やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
では前回の予告どおり……
「ひひひひひひっ、貴様を殺してからその素っ首、陽乃の前に晒してやる」
潮時だな。
由比ヶ浜、雪ノ下………こいつらは俺が守る。ここでこいつらを守れなくてなんのゴーストスイーパーだ。
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ。あんた。…………あんたは既に外道に落ちたんだ。…ゴーストスイーパー比企谷八幡。除霊に入る」
俺はそう静かに口上しながら霊気を開放し、霊力を体内に巡らせ、基礎身体能力を一気に向上させる。
まずは眼の前の餓鬼一体のか細い首に回し蹴りを食らわし吹き飛ばす。その反動でもう一体を後ろ蹴りで一発。
身体を回転させながら制服のブレザーに仕込んであった神通棍を取り出し、横から振り上げ霊力を通わせた一撃を横の餓鬼に、さらに由比ヶ浜の前の餓鬼に神通棍の突きの一撃、さらにその横の餓鬼に一撃いれる。神通棍の一撃を喰らった三体は黒い霧となり消滅。
それに驚いた残りの餓鬼4体は一斉に、俺にジャンプして空中から襲いかかってくるが、ブレザーの袖に仕込んであった10万破魔札を3枚取り出し投げつけ、三体の餓鬼の額に直撃。残りの一体は神通棍で突き刺す。
これで、襲いかかって来た餓鬼四体が黒い霧となり消滅。
空いている右手に霊力を注ぎ、六角形の霊気の盾サイキックソーサーを生成し、最初に蹴りで吹き飛ばし倒れている1体に投げつけ、突き刺して消滅。残りの後ろ蹴りで倒れた息も絶え絶えの餓鬼に神通棍でトドメを刺し、消滅させた。
餓鬼程度ならば、この数はなんともない。
美神さんには囮役と称して、無数の妖怪が巣食う谷や穴や罠に何度も突き落とされたのだ。
それに比べれば…………俺、よく今まで生きてたな………
「…………ヒッキー?」
「………あ、あなた……」
由比ヶ浜と雪ノ下は突然の俺の豹変に驚き、うまく口に出来ないようだ。
仕方がないだろう。いままで黙っていたのだから……これで嫌われるのは仕方がない。
ただ、俺はこいつらを守るだけだ。
「俺はゴーストスイーパーだ。………隠してて悪かった。しばらく我慢してくれ」
「ヒッキーがごーすとすいーぱー?なの?」
「………そんな、あの……比企谷くんが」
由比ヶ浜は幾分気持ちを持ち直したのか、俺に疑問顔を向けていた。
雪ノ下はまだ、俺の豹変と化物に襲われたショックから立ち直っていないようだ。
「ああ、そうだ」
「ゾンビ男めなかなかやるではないか………ひひひひひひっ!しかし!!餓鬼は何体でも湧くぞ!!ほれ!!」
半鬼化した土御門数馬が指を鳴らすと、俺たちの周囲に餓鬼が20体ほど地面から這い出てくる。
そして、俺達に一斉に襲いかかってくる。
「ヒッキー!!」
「!!」
由比ヶ浜は俺の名を叫び、雪ノ下は無言で俺の腕にしがみつく。
俺は先程の餓鬼への攻撃をしながら、30万円の結界札を3枚周囲5メートルの地面に貼り付けていた。
俺たちを中心に青白い光を伴った円錐状の結界が発動する。
美神令子直伝の結界術だ!
餓鬼程度であれば、何体来ようが破られはしない。
餓鬼は次々に結界に触れ、逆に吹き飛ばされる。
「小癪なゾンビ男め!!」
「………くされ外道!お前!!陽乃さんに恨みが有るなら陽乃さんを直接狙え!何かお前、おなじB級ランクでも土御門陽乃に勝てる自信がないのか?」
俺はわざと陽乃さんの下の名前を出し数馬を挑発する。
俺だけを狙わせるためと、少々の時間稼ぎだ。
霊気を開放し、空間に放出させ俺の半径10メートル空間内を霊気で満たし霊視空間把握能力を使うための準備をする。
「由比ヶ浜、この結界内にいれば餓鬼は襲ってこれない。雪ノ下を見てやってくれ」
由比ヶ浜はこの状況でもなんとか正気でいられているが……雪ノ下は………
「……うん…ヒッキー………ゆきのん大丈夫だから」
由比ヶ浜は何時もの元気はないが、大丈夫そうだ。震える雪ノ下の両肩をそっと後ろから抱きしめる。
「雪ノ下、大丈夫だ」
俺は、俺の腕を掴む雪ノ下の震えた手をそっと外し、頭をそっと撫でる。昔、妹の小町にやっていたように……
雪ノ下は地面へと腰を落としそうになる。俺の腕を掴むことでかろうじて立っていたようだ。それを今は由比ヶ浜が後ろから支えている。
俺は自ら張った結界から出て行く。
餓鬼とは比べ物にならない霊力を持つ数馬の攻撃を直接喰らえば、この結界が持つかはわからないからだ。
「生意気な小僧がーーーー!!!」
数馬は激昂しながらその手から火の玉を生成し俺に投げつけてくる。
半鬼化の影響なのか、元々の能力なのかはわからないが………
案の定、怒り狂った数馬は俺だけに狙いを定めてくる。
俺はそれを体捌きでゆっくりとした足取りでゆらゆらと避ける。
すでに俺の霊視空間把握能力を発動させている。
数馬の攻撃は手に取るようにわかる。
数馬は餓鬼にも俺を襲うように指示をだす。
俺は神通棍を振るい、10万破魔札を使い、餓鬼を相手しながら、数馬の攻撃を避け続ける。
霊力を見ればAランク近くまで上がった数馬の方が明らかに上だ。
だが………戦い方が単純過ぎる。
これでは同じBランクでも明らかに陽乃さんの方が上だろう。
ゴーストスイーパー・霊能者・陰陽師の戦いは虚実が在ってこそ生きてくる。
虚とは相手を偽り、騙すこと……術はそれで何倍もの能力を発揮する。
どんなに霊力が優れていようが、どんなに凄まじい術を持っていようが、それを活用できなければ意味がない。
さっきの俺が最初の餓鬼を倒し、同時に結界を張る準備を進めていたことも数馬は見抜けていなかった。
虚実を見抜く力もない。
一流のゴーストスイーパーになればなるほど、虚実を使う。
術や仕草、話術色んな要素のどれかに、虚を入れ込む。
大凡だが、一流ゴーストスイーパーと言われる人たちは20パーセント近く虚を入れ込む。
あの真面目一直線の西条さんの戦い方でも、何かしらの虚を入れてくる。
そして、SランクGSの美神さんは虚が40~50パーセントも入れ込んでくる。どんな相手にも油断なく最大限のパフォーマンスを出すために。一見卑怯にも見えるかもしれないが、存在自体がこの世のものでは無いものや、存在自体が規格外の者を相手取っているのだ。
人間の価値観で戦うこと自体、間違っていると俺は思う。
虚実を自由自在に操ることこそ、真の一流のゴーストスイーパーといえるだろう。
まあ、横島師匠の場合。90パーセントは虚で(真)実は10パーセントもないんだが…………
あんなとんでもない戦い方ができるのは横島師匠ぐらいだ。
ただ、その(真)実が恐ろしいくらい正確で強力なのだ。
だから俺は、いくら霊力が高かろうと虚実を使いこなせないこいつは怖くない。
「くそっ!なぜ当たらない!なぜだ!!なぜ!!なぜなぜなぜ!!」
数馬の奴、怒りで理性が薄れつつ有るな…………
俺は隙をついて、サイキックソーサーを数馬に投げつける。
「ひーーーひっひーーーー、ゾンビめ、そんな攻撃当たるはずないだろ…………ぎゃああああ!!」
数馬はサイキックソーサーを右に飛び跳ねて避けるが、急に電撃が走ったように身体がスパークする。
数馬が避けた先には、既に先程からの攻防中に破魔札に紛れさせ密かに俺が30万破魔札を五芒星に並べて威力を数十倍に高めた攻撃型の結界陣を張っていたのだ。
術式方陣の細かい調整式を省き、破魔札に予め最低限の術式を書き足し、五芒星に並べることだけで発動させる簡易術式だ。
これも美神さんの戦いを見て覚え得た方法だ。
あの人に札を使わせれば多分、右に出るものはいないだろう。何時ものがさつな言動や振る舞いからはとてもそうは見えないが、西洋から東洋、またはシャーマンの術式までありとあらゆる幅広い知識を持ち、そしてそれを自分のものにしている。表には見せないが、影では勉強し、実験訓練し試行錯誤をしているはずだ。
あの人の事を皆は、美智恵さんの血を受け付いだ天才だと言うが、実際のあの人はたゆまない努力を重ねてきたからこそ、あの若さであの地位にいる。
「あんたは、全くGSに向いてない。だからこんな事になる」
俺は倒れている数馬に近づき、五芒星攻撃型結界陣に封印札を足し、簡易拘束術式を完成させようとする。
「お……おのれ……………おれは土御門だぞ」
「今は、ただの落ちた外道だ。人間のGSの敵なんだよ」
「くそーーーーー!!」
「!!」
俺は封印札を足そうと数馬の影を踏んだ瞬間異様な気配に気がつき、飛び退いた。
さっきまでは気配すら無かった!!俺の霊視や、霊視空間把握能力にも引っかからなかった!
数馬の影から、影状の黒い手が伸び、数馬の魂を掴んだように見えた。
数馬は泡を吹き激しく痙攣しだす。
その影の気配は、地中深くにうごめいていた仄暗い霊気と同じものだ!
俺の霊感が最大限の警鐘をならす。
やばい……これは……やばい!
次回に続く……