やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
書きあがった分からということで……。


(184)番外:乙女の心うち雪ノ下陽乃の場合 中編

 

 

私は師匠土御門風夏の次男数馬との政略結婚を回避すべく比企谷君との結婚について真剣に考える。

比企谷君と結婚か……。

悪くはないわね。

数馬と比べるまでもないわ。

 

 

比企谷君が霊能者と知る前は、雪乃ちゃんと同じ歳の高校生とは思えない程、観察眼が鋭く理性も大人顔負け、悪く言うと警戒心が強すぎる臆病者という感じの印象だった。

今となっては、比企谷君レベルの霊能者であれば、あの鋭い観察眼も精神力が高いのも頷ける。

霊能者としての霊格は私とほぼ同等。

あの年で、かなりの実戦を経験している事は戦ってみてわかった。

霊的センスだけでなく戦闘センスもいい。

もしかすると、実戦経験は彼の方が豊富なのかもしれないと思える程だった。

あのSランクの妖魔である平安の悪鬼茨木童子から雪乃ちゃんとガハマちゃんの二人を守りぬいたことからも相当ね。

ゴーストスイーパーとしての実力も申し分ないわ。

 

私の足を引っ張ることはないわね。

むしろ、お互いの霊能を高め合うこともできるわ。

 

それに、比企谷君は霊能家の出身ではないから、面倒なしがらみもほとんどない。

美神令子除霊事務所所属ではあるけど、所詮雇用契約上のものだから、なんとでもなるわね。

霊能家の婿としてかなり優良物件ではあるし、私にとってもこれ以上にない都合のいい結婚相手ということになるわ。

 

気になるのは、比企谷君の師匠の横島忠夫ね。

世界唯一の魔神に対抗できるSSSランクのゴーストスイーパー、要するに世界最強のゴーストスイーパーと言うことよ。

それを師匠の口から聞いた時には、思考が一瞬止まったわ。

魔神よ魔神、本当に存在するかも怪しいのに、そんな称号があるということは、実際に存在が認められているということよ。

しかも、彼自身が魔神に抵抗できるということは上級神に匹敵する力を持っていると同義。

 

噂では女たらしの変態だということだったのだけど、それは世間に実力を知られないためのフェイクのようね。

 

比企谷君も随分と信用しているようだし、うちの師匠もかなり信頼してる。

不気味な存在ではあるけど、今のところは目をつむっても大丈夫かしら。

 

 

問題は比企谷君が私を警戒しているということね。

ちょっといじりすぎちゃったかしら。

比企谷君がまさか霊能者でゴーストスイーパーとして優良物件だなんて、ついこの間まで気が付かなかったし、かわいい雪乃ちゃんの傍にいる男の子だから、ついついいたずらをしちゃってたのよね。

今となっては失敗だったわ。

 

それと私の活動拠点が京都で、千葉の比企谷君となかなか会えないというのも問題よね。

なかなか難しいけど、外堀を埋めつつ、懐柔していけば1年か比企谷君が卒業するまでには結婚を決めて見せるわ。

 

後はガハマちゃんね。

ガハマちゃんは間違いなく比企谷君の事が好き。

分かりやすいぐらいにね。

ただ、ガハマちゃんは見た目に反してかなり奥手だからしばらくは大丈夫そうね。

油断はならないけど。

 

雪乃ちゃんは比企谷君に興味があるみたいだけど、恋愛って感じはしないわね。

どちらかというと、雪乃ちゃんは大人ぶって見せてるけど、その感情は小学生か幼稚園児みたいな、端から見ていると微笑ましい感じのそれね。

当分比企谷君をどうこうするような感じは全くしないわね。

 

 

 

私はまずは外堀を埋めるため、師匠に頼んでオカルトGメンの美神管理官に協力を頼んだり、比企谷君のご両親の懐柔や、妹ちゃんと連絡を取って、比企谷君のスケジュールを聞いたりと、京都から策を巡らせる。

外堀を埋める作戦は順調。

 

年末までに2回程、比企谷君と顔を合わせたのだけど、こちらの方はなかなか厳しい。

比企谷君とは歳が3つ離れているし、元から接点も少ない。

そもそも、比企谷君の警戒心が高い上に、私が理想の女性像を演じた仕草や言葉にも、多少効果はあるようだけど、動じない。

私自身、容姿にも自信はあったし、大学や高校でも男性から声を幾度もかけられもしたのに、比企谷君には効果が薄い様なのよね。

 

薄いだけで効果がないわけではないし、強固な警戒心も緩めるためにも、会う回数を重ねないといけないわ。

 

 

 

新年早々、千葉に戻り比企谷君に会いに行ったのだけど、そこには雪乃ちゃんやガハマちゃんも。

ガハマちゃんと比企谷君の仲はあまり進展してないようね。

この分だとまだ大丈夫かな?

 

それよりも、比企谷君はGSとして強くなっていた。

六道家の式神の捕縛を手伝ったのだけど、比企谷君の霊気や霊圧、さらには術儀の精度も2か月半前のGS試験の時とは比べ物にならないほど上がっていた。

今、比企谷君と戦ったら勝てないかもしれない……。

私はそう思ってしまった。

私が?戦ってもいない相手に負けを認める?

私は自然と拳を強く握り、唇をかみしめていた。

比企谷君に抜かれた事よりも、自分自身で負けを認めてしまった事が……くやしい。

 

私はすぐさま京都の土御門本家に戻り修行を始める。

師匠に頼んで、さらに厳しい修行を行ってもらう事に。

1日の修行が終え、体力も気力も使い切り、疲れ果てて夕食も喉が通らず、やっとの思いでシャワーを浴び、ベッドの横になる。

 

目を瞑ると、なぜかいつも六道の式神と対峙した時の比企谷君の真剣な顔が脳裏に映る。

比企谷君…か

 

修行中は直ぐに追いついてまた追い抜かしてやるから覚悟してなさいなどと、息まいているのだけど、寝る前に彼の顔が浮かべるともやもやとしたモノ(感情)が胸のあたりに広がる。

 

会いたいな。

 

比企谷君とは温泉デートの約束を取り付けたし、温泉デートも誰も邪魔が入らずに比企谷君を連れ出す計画の準備を終えて、後は当日を待つだけだし、焦る必要はないのだけど……。

 

何故だろう?

会いたい。

会いたい。

会いたい。

 

 

私はふと、スマホのニュース欄にバレンタインについての記事が並んでいたのを見て……。

比企谷君、バレンタインチョコもらったら喜んでくれるかな?

 

私は翌日、ふらりと京都四条にでかける。

商店街もデパートもバレンタイン一色。

デパートに立ち寄り売り場のショーケースに並ぶチョコレートを見ていた。

 

比企谷君は甘いのが好きなのかな?それとも苦い方が?

私はそんなことも知らない。

 

……会いたいな。

 

ショーケースのチョコレートを恨めしそうに眺めた後、買わずにデパートを出て、京都駅に……。

 

会いたい。

 

そして、いつの間にか東京へと……。

 

会いたい。

 

 

妹ちゃんに連絡を取ると比企谷君は出かけたと……、何故か詳しい場所とかは教えてくれなかった。

GPSで雪乃ちゃんを位置情報を確認すると東京湾沿いの葛西臨海公園を指し示す。

……雪乃ちゃんが一人で葛西臨海公園?あり得ないわ。

 

ガハマちゃんと遊びに出かけた?

それもないわ。

ガハマちゃんが選ぶような場所じゃないわ。

 

……まさか、比企谷君とデート?

ありえないわ。

正月に会った雪乃ちゃんのあの様子だと、比企谷君の事は気になるようだけど、恋愛という感じはしなかったわ。

 

私は嫌な予感を感じながら、東京駅から葛西臨海公園へと

 

居た!

雪乃ちゃん、そして比企谷君とガハマちゃん。

葛西臨海公園内の水族館近くのベンチの前で立っていた3人を見つけた。

だけど、その雰囲気に私は思わず身を隠す。

 

ガハマちゃんが比企谷君に綺麗にラッピングした袋を2回に渡す。

恐らくバレンタインチョコ……。

 

私の胸のあたりがチクっとした痛みがする。

 

今度は雪乃ちゃんが顔を赤くし、比企谷君にバレンタインチョコを。

雪乃ちゃんの気恥ずかしそうであり不安そうでもあるその表情は、私が今迄見たことが無い顔だった。

私は胸が張り裂けそうになり……、

三人の前に出て行った。

 

 

ガハマちゃんだけでなく、雪乃ちゃんまで比企谷君にバレンタインチョコを渡して、告白をしようとするなんて……。

 

もう、猶予はないわ。

2人にはきっぱり比企谷君を諦めてもらうしかないようね。

比企谷君は私と結婚するのだから。

 

 

私は雪乃ちゃんとガハマちゃんを連れ出し、話し合いをする。

比企谷君を諦めるように言い含めようとしたのだけど、思いのほかに反撃を受ける。

どうやら雪乃ちゃんは本気で比企谷君の事を好きになったようね。

私は粛々と比企谷君が霊能者と結婚すべきだと、その相手としては私が相応しい事を説き、そして話し合いを一方的に終わらせる。

 

これで、雪乃ちゃんとガハマちゃんは比企谷君の事が好きだとしても、結婚できないということを十分理解してくれたと思う。

 

話し合いの場では、冷静に話を進められた。

でも……。

雪乃ちゃんとガハマちゃんの2人の感情のこもった言葉に胸が締め付けられる。

2人はいつも比企谷君と一緒で、学校も一緒に過ごし、彼の事をいつも見て居られる。

私は比企谷君とはめったに会えないし、比企谷君の事も何も知らない……。

甘いものが好きだったということも。

 

ようやくここで気が付いた。

私は比企谷君の事が好きなんだと。

 

比企谷君との結婚は、数馬との結婚を回避するための口実だった。

そこには恋愛感情なんてものはなかったハズなのに、いつの間にか比企谷君の事を本当に好きになっていたなんて……

 

 

でも、どうしよう。

雪乃ちゃんとガハマちゃんにあんなこと言っちゃったけど、温泉デートで既成事実とか……。

何言ってるのよ私?

比企谷君と既成事実って!?

ど、どうしよう?

既成事実ってことは比企谷君とあんなことやこんなことをってことよね。

恥ずかしすぎる!

し、しかも、私、処女なのに。

年下の男の子に処女だとか下手だとか思われたらどうしよう?

ううう……、あの時の私、大人の余裕を見せるためとはいえ、なんであんなことを言ってしまったの?

 

いいえ、雪乃ちゃんとガハマちゃんに話しただけで、二人が比企谷君に言うはずがないから、まだ、大丈夫よ。

 

でも……、キスぐらいなら。

比企谷君とのキスを想像するだけで、自分でも顔が赤くなっていくのがわかる。

 

いいえいいえ、そんなことでは、雪乃ちゃんやガハマちゃんに後れを取るわ。

 

ここは年上の大人の余裕を見せて、比企谷君を大人の段階へ導くの。

そのためにも、大人の予習をしないと……土御門家の秘伝の房中術とかないか、師匠に聞いてみようかしら?

 

悶々とした日々を過ごし、とうとう温泉デートの日。

比企谷君が受けたオカGの妖怪退治の仕事に、オカGのフォロースタッフとして同行することで介入し、比企谷君を温泉デートに連れ出す事に成功。

 

と、ここまではよかったのだけど。

雪崩が次々と襲い掛かかってきて、私たちはとある温泉旅館に逃げ込むように転がり込む。

温泉旅館で一夜を過ごし、目を覚ますと、いつの間にか拘束され、ディスプレイ越しには美神令子の高笑いが響き渡る。

そして、GS訓練合宿という名の新人イビリが始まった。

そう、雪崩から温泉旅館への誘導はすべて美神令子の罠。

しかも、そこには雪乃ちゃんとガハマちゃんもいた。

どうやら、雪乃ちゃんが私から比企谷君を引き離すために美神令子に取り入ってこんな手の込んだ罠に加担したようだ。

雪乃ちゃんを侮っていたわ。

まさか、美神令子を動かすなんて。

 

悪辣、美神令子のGS訓練が始まる。

それはとんでもないものだった。

第一関門は精神訓練。

ありとあらゆる気持ち悪いゲテモノたちのオンパレード。

しかも、私が苦手としているカエルまで……。

うううう、苦手なのよ!

あの、鳴き声も、滑ってした感じで飛び跳ねる姿がダメなのよ!

冷静に取り繕うこともできずに半狂乱に……。

いいじゃない。

一つぐらい苦手なものがあっても!

しかも比企谷君に慰められる始末。

年上の威厳が!もう!

雪乃ちゃんめ!恨むわよ!

 

 

次の第二関門も精神訓練の双六。

たかが双六と高を括っていたのだけど。

私の秘密がすべてばれた!?

雪乃ちゃんの成長日記を付けていた事や、雪乃ちゃんを四六時中見守っていた事、さらに雪乃ちゃん人形と毎晩語っていた事……、さらに八幡人形の存在まで……。

年上の威厳どころか、姉としての尊厳も悉く失った。

 

美神令子のせいで、すべて終わった

美神令子の悪辣な噂はすべて真実だった。

悪魔より悪魔。

関わってはいけない人物だった。

 

もう、終わった。

終わったと思った。

 

でも……、雪乃ちゃんは呆れながらも、私をまだ姉と呼んでくれる。

比企谷君も『災難でしたね』と、慰めてくれる。

私の姉としての尊厳と年上としての威厳は、なくなってしまったのだけど、その代わり雪乃ちゃんや比企谷君との距離が縮まったように思う。

 

 

 

 

そして、雪乃ちゃんとガハマちゃんと話し合いをし、比企谷君に対しての恋愛協定を結んだ。

 

 

 

 

 

一か月後、比企谷君や雪乃ちゃん達の、3学期終業日……。

 

下校中の雪乃ちゃんとガハマちゃんに連れられて歩く比企谷君の唇に不意打ちのキス。

 

ゆっくりと比企谷君から離れ大人の余裕を見せてから、曲がり角を曲がり小走りに走る。

恥ずかしい。

この感情は何なの?

比企谷君の顔をまともに見れないなんて……。

 

 

これが私のファーストキス。

比企谷君はどう思ってくれたのかしら?

 


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