やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
では続きを。
銃器で武装したゴブリン共と戦った翌日の朝。
小町が朝飯を用意しながら俺に尋ねる。
「お兄ちゃん、タマモちゃん帰ってこなかったけど一緒じゃなかったの?タマモちゃん、昨日の夜、仕事でお兄ちゃんと合流するって言って出て行ったけど」
「ああ、タマモとは会った。今も現場だろう。ちょっとした事件があって、解決はしたが、後片付けが結構厄介でな、タマモやシロ達がやってくれてる。だからタマモは今日と明日は学校休むだろうな」
小町には詳しい内容を言えないが、ゴブリン共の襲撃は美神さんが介入したことで、公民館を包囲していたゴブリン共は壊滅して終息した。
だが、ゴブリン共の残党とゴブリン共を指揮していた何者かの捜索を、横島師匠とタマモ達が夜通し行っているはずだ。
タマモとシロの捜索能力がカギとなるため、しばらく帰って来れないだろう。
「そうなんだ。大変そうだね。……お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「俺はこの通りなんともない」
さすがに小町に銃弾の雨霰の中から帰ってきたなんて言えない。
「…だったらいいけど」
小町は総武高校のあの事件以降、俺が仕事で遅くなったり、服の汚れがひどかったりすると、
こんな感じで、心配そうに尋ねてくる。
今迄はそんなことはなかったのだが、まあ、実際あんな体験してしまったら、致し方がないだろう。
小町には、総武高校の大規模霊災のような危険度が高い仕事はめったにないことを伝えてはるいし、心配させないようにと、仕事で汚れた服は事務所で洗濯したりと、気を使ってはいるが、なぜかバレてしまう。
「まあ、タマモもシロも大丈夫だ。俺よりも強いしな」
「……うん」
「そういえば小町、生徒会の選挙がそろそろあるんじゃないか?一色は再立候補するのか?」
俺はわざと話題を変える。
そういえば、去年のちょうどこの時期ぐらいに一色と初めて会ったな。
「えー、お兄ちゃんはなんで知らないの?もうとっくに終わったよ。立候補者がいないから、いろはさんがそのまま続行って決まったのに、これだからお兄ちゃんは」
小町はさっきとは打って変わって、いつもの感じで俺にダメ出しをする。
「まじか?知らなかった」
一色の奴、何にも言ってこなかったな。
こんな時、あいつだったら、ご褒美をくれなんて言ってきそうなものだが。
「ふふん、小町は生徒会会計から書記へと昇格したのです!」
小町は胸を張って自慢げに言う。
「……それって昇格なのか?」
会計と書記に上下関係なんてあっただろうか?
そんなこんなで、久々に二人で学校へとチャリで向かう。
小町が先行して電動チャリを漕ぎ、俺がその後ろについていく。
いつもと同じ街並み、いつもと変わらない人通り、そして、目の前には鼻歌交じりに自電車を漕ぐ小町。
この何気ない日常に、俺はホッとする。
もし、あのゴブリン共が町に現れたのなら、この日常風景はどうなっていたのだろうか?
考えたくもない。
だが……。
さらに翌日の金曜日、美智恵さんからの要請でオカGから迎えの車が着て、再びあのゴブリン共と戦った睦沢町の公民館へと向かった。
今回は俺単独でオカGへの出向というよりも、美神令子除霊事務所がオカGからの協力要請に応じたという形だ。
横島師匠とシロとタマモは現地近くのホテルで宿泊し、連日オカGと共にあの集落近隣を広範囲に捜索を行っている。
キヌさんは、通常業務もあるため事務所に戻っている。
因みに美神さんは、ちょっと温泉旅行とかいって、この二日間行方をくらましているらしい。
ただ、キヌさんとは連絡はつくらしく、仕事関連の差配はキヌさんに一任されているとの事だ。
……怪しいにも程がある。
公けにバレたらまずい事をやってたのは確定だろう。
道中、検問を数か所通り抜け、公民館に到着すると、周囲には自衛隊とオカGの車とトラックなどがずらりと並び、公民館の中は物々しい雰囲気に包まれていた。
少々疲れ気味の美智恵さんが俺の顔を見てこう言った。
「比企谷君、来てもらって悪いのだけど、事件自体は既に終息に向かってるわ」
「ということは、ゴブリン共を操っていた奴を捕まえたんですか?」
もしくはゴブリン共の拠点を見つけたかだろう。
横島師匠とシロとタマモが居るんだ。
解決できないわけがない。
そもそも俺の出番なんて元からないだろう。
「いいえ、死亡が確定したからよ」
「戦闘に……いや、事故…自殺ですか?」
横島師匠が戦闘で犯人を殺してしまうようなミスはしないだろうし、そもそも戦闘になる前に捕まえる事が出来るだろう。
追い詰められて、焦って事故死、又は自刃した可能性もある。
「いいえ、全員死後1か月以上は経過しているわ」
「どういう?……」
全員?と言う事は複数人居たという事か、しかも死後一か月以上って、どういうことだ?
一昨日、ゴブリン共は間違いなく、誰かの指揮系統下で軍隊並みの作戦行動を行っていたように見える。
「……昨日、横島君たちが、山奥でとある場所を見つけたのよ。山小屋と洞窟、それにキャンプ地跡をね。そこで死亡した犯人たちはゴブリン共の育成と訓練を行っていたのよ。
見つけた時に洞窟には、ゴブリンの幼体が40体程いたそうよ。みな横島くんが処分したわ。そこには動物の死骸や骨と共に人間のものが7人分交ざっていたのよ。ボロボロの服があった事で分かった様よ……」
美智恵さんはこの後も長々とこの事件に結果について俺に語ってくれる。
横島師匠が文珠でサイコメトリーを行い、山小屋や洞窟やキャンプ地、死亡した亡骸を調べたところ、事件の全容が見えたそうだ。
死亡した7人は男性5人女性2人、男性2人は元自衛官、残りの5人は元GS系専門学生の生徒で、うち3人はGS資格免許試験の不合格者だった。
それはさっき、自衛官のリスト、警察の行方不明者リストや専門学校の名簿で確認が取れたそうだ。
そのうちの元自衛官の男1人と元GS系専門学生の1人が悪魔契約者で横島師匠のサイコメトリーでも情報がほぼ見えなかったそうだ。
その悪魔契約者2人が他の5人を誘い、こんな事を1年前位から行っていたそうだ。
悪魔契約者の2人は総武高校を襲撃した稲葉と同じく、霊災愉快犯の一味なのだろう。いや、あのフードの男やプロフェッサー・ヌルに騙されただけかもしれないが……。
ゴブリン共の傭兵化計画、残された資料やデータからも彼らが行おうとしていたとんでもない計画が発覚した。
ゴブリン共の傭兵団を作り、世界に売り出すつもりだったようだ。
稲葉はオークの軍団、プロフェッサー・ヌルは人間を使ったキメラ、そして亡くなったこいつ等はゴブリン傭兵団か……。世界を混沌とさせるには十分な代物だ。
ゴブリン共の育成は今年の7月位まで順調だったが、リーダー候補として育成していたが素行不良のため途中で廃棄処分したはずのゴブリンがこいつ等の1人を襲い、育成中のゴブリン共を開放し、率いて人間共を次々と襲い、この施設を占拠したようだ。
男性はその場で殺され食料に、女性は言うまでもない……。
因果応報とは言うが、こんな事に関わらなければこんな凄惨な事にならなかっただろうに、俺はそれを聞いた時、思わず目を瞑る。
先日のゴブリン共を率いていたのは、その反旗を翻したゴブリンのリーダーだった。
そのゴブリンは能力的にもハイ・ゴブリン、又はゴブリン・ジェネラルと呼ばれるレベルにまで成長していた。
美神さんによるゴブリン共の殲滅を見て、何体かのゴブリンと共に早々撤退したようだ。
だが、シロとタマモの追跡により追い詰められ、降参しようとしたようだが、横島師匠にその場で滅せられたそうだ。
当然の対応ではあるが、妖怪にも理解があり優しい横島師匠ではあるが、その辺の線引きをプロとしてしっかりしている。
だが、その時の師匠の心情はいろいろと複雑な物だったのだろうとは思う。
「最初にゴブリンを数体召喚したようだけど、魔法術式や儀式術式は見つからなかったわね。一回限りの儀式だったのか、代償が大きいためなのかは判明していないのだけど。……霊災愉快犯が関わっている事はまず間違いないわ。しかも元自衛官は裏ルートでゴブリンの為に武器を手に入れていたわ。ゴブリン用の防具類も発注していたようね。その武器密輸ブローカーを警察の方で追う様に手配済みよ。まだまだ現場検証を徹底的に行う必要があるわね、化学捜査班の手配と……やはり横島君にはしばらく残って貰った方がいいわ」
美智恵さんは思考を巡らしながら、話を一旦終わらせる。
「ところで横島師匠たちは、今も現場ですか?」
「いいえ、横島君達には、周囲の村々を広範囲に回って貰ってるわ」
「俺も合流した方がいいですかね」
「君には別の事を頼みたいのよ」
美智恵さんはそう言って、オカGの隊員に何かの指示を出す。
「事件とは関係なさそうなんだけど、検問に河童が引っかかってね。しかも、泣いて動こうとしないのよ。危害を加えないって説得しても泥田坊の旦那に会わせろって、捜査の邪魔だしどうしたものかと、シロとタマモに泥田坊の事を聞いたら、泥田坊って比企谷君の事じゃないかっていうし、君の知り合い?」
美智恵さんはウンザリした表情を浮かべ、俺にそう言った。
……ネガティブ河童の家太郎だ。間違いない。
「知り合いじゃないです。公民館に救援の途中で逃げて来た彼奴に会っただけです」
「そう、だったら比企谷君、後は任せたわね」
「え?任せたって……」
彼奴、超面倒くさい奴なんだが、しかも任せたって、河童の妖怪とか俺にどうしろと?
「はぁ、何にしてもよかったわ。これで悩みの種が一つ減るわね。ただでさえ令子の事もあるのに」
美智恵さんは大きなため息をつく。
「美神さんは、その………」
「今回のゴブリン共の育成していた場所からちょっと離れた場所に別荘があったのよ。そこの所有者は令子で、本人に連絡しても繋がらないから、有事の際の強制捜査状を裁判所から許可を取って、調べたのよ」
「……やっぱり、なんかあったんですか」
「いいえ、逆よ。何もなかったわ」
「え?」
「そう、もぬけの空よ。地下に隠し部屋があったのだけど何もなかったわね、最近まで金庫か何かがあった形跡は有ったわ。令子はゴブリン共を殲滅した後に、別荘に行って、見られたくない何かを持ち出して逃走した事になるわ」
「…………」
そんなところだろうなとは、予想してた。
「その後、横島君がゴブリンの育成現場で行った文珠のサイコメトリーで、令子がゴブリン共が所持していた武器の売買や何かに関わっていなかったことが判明してホッとしたのだけど、何かを隠している事はたしかね。金塊か証券をまた隠し持っていたか、脱税関係の証拠書類なのか、何かの不正取引に関わった記録なのか、いずれにしろ令子に問い詰めなくてはいけないわ」
美智恵さんは頭痛がするかのように額を抑える。
成る程、これで合点がいった。
ゴブリン共が自分の別荘付近で暴れていたため、被害が別荘にまで行かない様にと、速攻でゴブリンを殲滅し、さらには別荘が強制捜査に入られる事を予見し、そそくさと金塊とか証拠品を別荘から回収し、別の別荘に移しに行ったのだろう。
金塊やらを乗せないといけないから、それで大型のランドクルーザーで来たのか……。
そんで、美智恵さんの追及を逃れるために、温泉旅行に行くと言って雲隠れしたと。
何時もの美神さんだ!
俺はちょっとホッとする。
もしかすると、ゴブリン共に武器の売買位してたんじゃないかと、疑っていたからだ。
まあ、脱税やら不正取引やらも下手すると犯罪なんだけどな。
この分だと、最悪裁判沙汰になっても民事だけで済みそうだ。
俺はこの後、とある検問所へネガティブ河童の家太郎を説得しに向かった。
家太郎は俺を見るなり、泣きながら縋りついて来た。
オカGや自衛隊の皆さんの前で、泥田坊の旦那と連呼するのはやめてほしい。
めちゃ視線が痛いんだが……。
家太郎は、もうこんな所怖くて住めないとか駄々をこねまくったが、何とか解決させる。
翌週の水曜日、留美との修行の日だ。
俺はいつも通りに、津留見神社の境内を通り、留美と共に裏山の修行場へ向かうと。
「お嬢と八幡の旦那、今日もお日柄がよく」
そこに、家太郎が小川の畔から顔を出して挨拶をしてきた。
「家太郎、はい、お手」
「ケロ~」
「お代り」
「ケロ~」
留美が手を出すと、家太郎は留美の指示通り手を置く。
……何やってんだこいつ。
「はい、キュウリ」
留美は持って来たキュウリを家太郎に手渡す。
「お嬢!頂きますケロ~、キュ~リ~、うまいケロ~」
家太郎は嬉しそうにキュウリを手にし、かじりだす。
いや、もう河童じゃないな。完全に犬だろそれ。
そう、家太郎は津留見神社所有の裏山の池に引っ越したのだ。
源蔵さんと相談したところ、従属妖怪としてだったらという事で了解をもらって、家太郎は津留見家の従属妖怪契約を執り行い、GS協会に正式に認められたのだ。
津留見神社の保護下で過ごす事になった家太郎は嬉しそうに津留見神社の守り主になるとかなんとか言っていたが、これじゃ、留美のペットだな。
家太郎は従属契約を結んでるから鶴見家の人間には手を出せない。まあ、もともと人に被害を及ぼす様な力も持ってないし、引きこもりの河童だし……。
そんで家太郎自身も満足そうだし、留美も嬉しそうだし、まあいいか。
漸く、ゴブリン編も終わりです。