やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

159 / 187
感想ありがとうございます。

皆様の想像を裏切る展開かもしれません。
では続きです。


(159)やはりトラブルに巻き込まれる。

 

放課後、由比ヶ浜と二人で千葉へと出かけ、なんだかんだと千葉駅からちょっと離れたフクロウカフェへと向かっていたのだが……。

 

スマホのナビに従い裏路地を通っていた最中に、うつ伏せで蹲りすすり泣く女性に出くわした。

その女性は隠れているつもりなのだろうか?頭から段ボールに突っ込んでいるが、肩から下は完全にはみ出している。

その女性はどこぞのお嬢様なのか高級そうな清楚なドレスを着こんでいる。

段ボールに頭を突っ込んでいるからもちろん顔は見えていないのだが、俺はこの女性が誰だか知っている。

この霊気の気配、間違いない。

だが、なぜこの人がこんな場所で、こんな事になってるんだ?

しかも、何故かこの人から普段感じている複数の特殊な気配を今は感じない。

 

「だ、大丈夫ですか?」

由比ヶ浜はその女性に駆け寄り声を掛ける。

俺は一瞬声を掛けるのを躊躇ってしまい。一歩出遅れて由比ヶ浜の後を追う様にその女性に駆け寄る。

 

その女性は由比ヶ浜の声で一瞬びくっとし、恐る恐る段ボールから頭を抜き、蹲ったまま涙でぐしょしょにした顔をこちらに向ける。

「ぐ、ぐす……、だ、だ~れ?……ぐす……あら~!?」

 

「大丈夫ですか?六道さん。何でこんな所に?」

俺は腰を下ろし、この女性…六道さんに手を差し伸べる。

そうこの人は六道冥子さん、美神さんの友人の一人で、GS協会六道会長の一人娘、霊能家の大家式神使い六道家の次期当主だ。

 

「え?ヒッキーの知ってる人?」

 

 

「ひっく……ひ、比企谷く~~~ん!うわーーーーん!」

六道さんは俺の顔を見て、泣きながら俺の腰辺りに縋りつくように抱き着いて来た。

 

「ちょ、六道さん!」

「ひ、ヒッキー!?ど、どういう事!?」

由比ヶ浜はぷりぷりと怒り出すが、どういう事って言われても俺にも何が何だか。

 

 

 

この後、表通りの欧風調のちょっとおしゃれな喫茶店にすすり泣く六道さんを連れて入る。

窓際の4人掛け席に六道さんの前にはクリームパフェ、対面の俺の前にはシロップをたっぷり入れたアイスコーヒー、俺の横の由比ヶ浜はアイスミルクティーが置かれている。

 

「落ち着きましたか?」

ようやく泣き止んだ六道さん

一応、由比ヶ浜には六道さんが泣き止むまでに、さらっと六道さんもゴーストスイーパーで美神さんの友達だという事は伝えている。

 

「ぐす、ありがとう。比企谷く~ん」

 

「隣は学校のクラスメイトの由比ヶ浜です」

「由比ヶ浜結衣です。ヒッキー、比企谷君と同じクラスで部活も一緒です」

 

「結衣ちゃんっていうの~、ありがとうね。私はゴーストスイーパーの六道冥子よ~。」

六道さんは相変わらずの間延びした口調で自己紹介をする。

由比ヶ浜は六道さんが泣き止むまで隣に座って、ハンカチやらの世話をしていたしな。

由比ヶ浜はやはり優しい。

 

「大丈夫ですよ。こんなに可愛らしいのにゴーストスイーパーなんですね。でもどこかで……あっ、前の雑誌の美しすぎるゴーストスイーパー特集に載ってた!凄いよヒッキー!有名人だ!」

由比ヶ浜は六道さんの顔を見て何やら思い出し、はしゃぎ出した。

いや、確かに有名人だけど、それを言うとお前んちに居候してるドクター・カオス氏の方が世界レベルで有名人だからな。なんで六道さんを知ってて、ドクターを知らなかったんだ?

一見、六道さんはおっとりお嬢様風の可愛い系の美人だが、ゴーストスイーパーとしては美神さんに匹敵するレベルなのだ。そう高レベルなんだけども……。

 

「比企谷君と仲良しなのね~、二人は~婚約者なの~?」

六道さんは唐突にこんな事を聞いて来た。

 

「そ、そんなわけないでしょ!俺達はまだ学生ですよ!」

「婚約者!?そ、そんな~。でも、それでもいいかな~、なんて」

俺は思いっきり六道さんに突っ込むが、由比ヶ浜は顔を赤らめてまんざらでもない表情を。

 

「え~、だって、比企谷く~んと結衣ちゃんは~、婚約者じゃないのに部活も学校も一緒なの~?今も一緒で仲良しさんなのに婚約者じゃないの~?」

 

「………いや、どうして部活と学校が一緒で、仲がいいと婚約者になるのかが分からないんですが」

俺は冷静に突っ込みを入れる。

わけがわからん。

 

「仲がいいなんて、ヒッキーとあたし、婚約者に見えるんだ!」

隣りの由比ヶ浜は何故かデレデレなんだが……。

 

「え~、違うの~?」

う~ん。

六道さんってお嬢様育ちで世事にかなり疎いとは、美神さんや横島師匠も聞いていたし、前の稲田姫の試練の時もそうだったが、この人かなり天然が入ってるし、見た目大人の女性だが精神性は子供みたいなもんだ。

下手をすると川崎の歳離れた妹の京ちゃんと同じレベルかもしれん。……流石にそれは言いすぎか。

 

「違いますが……、そんな事よりも六道さん。どうして千葉であんな事になってたんですか?……それに、今の六道さんから式神の気配が無いんですが?何かあったんですか?」

このままだと、六道さんの天然にいつまでも付き合う羽目になりそうなため、俺は強制的に話題を変え、本題に入る。

そう、六道さんが千葉のあんな場所に1人でいること自体がおかしい。

しかも、いつも連れている強力無比な一二体の式神の気配が全くしないのだ。

 

「う……う……そ、そうなの、比企谷く~ん。聞いて~、お母さまったら酷いのよ~」

六道さんは涙ながら語りだす。

どうやら六道さんは母親の六道会長の言付けで、また強制的にお見合いに行かされたのだが、今回はお見合い行くに当たって、あの強力無比な式神を六道さんから強引に引き剥がされすべて封印されたのだとか……。

なるほど、それで今の六道さんから式神の気配が全く感じられないのか。

ただでさえ男性が苦手な六道さんは、子供のころから一緒に過ごしてきた心強い式神も引き離され、お見合い相手の男性と二人きりにさせられて、パニックになって見合い途中で逃げだして来たのだそうだ。

最初は美神さんの事務所に逃げ込もうとしたのだそうだが、六道会長の部下が先回りしていたらしく、さらに小笠原エミさんの事務所と唐巣神父の教会にも、六道会長の手が回っていて、どこか遠くに逃げようと、乗った事が無い電車で逃げこんだら、知らず知らずのうちに千葉駅について、さらに、人の多い街中をさけて人が居ない方居ない方へ逃げていたら、あんな場所であんな感じになっていたそうだ。

 

「お見合いなんて~嫌なのに~、お母さまが行き遅れるから早く結婚しなさいって~、あの子(式神)達は怖がられるから連れて行ったらダメだって言うし~、男の人と二人きりなんて……わたし、わたし、どうしたらいいのか……」

また、六道さんは涙目に。

確か、稲田姫の試練の時もそんな事を言ってたな。

お見合いか。

霊能家の大家となれば、それこそ後継者問題は家の一大事だからな。

 

「酷い、無理矢理結婚させられるなんて、六道さん、あたし達とあんまり年とか変わらないのに」

由比ヶ浜はプリプリと怒り出す。

由比ヶ浜、六道さんはああ見えて、確か美神さんの一学年上らしいぞ。だから今は25歳のはずだ。平塚先生が29歳になったばかりだから……。どちらかと言うと平塚先生側なのか?

 

「そうなの~!お母さまは酷いのよ~。結衣ちゃんはいい子ね~、冥子でいいわよ~」

すげーな由比ヶ浜、あの六道さんと直ぐに打ち解けたぞ。

 

ようするにだ。六道さんは、そもそも見合いに乗り気じゃないのに、式神も封印されて、男性と二人きりにさせられ、耐えられなくなって見合い途中で逃げ出して迷子になったって事か。

簡単に言うとそんな感じだが、実際にはいろんな事情が複雑に絡み合っているのだろう。

 

「どうします?とりあえず、美神さんに俺から連絡しましょうか?」

 

「ダメよ~、もう令子ちゃんの所はお母さまの手が入ってるわ~」

 

「となると、キヌさんもダメだな。小笠原エミさんの事務所や唐巣神父の所もダメですかね。他にお知り合いはいませんか?」

 

「いないわ~。だってお友達って令子ちゃんとエミちゃんやおキヌちゃんしかいないもの~。学校はお友達出来なかったし~……みんな、何故か式神たちを怖がるの~」

そりゃそうか、あんな式神を連れまわってたら、みんな逃げるわな。

そうか六道さんも学生時代は俺や雪ノ下と同じでボッチだったのか。

いや、今は俺や雪ノ下はボッチではないが。

美神さんと小笠原エミさんと出会ったのっていつかわからんが、六道さんはもしかするとずっと学生時代はボッチで終わってしまったのかもしれない。

あの十二神将と呼ばれる式神を代々受け継いできた六道家の血筋の宿命なのかもしれない。

俺はそう思うと六道さんに同情してしまっていた。

 

「もしよろしければ、しばらく家に来ますか?狭いですが……」

俺は自然とこんな言葉が出ていた。

今の六道さんはあの強力無比な式神はいない。

式神が居たら居たで暴走の恐れがあるが、式神が居ない六道さんは凄まじい霊気を内包してはいるが、霊力による通常戦闘はからっきしらしいから、普通の女性とさほど変わらない。

しかもお嬢様育ちのこの性格だ。1人にするのは危なっかし過ぎる。

それに式神が居ないのなら、暴走する恐れがないから、家に泊めても問題ないだろう。

今はタマモも留学生として家の客間で寝泊まりしてるしな。

 

「いいの~?比企谷く~んは優しいから好きよ~~」

普通女性に好きだと言われれば、何かしら心がざわつくものだが、何故か六道さんに言われても心にさざ波もおきない。

俺は雪ノ下や由比ヶ浜、それに陽乃さん、最近では一色に告白されたりキスされたりで、心が大きく揺さぶられ、ぶっちゃけドキドキしていた。

キヌさんや小竜姫様なんて、隣に居るだけでドキドキしてしまう始末。

平塚先生の裸を見てしまった時も、動揺しただけでなく、やはりドキドキしてしまったのだ。

俺はそれで一時は悩んでいた。

俺は女性であれば、誰にでも気移りするような浮気性でダメな奴なのではないかと、横島師匠と同じで、節操がないのではないかと……。

だが、以前にも六道さんから好きだと言われて、何も感じなかった。

六道さんは俺にとって恋愛対象ではないのだろう。

たぶんだが、見た目は確かに可愛らしい大人の美女だが、あの幼い精神性は流石に厳しいのだろう。それだけじゃないな、あの十二体の式神の前では恐怖が先行していたのも確かだ。

俺はその事実にほっとしたものだ。

しかし、よくよく考えると俺がドキドキしない女性は、身近に居た。

美神さんだ。出会った当初はあのセクシーな美女に少々ドキドキはしたが、今ではどんなセクシーな姿やあられもない姿を見たとしても、何も感じない。

横島師匠が美神さんの下着を盗んでその成果を見せてくれるが、何も感じない。

それは六道さんにドキドキしないのと同じ理由だろう。

美神さんは見た目はセクシーな大人の美女だが、中身は鬼か悪魔だからだ。

 

「えええ!?ちょっと待ってヒッキー、流石にダメだよ。ヒッキーも男の子なんだから、何かあったら!」

由比ヶ浜はそんな俺の提案に慌てて止めようとする。

由比ヶ浜、大丈夫だ。

うちには小町やタマモもいる。

それに俺自身は絶対にそんな事にはならないぞ。

俺は精神的にもロリコンじゃないからな。

六道さんは見た目大人の美女だが、中身は川崎の妹とかわらん。

 

「比企谷く~んは男の子だけど、横島君みたいにスケベじゃないし~、怒らないから全然怖くないし~、式神たちも懐いてるわ~。だから大丈夫よ~」

そう、この人の大好きは異性に対する大好きではないのだ。

家族や友達に使う大好きと同じなのだ。

 

「そ、そう言う事じゃなくって!……わかりました!冥子さんはうちに泊まって下さい!」

由比ヶ浜は何故かこんな事を言い出してしまった。

 

「いいの~?結衣ちゃんも優しいから好きよ~~」

六道さんも由比ヶ浜をかなり気に入ったようだ。

 

「ちょっと待て、流石にそれは厳しいんじゃないか?お前んち、ドクターもいるだろ!」

流石に厳しいだろ、いくら式神が居ない今の六道さんが普通の女性と変わらないとしてもだ。あのマンションにただでさえドクターとマリアさんもいるのに、流石に部屋はもう無いだろ?

あの3LDKのマンションにこれ以上居候が増えるのは無理があるだろ。

 

「ちっちっちっ。それはもう大丈夫なのだよ。ヒッキーくん」

何故か由比ヶ浜は芝居がかった言い方をしだす。

大丈夫って、ついにドクターに愛想つかせて追い出したのか?

 

 

そんな時だ。

喫茶店の前に高級車が止まり、若い男が下りて、この喫茶店に入って来た。

「ふっ、六道冥子さん、探しましたよ。急にいらっしゃらなくなられたので、心配しました。さあ、さあ、この私と戻りましょう」

その派手めな白のスーツを着こんだ20代中盤位のイケメンが、俺達の席の前に立ち、冥子さんに手を差し伸べながら、キザったらしい口調でこう言う。

 

もしかして、このキザったらしいイケメンが冥子さんのお見合い相手か?

 

「う…うう、い、嫌よ~」

六道さんの顔は青ざめ、そのイケメンから逃れるようにテーブルの下に隠れ、俺の足に縋りつく。

俺の足を掴む冥子さんの手は震えている。

なんだ?嫌がるにしては、これは………どういうことだ?

 

「これは家同士で取決めをした正式なお見合いですよ。さあ、隠れてないで行きましょう」

そんな六道さんの様子にお構いなしに、テーブルの下に隠れる六道さんに手を伸ばす。

 

「六道さんは体調が悪いようなので、改めてもらえないっすか?」

俺はつい席を立ち、キザったらしいイケメンの前に割って入ってしまった。

 

 

 





さてさて、八幡くんはどうやってこれを解決するのか?
横島師匠ならば、インスタント丑の刻参りで、イケメンを葬る事が出来るのだが……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。