やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回もガイルパートですが……少々寂しい気分に


㉘職場復帰は物悲しい

 

週末のこの日の放課後、奉仕部部室では一色を生徒会長に就任させるべく最後の調整を行っていた。

俺は一色と演説内容を詰め、雪ノ下と由比ヶ浜は書類関係の再点検と調整を行っていた。

黙々と仕事をこなす雪ノ下を由比ヶ浜は時折心配そうに見ている。

雪ノ下は俺に毒舌を吐かなくなり、俺に対し何かを言いたそうにしているが口ごもる事が多い。

やはり、様子がおかしい。

原因は、俺だろう。しかしそれももうすぐ終わる。

 

今日が奉仕部での俺の最後の仕事となるだろう。

来週明けには、一色は信任投票で信任を受け生徒会長になる事はほぼ確定だ。

それを見届け、俺は奉仕部に退部届を出すつもりだ。

 

 

「ふぅーー、先輩、こんなもんでどうですか?」

 

「いいんじゃないか?」

 

「あー、やっと終わった。疲れたですー」

 

「まだ、生徒会執行部も立ち上がってないぞ。これからだ」

 

「えーーー」

 

「まあ、執行部メンバーは結構優秀そうな奴がそろっているから、そいつらに頼ればいい」

 

「……先輩に頼っちゃだめですか?」

 

「俺は生徒会執行部でも何でもないぞ。まあ、相談くらいは乗ってやるがな」

 

「ふふっ、やっぱり先輩ですね……先輩は私を生徒会長にした責任を取ってくださいね」

一色は笑顔でこんなことを言ってくる。女の子に責任を取れといわれると何故か恐ろし気な気分になるのは気のせいだろうか?

 

 

「そっちも終わってそうだな」

俺は書類を整えている由比ヶ浜と雪ノ下に声をかける。

 

「うん、終わったよ」

「……そうね」

二人の持ち分も終わっていたようだ。まあ、雪ノ下がいれば余裕だろう。

 

「結衣先輩と雪ノ下先輩、ありがとうございます」

 

「ううん。なんか依頼と違う感じになっちゃったけど」

 

「そうですけど、こっちの方が楽しいかもしれないじゃないですかー」

 

「そ…そう。ならいいのだけど」

 

 

「一色、出来上がった書類を先生に提出してこい」

 

「先輩はついてきてくれないんですか?」

 

「こういうのは一人でやったぞ感を出した方がいいんじゃないか?」

 

「はっ!なるほどです。行ってきますねー」

一色はそう言って、書類を携えて部室を出ていった。

 

「ヒッキー、なんかいろはちゃんもやる気満々だね」

 

「ああ、そうだな。俺らが手伝うのはここまでだ。後の事は一色次第だ」

意外にも一色はこの5日間、たいして文句も言わずに、あれやこれやと作業を進めていた。

しかも、最初に出会った時と比べ生の感情を表にだし、生き生きしているように見える。

 

「……比企谷君…その……ちょっといい……」

雪ノ下が言いよどみながらも、俺に話しかけてきたのだが……

 

バン!

雪ノ下の声を遮るかのように部室の扉が豪快に開く!

 

「比企谷!比企谷八幡は居るか!!」

 

「大声出さなくても、ここにいますよ。平塚先生」

この部活の顧問で、生徒指導担当の三十路残念美人平塚教諭が勢いよく部室に入ってきた。

 

「おお、比企谷!君の職場確認に行くぞ!!」

 

「はぁ?いきなり何を言ってるんですか?」

 

「君のバイト先は特殊でね。学生の場合、年に1回、学校職員による職場確認が義務付けられているのだよ」

 

「いや、それは知ってますが、突然過ぎませんか?前回の一年時は俺のクラスの担任先生でしたが?平塚先生は俺のクラスの担任じゃないですよね」

 

「そんなことはどうでもいい!大事なのは行くことに意義がある!誰が行こうが問題ないのだよ!」

 

「ちょっ、先生。バイト先の所長に確認しないと……」

確かに俺は今日からGSのバイトに復帰するんだが……なぜ急に?俺が京都の修学旅行中にケガしたからか?まあ、由比ヶ浜と雪ノ下をかばってケガしたということになってたしな……

 

「はっはー、すでに先方に確認済みだ。君も今日はバイトに行くのだろう!さあ行くぞ!」

そういって平塚先生は俺の腕を強引に取って引っ張り出す。

「あっ……………」

強引に引っ張られていく俺を見て雪ノ下はやはり何か言いたそうであった。

 

「平塚先生、強引過ぎませんか?……雪ノ下、由比ヶ浜、後のことは頼んだ」

俺はそのまま平塚先生に引っ張られ、部室を出ざるを得なくなった。

 

「ヒッキー!………ゆきのん」

俺が部室を出る際に見た由比ヶ浜の顔が不安そうなにしていたのが印象的だった。

 

 

俺はそのまま平塚先生の高級スポーツカーに乗せられ学校を後にし、東京にある美神令子除霊事務所に向かった。

「で……平塚先生。なんで強引にこんなことをしたんですか?」

 

「さっき説明したとおりだ」

サングラスをしながら運転する平塚先生は当然の如くと言わんばかりだが、なにか焦りのようなものを感じる。

 

「………横島忠夫」

俺はある可能性を想定し、とある人物の名を呟くように声に出す。

 

「はっはっはーーー、何のことかなーーーー!!」

 

「やっぱり………振られたんですか?」

 

「そ、そんなことはないぞ!……ちょっとメールが一週間程返ってこなかっただけだぞ!はっはっはー」

なんて乾いた笑いなんだ。

しかも、サングラスの間に涙がきらりと見えるんですが………

 

というか、あの後、メールのやり取りをしてたのか横島師匠。

まあ、あの超長文とストーカーじみた文面を見れば誰だって、メールを返したくなくなるよな。いくら女好きの横島師匠だって……

 

「俺をダシにして、横島忠夫の様子を見に行こうという魂胆でしたか……それって職権乱用じゃないんですか?」

 

「………比企谷……私には、まだ大丈夫とかもう少し大丈夫とかそんな言葉は無いのだよ」

おいーーー!!怖いよこの人!!本気と書いてマジだ!!完全にターゲットになってるよ横島師匠!

 

「……横島忠夫のどこがいいんですか?先生より10歳は年下ですよ」

 

「失礼な!!9歳だ!!……彼は…こんな私を…私を女扱いしてくれるのだ」

なんか、もじもじしだして、急に女の顔になったぞ!

まあ、うちの師匠は性別が女だったら、妖怪だろうが幽霊だろうが女扱いするけどな。

 

「はぁ、横島師匠は海外出張中ですよ。いまフロリダあたりです。海外だとアプリによってはショートメールは届かないですよ」

 

「そ、そうなのか!!そうだったのかーーーー!!いやーーーーそうかそうか!!焦って損した!!」

普段はいい人なんだけどな。事に異性の問題となると……もう、どうしようもなくダメな人になる。

 

「だから、たぶん行っても、横島師匠は居ませんよ」

 

「まあ、君の職場を見たいというのは嘘ではないからな……先方には伝えた事だし……ところで横島さんを師匠と呼ぶのはどういうわけだ?」

その辺のことは横島師匠は何も話してないようだな。

いや、京都の修学旅行からそれ程時間が経ってないぞ。なのに師匠に対してのこの入れ込みようどうだ。完全にターゲットになってるなうちの師匠。

 

 

「俺のGSの師匠は横島忠夫なんで、俺がこうやってGSやれてるのも師匠のおかげです」

 

「ほう、君が素直にそんなことを言うとは、私の目に狂いはなかったということか!ふははははっ!逃がさん!!」

……横島師匠、この人と早めに縁切った方がいいっすよ。ストーカー予備軍ですよ。しかも地雷女間違いないです。

 

 

「平塚先生……一つ聞いていいですか。奉仕部に俺を強引に入部させたのは俺がGSのバイトをしてることを知った上での事だったんですか?」

 

「……そうだ。君を見ていると……高校生活を軽んじているように見えたんでな……せっかく高校に通っているんだ。なにか高校生らしい事をと思ってな……」

やはりか……予想通りだな。

 

「まあ、そのおかげで、俺は退屈せずに済んでますよ。それは感謝します。ただ……それも潮時です。俺は来週明けに退部します」

 

「なぜだ?君の言い回しだとあの部活は嫌いではないようだが」

 

「俺は学校の…学生の日常生活おいて所詮異物でしかない。高収入が見込める職業とはいえ、GSは所詮、やくざな仕事です。幽霊や妖怪など超常的なものを相手にし、命のリスクも通常の仕事に比べ高い。……そんな普通じゃ理解出来ないような事をやってるのがGSです。そんな人間が近くにいて、平常心でいられるわけがない」

 

「君は……あの二人の事を思って、退部を決断したのだな……しかし、雪ノ下や由比ヶ浜が君にそう言ったのか?それか態度に出ていたとでも?」

 

「由比ヶ浜はよくわかりませんが、……雪ノ下はたぶん俺を怖がっているのだと思います」

 

「ふむ、君は周りはよく見えているが、自分のことに関してはどうも鈍感のようだ。……そう結論を急がなくてもよいのではないか?」

 

「いや、しかし」

 

「一度、由比ヶ浜と雪ノ下とよく話し合ってみたまえ、その上で君がそう判断するのであれば、君の退部を受理しよう。そうでなければ私は受け取らんよ。はっはっはー、こう見えても、あの部の顧問なのでな。私が納得する理由でなければ退部届は却下だ」

……話し合いか…小町にも言われたな…しかし、答えは出てるように思うのだが………

というか、俺この部に入部届出してないし、強制的に勝手に入部したことになってたんだが!それなのに退部には顧問(あんた)の許可がいるとか!労働基準監督署に訴えるぞ!!……まあ、仕事じゃないんだけどな……はぁ………

まあ、最後ぐらいはあいつら(二人)に謝っておくか。

 

そんでもって、美神令子除霊事務所に到着。

「こんにちは、私は氷室絹です。比企谷君の先輩になります。生憎所長の美神は不在でして、私が代役を一任されてます」

そう言ってキヌさんが出迎えてくれた。

……美神さん面倒ごとをキヌさんに押し付けて逃げたな。

どうせ美智恵さんのところにでも行ってるのだろう。

 

「申し訳ない。こちらこそ急な申し出を受けていただいただけでも感謝します」

平塚先生も、無難な返答をするが、キヌさんを上から下へと舐めるように見てから、余裕の笑みを浮かべ大きくうなずいた。

………きっとスタイルで勝ったと思っているのだろう。

総合的には圧倒的に負けてるからなあんた!月とすっぽん。いや、月とミジンコぐらいにな!

しかも、今は普段着を着てわからんが、キヌさんはまだ学生だからな、他校の生徒とは言え、教師が対抗してどうする。

横島師匠を意識してるんだろうが………スタイルということだったら、美神さんにたぶん負けてるぞ、胸は同じぐらいだが、クビレとか……肌とか……後、年とか……

 

「はぁ」

俺は先生の隣で大きなため息をついて呆れるしかなかった。

 

 

「では、書類等は用意してますので確認をお願いします」

 

応接セットのテーブルの上に必要書類が用意されていた。

さすがはキヌさん。美神さんじゃこうスムーズにいかない。

そして、紅茶を入れるキヌさん。

 

「書類上の不備は見当たりませんね」

平塚先生は一通り書類に目を通す。

まあ、そうだろう。一応時給とか時間外手当とかは真っ当に支給されてるからな……

ただ、内容は苛烈極まるが………

そんなものは、ここには記載されていない。

もし、内容がしれたら、一般人だと軽く失神するレベルだ!

 

「当校の比企谷はどうですか?何か問題等はありますか?」

 

「比企谷君は真面目で、いつも一生懸命頑張ってます。常識的ですし問題行動なども一切ないですよ」

キヌさんはそう答えてくれる。

GSは一般の人間にはない力を持っている。人を簡単に殺めることができる力を……そんな人間が学内にいるのだ。こういった活動も必要となる。一般社会の認識も同じものだ。ゴーストスイーパーに所属する人間はこういった精神鑑定書などを半年に1回GS協会に都度提出しなければならない決まりがある。

 

……そういえば、美神さんも横島師匠も精神鑑定一応クリアーしてるんだよな。まあ、あの人達はわかっててあんな態度を取ってるからな……余計に質が悪い気がする。

 

「そうですか。それと比企谷を直接監督してる横島さんという方には一度お会いしておきたいですね。横島さんとはどのような方ですか」

平塚先生はわざと横島師匠とは面識がないような言い方でこんなことをキヌさんに聞く。

 

「え?……横島さんですか。とても優しい人ですよ」

キヌさんは笑顔でそう答える。

 

平塚先生はその笑顔を見て、顔が引きつっていた。

「ほ、ほうー……優しい人ですか……さぞかし、おモテになるのでしょうね」

 

「そうですね。……本人は自覚はないんですけど。横島さんは皆に好かれてますね」

 

「ほ、ほうー……そうですか……ひ、氷室さんも横島さんを?」

さらに顔を引きつらす平塚先生。

 

「いえ……そんな……その……」

キヌさんはもじもじと恥ずかしそうにする。

 

そんなキヌさんを見て、平塚先生は目をクワッと見開き……

「ふふふふっ!そうですか!私は負けませんよ!誰であろうと!!」

どうやら、キヌさんを横島師匠をめぐる敵としてみなしたようだ。

……ピエロだ。この人完全にピエロだ!キヌさんに勝てるわけがない!誰か早めにこの残念美人にとどめを刺してあげて!

俺は息まいている平塚先生を見て、何故か涙がほろりと出てしまった。

 

「あのー、何のことでしょうか?」

 

「ふふふっ、いえ、こちらの事です。それでは私はこの辺で失礼します」

なに余裕かましてるんだこの人。

俺はそんな平塚先生を建物の入口まで見送る。

 

「比企谷……君がバイトに行く時は、私が送って上げよう」

 

「……いえ、いいです」

 

「遠慮はいらないぞ。……将来の弟のようなものだからな!はっはっはー!」

だめだ、涙で目の前が霞む。

痛い痛すぎる。なにこれ……もう、誰にも見向きもされないピエロが……踊り続けている……そんな物悲しい感覚が俺の心を支配した。

 

 

 




平塚先生いい人なのに……

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