やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(167)人の噂も75日 弟子編③

俺は今、津留見神社の境内裏に広がる森にある修練所に来ている。

ここは津留見神社の霊能者がおのれを鍛えるための場所だそうだ。

とはいったものの、道場のような立派な建物があるわけでもなく。

森の中にポツンと山小屋があり、その周囲が拓かれているだけの場所だ。

近くには小さな滝があって、昔は滝行等も行っていたそうだ。

 

勿論、留美の師匠として留美の修練をつける為にここに来ている。

源蔵さんと留美との約束で基本毎週水曜日の放課後に津留見神社で留美に修練をつけると取り決めた。

基本金曜日の夜から日曜日は仕事の事が多いから、空いてる時間は平日の学校終わりからになる。水曜日は授業も他の曜日に比べ一時限少ないから、丁度いい。

場所が津留見神社なのも俺の家から美神令子除霊事務所に比べるまでもなく近いし、留美の負担にもならないからだ。

流石にその日は部活を休ませてもらう事になったが、由比ヶ浜が不満そうだった。

 

最初は源蔵さんも立ち会う物だと思っていたが、「八幡殿のお手並み拝見と行きたいところじゃが、わしが最初から口出しするのもおかしいじゃろうて、任せたぞ。八幡殿」そう言い、どうやら俺の修練に顔を出さないようにしてくれるらしい。

一応、修練前にはどんな修練を行うのかは源蔵さんにも伝えてあるし、今までどんな修練を行ってきたか等も聞いてる。源蔵さんとも留美の修練の方向性については打ち合わせを行っている。

 

俺が最初に留美に行うのは、霊力による身体能力強化、GSにとって基本中の基本だ。

人間を遥かに凌駕した力や能力を持っている化け物たちを相手しなきゃならないから、これがなきゃ正面切って戦う事も出来ないし、一瞬でやられる事もあるだろう。

だが、源蔵さんとの修行では小学生時代は体の負担を考えて本格的に身体能力強化を行ってなかったらしい。

その代わり、術式の修行をメインに行っていたら、留美の吸収力が凄まじく、小学生卒業前に、津留見神社の術式を全て使いこなすまでになったとか。

津留見神道流は式紙使いの系譜だ。

海外で言う所のペーパークラフト使い、その能力の応用範囲は幅広い。

ただ単に式紙を操るだけでなく、極めると、それこそ紙を使った霊能術を全て扱えるとか。

だから式神召喚から術符等の札も難なく行使できる。

そのことから、式紙使いやペーパークラフト使いは極めれば万能とまで呼ばれている。

そもそも陰陽術の源流でもあり、陰陽術師の最高峰、安倍晴明も式紙使いでもあった。

津留見神社も例にもれず式神行使術や術符系の霊能術が多く伝わっている。

六道家や土御門家のように本物の鬼を依り代とした式神は無いが、簡易式神を操る術は多く存在した。

それらの術式をすべて扱える留美のポテンシャルは凄まじく高い。

美神さんが留美の複数の式紙を一斉に扱う術を見て、弟子採用を即快諾したのもそのせいだ。

 

 

「そんじゃ、はじめるぞ」

「ししょー、お願いします」

俺は高校ジャージ、留美はスパッツにトレーニングウエア姿で、修練第一弾として基礎身体能力強化の訓練を始める。

 

最初は俺が手本を見せて、基礎身体能力強化を行って、ジャンプし木の枝を伝い、木の天辺まで登り、そこからジャンプし、地面に着地して見せる。

「ししょー、凄い!」

 

「そんじゃ、ちょっとやって見るか留美」

 

あれだけ式紙を操る事ができるんだったら、基礎身体能力強化もすぐできるだろうと高をくくっていたのだが……

「ししょー、これ苦手」

「まあ、最初はこんなもんだ」

どうやら、本当にあまり修練してこなかったらしく、うまくいかなかった。

余りある霊気が体の外に漏れてしまい、うまくいかなかったのだ。

式紙や術式など、体の外に向ける霊力操作ばかり修行して来た影響だろうな。

成る程、だから源蔵さんは俺が行う最初の修練でこれを推したのか。

ふう、最初の頃の俺と同じか……。

なつかしい。

あの頃の俺も、あふれ出る霊気が漏れっぱなしで全くうまくいかなかった。

俺のあの頃の経験が活かせるだろう。

俺を何とか基礎身体能力強化をそこそこ高いレベルに押し上げてくれた横島師匠の教えが今更ながらありがたく思う。

だが、基礎身体能力強化の修練は時間をかけてゆっくり地道にやっていくしかない。

 

初回の修練を終え、母屋に戻ると留美ママが夕飯を用意してくれていた。

夕飯をありがたく頂いた後、風呂も入って行けと源蔵さんは言うが、家が近いからと遠慮させてもらい家に帰る。

 

家に帰ると小町とタマモがリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。

「ただいま」

「おかえりお兄ちゃん」

「おかえり八幡」

 

「お兄ちゃん、留美ちゃんの修行だっけ、どうだった?」

小町が何気なしに俺に、今日の事を聞いてくる。

 

「まあ、元々素質があるから、ちょっと後押しするだけな感じ」

 

「へ~、そうなんだ。さすがの小町も留美ちゃんが霊能者だって聞いた時は驚いたよ。あっ、そういえばお兄ちゃん、明日学校行ったらちょっと大変かもだよ。小町からの優しい忠告だよ」

小町が俺にこんな言い回しをする。

大変ってなんだよ。俺なんかやってしまったか?

 

「小町、どういうことだ?まさか……」

小町に言われてみると、俺には思い当たる節があった。

……明日学校休みたい。

 

 

 

 

翌日……

俺はいつも通り小町とタマモと一緒にチャリで学校に登校したのだが、駐輪所で小町たちと別れ、昇降口から教室に向かい席に着くまでに、いつもとは異なりあちらこちらから視線が俺に向いていた。

ちょっと身体能力強化で聴力を強化すると、俺に対しての噂話が校内の四方八方から聞こえて来る。

『彼奴、なんて言ったけ、ヒキタニだっけ、中学生とつきあってるんだぜ』

『いやいや、相手は小学高学年らしいぞ』

『いやね、ロリコンなの?』

 

『3年のあの嫌われ者のヒキガヤ先輩だっけ、小学生の美少女を連れまわしてるって噂聞いた?』

『違うわ、中学1年生らしいわよ。中学の制服着た子が昨日、学校まで迎えに来たんだって』

 

『小町さんのお兄さんって小学生しか愛せないロリコンなんだって、小町さん可哀そう』

 

『全く許せませんな!!』

『うらやまけしからん!!比企谷ロリ幡死すべし!!』

 

やはりこうなったか。

昨日、中学制服姿の留美が何故か校門前で来て俺を迎えに待っていたからな。

留美の奴に問いただしたら、何でも弟子として師匠を迎えに行くのは当然だとかなんとか、頑なにやめようとしないし、せめて自宅にしてくれと言って、何とか了承は得たが……。

間違いなく学校の連中には見られただろうな。

 

「やっはろー、ヒッキー!」

「おはようさん」

由比ヶ浜が教室に入り俺にいつもの挨拶をしながら、俺の隣の席に座る。

「ヒッキー、なんか凄い噂になってるよ。留美ちゃんの事、大丈夫?」

「ああ、流石に学校には来るなと言い含めた」

「……ヒッキーってロリコンじゃないよね」

「はぁ、当り前だろ」

「そ、そうだよね。あははははっ、ヒッキーは巨乳好きだもんね」

「………それ言わないでくれる?」

 

その後も休み時間も教室中その噂で持ち切りだ。

本人居るのに、よくそんな噂を普通に話せるな。

 

しかし、由比ヶ浜が我慢ならないって感じで、クラスの連中にこんな事を言い出した。

「みんなの勘違いだよ、ヒッキーはロリコンじゃない。だってあたし知ってるしヒッキーって、その……もってる…あれなDVD……全部きょ、巨乳物だし!!」

しかも、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに皆に訴える。

 

おいーー!!由比ヶ浜!?それフォローか!?

顔真っ赤にして何恥ずかしげに暴露してるんだ!?俺のクリティカルな秘密を!!

 

由比ヶ浜のフォローというか暴露というか、そのお陰でというか、俺のロリコン疑惑は消え去ったが、替わりにロリ巨乳好き疑惑が浮上しだしたのだった。

さ、最悪だ。

悪化してるだろ!

俺の性癖にさらに属性増やしてどうする!?

 

 

昼休憩中の奉仕部では……

「比企谷君、迂闊過ぎるわね。留美さんには今後気をつけるようには伝えたのかしら?」

「ああ、迎えに来るにしろせめて自宅にしてくれとは言い含めたが……」

「……前途多難ね」

雪ノ下は俺の一連の噂話にウンザリしてる様子だ。

 

「八幡が女の子の弟子ね~。光源氏じゃあるまいし、実際どうなの?」

「どうなのって雪ノ下さん、俺がロリコンじゃないのを知ってるじゃないですか」

「いつそうなるか分からないわ。でも大丈夫。そんな事になっても私は八幡を愛してるわ」

「そ、そうですか、恥かしいからその枕言葉のように愛だの、なんだの入れて来るのいい加減やめてくれませんか?」

「恥かしがってくれてるってことは、意識してくれてるってことよね。良かったわ」

陽乃さんは何故か最後は、ホッとした笑顔を俺に向ける。

今、そう言う顔をさせるとドキドキするからやめてくれませんかね。

 

「ヒッキー、ごめんね。余計な事を言っちゃって」

「まあ、俺を助けてくれようとしてくれたんだろ。気にするな。今更悪評の一つや二つ増えたところで何も変わらない」

申し訳なさそうに謝る由比ヶ浜にこういうしかなかった。

確かに普通の悪評ならば何も気にならないが、流石にロリコンとかロリ巨乳は厳しいだろ?

 

そこに騒がしい奴が入って来る。

「せーんぱーーい!!」

「一色さん、今は昼休憩中よ」

そんな一色に注意する雪ノ下。

 

「良いじゃないですか雪ノ下先輩。それよりも先輩は~♡……ロリ谷先輩なんですか?それともロリ幡先輩なんですか?それとも巨乳谷ロリ幡先輩なんですか?」

一色はなんか迫力ある物凄い笑顔で俺に迫って来るが、言ってる内容は最悪だ。

巨乳谷ロリ幡って最悪だろ!どこのAV監督の名前だ!?

 

「はぁ、そんなわけないだろ」

 

「むーっ!去年のクリスマス会で先輩に懐いていた小学生の子ですよね!!一つ年下の私を妹扱いみたいにする癖に!なんで5つも6つも下の子が良いんですか!!そんなにケツの青いガキンチョが好きなんですか!!」

一色は机をバンと叩き、さっきとは打って変わって頬を膨らせ俺に怒鳴り散らしてくる。

 

「違うって言ってるだろ!」

 

「じゃーー、なんなんですか!!」

一色は涙目ですごい剣幕で迫って来る。

 

「はぁ、あの子は…留美は俺の弟子なんだよ。GSのな」

俺はため息一つついて、一色に事実を話す。

 

「弟子!?そんな嘘、生徒会長の私には通用しないんですよ!さあ、吐いてください!せんぱい!」

一色はついには俺の両肩をつかんで揺らして来る。

一色の顔が眼前に……ち、近いぞ一色。

この頃、此奴は何かと距離感が近すぎる感がある。

 

「一色さん、そこまでにしなさい。比企谷君の話は本当よ。鶴見留美さんは代々霊能者の家系で、つい先日比企谷君の正式な弟子になったのよ」

雪ノ下はスッと横に来て、俺の両肩をつかむ一色の手を掴み、そう言った。

 

「本当…なんですか?」

 

「一色ちゃんもライバルなのかな~、好きな人の言葉を信用できないなんてまだまだね」

陽乃さんはしれっと一色にそんな言葉を投げかける。

 

「あ、あはははっ、最初っから分かってましたよ~、先輩がロリコンじゃないことぐらい。ちょっと先輩を試しただけです。でも先輩は~、胸の大きな女性が好きなんですよね~。私もそこそこありますよ」

一色は誤魔化すように笑った後、チラッと雪ノ下を見て、こんな事を言ってしまう。

一色、その話題はやめてあげてくれ!雪ノ下はマジ気にしてるから!

 

「……一色さん、そこに直りなさい」

あっ、雪ノ下が切れた。

雪ノ下は凍り付くような視線を一色に刺している。

 

「じょ、冗談ですよ」

さすがの一色も雪ノ下の迫力にたじろぐ。

 

由比ヶ浜がここで慌てて止めに入り、陽乃さんは怒ってる雪ノ下の表情をスマホでパシャパシャ撮って満足そうに頷いていた。

由比ヶ浜のお陰で雪ノ下は怒りを収めてくれたが、シスコンの陽乃さんはアレだ。雪乃ちゃん日記なるものにその雪ノ下の写真を添付するのだろう。

 

 

 

そんなこんなの昼休みの後半に、俺は平塚先生に屋上へと呼ばれる。

「比企谷……何をやらかした。良からぬ噂が学校中に出回ってるぞ」

「すみません。発端は俺の不注意です」

良からぬ噂とは勿論、俺のロリコン疑惑改め、ロリ巨乳好き疑惑だ。

モロ不順異性交遊の対象だし、こんな噂が出回ってれば、教育指導で担任の平塚先生に呼ばれて当然だ。

俺は平塚先生に留美を弟子にとり、その留美が昨日、校門まで師匠である俺を迎えに来たところを生徒達に見られたと、これまでの経緯を話す。

 

「まあ、そんな事なのだろうとは思ってはいたが、……正直な話だ。生徒達は君を侮っている。だからこんな噂も広まり面白半分に話の種となっている。集団生活の中で人は、わざわざ自分より弱い立場の人間を見つけ、見下す事が往々にして起こる。それは安心感を得る為なのか、優越感を得る為なのか、人それぞれだが、それは学校だろうが大人社会だろうが一緒だ。それがエスカレートすると弱者に対しては容赦がなくなる。それがいじめの発端の一つとなる」

 

「……そうですね」

 

「君は精神的にどの生徒よりも強い。いや、大多数の大人達よりも強い。だから、他人の悪意を一身に受けても耐えてしまうのだろう。だが……君の周りの人間はどう思うだろうか?君が悪意を受ける姿を見るのは辛いはずだ。私もそうだ。……君は侮られ過ぎだ」

 

「気をつけてはいたんですが……油断してました。すみません。」

 

「いや、君に説教してるわけじゃないんだ。もう少し自分を主張してもいいのではないかという話だ。君はそれだけの物を持っているのだから」

 

「主張ですか……」

 

「考えてみてくれたまえ」

 

「考えてみます」

やはり平塚先生はいい先生だ。

こうやって、親身に生徒の事を考えてくれる。

先生と二人横並びで、屋上のフェンス越しに見える風景を何気なしに眺める。

 

 

しばらくして……

「と……ところで比企谷、男性から見て年下の……年が離れた女性はどう思う?」

平塚先生は俺に顔を向けるが、若干顔が赤らんでいた。

しかも、なんか急にもじもじしだしたぞ。

さっきまでのかっこいい教師姿はどこに行った?

 

「いや、唯の質問だ。客観的でいい客観的で、比企谷から見て10歳以上離れた年下の女はどう見える?」

 

「………いや、どうって言われても、子供?」

どういう質問なんだこれ?

 

「れ…恋愛対象にはならないのか?」

恋愛対象ってあんた!俺の10歳下だったら相手は8歳だからな!!無理に決まってるだろ!!

 

「……何ですか?平塚先生も俺がロリコンとでも言いたいんですか?」

 

「い、いや違うんだ。もし比企谷が50前ぐらいで20歳以上年下の女性はどう見えるのかと……」

ん?んんんんん?……もしかしてこれって、20歳以下の女性って平塚先生の事じゃないか?と言う事は50歳前の相手ってもしかして……」

 

「…………あの、それって先生の事ですよね。相手ってもしかして……」

これ、唐巣神父の事だろ……間違いない。

もしかして、平塚先生って唐巣神父の事を?

 

「わ、私の事じゃないぞ!……ああああ!忘れてくれ!私は生徒に何を言ってるんだ。つい比企谷の前だとこんな事を話してしまう。君があまりにも大人びてるのがいけない!」

 

「まあ、大丈夫じゃないっすかね……男って基本年下の女性から好意を寄せられるとうれしいですからね」

 

「そ、そんなものなのか?」

 

「まあ、一般論ですが……」

 

「君もか?」

 

「いや、俺は18なんで、20歳も年下だったら生まれてないし……」

 

「あ、ああ、そうだな……うむ」

この人、恋愛が絡むと急にポンコツになるからな。

学校ではかっこいい美人教師なんだが……。

しかし、意外とお似合いじゃないか?唐巣神父と平塚先生って。

だが、神父も神父でGS協会のお偉いさんだし、教職の平塚先生とは厳しいかもしれん。

いやしかし、唐巣神父のあの懐深い優しさは、そのまんまの平塚先生も許容できちゃうだろうな……

 

 

5時限目の開始5分前のチャイムで教室に戻るが……。

教室の雰囲気が午前中とは異なっていた。

 




ルミルミを弟子にするという事はこういう事だ!!
と言うわけで、続きます。

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