やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
続きどうぞ。
放課後、千葉市のコミュニティーセンターの会議室で、クリスマス会三校合同打ち合わせ会議に生徒会のサポートスタッフとして俺たち奉仕部も参加した。
三校合同打ち合わせはこれで2回目だ。
初回打ち合わせで、ほぼクリスマス会の流れが決定していたため、今回は各校の出し物の進捗状況確認や、会場の設営、合同合唱や、プログラム、宣伝など、細部の打ち合わせを行った。
初回の時もそうだが、今回もキヌさんの要所要所の発言が光っていた。
まあ、正直キヌさんの事務能力やコミュニケーション能力は高い。
美神令子除霊事務所の事務方の仕事はほぼキヌさんが行ってると言っても過言ではない。
昔は美神さんがやっていたのだが、不正計上や脱税などをへっちゃらでやっていたそうだ。
何度も、政府やGS協会から是正勧告を受けたり、取り調べを受けていたらしい。
美智恵さんの口添えもあって、今ではキヌさんがしっかりと事務所を内部から守っている。
税務署やGS協会からも受けがよく、キヌさんはかなり信頼されてるようだ。
……美神さんも普通にやればできるんだが……腹黒いからな。
合同打ち合わせを終え、それぞれのセクションに別れ、クリスマス会の準備に移った。
俺達奉仕部はコミュニティーセンターの飾り付け等を担当。
元々こういう会場にはある程度、飾り付けのための小道具が用意されている。
それを借り受ける手続きと、そして、当日の案内表示や看板の借り受け手続き等なども行う。当日のレイアウト図を作成しなければならないため。案内表示板の寸法や会場の詳細寸法なども確認し、全体の飾り付けレイアウトを作成する。
後は会場にあるもの以外で必要な飾り付けの予算を策定する。
まあ、折り紙や画用紙、模造紙、クレヨンなどの文房具など使い捨てのものがほとんどである。
俺たちはレイアウトをイメージするために、廊下をうろついていると、キヌさんに出会った。
「比企谷君。順調そうですか?」
「そうですね。キヌさんが会議で的確なアドバイスをしてくれたおかげで随分余裕がありますよ」
直ぐ近くで、通路や扉の写真を撮ってる由比ヶ浜と雪ノ下にもキヌさんは声をかける。
「こんにちは」
由比ヶ浜と雪ノ下は作業を中断し、こちらに歩む。
ちょうどいい機会だし、紹介しておくか、前、雪ノ下にキヌさんを紹介しろと言われていたしな。
「改めまして、六道女学院3年生の氷室絹です。よろしくね」
キヌさんは微笑みながら雪ノ下と由比ヶ浜に自己紹介をする。
「キヌさん、俺が変わった部活に入ってる事を話したことがあると思いますが、その部活仲間です」
俺はキヌさんに2人を紹介する。
「比企谷君、変わった部活とは失礼ね。……確かに否定はできないのだけど。……比企谷君の部活仲間で総武高校奉仕部の部長の2年の雪ノ下雪乃です。よろしくお願いします」
そう言う雪ノ下はキヌさんにきれいなお辞儀をし自己紹介をした。
「ヒッキー……えっと、比企谷君と同じクラスで同じ部活の由比ヶ浜結衣です」
由比ヶ浜は緊張したような面持ちで自己紹介をする。
「比企谷君、あまり学校の事を話さないし、いつも一人だと言ってたけど、こんな美人の部活仲間がいるなんて、……横島さんが言った通りだわ」
「美人だなんて~」
由比ヶ浜は嬉しそうだ。
「ちょっと待ってください。キヌさん。横島師匠、なんて言ってたんですか?」
「そうですね。『八幡の奴、ボッチだとか言ってるくせに、密室で美少女同級生を二人をいつも侍らせて、しかもいい雰囲気なんだ』って涙流しながら叫んでましたよ」
キヌさんは横島師匠の口真似をするが、あまり似てない。
おいーーー!あの師匠、なに余計なこと言っちゃてんの、侍らせてるって何だ?誰が誰と良い雰囲気なんだ!密室ってなんだよ。確かに奉仕部の部室だと俺たち3人になるが、わざわざそんな言い方することはないだろ!
「キヌさん。そんな事実はありません。横島師匠の事は話半分に聞いてください」
「でも、比企谷君、あだ名で呼ばれてるんですね」
「いや……こいつだけが勝手にそう呼んでるだけで……」
「氷室さん、その氷室さんも………」
雪ノ下はキヌさんに何か聞きにくそうに、話しかける。
「はい、私もゴーストスイーパーです」
キヌさんは雪ノ下が何を聞きたいかを理解し答える。
「そうなんですね。でもとてもそうには……」
「こんなに可愛らしい人なのに、ヒッキーみたいに、妖怪とか幽霊とかと戦えるんですか?」
雪ノ下は言いにくそうにする。確かにキヌさんは見た目華奢で、とてもゴーストスイーパーに見えない。雪ノ下は武闘派の陽乃さんを見てるから余計そう思うのかもしれない。
由比ヶ浜は雪ノ下と同じ思いのようだが、口に出して言ってしまった。
「わたし、運動神経も良くないし、トロイからゴーストスイーパーに見えないってよく言われます」
キヌさんは苦笑気味に答える。
「由比ヶ浜!キヌさんはな!こう見ても凄腕のゴーストスイーパーなんだぞ!俺も何度、命救われたか!!美神さんの人を人とも思わないシゴキや、扱いで、何度、死にそうな目にあったか!そのたびにキヌさんがヒーリングで助けてくれたんだ!今俺が生きているのはキヌさんが居てくれたからなんだ!」
そう、俺は美神さんに何度ひどい目にあったか、訓練という名の八つ当たり的なシゴキや、経験という名の、囮役で妖怪の巣に何度落とされたか!あの人の神経焼き切れてるとしか思えない!まあ、それ以上にひどい目に遭ってるのは横島師匠だが……キヌさんがそのたびに傷や怪我を治してくれたのだ!
「ええー!?ヒッキーいつも死にそうな目に遭ってるの!?どういう事?」
由比ヶ浜はそっちの方が気になったようだ。
そうなんだ。霊や妖怪に殺されかけるわけじゃないんだ。俺の仕事先で事務所の所長に殺されかけるんだ!
「そんな大したものじゃないんですよ。戦ったら、比企谷君には全然勝てないと思うし」
キヌさんは確かに通常の戦闘能力は高くはない。しかし、凄まじいまでのヒーリング能力がある。
それとキヌさんには世界に3人しかいないと言われるネクロマンサー能力がある。
精神感応系の霊能が突出してるのだ。
俺は一度見たことがある。無数の霊の集団をキヌさんが一瞬で鎮めたのを……
「その、霊とか妖怪とか怖くないんですか?」
雪ノ下はさらにキヌさんに質問をする。
「私は……その……、霊も妖怪も人間と一緒で、悪い人もいればいい人もいるから、全部を怖がらなくてもいいの。霊や妖怪は人間と価値観が違うから、人間にとって都合の悪い現象を起こすかもしれないけど、話し合いや、ちゃんとした扱いをしてあげれば、皆いい方達よ」
キヌさんは最初、何かを躊躇するような感じだったが、こういって微笑みながら答える。ただ、何故かその表情に影があるように見えた。
確かにそうだ。由比ヶ浜や雪ノ下には言ってはいないが、タマモもシロも妖怪だ。由比ヶ浜も雪ノ下も既に妖怪であるあの二人ともコミュニケーションを取れている。人間と一緒で悪い奴もいればいい奴もいる。ちゃんと話し合える相手なのだ。横島師匠の友達で、一度顔を合わせた程度だが、オカルトGメンヨーロッパ地中海方面支部のピートさんなんて、バンパイアと人間のハーフだ。この意味は非常に大きいと俺は思う。
そして、表沙汰にはしてないけど横島師匠を頼って来る妖怪もいるようだしな。
この後も、雪ノ下はキヌさんに質問をしたそうにしてたが、俺が先にキヌさんに要点だけ話をする。
「キヌさん、俺の報告書を読まれてるかもしれませんが、この二人には校内で例の事件の噂などについて協力してもらってるんです」
「この2,3日の分は美神さんが処理されてたので……知りませんでした。そうでしたか……じゃあ、比企谷君。この打ち合わせが終わった後、皆さんとどこかで話し合いをしませんか?私も直に雪ノ下さんや由比ヶ浜さんの話が聞きたいし……もちろん雪ノ下さん、由比ヶ浜さんがお時間があればですが」
キヌさんと俺は元々、この後、例の精神暴走事件の打ち合わせをどこかの喫茶店で行う予定だった。キヌさんが折角千葉まできてるためだ。
「是非、お願いします」
「あ、あたしも行きます」
雪ノ下と由比ヶ浜は即OKをだす。
キヌさんに言われてしまえば、俺は否定できない。
俺が言えた義理じゃないが、2人にはあまり深くGSに関わってほしくない。わざわざ自分から危険に入り込む必要が無いからだ。一応後で釘を刺しておきたいが……
キヌさんはまた後でねと言いこの場は別れ、仕事に戻っていった。
「ヒッキー、絹さんって本当に良い人だね。あんなに可愛らしいのにGSなんだ」
「見た目じゃ判断できないってことだ。キヌさんはどちらかといえばサポート系の能力に特化してるからな」
「そういう比企谷君も見た目GSに見えないわね」
「悪かったな」
「でも、ヒッキー結構筋肉凄いよ」
「べたべた触らないでくれない?由比ヶ浜」
俺たちもこんな会話をしながら、元の作業に戻っていく。
それにしても由比ヶ浜のスキンシップにも困ったものだ。
俺に耐性がなかったら、勘違いしてしまいそうだ。
俺たちの今日やるべき作業もほぼ終え、自販機前でマッ缶を飲み休憩をしていたが、ふと折本の事が気になった。
そういえば、折本の奴、今日見かけないな。休みか?
気になるな。例の精神暴走事件の事もある。
もしやということも……一応、海浜の奴に聞いてみるか……
俺は海浜総合高校の生徒に折本の事をそれとなしに聞いた。
「え?折本さん。なんか3日前から学校休んでるみたい」
!……他の生徒にも聞いてみる。
「折本かおりね。あいつ、なんかこの頃、人の事をさバカにする言動が目立ってさ、誰かとケンカしたんじゃない?」
!!……
「……かおりね。最近悩んでいるみたいだった。1週間ぐらい前から口数が減ってそれで……」
!!!
なんだ……これは………、精神暴走事件のあれか……いや、報告書では、精神暴走を起こした生徒は急に暴力をふるったり発狂したりとあったが………しかし、何かが引っかかる。
折本に何かが起こっている?
急に………いや、急にではなくても、精神暴走を起こす可能性については、検証していなかった。
ニュースでもネットでも、美神さんからもらった資料にもすべて、『急』にとか『突然』に精神暴走したと書かれていた。
俺はずっと、突発的に精神暴走を起こすものだと思い込んでいた!そうじゃないケースもあるかもしれないことを全く考慮しなかった。
しかし……いや、念のためだ折本に直接確認した方が良いだろう。
折本が引越しをしてなければ、中学が一緒だったから学区は一緒だ。
俺の家からそう遠くないはずだ。
しかし、住所がわからない。
海浜総合の連中に聞いても教えてくれないだろう。
「……小町」
そうだ。小町は俺と同じ中学で生徒会に入ってるはずだ。放課後は生徒会の活動をしてるだろう。
俺はスマホを取り出して小町に電話する。
「小町!」
『なにお兄ちゃん。今小町、生徒会の仕事してるんだけど。あっ、お兄ちゃん豆腐買って帰ってね』
「小町、緊急事態だ。3年時俺と同じクラスだった折本かおりの住所を教えてくれ、生徒会であれば、住所知ってるだろ?寄付金の案内とか毎年出してるから名簿があるはずだ」
『え?どしたの?その人がどうしたの?』
「小町!例の精神暴走だ。教えてくれ」
『わかった!調べて、メールで送るね』
「助かる」
そして、1分もかからないうちに小町から折本の住所が記載されたメールが届いた。
皆さんの先読みが早いんで……返答がネタバレになりそうでw
ちょいしばらく返答は控えますね。でも感想下さいw