし、ヒッキー強いしかっこいいし」

「そ、そうか」

今日の由比ヶ浜の言葉は、いちいち俺の心に響く。

 

だが……

「ううう…しくしくしく……ううう…しくしく」

女性のすすり泣くような声がどこからともなく裏路地に響く。

 

「ひっ、ヒッキー……」

さすがの由比ヶ浜もこの薄暗い路地で言ってる傍からこんな声が聞こえて来れば、怖がって当然だろう。

 

「いや、大丈夫だ。幽霊とか妖怪とかじゃない」

「え、そうなの?よかった。でも、それっぽいけど」

この気配は妖怪とか幽霊の反応じゃない。

そうじゃないんだが……ただ。

 

俺はすすり泣く声の方へ向かって裏路地を歩む。

「……大丈夫だ」

「ヒッキー」

由比ヶ浜は俺の腕を掴みながら恐る恐るついてくる。

 

「しくしくしくしく」

奥に進むと路地の端っこで、清楚なドレス姿の女性がうつ伏せでうずくまっている。

しかも、それで隠れているつもりなのか大きな段ボールに頭を突っ込んでいた。

 

「…………」

「ええ?ええええ?だ、大丈夫ですか?」

俺は顔を見なくてもこの女性が誰だかわかっているが、なんでこんな所に?

俺はこの女性に声を掛けていいものなのか一瞬躊躇してしまい、声を掛けそこなう。

由比ヶ浜は戸惑いながらも声を掛けた。

 




折角のデートが……強制イベントに移行。

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