やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
では続きです。
先日、折本が精神暴走事件の被害者であることが判明し、キヌさんのヒーリングで傷ついた本人の霊的構造体を回復させることができた。
しかし、折本の心は深く傷ついていた。
急にキレたり、不信行動をとるような大きく精神を暴走させていなかった折本だが、やはり、学校での日常生活で問題が出ていた。彼女は自分の意思では止められない悪感情を言葉にして周囲にまき散らしていたのだ。幸い自らの変調に気が付き、トラブルに発展するほどにはならなかったが、それでも、今まで築いてきた人間関係を壊すには十分なものだ。
折本の事で判明したが、このオカルトによる精神暴走、人によって強弱があるようだ。
もしかしたら、ちょっと調子が悪いとか気分が悪い程度の日常生活では全く気が付かない軽微なものもあるかもしれない。
それに、遅行性、徐々に悪化するタイプなどもあるかもしれない。
今、事件や精神暴走に認定されている人間以外にも、潜在的に精神暴走を促すオカルト的な手段で、被った人間はかなりの人数がいるのかもしれない。
そう考えると、昨日の由比ヶ浜が教えてくれた3人も精神暴走被害を被っている可能性がある。
もはや、俺とキヌさんだけで如何にかできるレベルの話ではない。
この事件の根は深い。確かに死亡事件や殺傷事件などの重大事件に至っていないが、間違いなく精神暴走被害を受けた人間の心に大きな爪痕をしていく。
だが、誰が、何の目的で、どうやってこんなことを行ったのかがまるで分らない。
せめて、犯行方法が分かれば予防することができるのだが……
今日、俺は学校に行かず、俺は今、GS協会本部ビルの会議室に座ってる。
その会議室には、GS協会の会長の六道女史と幹部数人、オカルトGメンの東アジア統括管理官の美神美智恵さんと西条さんに後数名、警視庁から管理職クラスの人が数名、あと文部省の人まで座っていた。
俺は重苦しい雰囲気の中、とんでもない場に、座らされていたのだ。
横には美神さんとキヌさんが居てくれるのはせめての救いだった。
昨日の晩。
キヌさんが折本の一件を美神さんに報告した後……美神さんから俺に生の意見を聞かせろと、電話が掛かってきた。
俺の考えをそのまま話すと、美神さんは終始、相づちだけをうち、俺の話を口を挟まずに聞いてくれた。そして、話し終わると、明日早朝に事務所に来なさいと言う。
学校あるんですがと答えると。GS免許者の緊急時の権限を使って学校を休めと……
それで俺は、早朝事務所に行くと、オカルトGメンの美智恵さんと西条さんが既にスタンバっていて、俺はキヌさんと共に昨日の事を話す。
美智恵さんも西条さんも真剣な面持ちで終始聞いてくれた。
それで、聞き終わった後だ。………今日、この事件についての意見交換会があるからそれに参加してちょうだいと、美智恵さんはニッコリ笑顔でそんなことを言った。
俺はしぶしぶ返答したのだが……
まさか、ここまでの重役会議だとは知らなかった。ニッコリ笑顔の美智恵さんを警戒はしていたんだが……あの笑顔が出るといつもとんでもない目に合うからだ。
たかだかオカルトGメンとGS協会との話し合い程度だと思っていたのだが……まさか国のお偉いさんまでいるとは……
流石の俺も緊張しっぱなしだ。
俺とキヌさんは昨日の件をそのまま話す。
こんな会議のなか抜けてる事も多々出てくるが、そのたびに美智恵さんがフォローしてくれる。
俺とキヌさんが話し終わったところで、俺とキヌさんと美神さんは会議室から出ることになる。
後は、お偉いさん同士の話し合いらしい。
美神さんに俺とキヌさんが何故こんな会議にでる事になったのかを帰りの車の中で聞いた。
「おキヌちゃんと比企谷君の話はね。ママもその線を考慮して、文部省から教職員にアンケートを出させていたのよ。今日は丁度、そのアンケート集計の結果の打ち合わせだったってところよ」
どうやら、美智恵さんも潜在的な精神暴走被害者が多数いる可能性を考えていたようだ。それで文部省を使って千葉県の中高の教職員向けにアンケートを出していたようだ。
やはり、俺たちだけに任せてはいなかったな。オカルトGメンもGS協会もずっとこの件で動いていたってことか……
にしても美智恵さん。文部省を顎で使えるってどうなのよ実際。
「はあ、だったら、俺たちが捜査する意味があるんですか?」
「生の声が欲しいのよ。だから、期限を設けずに、依頼が来たってところよ。あんた達の声が有れば、現実味が帯びるからよ。丁度ベストタイミングでその生の声が来たもんだから、ママは鼻高々ってとこかしら……これで私もママに恩が売れるわ」
「ということは……引き続き、捜査を続けるでいいんですか?」
「そうね。でも、比企谷君がGSって知られない方が、何かと動きやすそうだから、君が可能性があると言っていた君の高校の生徒については、横島君が何とかするわ。これでこの3人の中で被害者が居たのなら、君の意見はますます現実味をおびるわね」
由比ヶ浜があたりを付けたカップル彼氏連中の事だ……横島師匠が?……相手が男だからきっとやる気はないんだろうな………横島師匠なら、直接会わずとも遠目で分かっちゃうし、さらっと終わらせそうだな………いや、彼女がいる連中だから、なんか嫉妬が混んだ何かをしてしまうかも……
「まだ、犯人の手がかりも、犯人の目的も、どういう手段で霊的構造の損傷をしたのかもまるで分らないしね。このまま続行よ。……君の部活の協力者の子、結構使えそうだし、君からなんかおごって上げなさいよね」
……続行はいいんですが、おごるって、そこは事務所からとか、美神さんとかから、お金でないんですね。飽くまでも俺の懐からか………まあ、懐は潤ってますよ。土御門さんが借金返済してくれて、すでに払ったものが戻ってきたしな。今後の給料は返済に充てなくていいから、そのままが懐に入るしな。まあ、そのまま貯金してるが……
この事は両親には内緒にしてる。これを言ったら、この金で家をリフォームするとか言いかねん。
小町には折本の件で助けてもらったしな、何か買ってやるか……
「比企谷君、がんばりましょうね」
キヌさんが俺に微笑み掛けてくれた。
俄然やる気が出るってもんだな。
「比企谷君。おキヌちゃんを学校に送って行くけど、君はどうする?まあ、今から電車で千葉にもどっても学校は間に合わないわね」
「いえ、そのまま一緒に事務所までお願いします。横島師匠にも、あの例の疑いのある3人について話しておきたいので……」
横島師匠に釘を刺しておかないとな……その件を盾に、高校に普通に来て、女子生徒をナンパしかねないからなあの人。
翌日放課後……
「昨日はどうしたのかしら、サボり谷君」
「そうだよ。あの事があったから心配したんだから、それにメールしたのに返信来ないし」
「いや、メールは返したぞ」
一昨日の折本の件が解決した夜に2人から別々にショートメールが届いていた
由比ヶ浜のメールは相変わらず、絵文字やなんやらで分かりにくい。
雪ノ下のメールは手紙の様だ。
「『問題無い』って一言だけじゃん!」
「そうね。それでは何が問題無いのかわからないわ。自称コミュニケーションの達人が聞いてあきれるわ」
「……いや、達人とは言ってないだろ。……普通にコミュニケーションが取れるとは言ったが」
なんかアレだな、この毒舌、ちょっと昔の雪ノ下のような感じだ。由比ヶ浜もなんかぷりぷりしてるし。
「まあ、いいわ。それでどうなのかしら?」
「そう、それそれ、折本さんはどうなったの?」
「ああ、まあ、結論から言うと折本は被害者だった。キヌさんのヒーリングで霊障は治せた」
「……そう」
「よかった。でも。何で昨日休んだし」
「……折本の件で、事務所に呼ばれてな」
警視庁や文部省云々の話は流石に言えるわけがない。
「あなたあの時、なぜ折本さんの精神暴走の可能性に気が付いたのかしら?」
「ああ、最初に会ったときに気になっていた。あっけらかんとした奴だったが、あそこまで言うような奴ではなかったからな。その時は違和感程度だったんだが………その時の印象が気になって、合同打ち合わせの時にでも折本に直接聞こうとしたら、あの日、参加してなかっただろ?それとなしに海浜総合高校の連中に話を聞いてみたら、精神暴走の可能性が高い話でな……、それと由比ヶ浜が聞いてきてくれた3人の話があっただろう。あの事もあって、それに気が付かせてくれた」
「……あたし、ヒッキーの役に立ったのかな?」
「ああ、助かった。由比ヶ浜のおかげだな。あの由比ヶ浜が聞いてきた候補3人も、再度疑いの可能性がでた……但し、俺は校内でGSを名乗らないほうが行動がしやすいとの事で、横島師匠が調べてくれるらしい」
「てへへへ、あたしのおかげなんだ」
「………」
そう呟くように言う由比ヶ浜の顔はゆるゆるだ。
対して雪ノ下は、無表情ではあるが、視線を落としていた。
「……横島さんが調べるということは、あなたの師匠が学校に来るということかしら?」
「……ヒッキーの師匠さん。いい人なんだけど、あれだよね」
雪ノ下と由比ヶ浜は微妙な顔をする。
2人が言いたいことは重々わかる。あの人が学校に来るということはトラブルでしかない。
ちゃんと先手は打ってある。
「いや、自宅に行くんじゃないか。学校に来ないように釘はさしておいた」
「では、あれは何かしら」
……雪ノ下は窓越しに校門入口の方を指す
……俺は立ち上がり、窓の外の雪ノ下の指さす方向を見下ろす。
土埃が校舎に向かって伸びているのが見える。嫌な予感しかしない。
ドドドドドドドという音が近づいてくる。
そして……
ガターーーン!
部室の扉が大きな音共に思いっきり開き放たれた。
「はちまーーーーん!来たぞ!!ここの女子すんごーーーーいレベル高いぞ!!」
超にやけ顔の若い男が大声を上げながら部室に入ってきた。
といか、横島師匠だ……
「……なんで来たんすか」
やっぱり……あんな土埃を上げて走る人や……ドドドドという足音を上げる人はこの人しかいない。
「何を言ってる。例の奴に決まってるだろ!!」
「俺は学校に来るなと言ったじゃないですか!!」
……この人、人の話聞いてなかったのか?
「ふふふふふ……八幡甘いな、女の来るなは、逆説的に来てほしいと言ってるのだよ!」
何言ってるんだ。俺は女でもないし、その訳が分からん思考回路はどこから来たんだ。
「……俺は女じゃないんですが?で、なんでわざわざ学ラン着てるんすか?」
「高校に制服姿だと隠密性が高くなるだろ?まずは森に入るにはまず木にならなくてはならない!これで俺はどこから見ても高校生だ」
「……うちの高校はブレザーです。しかもバンダナをしてるあんたは目立つんですが、とっとと帰ってください」
横島師匠の場合、大声で叫ぶし、行動が奇天烈だから、直ぐバレる。
「いいじゃん!いいじゃん!横島!高校生に戻って女の子とイチャコラしたい!!」
……この師匠、こういう奴だった。
「ダメです。帰れ」
「俺もたまには潤いがほしいんだ!!」
横島師匠は俺の腰に縋りつき、涙をちょちょ切らせる。
「いいから帰れ」
「八幡が冷たい!……八幡の彼女たちにOK貰うからいいし!……雪ノ下ちゃんに由比ヶ浜ちゃん!!久しぶり!!」
横島師匠は涙を止め、バッと立ち上がり、いつものにやけた顔で二人に近づき挨拶をする。
「おい!!」
「……お久しぶりです」
「……こ、こんにちは」
俺と横島師匠のやり取りに呆気に取られていた二人は、横島師匠の急な挨拶に戸惑いながらもなんとか返事をする。
「いいないいな!!八幡は!!こんな可愛い子二人も侍らせて、毎日イチャコラして!!俺にも
潤いを分けてくれ!!」
「帰れ!」
俺は語気を強める。
「雪ノ下ちゃんと由比ヶ浜ちゃんさ!!少し年上好きの可愛い子紹介して!!それか一緒に今から遊びに行かない?八幡ほっといて!!」
「…………」
「………え?ヒッキーどうしよう?」
雪ノ下は呆れた表情をし無言だ。
由比ヶ浜は戸惑っている。
……こいつは!!
最終手段に出るしかないか……
俺はスマホを取り出し、とある方に電話をする。
「もしもし、比企谷です。今部室に横島師匠がきてるんです」
「は……八幡、まさか美神さんに電話を!!……しかし、甘いぞ八幡!!今日、美神さんはオーダーメイドのブランドもんのショップに行ってるはずだ!!ここまでは来れないはずだ!!はーはっはーーー!!」
横島師匠は最初は恐れ慄いていたが、気を取り直して高笑いをしていた。
俺はそれにニヤリと返しただけだ。
ズダダダダダ!!と遠くから足音が近づいてくる。
「あわわわ!?ま、まさか?ここには来れないはず!?」
その足音に慌てふためく横島師匠。
「美神さん?甘いですね師匠。平塚先生に電話したんで」
俺は鼻で笑う。
「………八幡、帰るな。……雪ノ下ちゃんと由比ヶ浜ちゃんもまた今度ね」
急に大人しくなって、窓から出て行く横島師匠。
やっぱりだな。その反応、先日平塚先生に捕まったんだな。大人の階段を上ったのかは別にして、連れまわされて面倒くさいことになったと見た。
ガターーーン!
またしても部室の扉が大きな音共に思いっきり開き放たれた。
そのうち壊れるじゃないかこの扉。
「比企谷ーーーー!!横島さんが来てるって本当か!!」
平塚先生は喜色溢れる顔で現れる。
「はい、たった今窓から出て行きました」
「何ーー!?すれ違いだと!?」
俺はここで、横島師匠の霊気を探る。
「窓を伝って屋上に上ってますね。屋上の出入り口に行けば会えますよ」
「比企谷!ありがとう!!はーーーはっはーーーーー!逃がさん!!」
平塚先生は部室を出て、廊下を猛ダッシュする。
俺はやり切った感で平塚先生を見送った。
「あは、あははは、ヒッキーのお師匠さん。相変わらずだね」
乾いた笑いをする由比ヶ浜。
「……比企谷君がどんな状況でも動じない理由が分かった気がするわ」
雪ノ下はうんざりした表情をし呆れていた。
「……ま、まあな」
余談だが……実は横島師匠、学校に来て平塚先生に追いかけまわされながらも、問題の3人の霊視を済ませていた……
結果、3人中、2人に、霊的構造の損傷が見られたとの事だ。
バカなんだか、凄いんだか……
久々の横島師匠登場でした。