やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
シリアス展開へ久々に突入です。
睦沢町の小さな集落が、河童の集団に今にも襲われそうだという救援要請に応え、鶴見一家総出で救援に向かう。
留美パパが運転するワンボックスカ―が睦沢町に入った所で、引きこもりネガティブ河童の家太郎(けたろう)に出会い話を聞いたのだが、どうやら、集落を襲おうとしているのは河童の集団ではないようなのだ。
「なぬ?遂に物の怪共が襲いかかって来たじゃと!?俊之急げ!」
そんな矢先に、集落の住人が避難している公民館が遂に襲われたと、源蔵さんに一報が入り、車を急がせる。
「源蔵さん、状況は?」
「勝浦のGSが公民館に張った結界で今の所阻まれておる。あ奴が事前に察知し十分な結界を張る余裕があったのが幸いか、あ奴め、良い勘働きをしておる。じゃが、かなりの数の物の怪のようじゃ、やはり、河童では無く、餓鬼のような姿をした奴じゃそうじゃ」
源蔵さんが言うには、勝浦のCランクGSはベテランで堅実なタイプらしい。
確かに、事前に危険を察知し、集落を避難させることによって、十分か結界を張る時間猶予を捻出させた手腕は、流石としか言いようがない。
勘や霊感もそうだが、危機察知能力はGSにとってかなり重要な能力だ。
いくら霊力が高くても、これらをおろそかにすると何れ手痛い目に遭い、最悪命を落とすだろう。
ベテランになればなるほど、この危機察知能力は高い人が多い。
逆に考えれば、危機察知能力が高いから、ベテランになるまで生き残れたというのもあるのだろう。
因みに、美神さんや横島師匠はこの危機察知能力が異様に高い。
美神さんの場合、霊感が予知レベルに近いぐらいの能力だ。
横島師匠の場合は……なんていうか、勘なのだが。
『なんかヤバい』とか、『もうあかん』とか、『こうなったらもー』とか、身に危険が迫るとオートで発動する勘なのだろう。
勝浦のベテランGSも襲ってきたのが河童じゃない事に気が付いたようだが、正体まではわからないようだ。
だが、餓鬼のような姿と言う話で俺は確信する。
「……襲ってきたのは恐らくヨーロッパ系の妖魔、ゴブリンです」
「なんじゃ?ゴブリンじゃと?日本で発生したなど聞いたことがない!」
源蔵さんが驚くのも無理もない。
日本でゴブリンが発生したという記録は全く無い。
ゴブリンは悪戯好きの妖精の一種とかいろいろな説が一般に出回っているが、GS界隈の世界共通認識では、元々悪魔や魔族の先兵として作られた妖魔と、要する夏に総武高校を襲って来たオークと同じカテゴリーだ。
オークのような力は無いが、先兵として作られただけあって、こん棒だけじゃなく、いろんな武器が扱え、普通の人間より単純な戦闘能力は高い。
記録によると投石器等の兵器を扱ったというのもある。
中世以前はヨーロッパでは魔族の先兵として現れる事が多かったとか、近年で現世に取り残されたはぐれゴブリンの集団が次々と小さな村を襲う事件もあった。
先兵として作られた妖魔とあって、あいつ等は雄しかいない。
本来繁殖等出来ようもないが、豚や牛などの大型哺乳動物の雌を苗床に繁殖する事ができるとか、最悪人間の女性がその対象となったという記録も多数残っている。
その為に村を襲う事も……。
だから、現世でも繁殖し、生き残る事が出来たという事だ。
しかし、日本ではそもそも存在しないはずなのだ。
1匹2匹なら、召喚術で可能かもしれないが集団などはあり得ない。
ヨーロッパ系の大悪魔や魔族が日本に侵攻し、先兵として引き連れてくるという可能性は無い事はないが、可能性としては極端に低い。
だが、その前提を覆した事件が最近起きている。
総武高校の大規模霊災だ。
居るはずがないオークを異界の門を開き、人為的に多量に現世に呼び込んだのだ。
今回も恐らく、あの大規模霊災同様に、あの霊災愉快犯がらみだろう。
あのフードの男やプロフェッサー・ヌルが何らかの形で関わっていると見て間違いない。
「規模は大きくはなさそうですが、総武高校の大規模霊災、近頃頻発してる霊災愉快犯がらみの可能性が高いですね。オカGには俺から連絡を入れます」
「うむ、この状況はその可能性が高いじゃろて……八幡殿、そうしてくれ」
俺はオカGに連絡すると、トップの美智恵さんにまで繋がった。
『ゴブリン!?霊災愉快犯がらみの可能性が高いわね。ゴブリンの集団規模は?』
「わかりません。現在住民を避難させて公民館でたてこもってる勝浦のGSからは50体以上と、俺達ももう少しで現場に到着です」
『令子と一緒ではないようね』
「俺は鶴見源蔵さん一家とGS協会の救援要請を受けて向ってます」
『なるほど、鶴見先生もいらっしゃる。ゴブリン50体程度であれば、君と先生であれば対処可能でしょうが、100体以上の可能性や上位種が存在する可能性もあるわ。それに襲撃はその集落だけとは限らない。オカGと自衛隊対策班を今から向かわせます。それと令子にも念のため救援要請を出すわね。………横島君はギリギリ間に合うかもしれないわ。西条君の報告では後1時間で成田に到着予定よ。横島君の行動が漏れていない?それとも霊災愉快犯とは無関係?……いえ、今は……比企谷君それまで任せました』
「なんとかします」
『本当に頼もしいわ。それでは健闘を』
美神さんが車を吹っ飛ばしても1時間半以上はかかる。
近くに自衛隊基地があるが対策班がそこにあるか不明だ。
美神さんや自衛隊の救援は2時間程度見た方がいい。
俺達で何とかしなくてはならないという事だな。
それに、美智恵さんの言葉が気にかかる。
確かに、今までの霊災愉快犯は横島師匠が確実に海外に居るタイミングで事を起こしてきた。
横島師匠を極端に恐れているのと同時に、横島師匠が海外に出張するタイミングがバレているという事だ。
だが、今回はそのタイミングが少々ずれているように思える。
じゃあ、犯人は霊災愉快犯ではないのか?
いや……今は置いておこう、目の前の対処が先だ。
ゴブリンはDランクの妖怪妖魔だ。一体一体であれば同じDランクGSの留美パパや留美ママでも対処可能だろう。
だが、ゴブリンはオーク同様に集団で襲い掛かって来る。
そうなると、難易度は一気に上がるだろう。
50体のゴブリンだとBランク~Aランク扱いの可能性まである。
それに美智恵さんが言う様にゴブリン共を指揮するチーフやガードといった上位種が一体以上居そうだ。
「父さん、もうそろそろ公民館です」
俺は留美パパの声と同時に、霊気を解き放ち霊視空間把握能力を開放し、辺り一帯を霊視する。
初期に習得したこの霊視空間把握能力は、自身の霊気を空間に解き放ち、霊気を満たした空間範囲の事象を正確に把握する能力だ。
一見、かなり有用な能力だが、欠点も多い。
霊気を空間に満たすのに常時霊気を放出し続けなくてはならないため、霊気の消費が激しい。
満たした霊気を、大きな霊圧やら霊気コントロールで、吹き飛ばされたりして、無効化されてしまう。
実際に横島師匠や美神さん、小竜姫様には全く通じなかった。
その弱点を克服したのが、強化版の霊視空間結界だ。
霊視空間結界は俺の周囲に霊気で強固な層を作り、霊気を満たすという物だ。
霊気の消費量を大きく減少させ、よっぽどの能力の差が無い限り霊気を吹き飛ばされる事も無い。だが、その代わり極端に範囲が狭くなる。
霊視空間把握能力の有効範囲は現在半径100m、霊視空間結界は半径10m、瞬間的に25mまで伸ばす事は可能ではあるが、凡そ10倍の差がある。
因みに通常の霊視であれば、凡そ500m先まで見えるが、霊視空間把握能力や霊視空間結界みたいに、一気に範囲内の事象を全て正確に把握する事が出来ないし、精度は距離に応じて落ちる。
「ん?源蔵さん。妖怪たちは、公民館から引いて行きます」
どういうことだ?俺達が来た事を察知して、引いたという事か?いや違う。
「好都合じゃ、俊之このまま車を公民館に着けろ、公民館に入り次第、俊之は障壁結界の準備、また襲ってくる可能性がある。美佳子(留美ママ)さんは怪我人の状況確認じゃ、留美は俊之を手伝ってやれ」
源蔵さんはテキパキと皆に指示をだす。
公民館に到着し、留美パパと留美ママ、留美は公民館に入り、源蔵さんの指示した通りの行動に移し、俺と源蔵さんは鉄筋2階建ての公民館の屋上へ飛び上がり、辺りの様子を伺う。
「八幡殿、相手はやはりゴブリンか?」
「はい、間違いないです」
「やつら、何故引いた?」
「いえ、やつら四方に散らばり、こちらの様子を伺ってます。しかも動きが獣のそれと違い、統率されてるようです」
「ゴブリンの指揮を行ってる上位種がいるということか、どのくらいの数がいるかわからんか?」
「ちょっと待ってください……半径100m圏内には居ません。凡そ300mから500m圏内、121体の霊気(妖気)を確認しました」
霊視で辺りを見渡し、121体の霊気をざっと確認。
その中でも6個体は、他のゴブリンに比べ霊力が高い。
おそらく、群れを統率するチーフやガードといった上位種だろう。
「予想より多いのう。……しかし、さすがじゃのう八幡殿、それ程正確にわかるとは、その霊視能力だけでも凄まじい性能じゃ」
「殺気が伝わってきます。奴らまた襲ってくるでしょう」
「うむ、オカGや自衛隊が来るまで持ちこたえなければのう、結界を強化するとするか、わしは勝浦のGSと打ち合わせを行う。八幡殿は奴らの監視を頼む」
そう言って源蔵さんは公民館に入って行った。
既に日が落ち、小高い丘の頂上にある公民館の光が淡く暗闇に漏れる程度で、周囲の山々や河川敷は暗闇に包まれる。
公民館から見渡す限りの暗闇、本来夜目が効くゴブリン共が有利な展開だが、俺の霊視能力で奴らの動きが把握できる。
……しかし、なんだこのゴブリン共、各方面に30体程度に別れ、さらにそれが細かく6~8体をひと固まりとなって身を潜めているぞ。
まるで現代の軍の小隊編成と分隊編成だな。
なんか弱そうな一体が道路をへろへろと走りながら俺に近づいて来たぞ。
「泥田坊の旦那~~、酷いケロ!置いて行くなんて~~!!」
引きこもりネガティブ河童の家太郎が泣きながら迫って来る。
面倒がこれ以上増えないように、家太郎はここに来る途中で車から降ろしたのに、何でついて来るんだ?
「はぁ、家太郎、さっさと逃げた方がいいぞ。ここにお前が見た海外の妖怪共が襲ってくるぞ」
「ケロ!?……だ、旦那~、急用を思い出したケロ~、かっぱ寿司のタイムセールに間に合わないケロ~~、それじゃ~」
そう言って家太郎は一目散に逃げだす。
何その下手糞な言い訳、かっぱ寿司は回転ずしだぞ。タイムセールなんてないだろ?
はぁ、彼奴と話してるとまじ、横島師匠とダブるんだが、まさか、生き別れた兄弟とか?
それとも、横島師匠の前世は河童だったとか?
しばらくして、源蔵さんが戻ってくる。
「避難してきた住人に被害は無しじゃ、公民館も問題無いのう。ゴブリン共、ここを襲い迫ってきたがしばらくして、何もせずに引き上げたそうじゃ、結界に気がつきよったのかもしれんのう。知恵が回るようじゃ、それはそれでやっかいじゃ」
「確かに、上位種に頭のいい奴が居るのかもしれませんね。まあ、そのおかげで、俺達が間に合ったのは事実ですが」
「とりあえずじゃ、公民館に結界を三重に張らせたわい。俊之には建物周囲に障壁結界、勝浦のGSには対妖怪用の忌避結界。美佳子さんには建物の強度上昇させる対物結界をはらせ、戦闘が始まったら結界の維持をやってもらう。
わしと留美と八幡殿で、迫り来る奴らを蹴散らしてくれようぞ。」
「留美は……」
「ふむ、留美はわしよりも物理攻撃能力は高いでの、わしが留美を守りつつ、留美に攻撃させる。なーに、わしと八幡殿で鍛えたのじゃぞ。大丈夫じゃ。いざとなればわしが身を挺して守るまでよ」
「……わかりました。それにしても、奴らの動きがどうも妙なんです」
そう、確かにゴブリンは魔族の先兵として作られた妖魔で、オークよりも集団戦に長けている。統率された動きも当然出来るのだが、それにしても妙だ。
「うむ、妙とは?」
「それは、なんていうか……」
ゴブリン共のこの慎重さに、配置が気になる。
俺は霊視能力で周囲を警戒しつつ、源蔵さんと話していると……
北側300m先の分隊規模の7体のゴブリンがこちらに向かって、動き出した。
「源蔵さん、7体程度のゴブリンがこちらに向かって来ます。他は動いてません。様子を見に来たのかもしれませんね」
「ふむ、迎撃態勢をとるか?」
「いえ、俺があいつ等の裏をかいて討伐します。俺は霊視もありますし7体程度なら1人でも問題ないです。少しでも戦力を削った方がいいでしょう。源蔵さんは留美と公民館の守りをお願いします」
「わかった。頼もしいのう」
源蔵さんは満足げに頷き了解する。
俺は闇夜に紛れ、こっちに向かってくる7体のゴブリンの集団の後ろに迫る。
奴らは辺りを警戒しつつ、一列に並び、草むらの中を中腰で進んでいた。
霊視空間把握能力を発動し、奴らの正確な動きを掴み、霊体ボウガンと札を構え、心の中でカウントする。
……3、2、1
俺はゴブリンの集団の後ろから襲いかかる。
先頭を進むゴブリンを霊体ボウガンで頭を射抜くと同時に、札を投げ対妖魔用の五芒星結界陣を形成し、後ろ4体のゴブリンを巻きこみ拘束しつつダメージを与える。
それに驚いた、残りの2体は肩から下げた何かを構え、周囲を見渡すが、俺は既にジャンプし、上空から奴らに迫り首を霊波刀で切って落とす。
五芒星結界陣で拘束ダメージを与えたゴブリンも、もがきながら力尽きた。
ふう、奇襲は成功か……。
しかし、あいつ等、なんか構えようとしてたな。
こん棒ではなかったが……。
俺は確認のため、ほんのり霊気の灯りでゴブリンの死体を照らす。
身長は120~30cm程度か……
「ん……!?」
俺は奴らが構えていた物を見て、驚き、思わず声が漏れる。
どういうことだ!
P90だと!?何でゴブリンがサブマシンガンなんてものを持ってるんだ!?
俺は背中に冷たい物を感じる。
そして、爆発音が公民館から聞こえてくる。