やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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⑱茨木童子

仰向けになり泡を吹き痙攣する数馬の身体が一気に膨張しだす。

着ていた式服はズタボロになり、露出した肌は青みがかった灰色に、まるで金属のような光沢を纏った色へと変色する。

 

 

俺は距離をとり、その様子を見ながら、由比ヶ浜と雪ノ下の元に駆け寄る。

 

「逃げるぞ!」

やばい、これはかなりやばいぞ!凄まじい霊圧だ。

 

「ヒッキー!?」

「…………」

 

俺は二人の手を強引に取り、駆け出す。

 

 

しかし、駆け出した先に、数馬……いや、数馬だった何かが上から降ってきた。

俺は二人を小脇に抱え、後方に飛び退く。

 

そこには、3メートルはあろうかという青銅色の肌を持つ二本の角を持つ鬼が立っていた。

「ぶはははははっ、この身体は具合がいい!しかし腹が減ったな………眼の前にはいい具合にうまそうな若い女が二匹!女は喰らう!男は殺す!」

 

凄まじい霊圧だ。Aランクどころの騒ぎじゃない。間違いなくSランククラスだ!

 

「くっ、お前は誰だ!!」

 

「ぶははははっ、俺が誰かって?酒呑童子の旦那一の子分!茨木童子様だ!!」

茨木童子だと……まずい、平安時代の本物の鬼だ。

酒呑童子の配下で、当時の武士が大々的な鬼退治を行った際、唯一逃げおおせた鬼だ。

それがなぜここに!?

 

「知ってるぞ!その名……酒呑童子の封印を解きに来たのか!?」

俺は時間稼ぎをするために茨木童子に話しかける。

そして、由比ヶ浜に茨木童子に気付かれないように護符をもたせ、雪ノ下と共にここを離れるように目配せをする。

 

「おお?お前、なんで知ってんだ?」

こいつ……アホだ。あっさり口にしやがった。

特に答えを聞くつもりもなく、時間稼ぎだけの話題だったのだが………

となると、松尾山の今再封印を土御門家が行っている相手とは酒呑童子のものか……

そんな物の封印が解ければ、また、京都は化物共が跳梁跋扈する都にへと変貌するだろう。

 

しかし、こいつは俺では到底倒せない……まるでレベルが違う。

隙をついて、由比ヶ浜と雪ノ下を逃がすのが手一杯か。

 

BランクとAランクの間にはとてつもなく大きな差がある。そしてAランクとSランクもだ。

そもそもAランクからは霊気量や霊力だけでは図らない。

 

Aランクの敵とは下級魔族、もしくはそれに相当する力を有する存在を指す。

AランクGSとは、下級魔族と1人で対峙することができるGSのことだ。

 

AランクGSになるには実績が必要となる。魔族クラスの敵を打ち倒すという。

 

そして、Sランクの敵とは、中級魔族、もしくはそれに相当する力を有する存在を指す。

中級魔族となると、既に天界の神に匹敵する力を有すると言われ。地上にはめったにお目にかかれない存在だ。

SランクGSとは、その中級魔族と1人で対峙することができるGSのことだ。

 

そして、目の前の鬼のそのすさまじい程の霊圧に俺はこうやって対峙するだけで、吹き飛ばされそうだ。正直足も震えている。……今まで感じたこともない程の圧倒的な霊力に霊圧、こいつはSランクだ。

 

 

「ん……しかし、お前人間のくせに、やけに懐かしさを感じると思ったら、その目、泥田坊の目にそっくりだ」

 

「おい、その泥田坊の目について、詳しく聞こうか」

まじか、ゾンビの次は泥田坊かよ。俺の目ってどんだけ妖怪よりなのよ。

 

「お前、泥田坊知らないのか?……泥田坊って言えばな………………」

なんか、こいつ語りだしたぞ。やっぱアホだ。脳みそはちょっと足りてなさそうだな………

だから、数馬の身体が馴染むのか?

今のうちに由比ヶ浜、雪ノ下、できるだけ遠くに逃げてくれよ。

 

しかし、こいつがこの一連の騒動を起こしたのか?……土御門が再封印の隙を付き騙くらかすぐらいのこの騒動を。こいつの裏にも誰か居るんんじゃないか?

 

「うーん。決めたぞ。お前なんか気に入った。俺のアジトで飼ってやる。炊事洗濯をしろ。せいぜい頑張れば、お前も立派な鬼にしてやる」

……何これ?俺、鬼にスカウトされたんだけど。しかも、念願の専業主夫ライフを提供してくれるらしいぞ?しかもお仲間にしてくれるって?

 

「……こ、雇用条件は?」

 

「こ、こよう?……ああ、楽しみも必要だな。そうだな。女を掻っ攫ってきたら、おこぼれを分けてやるぞ。精々楽しませてやるぞ。気にいった女がいれば喰わないでお前にやる」

なに?福利厚生も充実?……………いやいや、そんなゲスい福利厚生なんてエロゲーの中だけだから!!一瞬それ良いなってなんて考えてないぞ!!本当だぞ!!

 

落ち着け………これは甘い罠だ!

先ずは深呼吸だ。すーーー、はーーー、すーーー、はーーー。

落ち着いた。

 

「おい、ゴーストスイーパーは鬼の戯言など耳にしない………っておい聞けよ!」

 

「腹減った。さっきの若い女でも喰うか」

俺の口上を全く耳にしない茨木童子は、鼻をひくつかせ、匂いをかぎながら、大きくジャンプしてこの場から去った。

 

しまった!あいつ、由比ヶ浜と雪ノ下を喰うつもりだ。

 

 

俺は全力で茨木童子が飛び去った方向へ走る。

 

 

見つけた!

 

「うーん。どっちから先に喰おうか、こっちの黒髪はうまそうな血の匂いがするな。こっちの桃色っぽい髪は肉がやわかそうだ」

既に茨木童子は地面にへたり込み怯えている由比ヶ浜と雪ノ下の前に立ち。どっちを先に喰らうか悩んでいた。

二人共恐怖に声も出ない。当たり前だ。あんな霊圧にさらされているんだ。霊能者では無い二人ならなおさらだ。

 

「待ってくれ」

俺は茨木童子に立ちはだかるように、二人の前に入り込む。

 

「なんだお前、後にしろよ。俺は腹が減ってるんだ」

 

「あんたさっき言ったよな。あんたの元に行って奉公すれば、気に入った女を、俺にくれるって」

 

「言ったぞ」

 

「この二人は俺の気に入った女だ。だから俺にくれ。あんたの元で掃除でも洗濯でも何でもやる」

 

「おい、二人ってのはずるいんじゃないか?俺も腹が減ってるし。一人にしろや」

 

「いや、そこを曲げてこの通りだ」

俺は深々とお辞儀する。

今はこの方法しかない。茨木童子とまともにやって勝てるわけがない。チャンスを待て、隙を作れ。それまでは、どんな事をしても足掻いてみせる。

 

「ダメだ。一人だ」

そう言って茨木童子は俺にデコピンを放ってきた。

 

「がっ!!」

俺はそれにかろうじて反応して、両手ブロックをし、サイキックソーサーを展開したが、思いっきり吹き飛ばされ、後方の木に激突する。

霊視空間把握能力がなければあのスピードに反応出来なかった!

しかもたかがデコピンでなんて、威力だ!

なんとか防御が間に合ったが、今ので肋骨にヒビが入った………まともに喰らったら一発で瀕死だ。

 

俺は立ち上がり、フラフラと茨木童子の前に立ちはだかった。

「頼む。この通りだ。こいつらは俺と恋人どうしなんだ!!」

 

「ん?なんだ。おまえ、二人と恋人とか、公家か何かか?どっちにしても駄目だ」

再び、茨木童子は俺にデコピンを放ってくる。

 

俺は防御体勢を取りサイキックソーサーを展開、さっき同様吹き飛ばされたが、来ると分かっていた分、威力を殺すことが出来た。俺は空中で姿勢を立て直し着地する。

 

そして、再び茨木童子の前に立ちはだかる。

「頼む。この通りだ!!この二人だけでいいんだ他はなんにもいらん!!」

 

「うーん…ダメだ。俺は今腹減ってるんだ」

茨木童子は今度も俺をデコピンで退けようとする。

 

もう、そのスピードとモーションは慣れたっての!!

俺は奴のデコピンを避け、顔面にサイキックソーサーを投げつける。それと同時に奴の額目掛けて、ジャンプする。サイキックソーサーは奴のもう片方の腕に阻まれるが、俺は神通棍を奴の額に叩きつける。俺の奇襲攻撃が決まった。

 

「なんだ!逆らうつもりか!せっかく仲間にしてやろうとしたのによ」

神通棍の一撃が奴の額にクリーンヒットしたはずだが、全くダメージがない!

サイキックソーサーも奴の腕にかすり傷一つ付けていない!

なんて強靭な肉体!なんて丈夫な皮膚なんだ!!

 

奴はそのままサイキックソーサーを受けた手で、俺を振り払う。

空中で身体を捻り、なんとかまともにその攻撃を受けずに済んだが、それでも俺は吹き飛び、奴の後方の木に激突。

 

「ぐはっ!!」

全身に痛みが走る………右腕は動かない……完全に折れた………

クソッ!奇襲しても、レベルが違いすぎる。俺の攻撃が全く効かない!!

どうする!!どうする!!

 

まだ、身体は動く!!

 

…………考えろ!考えろ!まだチャンスは有るはずだ!!

 

 

茨木童子は、すでに俺に興味が無いのか、由比ヶ浜と雪ノ下を物色しだした。

「両方共喰っちまうか!!」

 

……恐怖と絶望の色が二人に浮かぶ。

情けない!これが横島師匠だったら、二人にこんな恐ろしい思いをさせずにすんだ。

……だが、あいつらだけは助ける!!

 

俺は完全に気配を絶ち、這って奴の後ろに近づいていく。

 

 

茨木童子の奴は完全に俺に興味が無くなった。俺が反撃に出るとは思ってもいないだろう。

 

茨木童子は由比ヶ浜と雪ノ下に手をのばす。

 

 

外からの攻撃が効かなければ中から攻撃すればいい!!

今だ!!俺は一気迫りに奴の下に潜り込み、ケツに向けて神通棍を刺し上げる!!

 

 

美神令子除霊事務所!直伝奥義!!千年殺し!!!!

 

 

「ぐお!?ぐおおお!?」

茨木童子の動きがピタリと止まる!

 

這入った!!!

 

「霊力全開!!!!!!」

奴のケツの穴に這入り突き刺さった神通棍にありったけの霊力を注ぎ込む!!

 

「はぁああはぁああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんんんん!!!!」

悶絶しながら、激しく体中に霊力の放電をさせる!!

 

「まだだまだまだ!!!!」

俺は神通棍をグリグリしながら、霊力を注ぎ込み続ける!!

 

「あっはっははあーーーーーーーんんんんんん!!!!」

茨木童子は絶叫し、煙を上げる。

 

 

そして、煙を上げながら、その巨体がケツを突き上げた状態で前のめりで顔から倒れ地面に沈んだ。

 

 

や…やったか?………この裏技だけは使いたくなかった……見た目も後味も悪いしな……しかし決まったな。

外がダメなら内側から、内側が見つからなければ、こじ開けろ………か………どんな教訓だよ。あの師匠たちは………しかし助かった。

 

 

俺は神通棍を離し、フラフラと由比ヶ浜と雪ノ下ところに歩む。

全身、ボロボロだ。骨は何箇所もイッてるな………右腕の感覚は既にない。

 

「………行く…ぞ」

 

放心状態で地面にしゃがみこんでいる二人に声をかける。

二人の顔は恐怖の涙で濡れていた。

 

………無理もないか……

 

「………すまなかった。もう、大丈夫だ……か」

俺の意識が飛びかける。

 

俺は前のめりでその場に倒れる。

くそっ、身体が言う事きかん。

俺はそこで意識が飛んだ。

 

まだ、終わったわけじゃない。餓鬼やらも居るだろう。もう少しもてよ俺……こいつらを。

 

 

 

「ヒッキーーー!!」

「比企谷くん!!」

 

俺の眼の前には由比ヶ浜と雪ノ下の顔があった。

なんか、泣いてんな………そんな顔すんなよ。

いや………どうなった。意識飛んだのか?

 

おれは無理やり身体を起こす。

「雪ノ下……俺はどれくらい意識飛んだか?」

 

「一分も経ってないわ………」

雪ノ下のしっかりとして受け答えだ。少しは立ち直ったようだな。

 

俺は重たい身体を立ち上がらせる。

「ヒッキー無茶だよ」

「………あなた、身体がボロボロよ。腕も………」

 

「いいや…速くこの場を離れる。まだ………霊災は終わってない」

うまく立ち上がれないが由比ヶ浜が支えてくれた。

 

「い、いくぞ」

雪ノ下も俺の背中を支えてくれる。

 

霊気もほぼ使い切ったか………まあ、あいつを倒せただけでもラッキーか…………!?

 

 

俺は茨木童子が倒れている場所を見たのだが、………奴は立ち上がってきたのだ。

最悪だ!!あれを喰らっても………生きてるのかよ!!なんて生命力だ!!

 

「け、ケツ痛えええ!!痔になったぞ!!泥田坊に似たお前!!!!ぜってええ許さねえ!!」

 

茨木童子はケツを抑えながらゆっくりと俺に近づいてくる。

 

 

…………俺の占いと美神さんの占いが完全に当たっちまったな………こりゃ死んだな…………

 

「逃げろ!!!!全力でだ!!!!」

俺はありったけの力で雪ノ下と由比ヶ浜を押し出し、俺はその場で仁王立ちをし、半分ふさがった目で茨木童子を見据える。

「ヒッキーーー!!」

「比企谷くん!!」

 

 

「逃さねえよ。その前にお前は死んでしまえ!!!」

茨木童子は俺に拳を振るってくる。

 

もはや避ける力も無い…………終わったな………横島師匠何やってるんですか……もう、お別れですよ。

せめて……あの二人だけでも………助けてやってください。

 

 

しかし、茨木童子の拳は俺を粉砕する事無く……地面にゴトリと落ちる。

 

「ぐわあああっ!!」

 

 

 

「お前…俺の弟子に何やってくれてんだ?」

 

 

目の前に、俺がいつも追いかけてたその背中があった。




ついにあの人登場!!
次回はあの人無双?

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